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現実まであと一段階
本当の現実のこと4~夢見の真の目的/騎士団寮へ
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マーゴットが現実の世界で、夢見の術に求めた真の目的は主に三つ。
ひとつ、王妃がもたらした魔への、魔封じの儀式に必要な魔力の獲得。
ふたつ、王妃の魔憑きを早期に判明させること。
対策を練って被害を最小限に抑えるためだ。
みっつ、可能ならカーナの回復を。
「本当ならあなたのことを最優先すべきなのだけど、ごめんなさいね。もうそんな余裕もなくって」
現実に戻ったら、魔封じの儀式を行う前に、子供になってしまったカーナを、本拠地の永遠の国に戻す手配をするという。
「目的はそれだけ?」
「そういうとこだけ鋭いんだから。……どうせ最後なら夢の中でもいいから初恋の人に会いたかったのよ」
現実では、マーゴットはシルヴィスに、彼がカレイド王国を出奔してから一度も会えていないという。
ごくたまに手紙は届いていたが、今から8年後の現実世界ではその手紙も途絶えてしまっているらしい。
「夢見の中でアケロニア王国に来て、初めて彼が魔の解決策を探してくれてると知ったわ。これだけでも大きな収穫ね」
もっとも、これはシルヴィスに会いに行ったカーナ経由で知ったことだが。
「なら現実に戻った後、シルヴィスの帰還を待つのかい?」
「もうそんな余裕も無くなってるの。シルヴィスが国を出奔して何年……16年ね。それだけ探して対処法が見つからないなら、もう無理なのよ」
「そこまで思い出したなら、この後はどうする?」
どの時点で夢見を解いて本当の現実に戻るか。
「それはね、」
マーゴットが口を開きかけたとき、客間のドアがノックされて、侍女がルシウス少年に差し入れする高級チョコレートが届いたと伝えにきた。
「まずはあの麗しの兄弟に癒されに行きましょうか」
どうせここは夢見の世界の中だ。夢から覚めるまでは何をやってもいいし、時間制限もない。
何ならこのまま国外で人生を終える寸前に夢見の術を解除したとしても、戻る現実世界の地点は8年後のカレイド王国だ。
多少はマーゴットが夢見を行う前と変わっている可能性もあるけれども。
(ループしたケースを除けば、どの夢見でも現実と流れは同じ。私は王太女になって女王に即位する。学生時代最後の年にはアケロニア王国に短期留学した。……現実ではカーナは一緒ではなかったし、シルヴィスに会うこともなくて、ルシウス少年とも挨拶ぐらいだったっけ)
カーナがいるからなのか、テオドロス国王とも親しく交流している。
これらの成果は現実に戻ったとき良い影響をもたらすと信じたかった。
マーゴットとカーナが、リースト伯爵家の麗し兄弟を訪ねて騎士団寮に到着したのはまだ昼前の十時半頃だ。
様子を見に行きたいと言うグレイシア王女に馬車を出してもらった。
騎士団寮に着くと、王女と国賓扱いの他国の公女の来訪に、寮の管理人はともかく、寮住まいの騎士たちが動揺していた。
「男だらけのムサい寮に女子が……」
何やら皆、呆然としている。
管理人に尋ねるとリースト伯爵家の兄弟はテーブルの広い食堂で揃って勉強しているらしい。
さすがに男子の部屋のある棟には通せないと言われたので、そのまま食堂まで案内してもらった。
「ルシウス君、カイル君。お約束のチョコレートをどうぞ!」
「!? 大箱ですか! 大箱ですね!」
「ふふふ。箱やパッケージが可愛かったから、他の皆さんへの差し入れも含めてたくさん取り寄せてもらったの」
「マーゴットさま、すごい! できる女のひと!」
「そう?」
チョコレート目当てのお世辞とわかっていても、麗しく愛らしい子供の賛辞は嬉しいものである。
さっそく一口、と受け取った大箱の包装紙を破り捨てようとしたところ、兄のカイルに取り上げられていた。
「おやつは午後、騎士の皆さんと一緒にね」
「一個、一個だけえー!」
「寮母さんに預けておくから」
「やああ……!」
湖面の水色の大きな目を潤ませて上目遣いに見上げても、兄は絆されなかった。
「あれやられると、あの子たちの父親はすぐ陥落するんだけどな」
さすがに弟の面倒を主に見ている兄は揺らがなかった。
こそっとグレイシア王女が教えてくれた。
「自習していたのか? 偉いぞー」
テーブル上の教科書やノート、鉛筆などを見てグレイシア王女が麗し兄弟の青銀の髪をがしがし掻き回していた。
王女のほうが学年も歳も上なので、背の高い王女にかかると兄のカイルも子供扱いだ。
さささっとすぐに弟のルシウス少年はマーゴットとカーナのほうに逃げてきた。
兄のカイルはまだグレイシア王女に弄られている。
「はわ……仲良しはよいこと……でも兄さんのお嫁様がグレイシアさまになったらどうしよう……」
何やら深刻そうな顔でルシウスが呟いているので、マーゴットもカーナも吹き出しそうになった。
「確かグレイシアは婚約者が決まってたわよね」
