62 / 129
そうだ、留学しよう~アケロニア王国編
リースト伯爵家のサーモンパイ
しおりを挟む
リースト伯爵家のランチで饗されたのは、この家の名物料理だというサーモンパイだった。
アケロニア王国には主だった貴族の家には領地の特産品を使った代表料理があって、普段料理などしないはずの貴族でも、これだけは当主や夫人が手作りして家族や客人に饗する。
リースト伯爵家は兄弟の母親の夫人が数年前に亡くなっているそうなので、サーモンパイはメガエリス伯爵のお手製だ。
メインのサーモンパイは、一人前ずつ小型の三角形のパイ生地で鮭の切り身を包んで焼き上げられている。
それが一皿に4枚並んでいて、付け合わせに温野菜やポテトの素揚げ、ソースは赤ワインを煮詰めたソースがあらかじめ皿に敷かれている。
マーゴットが隣を見ると、グレイシア王女が黒い目を輝かせて皿を見せている。
向かいにいるルシウス少年や兄カイルも、お行儀は良かったがワクワクした表情だった。
「お待たせしました。召し上がれ」
と当主のメガエリス伯爵の挨拶でランチタイムは始まった。
「お、美味しいもので人は泣けるのですね……」
まだ成人前のマーゴットは薄化粧で、軽くおしろいをはたいて眉を描き、色付きのリップクリームを唇に塗っただけだった。
これがフルメイクで来ていたら、アイライナーなどアイメイクが涙で崩れて惨事になっていただろう。
鮭の味なら知っている。カレイド王国にだって鮭が帰還する河川があるし、秋に食べるベイクドサーモンや燻製鮭は国民の好物だ。
サーモンパイだって旬の季節になると必ず食卓に上がるものだ。
だがしかし、リースト伯爵家のサーモンパイは格が違った。
「たくさん焼きましたので、遠慮なくお代わりをどうぞ」
「あのね、お客さまがお代わりしやすいようにちっちゃいサイズなんだよ~」
「中の具にバリエーションがあるんです。ぜひ、いろいろ試してみてくださいね」
メガエリス伯爵、ルシウス少年、その兄の美少年カイル。三人に次々勧められてマーゴットは陥落した。
(わかってる。淑女はよそ様のおうちでお料理のお代わりなんて、はしたないことだって! でも、これは断れない……!)
ちら、と食堂に控えていた給仕を見ると、心得たと言わんばかりにサーモンパイを取り分けてくれる。
なお、マーゴットの隣の席のカーナや、更にその隣のグレイシア王女はサーモンパイをひたすら咀嚼している。
何ならカーナはお土産に持って帰りたいと交渉までしていた。
バターたっぷりのサクッとしたパイ生地の中に、塩胡椒で味付けされた鮭の切り身が入っている。
そのままだと素朴な味で、赤ワインソースと一緒だと鮭特有の風味がぐっと際立つ。
他にもマヨネーズが入っているものや、茹で野菜やクリームチーズのもの、ブイヨンのきいたリゾット入りのものなどあって、どれも大変な美味だった。
「カロリーの高いものほど美味いんだよなあ」
グレイシア王女がお代わり分を平らげながら、しみじみ呟いている。
「若いうちからそんなこと言ってるの? なら後でルシウス君たちと一緒に身体を動かすといいよ」
そう、ルシウス少年は作業場でじっと大人しく見学していられず、兄のカイルやカーナと庭のほうへ駆けっこしたり、一角獣になったカーナに乗って屋敷の敷地内を飛んだりとアクティブだった。
午後も同じ調子だと思うので、腹ごなしに散歩してもいいかもしれない。
アケロニア王国には主だった貴族の家には領地の特産品を使った代表料理があって、普段料理などしないはずの貴族でも、これだけは当主や夫人が手作りして家族や客人に饗する。
リースト伯爵家は兄弟の母親の夫人が数年前に亡くなっているそうなので、サーモンパイはメガエリス伯爵のお手製だ。
メインのサーモンパイは、一人前ずつ小型の三角形のパイ生地で鮭の切り身を包んで焼き上げられている。
それが一皿に4枚並んでいて、付け合わせに温野菜やポテトの素揚げ、ソースは赤ワインを煮詰めたソースがあらかじめ皿に敷かれている。
