63 / 129
そうだ、留学しよう~アケロニア王国編
そりゃあ女嫌いにもなるってものです
しおりを挟む
ランチの後、食べ過ぎた一同はサロンでお茶を入れてもらって休憩を取っていた。
「ルシウス。お前、食べ過ぎだよ」
「だって父様のサーモンパイ、おいしかったんだもん~」
ソファにでろーんと仰向けになったルシウス少年のお腹はぽっこり膨れている。
そんなお行儀の悪い弟を叱りながらも、兄のカイルはお腹をぽんぽんしてやっていた。
(まあ、可愛い)
麗しの兄弟が仲睦まじくしている光景にマーゴットがほっこりして、また心の潤いをチャージさせてもらっていると。
「昔、君たちの先祖が作ったサーモンパイを食べたことがあるよ。こんなに美味しくはなかったなあ、もっと素朴な感じでね。パイ生地もバターなしの小麦粉だけで、鮭もそんな味付けはしてなかった」
「おお、それは一族のオリジンの作り方ですな。祖先がアケロニア王国に移住してきて、新鮮な食材が手に入るようになってからどんどん改良して美味になってきたのです」
カーナが昔の記憶を懐かしそうに引っ張り出してメガエリス伯爵と歓談していた。
マーゴットとグレイシア王女は食べ過ぎで動けない。パイ料理は口当たりが良いので、油断して食べ過ぎてしまった。
元々、グレイシア王女はマーゴットと文通して薄々マーゴットにかなり特殊な事情があると勘づいていたという。
マーゴットが留学してきて詳細を聞いた後はループ現象その他について、魔法の大家の当主、メガエリス伯爵と早いうちに繋ぎをつけるつもりだったそうだ。
「我が家の蔵書や記録を探りましたが、時間を巻き戻す魔法の記述はありませんでした。そもそもループなど自然法則に反する現象ですから……」
メガエリス伯爵が執務室から持って来させた古書をめくっている。
これにはカーナも頷いていた。
「確かにカレイド王国の始祖のハイエルフは特殊な能力を幾つも持ってたけど、こんなに頻繁に繰り返し時間を遡るほどの力はなかったはずだ」
「その辺も考証が必要でしょうな」
小一時間、サロンで休憩しつつ情報交換して、さあ作業場へ研ぎに戻ろうとしたところで。
リースト伯爵家の執事長が長男のカイル宛の荷物を持ってきた。
「オレに?」
思い当たる様子がないらしいカイルは首を傾げていたが、小さな小箱をしばしじっと見つめた後、麗しの顔を渋く渋く歪めて、執事長に突っ返していた。
「送り主に送り返して。丁重にね」
執事長がその小箱を受け取る寸前、ソファから飛び起きたルシウス少年が小箱を奪って床に叩きつけた。
「!?」
マーゴットたちが突然のことに驚いている前で、ルシウス少年は小箱を小さな足で何度も何度も踏み付けていた。
「もう! もおおお! どうしてこんなの送ってくるの、ぼくの兄さんにいじわるしないで!」
げし、げしっと小箱を踏みつけるルシウス少年からはネオンブルーの魔力が噴き出している。
あまりの剣幕に誰も近寄れない。
と思いきや、後ろからこそ~っとグレイシア王女が近づいて、完全に小箱をぺしゃんこにしてぷんすこなルシウス少年の動きが止まった隙に足元からそれを取り上げた。
「何だ何だ、何があった? 中身は……手作りの菓子か?」
どうやらクッキーか何かの焼き菓子らしい。
「グレイシアさま、だめ! それはゴミです、早くすてて!」
「まあまあ、そう言うな。ほらメガエリス、保護者のお前に返すぞ?」
必死に取り戻そうとするルシウス少年をあしらいながら、潰れた小箱を放り投げた。
受け取ったメガエリス伯爵はそれを見ると、溜め息をついてテーブルの上に置いた。
「な、何か危険物だったのかしら?」
マーゴットもカーナもびっくりしていたが、グレイシア王女の顔を見る限り心配は要らないようだ。
が、しかし。
「わたくしが人物鑑定スキルを持つように、魔法の大家の一族であるこやつらは、魔力鑑定と物品鑑定のスキルを持っている。……ルシウス、何が入っていたか言ってみろ?」
「……かみのけを燃やした灰。あとよくわかんない体液」
「「!???」」
なにそれこわい。
ぞわわっと鳥肌が立ったマーゴットとカーナ、溜め息をつくカイルとメガエリス伯爵。
しかも、『よくわからない体液』とはいったい。
「の、呪いの差し入れなの、かな?」
カーナが恐る恐る、潰れた小箱を指先で突っついた。
「というより、まじないの一種でしょうな。自分の身体の一部を意中の相手に食させることで恋愛成就させようという類いの」
「それって効果」
「ありませぬ。仮にあったとしても、魔力耐性の高い我らには効きません」
グレイシア王女は小箱の包み紙の間に挟まれていたメッセージカードを引き抜いて、キリッとした力強い眉をしかめた。
「この女、わたくしの敵対派閥の女の親戚ではないか。ふふ、良い話題を提供してくれたものよ」
カイルの同年代の男爵令嬢の名前を見て、不敵に笑った。
それにしても、この様子だとこの手の贈り物が送られてくるのは初めてではなさそうだ。
当のカイルは沈み込んだ雰囲気だし、弟のルシウス少年はすかさずソファの隣から兄の頭をぽんぽんして慰めている。
「これは女嫌いっていうより……」
「女性が苦手になるわけだよね……」
誰もがうっとり見惚れるような麗しの美少年の、人には言えない気苦労の一端を見てしまった。
Σ(-᷅_-᷄๑)
「ルシウス。お前、食べ過ぎだよ」
「だって父様のサーモンパイ、おいしかったんだもん~」
ソファにでろーんと仰向けになったルシウス少年のお腹はぽっこり膨れている。
そんなお行儀の悪い弟を叱りながらも、兄のカイルはお腹をぽんぽんしてやっていた。
(まあ、可愛い)
麗しの兄弟が仲睦まじくしている光景にマーゴットがほっこりして、また心の潤いをチャージさせてもらっていると。
「昔、君たちの先祖が作ったサーモンパイを食べたことがあるよ。こんなに美味しくはなかったなあ、もっと素朴な感じでね。パイ生地もバターなしの小麦粉だけで、鮭もそんな味付けはしてなかった」
「おお、それは一族のオリジンの作り方ですな。祖先がアケロニア王国に移住してきて、新鮮な食材が手に入るようになってからどんどん改良して美味になってきたのです」
カーナが昔の記憶を懐かしそうに引っ張り出してメガエリス伯爵と歓談していた。
マーゴットとグレイシア王女は食べ過ぎで動けない。パイ料理は口当たりが良いので、油断して食べ過ぎてしまった。
元々、グレイシア王女はマーゴットと文通して薄々マーゴットにかなり特殊な事情があると勘づいていたという。
マーゴットが留学してきて詳細を聞いた後はループ現象その他について、魔法の大家の当主、メガエリス伯爵と早いうちに繋ぎをつけるつもりだったそうだ。
「我が家の蔵書や記録を探りましたが、時間を巻き戻す魔法の記述はありませんでした。そもそもループなど自然法則に反する現象ですから……」
メガエリス伯爵が執務室から持って来させた古書をめくっている。
これにはカーナも頷いていた。
「確かにカレイド王国の始祖のハイエルフは特殊な能力を幾つも持ってたけど、こんなに頻繁に繰り返し時間を遡るほどの力はなかったはずだ」
「その辺も考証が必要でしょうな」
小一時間、サロンで休憩しつつ情報交換して、さあ作業場へ研ぎに戻ろうとしたところで。
リースト伯爵家の執事長が長男のカイル宛の荷物を持ってきた。
「オレに?」
思い当たる様子がないらしいカイルは首を傾げていたが、小さな小箱をしばしじっと見つめた後、麗しの顔を渋く渋く歪めて、執事長に突っ返していた。
「送り主に送り返して。丁重にね」
執事長がその小箱を受け取る寸前、ソファから飛び起きたルシウス少年が小箱を奪って床に叩きつけた。
「!?」
マーゴットたちが突然のことに驚いている前で、ルシウス少年は小箱を小さな足で何度も何度も踏み付けていた。
「もう! もおおお! どうしてこんなの送ってくるの、ぼくの兄さんにいじわるしないで!」
げし、げしっと小箱を踏みつけるルシウス少年からはネオンブルーの魔力が噴き出している。
あまりの剣幕に誰も近寄れない。
と思いきや、後ろからこそ~っとグレイシア王女が近づいて、完全に小箱をぺしゃんこにしてぷんすこなルシウス少年の動きが止まった隙に足元からそれを取り上げた。
「何だ何だ、何があった? 中身は……手作りの菓子か?」
どうやらクッキーか何かの焼き菓子らしい。
「グレイシアさま、だめ! それはゴミです、早くすてて!」
「まあまあ、そう言うな。ほらメガエリス、保護者のお前に返すぞ?」
必死に取り戻そうとするルシウス少年をあしらいながら、潰れた小箱を放り投げた。
受け取ったメガエリス伯爵はそれを見ると、溜め息をついてテーブルの上に置いた。
「な、何か危険物だったのかしら?」
マーゴットもカーナもびっくりしていたが、グレイシア王女の顔を見る限り心配は要らないようだ。
が、しかし。
「わたくしが人物鑑定スキルを持つように、魔法の大家の一族であるこやつらは、魔力鑑定と物品鑑定のスキルを持っている。……ルシウス、何が入っていたか言ってみろ?」
「……かみのけを燃やした灰。あとよくわかんない体液」
「「!???」」
なにそれこわい。
ぞわわっと鳥肌が立ったマーゴットとカーナ、溜め息をつくカイルとメガエリス伯爵。
しかも、『よくわからない体液』とはいったい。
「の、呪いの差し入れなの、かな?」
カーナが恐る恐る、潰れた小箱を指先で突っついた。
