99 / 129
現実まであと一段階
本当の現実のこと3
しおりを挟む
マーゴットから『本当の現実』の話を粗方聞き終えたカーナは、少し考えた後でその琥珀の瞳でマーゴットをじっと見つめてきた。
「君が、本当に一番最初に夢見の術を行なったのはいつの時点なんだい?」
「バルカスや、前国王夫妻を幽閉した後になるわ」
「国王と王妃も?」
「ええ。外界に出られないよう出入り口を封鎖した離宮の一つに押し込めた。あの二人は王家にとっても国にとっても害にしかならなかったから」
むしろ、女王に即位してようやく実現が叶った。
その頃、王家の蔵書の中から夢見の術の秘伝書を発見している。
中身を読んでみると、上手く使いこなせれば赤ん坊まで戻ってしまったカーナを回復させられるのではないかと考えた。
夢見の術の使い方について、マーゴットは円環大陸で当代最高の魔術師と呼ばれているフリーダヤを招聘した。
このとき彼はカレイド王国に縁のある自分の一番弟子、かつての女勇者メルセデスを伴っていた。
しかし、事情をマーゴットから一通り聞かされた魔術師フリーダヤは、夢見の詳細の解説を拒否した。
夢見は都合よく現実を改変できるとは限らない、非常にリスクの高い魔法だからというのがその理由だ。
それに自由を標榜する新世代の魔力使いである彼らは、国家権力に命令されることを嫌う。
ならばとマーゴットは彼らへの対応を変えた。
弟子の魔女メルセデスを「協力しないなら魚切り包丁を折る」と脅して強引に協力させた。
魔術師フリーダヤが彼女をカレイド王国まで連れてきたのは、国王の魚切り包丁が本来庶民の彼女の家の家宝で、取り戻すためだと容易に想像がついていたから。
そこで魔女メルセデスは仕方なくマーゴットに協力して夢見の術への具体的な指導を行なってくれたというわけだ。
ここまで話を聞いた時点で、カーナは頭が痛くなってきた。
「何という無茶なことを。それならオレひとりを切り捨てたほうが楽だったろうに」
今、ハイヒューマンはほとんど全員が、円環大陸の中央にある永遠の国に集まっている。
現在のハイヒューマンたちの統括は神人カーナが長老として請け負っている。もしカーナがいなくなった後は、二番目に力の強いハイヒューマンが繰り上がってその座に着く。
「……私は自分にできる限りの政治的判断を下したつもりだけど」
夢見の術自体は、術の発動に必要な魔力をかき集めて何十回と実行している。
ただし、一定の効果はあったがなかなか思うようにいかなかった。
夢見で行く世界は時間軸を自由に設定できるのだが、死者を生き返らせることだけはできず、マーゴットの両親も戻らなかった。
業を煮やしたマーゴットは、最終的に夢見の術の禁じ手である『夢の中で夢を見る』ことを試した。
結果はこれまでの通りで、複雑な絡まった夢見の世界に囚われて、何回も何回もループしてしまうという事態に陥ってしまった。
「今、夢見の術を解いて現実に戻ったら、どの地点に戻ることになるんだい?」
「私の女王即位から約8年後。王国サミットの開催国の順番がカレイド王国に回ってきた年よ。もう最後だと思って、久し振りに一回だけ術を試みたの」
「……8年後、オレはどうなっている?」
バルカス王子に害されて瀕死の重傷を負った後、赤ん坊に戻ったカーナは。
「離宮に隠して人目に触れさせないよう育てているわ。すくすく育って良い子よ。でも自分が神人カーナだってなかなか思い出せないみたい」
ということは、黄金龍や一角獣にも変身できないまま。
「……君は?」
恐らく、カーナが想像するよりずっと、本来の現実世界でのマーゴットの状況は悪いのではないか。
「メイ王妃が魔憑きだと判明してすぐ幽閉したけど、魔の悪影響は防ぎきれなくて。バルカスや彼の取り巻きたち、王宮の何も知らなかった人々へも汚染が進んでしまって」
「………………」
「結局、魔を祓える術者も見つからなくて、どの聖女や聖者にも救いを拒まれてしまった。けれど私は女王、国を護る義務と責任がある。だから」
マーゴットは片手で自分のネオングリーンの瞳の目元を覆った。
「私は王都すべてを対象にした魔封じの儀式を行うと決めた。だけど私自身や神殿の術者たちの魔力では足りなかったの」
「魔力を獲得する方法はいくつかあるけど。君の場合は……まさか」
「そう。私は自分のこの両目を代償にして、魔力を得るつもり。夢見は成功すると自分の中が整理されて魔力量が増えるから、それをバネにして始祖と同じこの目を起動させるわ」
「………………」
侍女たちに用意してもらったサンドイッチをつまみながら話を聞いていたのだが、もはやカーナも食事どころではなかった。
「君が、本当に一番最初に夢見の術を行なったのはいつの時点なんだい?」
「バルカスや、前国王夫妻を幽閉した後になるわ」
「国王と王妃も?」
「ええ。外界に出られないよう出入り口を封鎖した離宮の一つに押し込めた。あの二人は王家にとっても国にとっても害にしかならなかったから」
むしろ、女王に即位してようやく実現が叶った。
その頃、王家の蔵書の中から夢見の術の秘伝書を発見している。
中身を読んでみると、上手く使いこなせれば赤ん坊まで戻ってしまったカーナを回復させられるのではないかと考えた。
夢見の術の使い方について、マーゴットは円環大陸で当代最高の魔術師と呼ばれているフリーダヤを招聘した。
このとき彼はカレイド王国に縁のある自分の一番弟子、かつての女勇者メルセデスを伴っていた。
しかし、事情をマーゴットから一通り聞かされた魔術師フリーダヤは、夢見の詳細の解説を拒否した。
夢見は都合よく現実を改変できるとは限らない、非常にリスクの高い魔法だからというのがその理由だ。
それに自由を標榜する新世代の魔力使いである彼らは、国家権力に命令されることを嫌う。
ならばとマーゴットは彼らへの対応を変えた。
弟子の魔女メルセデスを「協力しないなら魚切り包丁を折る」と脅して強引に協力させた。
魔術師フリーダヤが彼女をカレイド王国まで連れてきたのは、国王の魚切り包丁が本来庶民の彼女の家の家宝で、取り戻すためだと容易に想像がついていたから。
そこで魔女メルセデスは仕方なくマーゴットに協力して夢見の術への具体的な指導を行なってくれたというわけだ。
ここまで話を聞いた時点で、カーナは頭が痛くなってきた。
「何という無茶なことを。それならオレひとりを切り捨てたほうが楽だったろうに」
今、ハイヒューマンはほとんど全員が、円環大陸の中央にある永遠の国に集まっている。
現在のハイヒューマンたちの統括は神人カーナが長老として請け負っている。もしカーナがいなくなった後は、二番目に力の強いハイヒューマンが繰り上がってその座に着く。
「……私は自分にできる限りの政治的判断を下したつもりだけど」
夢見の術自体は、術の発動に必要な魔力をかき集めて何十回と実行している。
ただし、一定の効果はあったがなかなか思うようにいかなかった。
夢見で行く世界は時間軸を自由に設定できるのだが、死者を生き返らせることだけはできず、マーゴットの両親も戻らなかった。
業を煮やしたマーゴットは、最終的に夢見の術の禁じ手である『夢の中で夢を見る』ことを試した。
結果はこれまでの通りで、複雑な絡まった夢見の世界に囚われて、何回も何回もループしてしまうという事態に陥ってしまった。
「今、夢見の術を解いて現実に戻ったら、どの地点に戻ることになるんだい?」
「私の女王即位から約8年後。王国サミットの開催国の順番がカレイド王国に回ってきた年よ。もう最後だと思って、久し振りに一回だけ術を試みたの」
「……8年後、オレはどうなっている?」
バルカス王子に害されて瀕死の重傷を負った後、赤ん坊に戻ったカーナは。
「離宮に隠して人目に触れさせないよう育てているわ。すくすく育って良い子よ。でも自分が神人カーナだってなかなか思い出せないみたい」
ということは、黄金龍や一角獣にも変身できないまま。
「……君は?」
恐らく、カーナが想像するよりずっと、本来の現実世界でのマーゴットの状況は悪いのではないか。
「メイ王妃が魔憑きだと判明してすぐ幽閉したけど、魔の悪影響は防ぎきれなくて。バルカスや彼の取り巻きたち、王宮の何も知らなかった人々へも汚染が進んでしまって」
「………………」
「結局、魔を祓える術者も見つからなくて、どの聖女や聖者にも救いを拒まれてしまった。けれど私は女王、国を護る義務と責任がある。だから」
マーゴットは片手で自分のネオングリーンの瞳の目元を覆った。
「私は王都すべてを対象にした魔封じの儀式を行うと決めた。だけど私自身や神殿の術者たちの魔力では足りなかったの」
「魔力を獲得する方法はいくつかあるけど。君の場合は……まさか」
「そう。私は自分のこの両目を代償にして、魔力を得るつもり。夢見は成功すると自分の中が整理されて魔力量が増えるから、それをバネにして始祖と同じこの目を起動させるわ」
「………………」
侍女たちに用意してもらったサンドイッチをつまみながら話を聞いていたのだが、もはやカーナも食事どころではなかった。
11
お気に入りに追加
1,645
あなたにおすすめの小説
断罪される前に市井で暮らそうとした悪役令嬢は幸せに酔いしれる
葉柚
恋愛
侯爵令嬢であるアマリアは、男爵家の養女であるアンナライラに婚約者のユースフェリア王子を盗られそうになる。
アンナライラに呪いをかけたのはアマリアだと言いアマリアを追い詰める。
アマリアは断罪される前に市井に溶け込み侯爵令嬢ではなく一市民として生きようとする。
市井ではどこかの王子が呪いにより猫になってしまったという噂がまことしやかに流れており……。
私を選ばなかったくせに~推しの悪役令嬢になってしまったので、本物以上に悪役らしい振る舞いをして婚約破棄してやりますわ、ザマア~
あさぎかな@電子書籍二作目発売中
恋愛
乙女ゲーム《時の思い出(クロノス・メモリー)》の世界、しかも推しである悪役令嬢ルーシャに転生してしまったクレハ。
「貴方は一度だって私の話に耳を傾けたことがなかった。誤魔化して、逃げて、時より甘い言葉や、贈り物を贈れば満足だと思っていたのでしょう。――どんな時だって、私を選ばなかったくせに」と言って化物になる悪役令嬢ルーシャの未来を変えるため、いちルーシャファンとして、婚約者であり全ての元凶とである第五王子ベルンハルト(放蕩者)に婚約破棄を求めるのだが――?
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
【完結】本当の悪役令嬢とは
仲村 嘉高
恋愛
転生者である『ヒロイン』は知らなかった。
甘やかされて育った第二王子は気付かなかった。
『ヒロイン』である男爵令嬢のとりまきで、第二王子の側近でもある騎士団長子息も、魔法師協会会長の孫も、大商会の跡取りも、伯爵令息も
公爵家の本気というものを。
※HOT最高1位!ありがとうございます!
政略より愛を選んだ結婚。~後悔は十年後にやってきた。~
つくも茄子
恋愛
幼い頃からの婚約者であった侯爵令嬢との婚約を解消して、学生時代からの恋人と結婚した王太子殿下。
政略よりも愛を選んだ生活は思っていたのとは違っていた。「お幸せに」と微笑んだ元婚約者。結婚によって去っていた側近達。愛する妻の妃教育がままならない中での出産。世継ぎの王子の誕生を望んだものの産まれたのは王女だった。妻に瓜二つの娘は可愛い。無邪気な娘は欲望のままに動く。断罪の時、全てが明らかになった。王太子の思い描いていた未来は元から無かったものだった。後悔は続く。どこから間違っていたのか。
他サイトにも公開中。
あなたを忘れる魔法があれば
七瀬美緒
恋愛
乙女ゲームの攻略対象の婚約者として転生した私、ディアナ・クリストハルト。
ただ、ゲームの舞台は他国の為、ゲームには婚約者がいるという事でしか登場しない名前のないモブ。
私は、ゲームの強制力により、好きになった方を奪われるしかないのでしょうか――?
これは、「あなたを忘れる魔法があれば」をテーマに書いてみたものです――が、何か違うような??
R15、残酷描写ありは保険。乙女ゲーム要素も空気に近いです。
※小説家になろう、カクヨムにも掲載してます
【取り下げ予定】愛されない妃ですので。
ごろごろみかん。
恋愛
王妃になんて、望んでなったわけではない。
国王夫妻のリュシアンとミレーゼの関係は冷えきっていた。
「僕はきみを愛していない」
はっきりそう告げた彼は、ミレーゼ以外の女性を抱き、愛を囁いた。
『お飾り王妃』の名を戴くミレーゼだが、ある日彼女は側妃たちの諍いに巻き込まれ、命を落としてしまう。
(ああ、私の人生ってなんだったんだろう──?)
そう思って人生に終止符を打ったミレーゼだったが、気がつくと結婚前に戻っていた。
しかも、別の人間になっている?
なぜか見知らぬ伯爵令嬢になってしまったミレーゼだが、彼女は決意する。新たな人生、今度はリュシアンに関わることなく、平凡で優しい幸せを掴もう、と。
*年齢制限を18→15に変更しました。
元侯爵令嬢は冷遇を満喫する
cyaru
恋愛
第三王子の不貞による婚約解消で王様に拝み倒され、渋々嫁いだ侯爵令嬢のエレイン。
しかし教会で結婚式を挙げた後、夫の口から開口一番に出た言葉は
「王命だから君を娶っただけだ。愛してもらえるとは思わないでくれ」
夫となったパトリックの側には長年の恋人であるリリシア。
自分もだけど、向こうだってわたくしの事は見たくも無いはず!っと早々の別居宣言。
お互いで交わす契約書にほっとするパトリックとエレイン。ほくそ笑む愛人リリシア。
本宅からは屋根すら見えない別邸に引きこもりお1人様生活を満喫する予定が・・。
※専門用語は出来るだけ注釈をつけますが、作者が専門用語だと思ってない専門用語がある場合があります
※作者都合のご都合主義です。
※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。
※架空のお話です。現実世界の話ではありません。
※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります)
※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる