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そうだ、留学しよう~アケロニア王国編
告白と王配の確約
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「……マーゴットの父君のラズリス様も、僕と同じ無色透明の魔力持ちだったでしょう? だから僕はその後も王宮と関わって不調になるたび、ラズリス様に祓ってもらってたんです。だけど、僕たち幼馴染み三人が王妃のお茶会に招かれたとき……」
あ、これは厭な話の流れだとカーナにはすぐわかった。
メイ王妃の話題が人の口から出るとき、いつも空気が悪くなる。
「マーゴットと、婚約者候補だった僕とバルカスが王妃のお茶会に招かれたとき、王妃が言いました」
『もしシルヴィス君が王配になるなら、マーゴットが成人する18歳のとき、あなたは26歳ねえ。やだわ、オジサンじゃない』
「王妃は自分が成人した18歳で陛下と結婚しているから、それと比べられたようです」
これで本人に悪気がないのだから、たちが悪い。
「え? それ言われたとき、シルヴィスは何歳だったの?」
「……18歳になる年でした」
「うわあ」
カーナは噂のメイ王妃には会ったことがない。
カレイド王国の守護者だから、他国出身の平民女でも、王妃となった彼女ならカーナへの謁見の資格はあったはずなのだ。
だが、結婚後に王妃が大きな失言をやらかした。
『え、男にも女にもなれる守護者? 何かいたわよねえ、あんまり上等じゃない虫とか動物とかにもそんなの。あたし、そういうの気持ち悪くて無理かも』
カーナはハイヒューマンの中でも、比較的現代人に近い感性を持っている。
だから自分の性別が龍や一角獣に変身するたびに変わることを苦手に思う人間にも理解があった。今の人間には生まれの性別が変わる現象など滅多にないので。
当の本人は「何も知らない他国人ならそう言うのも仕方がない」と苦笑するだけだったが、この発言を聞いた周囲は激怒した。
具体的には彼女の教育係を請け負った教師たち、神殿の神官たち、つまり王家の親族集団、雑草会の会員たちだ。
結果、メイ王妃は永遠に守護者カーナへの謁見資格を失った。国王は取り成したが雑草会が認めなかった。
守護者をけなす王妃など有り得ない。
それでもダイアン国王は彼女を離縁することはなかったし、最終的には王妃を優先して自分の在位中はカレイド王国に姿を見せないようカーナに頼む始末。
「18歳の美少年だった君をオジサン呼ばわりか。王妃もやるね」
「そこはどうでもいいところです。問題は、その王妃とのお茶会で僕が心臓に痛みを覚え、呼吸まで苦しくなったこと」
粗相をする前に辞去しようとしたところで、当時まだ10歳だったマーゴットが王妃を嗜めた。
『王妃様。さすがにその発言はシルヴィス様に失礼ですわ』
『あらそう? ごめんなさいね、シルヴィス』
「王妃から謝罪は貰いましたが、その場でもう座っていられないぐらい消耗していたので退席したんです。すると心配したマーゴットが追いかけてきてくれて」
そのとき、マーゴットは自分が好きなのはシルヴィスなのだ、と告白してくれたそうだ。
シルヴィスは18歳、マーゴットは10歳になる年のことである。
『こんなオジサンじゃなくて、歳の近い子にしたほうがいいんじゃないの?』
『シルヴィスならおじさんになっても素敵だと思うわ』
お茶会で王妃に揶揄われたことを引きずって、そんなことを言ってしまったシルヴィスにマーゴットはきっぱりと否定してくれた。
そして、
『私の婚約者を最終的に決めるのは、私が学園を卒業した後なの。そのときまだ婚約者候補でいてくれたら、あなたを指名したい』
という未来の王配としてシルヴィスを選んだと、口約束ながら確約をくれたのだ。
あ、これは厭な話の流れだとカーナにはすぐわかった。
メイ王妃の話題が人の口から出るとき、いつも空気が悪くなる。
「マーゴットと、婚約者候補だった僕とバルカスが王妃のお茶会に招かれたとき、王妃が言いました」
『もしシルヴィス君が王配になるなら、マーゴットが成人する18歳のとき、あなたは26歳ねえ。やだわ、オジサンじゃない』
「王妃は自分が成人した18歳で陛下と結婚しているから、それと比べられたようです」
これで本人に悪気がないのだから、たちが悪い。
「え? それ言われたとき、シルヴィスは何歳だったの?」
「……18歳になる年でした」
「うわあ」
カーナは噂のメイ王妃には会ったことがない。
カレイド王国の守護者だから、他国出身の平民女でも、王妃となった彼女ならカーナへの謁見の資格はあったはずなのだ。
だが、結婚後に王妃が大きな失言をやらかした。
『え、男にも女にもなれる守護者? 何かいたわよねえ、あんまり上等じゃない虫とか動物とかにもそんなの。あたし、そういうの気持ち悪くて無理かも』
カーナはハイヒューマンの中でも、比較的現代人に近い感性を持っている。
だから自分の性別が龍や一角獣に変身するたびに変わることを苦手に思う人間にも理解があった。今の人間には生まれの性別が変わる現象など滅多にないので。
当の本人は「何も知らない他国人ならそう言うのも仕方がない」と苦笑するだけだったが、この発言を聞いた周囲は激怒した。
具体的には彼女の教育係を請け負った教師たち、神殿の神官たち、つまり王家の親族集団、雑草会の会員たちだ。
結果、メイ王妃は永遠に守護者カーナへの謁見資格を失った。国王は取り成したが雑草会が認めなかった。
守護者をけなす王妃など有り得ない。
それでもダイアン国王は彼女を離縁することはなかったし、最終的には王妃を優先して自分の在位中はカレイド王国に姿を見せないようカーナに頼む始末。
「18歳の美少年だった君をオジサン呼ばわりか。王妃もやるね」
「そこはどうでもいいところです。問題は、その王妃とのお茶会で僕が心臓に痛みを覚え、呼吸まで苦しくなったこと」
粗相をする前に辞去しようとしたところで、当時まだ10歳だったマーゴットが王妃を嗜めた。
『王妃様。さすがにその発言はシルヴィス様に失礼ですわ』
『あらそう? ごめんなさいね、シルヴィス』
「王妃から謝罪は貰いましたが、その場でもう座っていられないぐらい消耗していたので退席したんです。すると心配したマーゴットが追いかけてきてくれて」
そのとき、マーゴットは自分が好きなのはシルヴィスなのだ、と告白してくれたそうだ。
シルヴィスは18歳、マーゴットは10歳になる年のことである。
『こんなオジサンじゃなくて、歳の近い子にしたほうがいいんじゃないの?』
『シルヴィスならおじさんになっても素敵だと思うわ』
お茶会で王妃に揶揄われたことを引きずって、そんなことを言ってしまったシルヴィスにマーゴットはきっぱりと否定してくれた。
そして、
『私の婚約者を最終的に決めるのは、私が学園を卒業した後なの。そのときまだ婚約者候補でいてくれたら、あなたを指名したい』
という未来の王配としてシルヴィスを選んだと、口約束ながら確約をくれたのだ。
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