上 下
23 / 129
再びのループ~真実の愛を破壊する

王子バルカス、真実の愛

しおりを挟む
 バルカス王子は、学園で出会った平民の女生徒ポルテを愛していた。

 柔らかな栗色の髪に澄んだオレンジ色の瞳の愛くるしい、無邪気な少女を。

 周りは遊びの浮気相手だと思っていたかもしれない。
 けれど本気で心の底から愛していたのだ。
 真実の愛と確信していた。



 事実ではなかったにせよバルカスは自分が王太子だと思っていたし、母親が王妃となってからも自分が他国の平民出身者だと悩んでいることを知っていた。
 同じ苦労をポルテにはさせたくなかった。
 だから、彼女を王妃にする選択肢だけは選ばないと決めていた。

 代わりに、ポルテを側に置くため婚約者のマーゴットをどう利用するか考えるようになった。

 幼馴染みで従姉妹のマーゴットは、バルカスにとって、とても鬱陶しい存在だ。
 同い年のくせに何かと姉貴風を吹かせて、説教くさい。
 血筋順位が一位というのも、始祖の鮮やかなネオングリーンの瞳も、中興の祖の女勇者の燃える炎の赤毛も気に食わなかった。

 持っている色彩が派手なのに、顔立ちが地味なところも。
 化粧っ気もないし、ポルテのような甘い香りも纏わない。

 美しく着飾ってバルカスの機嫌を取ることもない。

 だから思春期に入る頃にはもうバルカスはマーゴットのことが嫌いだった。



 だが、恋人ポルテはバルカスとの不貞を理由にマーゴットから鞭打ち刑を受けた後、学園を退学させられて家族ごと王都から姿を消してしまった。

 調べさせてみると、実態を知った父王の命令で家族まとめて国外追放されたという。

 バルカスは真実の愛の相手と引き裂かれてしまったのだ。

 それだけではない。
 自分の横領でマーゴットが家を失い路頭に迷う寸前だと知った後。
 ここでようやく、バルカスは真実を知った。

 自分が本当は王太子ではなく、王位継承権のない一王子に過ぎないことを。

 王妃の母の懇願によって、期間限定で仮の王太子を名乗る許可を得ていただけの存在と知って、愕然とすることになる。

 何もかもが間違っていた。

 王太子はバルカスではない。マーゴットだ。

 次期国王にバルカスが即位する可能性は、元から万に一つもなかった。
 マーゴットこそが女王となるのだ。

 血筋順位の“欄外”であるバルカスは、マーゴットと結婚して王配にならなければ、王家には残れない。
 爵位ぐらいなら貰えるだろうが、王家の縁戚として存在感を示せる公爵や侯爵は難しいだろう。

 せいぜい伯爵位ぐらい。それも、領地もない名誉貴族程度の扱いになると教えられて、バルカスは絶望に頭を抱えることになった。


しおりを挟む
感想 305

あなたにおすすめの小説

断罪される前に市井で暮らそうとした悪役令嬢は幸せに酔いしれる

葉柚
恋愛
侯爵令嬢であるアマリアは、男爵家の養女であるアンナライラに婚約者のユースフェリア王子を盗られそうになる。 アンナライラに呪いをかけたのはアマリアだと言いアマリアを追い詰める。 アマリアは断罪される前に市井に溶け込み侯爵令嬢ではなく一市民として生きようとする。 市井ではどこかの王子が呪いにより猫になってしまったという噂がまことしやかに流れており……。

私を選ばなかったくせに~推しの悪役令嬢になってしまったので、本物以上に悪役らしい振る舞いをして婚約破棄してやりますわ、ザマア~

あさぎかな@電子書籍二作目発売中
恋愛
乙女ゲーム《時の思い出(クロノス・メモリー)》の世界、しかも推しである悪役令嬢ルーシャに転生してしまったクレハ。 「貴方は一度だって私の話に耳を傾けたことがなかった。誤魔化して、逃げて、時より甘い言葉や、贈り物を贈れば満足だと思っていたのでしょう。――どんな時だって、私を選ばなかったくせに」と言って化物になる悪役令嬢ルーシャの未来を変えるため、いちルーシャファンとして、婚約者であり全ての元凶とである第五王子ベルンハルト(放蕩者)に婚約破棄を求めるのだが――?