「というより、まじないの一種でしょうな。自分の身体の一部を意中の相手に食させることで恋愛成就させようという類いの」
「それって効果」
「ありませぬ。仮にあったとしても、魔力耐性の高い我らには効きません」
グレイシア王女は小箱の包み紙の間に挟まれていたメッセージカードを引き抜いて、キリッとした力強い眉をしかめた。
「この女、わたくしの敵対派閥の女の親戚ではないか。ふふ、良い話題を提供してくれたものよ」
カイルの同年代の男爵令嬢の名前を見て、不敵に笑った。
それにしても、この様子だとこの手の贈り物が送られてくるのは初めてではなさそうだ。
当のカイルは沈み込んだ雰囲気だし、弟のルシウス少年はすかさずソファの隣から兄の頭をぽんぽんして慰めている。
「これは女嫌いっていうより……」
「女性が苦手になるわけだよね……」
誰もがうっとり見惚れるような麗しの美少年の、人には言えない気苦労の一端を見てしまった。
Σ(-᷅_-᷄๑)
19
お気に入りに追加
1,651
あなたにおすすめの小説
婚約者に見捨てられた悪役令嬢は世界の終わりにお茶を飲む
めぐめぐ
ファンタジー
魔王によって、世界が終わりを迎えるこの日。
彼女はお茶を飲みながら、青年に語る。
婚約者である王子、異世界の聖女、聖騎士とともに、魔王を倒すために旅立った魔法使いたる彼女が、悪役令嬢となるまでの物語を――
※終わりは読者の想像にお任せする形です
※頭からっぽで
王子の片思いに気付いたので、悪役令嬢になって婚約破棄に協力しようとしてるのに、なぜ執着するんですか?
いりん
恋愛
婚約者の王子が好きだったが、
たまたま付き人と、
「婚約者のことが好きなわけじゃないー
王族なんて恋愛して結婚なんてできないだろう」
と話ながら切なそうに聖女を見つめている王子を見て、王子の片思いに気付いた。
私が悪役令嬢になれば、聖女と王子は結婚できるはず!と婚約破棄を目指してたのに…、
「僕と婚約破棄して、あいつと結婚するつもり?許さないよ」
なんで執着するんてすか??
策略家王子×天然令嬢の両片思いストーリー
基本的に悪い人が出てこないほのぼのした話です。
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。
旦那様には愛人がいますが気にしません。
りつ
恋愛
イレーナの夫には愛人がいた。名はマリアンヌ。子どものように可愛らしい彼女のお腹にはすでに子どもまでいた。けれどイレーナは別に気にしなかった。彼女は子どもが嫌いだったから。
※表紙は「かんたん表紙メーカー」様で作成しました。
もう私、好きなようにさせていただきますね? 〜とりあえず、元婚約者はコテンパン〜
野菜ばたけ@既刊5冊📚好評発売中!
ファンタジー
「婚約破棄ですね、はいどうぞ」
婚約者から、婚約破棄を言い渡されたので、そういう対応を致しました。
もう面倒だし、食い下がる事も辞めたのですが、まぁ家族が許してくれたから全ては大団円ですね。
……え? いまさら何ですか? 殿下。
そんな虫のいいお話に、まさか私が「はい分かりました」と頷くとは思っていませんよね?
もう私の、使い潰されるだけの生活からは解放されたのです。
だって私はもう貴方の婚約者ではありませんから。
これはそうやって、自らが得た自由の為に戦う令嬢の物語。
※本作はそれぞれ違うタイプのざまぁをお届けする、『野菜の夏休みざまぁ』作品、4作の内の1作です。
他作品は検索画面で『野菜の夏休みざまぁ』と打つとヒット致します。
拝啓、婚約者様。ごきげんよう。そしてさようなら
みおな
恋愛
子爵令嬢のクロエ・ルーベンスは今日も《おひとり様》で夜会に参加する。
公爵家を継ぐ予定の婚約者がいながら、だ。
クロエの婚約者、クライヴ・コンラッド公爵令息は、婚約が決まった時から一度も婚約者としての義務を果たしていない。
クライヴは、ずっと義妹のファンティーヌを優先するからだ。
「ファンティーヌが熱を出したから、出かけられない」
「ファンティーヌが行きたいと言っているから、エスコートは出来ない」
「ファンティーヌが」
「ファンティーヌが」
だからクロエは、学園卒業式のパーティーで顔を合わせたクライヴに、にっこりと微笑んで伝える。
「私のことはお気になさらず」

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。
だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。
その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる