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現実まであと一段階
生ける偉人ヴァシレウス大王
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その後は王宮に戻り、グレイシア王女の侍女たちの手を借りて入浴と簡単なマッサージを受けて、髪のセットとメイクをしてもらった。
「私的なお茶会だから略礼装で良いそうよ。カーナは?」
「俺は適当に」
さすがに一国の元君主との謁見なのでカーナも自分の荷物から礼装を引っ張り出してきた。
この世界で王侯貴族など上流階級の男子は軍服が正装の基本だ。守護者のカーナにはカレイド王国の神殿が代々、黒と白の二種の正装を格式に応じて各種誂えている。
ここアケロニア王国では黒が王族の貴色なので、選んだ正装の色は白だ。良く見ると生地には過度に光を反射しない程度の真珠色の光沢がある。
マーゴットは自国から持参した緑のロングワンピースと、同じ生地のボレロだ。胸元にパールとビーズの刺繍があるのでネックレスが不要になる。
あとは燃える炎の赤毛の緩い癖毛をアップにしてもらい、耳には来国初日の歓迎会と同じ真珠のイヤリング。
指にはカレイド王国の王太女の印となる指輪を嵌めて出来上がりだ。
「マーゴット公女様、夕方からのデートでは巻き毛を生かして髪を下ろしましょうね! 準備しておきますので!」
ものすごく侍女たちが張り切っていた。
彼女たちの主のグレイシア王女は直毛寄りの髪質なので、マーゴットのようなちょっとオイルを伸ばすだけで巻き毛になる髪質を扱うのは楽しいらしい。
「さて、では参りましょうか、お嬢様」
カーナの芝居がかった口調と動作のエスコートで、本日のお茶会の相手、先王ヴァシレウスの離宮まで馬車で向かった。
今回、ヴァシレウス大王はマーゴットとふたりきりの茶会を望んでいるそうで、離宮まではカーナとグレイシア王女も付いてきてくれたが謁見は単独になる。
「経験豊富な為政者としてマーゴットに物申したいことがあるのだろうな」
「たくさんお叱りを受けてしまいそうね……」
揶揄ってくるグレイシア王女に緊張してしまう。
これまでのマーゴットたちの事情は既にグレイシア王女やテオドロス国王経由で把握しているという。
離宮に到着し、カーナと王女は別室でマーゴットたちの茶会が終わるまで待つことになる。
離宮の専属騎士の案内で、中庭に面したサロンのテラスで待っているというヴァシレウス大王の元へと向かった。
アケロニア王国の先王ヴァシレウスは、現在の円環大陸で唯一の“大王”の名誉称号持ちだ。
大王は王の上位職とも言われ、彼が大王の称号を永遠の国から授与されて以降、800年と他国の王国と比べて歴史の浅い現王朝の格は一気に向上したと言われている。
マーゴットのカレイド王国は3000年の歴史を持つが、大王の称号持ちは一人もいない。というより歴史を見てもこの世界では十人といなかったはずだ。
大王の称号授与の理由はいくつかあるが、一番大きな理由は彼が自分の治世では戦争行為を行わないと円環大陸に向けて公表したことだと言われている。
退位後即位したテオドロス国王も同じ戦争行為の停止を政策に掲げて引き継いでいる。恐らくは後に女王に即位するグレイシア王女も同じだろう。
テラスのティーセットの準備がされたテーブルの前で椅子に座りマーゴットを出迎えたヴァシレウス大王は、巨躯の一言に尽きる。
2メートル近い大柄な身体、アケロニア王族特有の黒髪と黒目に短い顎髭の、男臭い端正な顔立ちをした、老人と言いきるには目力の強い男がそこにはいた。
今年73歳と聞いているが、歳よりずっと老けて見える。
(この頃は大きな病で危篤に陥ったこともあったはず。8年後にカレイド王国のサミットでお会いするときより弱っておられるわね)
現実の世界では、マーゴットはこの国に留学したときヴァシレウス大王への謁見は本当に一瞬で交流らしい交流はできなかった。彼の体調不良が原因だ。
ところが8年後になると、彼は自分の孫より若い後添えを迎えて、幼い末の男子を儲けている。
テオドロス国王の年の離れた異母弟にあたる子供だ。
その頃のヴァシレウスは今より白髪も少なく、肌の色艶も良くてすっかり病からは解放されていた。今の彼は黒髪より白髪のほうが目立つ。
「ようこそ、カレイド王国のマーゴット公女。貴国の守護者カーナ殿の祝福を賜り、医師から茶を飲む許可がようやく出た。先の国王ヴァシレウスだ。この国は楽しんで貰えているかな?」
「ええ、とても。グレイシア王女殿下にもテオドロス国王陛下にも、良くしていただいております。カレイド王国王太女、オズ公爵家のマーゴットでございます。偉大なるヴァシレウス大王陛下にお会いできて大変光栄ですわ」
ここでやらなくていつやる、とばかりに渾身の美しいカーテシーを披露したマーゴットだった。
「私的なお茶会だから略礼装で良いそうよ。カーナは?」
「俺は適当に」
さすがに一国の元君主との謁見なのでカーナも自分の荷物から礼装を引っ張り出してきた。
この世界で王侯貴族など上流階級の男子は軍服が正装の基本だ。守護者のカーナにはカレイド王国の神殿が代々、黒と白の二種の正装を格式に応じて各種誂えている。
ここアケロニア王国では黒が王族の貴色なので、選んだ正装の色は白だ。良く見ると生地には過度に光を反射しない程度の真珠色の光沢がある。
マーゴットは自国から持参した緑のロングワンピースと、同じ生地のボレロだ。胸元にパールとビーズの刺繍があるのでネックレスが不要になる。
あとは燃える炎の赤毛の緩い癖毛をアップにしてもらい、耳には来国初日の歓迎会と同じ真珠のイヤリング。
指にはカレイド王国の王太女の印となる指輪を嵌めて出来上がりだ。
「マーゴット公女様、夕方からのデートでは巻き毛を生かして髪を下ろしましょうね! 準備しておきますので!」
ものすごく侍女たちが張り切っていた。
彼女たちの主のグレイシア王女は直毛寄りの髪質なので、マーゴットのようなちょっとオイルを伸ばすだけで巻き毛になる髪質を扱うのは楽しいらしい。
「さて、では参りましょうか、お嬢様」
カーナの芝居がかった口調と動作のエスコートで、本日のお茶会の相手、先王ヴァシレウスの離宮まで馬車で向かった。
今回、ヴァシレウス大王はマーゴットとふたりきりの茶会を望んでいるそうで、離宮まではカーナとグレイシア王女も付いてきてくれたが謁見は単独になる。
「経験豊富な為政者としてマーゴットに物申したいことがあるのだろうな」
「たくさんお叱りを受けてしまいそうね……」
揶揄ってくるグレイシア王女に緊張してしまう。
これまでのマーゴットたちの事情は既にグレイシア王女やテオドロス国王経由で把握しているという。
離宮に到着し、カーナと王女は別室でマーゴットたちの茶会が終わるまで待つことになる。
離宮の専属騎士の案内で、中庭に面したサロンのテラスで待っているというヴァシレウス大王の元へと向かった。
アケロニア王国の先王ヴァシレウスは、現在の円環大陸で唯一の“大王”の名誉称号持ちだ。
大王は王の上位職とも言われ、彼が大王の称号を永遠の国から授与されて以降、800年と他国の王国と比べて歴史の浅い現王朝の格は一気に向上したと言われている。
マーゴットのカレイド王国は3000年の歴史を持つが、大王の称号持ちは一人もいない。というより歴史を見てもこの世界では十人といなかったはずだ。
大王の称号授与の理由はいくつかあるが、一番大きな理由は彼が自分の治世では戦争行為を行わないと円環大陸に向けて公表したことだと言われている。
退位後即位したテオドロス国王も同じ戦争行為の停止を政策に掲げて引き継いでいる。恐らくは後に女王に即位するグレイシア王女も同じだろう。
テラスのティーセットの準備がされたテーブルの前で椅子に座りマーゴットを出迎えたヴァシレウス大王は、巨躯の一言に尽きる。
2メートル近い大柄な身体、アケロニア王族特有の黒髪と黒目に短い顎髭の、男臭い端正な顔立ちをした、老人と言いきるには目力の強い男がそこにはいた。
今年73歳と聞いているが、歳よりずっと老けて見える。
(この頃は大きな病で危篤に陥ったこともあったはず。8年後にカレイド王国のサミットでお会いするときより弱っておられるわね)
現実の世界では、マーゴットはこの国に留学したときヴァシレウス大王への謁見は本当に一瞬で交流らしい交流はできなかった。彼の体調不良が原因だ。
ところが8年後になると、彼は自分の孫より若い後添えを迎えて、幼い末の男子を儲けている。
テオドロス国王の年の離れた異母弟にあたる子供だ。
その頃のヴァシレウスは今より白髪も少なく、肌の色艶も良くてすっかり病からは解放されていた。今の彼は黒髪より白髪のほうが目立つ。
「ようこそ、カレイド王国のマーゴット公女。貴国の守護者カーナ殿の祝福を賜り、医師から茶を飲む許可がようやく出た。先の国王ヴァシレウスだ。この国は楽しんで貰えているかな?」
「ええ、とても。グレイシア王女殿下にもテオドロス国王陛下にも、良くしていただいております。カレイド王国王太女、オズ公爵家のマーゴットでございます。偉大なるヴァシレウス大王陛下にお会いできて大変光栄ですわ」
ここでやらなくていつやる、とばかりに渾身の美しいカーテシーを披露したマーゴットだった。
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