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

【完結】本当の悪役令嬢とは

仲村 嘉高
恋愛
転生者である『ヒロイン』は知らなかった。 甘やかされて育った第二王子は気付かなかった。 『ヒロイン』である男爵令嬢のとりまきで、第二王子の側近でもある騎士団長子息も、魔法師協会会長の孫も、大商会の跡取りも、伯爵令息も 公爵家の本気というものを。 ※HOT最高1位!ありがとうございます!

政略より愛を選んだ結婚。~後悔は十年後にやってきた。~

つくも茄子
恋愛
幼い頃からの婚約者であった侯爵令嬢との婚約を解消して、学生時代からの恋人と結婚した王太子殿下。 政略よりも愛を選んだ生活は思っていたのとは違っていた。「お幸せに」と微笑んだ元婚約者。結婚によって去っていた側近達。愛する妻の妃教育がままならない中での出産。世継ぎの王子の誕生を望んだものの産まれたのは王女だった。妻に瓜二つの娘は可愛い。無邪気な娘は欲望のままに動く。断罪の時、全てが明らかになった。王太子の思い描いていた未来は元から無かったものだった。後悔は続く。どこから間違っていたのか。 他サイトにも公開中。

あなたを忘れる魔法があれば

七瀬美緒
恋愛
乙女ゲームの攻略対象の婚約者として転生した私、ディアナ・クリストハルト。 ただ、ゲームの舞台は他国の為、ゲームには婚約者がいるという事でしか登場しない名前のないモブ。 私は、ゲームの強制力により、好きになった方を奪われるしかないのでしょうか――? これは、「あなたを忘れる魔法があれば」をテーマに書いてみたものです――が、何か違うような?? R15、残酷描写ありは保険。乙女ゲーム要素も空気に近いです。 ※小説家になろう、カクヨムにも掲載してます

【取り下げ予定】愛されない妃ですので。

ごろごろみかん。
恋愛
王妃になんて、望んでなったわけではない。 国王夫妻のリュシアンとミレーゼの関係は冷えきっていた。 「僕はきみを愛していない」 はっきりそう告げた彼は、ミレーゼ以外の女性を抱き、愛を囁いた。 『お飾り王妃』の名を戴くミレーゼだが、ある日彼女は側妃たちの諍いに巻き込まれ、命を落としてしまう。 (ああ、私の人生ってなんだったんだろう──?) そう思って人生に終止符を打ったミレーゼだったが、気がつくと結婚前に戻っていた。 しかも、別の人間になっている? なぜか見知らぬ伯爵令嬢になってしまったミレーゼだが、彼女は決意する。新たな人生、今度はリュシアンに関わることなく、平凡で優しい幸せを掴もう、と。 *年齢制限を18→15に変更しました。

元侯爵令嬢は冷遇を満喫する

cyaru
恋愛
第三王子の不貞による婚約解消で王様に拝み倒され、渋々嫁いだ侯爵令嬢のエレイン。 しかし教会で結婚式を挙げた後、夫の口から開口一番に出た言葉は 「王命だから君を娶っただけだ。愛してもらえるとは思わないでくれ」 夫となったパトリックの側には長年の恋人であるリリシア。 自分もだけど、向こうだってわたくしの事は見たくも無いはず!っと早々の別居宣言。 お互いで交わす契約書にほっとするパトリックとエレイン。ほくそ笑む愛人リリシア。 本宅からは屋根すら見えない別邸に引きこもりお1人様生活を満喫する予定が・・。 ※専門用語は出来るだけ注釈をつけますが、作者が専門用語だと思ってない専門用語がある場合があります ※作者都合のご都合主義です。 ※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。 ※架空のお話です。現実世界の話ではありません。 ※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。

処理中です...