「ああ。ちょっとトラブルはあったが今年早々にな」
兄カイルを弄り倒して満足したグレイシアが頷いた。
ひとつ、王妃がもたらした魔への、魔封じの儀式に必要な魔力の獲得。
ふたつ、王妃の魔憑きを早期に判明させること。
対策を練って被害を最小限に抑えるためだ。
みっつ、可能ならカーナの回復を。
「本当ならあなたのことを最優先すべきなのだけど、ごめんなさいね。もうそんな余裕もなくって」
現実に戻ったら、魔封じの儀式を行う前に、子供になってしまったカーナを、本拠地の永遠の国に戻す手配をするという。
「目的はそれだけ?」
「そういうとこだけ鋭いんだから。……どうせ最後なら夢の中でもいいから初恋の人に会いたかったのよ」
現実では、マーゴットはシルヴィスに、彼がカレイド王国を出奔してから一度も会えていないという。
ごくたまに手紙は届いていたが、今から8年後の現実世界ではその手紙も途絶えてしまっているらしい。
「夢見の中でアケロニア王国に来て、初めて彼が魔の解決策を探してくれてると知ったわ。これだけでも大きな収穫ね」
もっとも、これはシルヴィスに会いに行ったカーナ経由で知ったことだが。
「なら現実に戻った後、シルヴィスの帰還を待つのかい?」
「もうそんな余裕も無くなってるの。シルヴィスが国を出奔して何年……16年ね。それだけ探して対処法が見つからないなら、もう無理なのよ」
「そこまで思い出したなら、この後はどうする?」
どの時点で夢見を解いて本当の現実に戻るか。
「それはね、」
マーゴットが口を開きかけたとき、客間のドアがノックされて、侍女がルシウス少年に差し入れする高級チョコレートが届いたと伝えにきた。
「まずはあの麗しの兄弟に癒されに行きましょうか」
どうせここは夢見の世界の中だ。夢から覚めるまでは何をやってもいいし、時間制限もない。
何ならこのまま国外で人生を終える寸前に夢見の術を解除したとしても、戻る現実世界の地点は8年後のカレイド王国だ。
多少はマーゴットが夢見を行う前と変わっている可能性もあるけれども。
(ループしたケースを除けば、どの夢見でも現実と流れは同じ。私は王太女になって女王に即位する。学生時代最後の年にはアケロニア王国に短期留学した。……現実ではカーナは一緒ではなかったし、シルヴィスに会うこともなくて、ルシウス少年とも挨拶ぐらいだったっけ)
カーナがいるからなのか、テオドロス国王とも親しく交流している。
これらの成果は現実に戻ったとき良い影響をもたらすと信じたかった。
マーゴットとカーナが、リースト伯爵家の麗し兄弟を訪ねて騎士団寮に到着したのはまだ昼前の十時半頃だ。
様子を見に行きたいと言うグレイシア王女に馬車を出してもらった。
騎士団寮に着くと、王女と国賓扱いの他国の公女の来訪に、寮の管理人はともかく、寮住まいの騎士たちが動揺していた。
「男だらけのムサい寮に女子が……」
何やら皆、呆然としている。
管理人に尋ねるとリースト伯爵家の兄弟はテーブルの広い食堂で揃って勉強しているらしい。
さすがに男子の部屋のある棟には通せないと言われたので、そのまま食堂まで案内してもらった。
「ルシウス君、カイル君。お約束のチョコレートをどうぞ!」
「!? 大箱ですか! 大箱ですね!」
「ふふふ。箱やパッケージが可愛かったから、他の皆さんへの差し入れも含めてたくさん取り寄せてもらったの」
「マーゴットさま、すごい! できる女のひと!」
「そう?」
チョコレート目当てのお世辞とわかっていても、麗しく愛らしい子供の賛辞は嬉しいものである。
さっそく一口、と受け取った大箱の包装紙を破り捨てようとしたところ、兄のカイルに取り上げられていた。
「おやつは午後、騎士の皆さんと一緒にね」
「一個、一個だけえー!」
「寮母さんに預けておくから」
「やああ……!」
湖面の水色の大きな目を潤ませて上目遣いに見上げても、兄は絆されなかった。
「あれやられると、あの子たちの父親はすぐ陥落するんだけどな」
さすがに弟の面倒を主に見ている兄は揺らがなかった。
こそっとグレイシア王女が教えてくれた。
「自習していたのか? 偉いぞー」
テーブル上の教科書やノート、鉛筆などを見てグレイシア王女が麗し兄弟の青銀の髪をがしがし掻き回していた。
王女のほうが学年も歳も上なので、背の高い王女にかかると兄のカイルも子供扱いだ。
さささっとすぐに弟のルシウス少年はマーゴットとカーナのほうに逃げてきた。
兄のカイルはまだグレイシア王女に弄られている。
「はわ……仲良しはよいこと……でも兄さんのお嫁様がグレイシアさまになったらどうしよう……」
何やら深刻そうな顔でルシウスが呟いているので、マーゴットもカーナも吹き出しそうになった。
「確かグレイシアは婚約者が決まってたわよね」
「ああ。ちょっとトラブルはあったが今年早々にな」
兄カイルを弄り倒して満足したグレイシアが頷いた。
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