マーゴットが隣を見ると、グレイシア王女が黒い目を輝かせて皿を見せている。
向かいにいるルシウス少年や兄カイルも、お行儀は良かったがワクワクした表情だった。
「お待たせしました。召し上がれ」
と当主のメガエリス伯爵の挨拶でランチタイムは始まった。
「お、美味しいもので人は泣けるのですね……」
まだ成人前のマーゴットは薄化粧で、軽くおしろいをはたいて眉を描き、色付きのリップクリームを唇に塗っただけだった。
これがフルメイクで来ていたら、アイライナーなどアイメイクが涙で崩れて惨事になっていただろう。
鮭の味なら知っている。カレイド王国にだって鮭が帰還する河川があるし、秋に食べるベイクドサーモンや燻製鮭は国民の好物だ。
サーモンパイだって旬の季節になると必ず食卓に上がるものだ。
だがしかし、リースト伯爵家のサーモンパイは格が違った。
「たくさん焼きましたので、遠慮なくお代わりをどうぞ」
「あのね、お客さまがお代わりしやすいようにちっちゃいサイズなんだよ~」
「中の具にバリエーションがあるんです。ぜひ、いろいろ試してみてくださいね」
メガエリス伯爵、ルシウス少年、その兄の美少年カイル。三人に次々勧められてマーゴットは陥落した。
(わかってる。淑女はよそ様のおうちでお料理のお代わりなんて、はしたないことだって! でも、これは断れない……!)
ちら、と食堂に控えていた給仕を見ると、心得たと言わんばかりにサーモンパイを取り分けてくれる。
なお、マーゴットの隣の席のカーナや、更にその隣のグレイシア王女はサーモンパイをひたすら咀嚼している。
何ならカーナはお土産に持って帰りたいと交渉までしていた。
バターたっぷりのサクッとしたパイ生地の中に、塩胡椒で味付けされた鮭の切り身が入っている。
そのままだと素朴な味で、赤ワインソースと一緒だと鮭特有の風味がぐっと際立つ。
他にもマヨネーズが入っているものや、茹で野菜やクリームチーズのもの、ブイヨンのきいたリゾット入りのものなどあって、どれも大変な美味だった。
「カロリーの高いものほど美味いんだよなあ」
グレイシア王女がお代わり分を平らげながら、しみじみ呟いている。
「若いうちからそんなこと言ってるの? なら後でルシウス君たちと一緒に身体を動かすといいよ」
そう、ルシウス少年は作業場でじっと大人しく見学していられず、兄のカイルやカーナと庭のほうへ駆けっこしたり、一角獣になったカーナに乗って屋敷の敷地内を飛んだりとアクティブだった。
午後も同じ調子だと思うので、腹ごなしに散歩してもいいかもしれない。
12
お気に入りに追加
1,645
あなたにおすすめの小説
断罪される前に市井で暮らそうとした悪役令嬢は幸せに酔いしれる
葉柚
恋愛
侯爵令嬢であるアマリアは、男爵家の養女であるアンナライラに婚約者のユースフェリア王子を盗られそうになる。
アンナライラに呪いをかけたのはアマリアだと言いアマリアを追い詰める。
アマリアは断罪される前に市井に溶け込み侯爵令嬢ではなく一市民として生きようとする。
市井ではどこかの王子が呪いにより猫になってしまったという噂がまことしやかに流れており……。
私を選ばなかったくせに~推しの悪役令嬢になってしまったので、本物以上に悪役らしい振る舞いをして婚約破棄してやりますわ、ザマア~
あさぎかな@電子書籍二作目発売中
恋愛
乙女ゲーム《時の思い出(クロノス・メモリー)》の世界、しかも推しである悪役令嬢ルーシャに転生してしまったクレハ。
「貴方は一度だって私の話に耳を傾けたことがなかった。誤魔化して、逃げて、時より甘い言葉や、贈り物を贈れば満足だと思っていたのでしょう。――どんな時だって、私を選ばなかったくせに」と言って化物になる悪役令嬢ルーシャの未来を変えるため、いちルーシャファンとして、婚約者であり全ての元凶とである第五王子ベルンハルト(放蕩者)に婚約破棄を求めるのだが――?
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
【完結】本当の悪役令嬢とは
仲村 嘉高
恋愛
転生者である『ヒロイン』は知らなかった。
甘やかされて育った第二王子は気付かなかった。
『ヒロイン』である男爵令嬢のとりまきで、第二王子の側近でもある騎士団長子息も、魔法師協会会長の孫も、大商会の跡取りも、伯爵令息も
公爵家の本気というものを。
※HOT最高1位!ありがとうございます!
[完結]本当にバカね
シマ
恋愛
私には幼い頃から婚約者がいる。
この国の子供は貴族、平民問わず試験に合格すれば通えるサラタル学園がある。
貴族は落ちたら恥とまで言われる学園で出会った平民と恋に落ちた婚約者。
入婿の貴方が私を見下すとは良い度胸ね。
私を敵に回したら、どうなるか分からせてあげる。
政略より愛を選んだ結婚。~後悔は十年後にやってきた。~
つくも茄子
恋愛
幼い頃からの婚約者であった侯爵令嬢との婚約を解消して、学生時代からの恋人と結婚した王太子殿下。
政略よりも愛を選んだ生活は思っていたのとは違っていた。「お幸せに」と微笑んだ元婚約者。結婚によって去っていた側近達。愛する妻の妃教育がままならない中での出産。世継ぎの王子の誕生を望んだものの産まれたのは王女だった。妻に瓜二つの娘は可愛い。無邪気な娘は欲望のままに動く。断罪の時、全てが明らかになった。王太子の思い描いていた未来は元から無かったものだった。後悔は続く。どこから間違っていたのか。
他サイトにも公開中。
あなたを忘れる魔法があれば
七瀬美緒
恋愛
乙女ゲームの攻略対象の婚約者として転生した私、ディアナ・クリストハルト。
ただ、ゲームの舞台は他国の為、ゲームには婚約者がいるという事でしか登場しない名前のないモブ。
私は、ゲームの強制力により、好きになった方を奪われるしかないのでしょうか――?
これは、「あなたを忘れる魔法があれば」をテーマに書いてみたものです――が、何か違うような??
R15、残酷描写ありは保険。乙女ゲーム要素も空気に近いです。
※小説家になろう、カクヨムにも掲載してます
【取り下げ予定】愛されない妃ですので。
ごろごろみかん。
恋愛
王妃になんて、望んでなったわけではない。
国王夫妻のリュシアンとミレーゼの関係は冷えきっていた。
「僕はきみを愛していない」
はっきりそう告げた彼は、ミレーゼ以外の女性を抱き、愛を囁いた。
『お飾り王妃』の名を戴くミレーゼだが、ある日彼女は側妃たちの諍いに巻き込まれ、命を落としてしまう。
(ああ、私の人生ってなんだったんだろう──?)
そう思って人生に終止符を打ったミレーゼだったが、気がつくと結婚前に戻っていた。
しかも、別の人間になっている?
なぜか見知らぬ伯爵令嬢になってしまったミレーゼだが、彼女は決意する。新たな人生、今度はリュシアンに関わることなく、平凡で優しい幸せを掴もう、と。
*年齢制限を18→15に変更しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる