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第二章 夢と忘れそうなほど充実の日々

神人会合

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 夜、王宮の客間でマーゴットが寝入ったのを確認してから、枕元のバスケットに入っていた小さな黄金龍のカーナは身を起こした。
 バスケットごとふよふよ浮遊して、寝室からリビングへ移動し、テーブルの上に着地。そこで人間の、黒髪と琥珀の瞳の優美な青年の姿に戻った。

「参ったなあ。何たる醜態か」

 目を覚ますように両手で顔を擦り、軽く頬を叩いて喝を入れた。
 そしてテーブルの上にあったぶどう酒をグラスに注いで一杯飲み干す。例のルシウス少年の莫大な魔力が入ったやつだ。
 飲み終えた端から胃がカッと熱を帯びて、心身に充実感を覚える。

「よし」

 口元を拭っていると、ふと窓の外によく知った気配を感じた。
 カーテンを開けると、飛竜に乗った青銀の長い髪の、麗しい美少女が室内を覗き込んできた。
 少女はカーナと目が合うと、にやりと笑った。

「見つけたわよ。カーナ」



 マーゴットや王宮の侍女たちを起こしてジューアが見つかると厄介だ。その場で小型の一角獣に変身して、カーナは窓の外に出た。
 そのまま飛竜を誘導して、人目の少ない神殿の建物の屋上に向かった。

「ジューア。何でこんなところに」
「それはこちらの台詞。お前こそ、こんなに深く夢見の中に潜り込んでるなんて。何やってるのよ」

 後輩のハイヒューマン、神人のジューアだ。カーナとはわりと仲が良い。
 顔を合わせれば茶を飲んで、彼女が作る魔導具の材料になる素材収拾に出かける程度の仲だ。

 カーナは人間の姿に戻り、神殿の屋上の端に腰掛けた。

「夢見って本当に? マーゴットたちも言ってたけど」
「自覚がないのは仕方がない。現実でお前は意識がなかったから」
「意識がないままのオレを夢見の世界に押し込んだのか。無茶なことをやってくれる」

 カーナはジューアから、ここまでの経緯を聞いた。
 夢見の術を行うと決めたのはマーゴットだったが、彼女が主体となったままだと、何度繰り返しても皆が望む結果を得られなかった。
 仕方ないから、助けたいカーナ本人にも夢見の術をかけて、問題の解決をさせようと考えるに至ったと。

「ジューア。このような真似は二度としないと約束しなさい。夢見は、実践者の意図がないと無法図になってコントロールできなくなる」

 せめて現実世界でカーナが目覚めるまで待ってから行うべきだった。
 意識がないまま夢の世界に放り込まれると、夢に入る以前の出来事を思い出せなくなるのだ。

「わかってるわよ。だから私がわざわざ夢の中まで来たんでしょ。夢だってお前に教えに。……まあ、夢というか……夢じゃないわよね、ここ」

 そこに気づいたか、とカーナは頷いた。

「並行世界というのが正しいだろうね。夢は数多の世界を繋ぐ扉で、重ね合わせるための装置でもある」
「ふうん。だとすると、人間の術者の手には余るわね」
「術を発動した者は誰?」
「魔女メルセデスよ。師匠の魔術師フリーダヤに教わったみたい」

 円環大陸で最も有名な魔力使いファミリーの面々だ。

「……ちょっと前に彼にさわりだけ話したことがある。そうか、彼は夢見を言葉通りに受け取って解釈したのか」

 ちょっと前、だいたい600年くらい前のこと。



 それから更に詳しく事情を聞いてカーナは驚いた。
 自分たちが夢の中で更に夢見を行い、何重にも深層に入り込んでいると教えられたからだ。

「本当の現実のこと、思い出せる?」
「いや。一回、どこかで一度、夢の中に入り直さないと認識できない。マーゴットたちの様子を見て調整するとしよう」

 カーナは古代、それこそ自分の伴侶や息子、仲間たちを取り戻せないか、夢見の術を試行錯誤したことがある。
 残念ながら死者だけは、どれだけ頑張っても元通り生き返った世界を作ることはできなかった。

「なら、私は現実に戻るわ。程々のところでお前たちも戻ってきなさいよ」

 本来の現実世界は、マーゴットたちが右往左往しながらも夢見を続けていることで、少しずつ混乱が収束し始めているという。

 ただし。

「あの赤毛のマーゴットちゃんの状況はかわいそうだけどね。孤独な女王様の周りには、誰もいないんだもの」


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