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現実まであと一段階

謎の試練

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 それから小一時間ほどヴァシレウス大王とテラスでお茶をしながら会談した。
 大病を患って以来、医師に酒も茶も止められていたというヴァシレウス大王は、紅茶一杯の後は白湯に切り替えて話を続けた。

「公女の事情は報告を受けている。国を治める先達として伝えておきたいのは、為政者として大切なことを定めて決して見失わないことだ」
「お言葉、胸に刻みますわ」

 ヴァシレウス大王の場合は、戦争軍需で国内生産を高めるより、他国との争いを回避して平和を維持することで国力の豊かさを実現した。
 即位後、時間をかけて温めていた構想を実現し公表したら、永遠の国から大王の称号を授与されたわけだ。

 しばし、為政者としての心構えの訓示を受け、問答を繰り返した。



 マーゴットが話したのは、まず今後女王に即位した場合の政治方針だった。
 これは夢見から現実に戻った8年後の自分のことを語れば良いだけだ。
 カレイド王国は人間や、様々な種族と人間との混血の暮らす多種族国家だ。その文化の維持は代々の王家の義務である。
 多様な背景を持つ国民が安心して健やかに暮らせる環境の提供が、女王マーゴットの仕事だ。

 とはいえマーゴット個人の能力には限界がある。
 カレイド王国は3000年の歴史があるだけあって人材の厚みがある。私利私欲を挟まず、適材適所で適切な人材を任命し配置するのが国王の重要な仕事である。

 現王妃にまつわる魔の問題はどうするかとの問いには、現状では決断を下しにくいと前置きした上で一時保留していると答えた。

「それが的確な判断だと思うのかね?」
「いいえ。ですが不確定要因が多すぎて、安易な判断こそが危険と判断しました。最終的に責任は必ず取ります。それが私の覚悟です」

 実際、8年後の現実世界では魔の封印のために自分の両眼を代償に封印の儀式を行う準備を進めていた。

(至らないことばかり。陛下にはお叱りを受けてしまうわね)

 ところが予想に反してヴァシレウス大王からマーゴットへの批判や非難の言葉は出てこなかった。
 それどころか。

「拙速は巧遅に如かずの言葉もあるが、公女の場合はそれで良い」

 まさかの肯定だった。

「小回りのきく小国ならともかく、カレイド王国のような大国では物事が複雑に絡み合って安易な判断はできまい。的確な判断はできなかったかもしれないが、大局的には正解といえるかもしれぬ」

 そしてヴァシレウス大王は一言、

「合格だ、マーゴット公女。君は試練をひとつクリアした」

 と言った。


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