上 下
4 / 129
第一章 初回ループ~卒業式の婚約破棄

カレイド王国の血筋順位

しおりを挟む
 カレイド王国の王位継承権の決め方は、他国にはない特殊な方法が用いられている。

 まず重要なのは、始祖のハイエルフか、中興の祖の女勇者、あるいは両方の血筋を受け継いでいること。

 中興の祖の女勇者は多産だったので、多くの子供を産んだ。
 子孫はそれぞれ王族、貴族、平民のいずれにも広がっている。
 このため、カレイド王国は王侯貴族制の国でありながら、平民差別の少ない国として知られていた。
 特に女勇者の血を引いた者は、彼女と同じ燃えるような赤毛を持つことが多かったので、末裔だと一目瞭然だったからだ。



 今からおよそ500年ほど前、老朽化していた王家の墓を新しく作り直すとき。

 当時王家に仕えていた魔導具師が始祖や女勇者の遺骸の一部を用いて、彼らの末裔かどうかを判別する魔導具を作成した。

 単純に、始祖や女勇者の子孫であれば、持つだけで身体のどこかに、どれだけ祖先に近い血筋の者かを表す数字が浮き出る魔導具だ。

 その魔導具は単純に“血筋チェッカー”と呼ばれている。
 魔力で作られた透明な多角形の魔石で、チェック機能を使うには血筋の者が手に持つだけでいい。

 現在では改良が進んで、およそ千番まで順位が出るようになっている。

 この魔導具が開発されて以降、カレイド王国の国王には必ず血筋順位で百番内の者が即位するよう定められている。

 百番以内ならば、王族でも貴族でも平民でも、極端なことをいえば賎民でもいい。

 王位継承権は、一位から百位までの者に機械的に与えられ、死亡すると次の順位の者が自動的に繰り上がるようになっている。



 マーゴットたちの親世代では、バルカスの父親である現国王が血筋順位の一位だった。

 現在は現国王の弟公爵の娘、マーゴットが一位である。
 マーゴットの父は現国王と同じ両親の間に生まれた弟だったし、母も王家の親戚だったから当然、娘のマーゴットに血は凝縮される。

 王子のバルカスには、血筋チェッカーを持たせても数字が表れなかった。
 よって彼には王位継承権はない。
 厳密に言えばあるのだが、千番以降の欄外なのでないも同然なのだ。

 これではマーゴットが女王として即位したとき、バルカスは王族として王家に残れない。国民が認めない。
 せめて末番に近くてもいいから数字があれば良かったがバルカスは千番内にも入れなかったのだ。

 だから国王はバルカスの後、弟公爵のもとにマーゴットが生まれたことを知って、二人の婚約を結ぶことで息子バルカスの身を守ることにした。

 まだマーゴットもバルカスも物心つく前の話だった。



 本来ならオズ公爵令嬢マーゴットは次期女王として、不必要な苦労をすることのない境遇のはずだった。

 やはり、王太女である本来の身分を名乗れない制限がネックだ。

 他国の平民出身の王妃の懇願で、本来ならただの一王子に過ぎないバルカスに王太子の称号を名乗らせたのは王家最大の誤りだったと言えよう。

 王統譜にはもちろん、バルカスが王太子などと記されていない。
 王家も王族たちも、そして一部の高位貴族らと、血筋順位の数字を持つ者たちはそれを知っている。

 ただ、公式でこそなかったが、王妃が積極的に広めてしまったので、国内でバルカスは王太子で通ってしまっている。

 このことを事情を知る者たちは異常事態と認識していたが、王妃を溺愛する国王が反対意見を抑えていた。



 バルカスは、他国の平民出身の王妃の血が混ざったことで、王位継承権を認められないほど始祖の血の薄い王子だ。

 彼に王太子を名乗らせてしまったことは、本来の王位継承権一位のマーゴットの地位と権利を大きく害した。

 加えて、まだマーゴットが思春期に入る前に両親の公爵夫妻が流行り病で亡くなってしまっている。

 その後、マーゴットたちが学園の高等部に進学する前後から、バルカス王子が横暴な態度を取るようになってきた。

「お前は俺の婚約者だ。婚約者の家の物は俺の物も同然だろう?」

 そんな理屈で、バルカスは王家からマーゴットのオズ公爵家への支援金を着服するようになった。
 その上、オズ公爵家の執事を兼ねた家令から金庫の鍵を強奪して、公爵家の金も持ち出すようになっていった。

 マーゴットの生活が貧しくなった最初のきっかけは、このバルカスの横領と窃盗行為のせいだった。


しおりを挟む
感想 305

あなたにおすすめの小説

断罪される前に市井で暮らそうとした悪役令嬢は幸せに酔いしれる

葉柚
恋愛
侯爵令嬢であるアマリアは、男爵家の養女であるアンナライラに婚約者のユースフェリア王子を盗られそうになる。 アンナライラに呪いをかけたのはアマリアだと言いアマリアを追い詰める。 アマリアは断罪される前に市井に溶け込み侯爵令嬢ではなく一市民として生きようとする。 市井ではどこかの王子が呪いにより猫になってしまったという噂がまことしやかに流れており……。

私を選ばなかったくせに~推しの悪役令嬢になってしまったので、本物以上に悪役らしい振る舞いをして婚約破棄してやりますわ、ザマア~

あさぎかな@電子書籍二作目発売中
恋愛
乙女ゲーム《時の思い出(クロノス・メモリー)》の世界、しかも推しである悪役令嬢ルーシャに転生してしまったクレハ。 「貴方は一度だって私の話に耳を傾けたことがなかった。誤魔化して、逃げて、時より甘い言葉や、贈り物を贈れば満足だと思っていたのでしょう。――どんな時だって、私を選ばなかったくせに」と言って化物になる悪役令嬢ルーシャの未来を変えるため、いちルーシャファンとして、婚約者であり全ての元凶とである第五王子ベルンハルト(放蕩者)に婚約破棄を求めるのだが――?

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

【完結】本当の悪役令嬢とは

仲村 嘉高
恋愛
転生者である『ヒロイン』は知らなかった。 甘やかされて育った第二王子は気付かなかった。 『ヒロイン』である男爵令嬢のとりまきで、第二王子の側近でもある騎士団長子息も、魔法師協会会長の孫も、大商会の跡取りも、伯爵令息も 公爵家の本気というものを。 ※HOT最高1位!ありがとうございます!

政略より愛を選んだ結婚。~後悔は十年後にやってきた。~

つくも茄子
恋愛
幼い頃からの婚約者であった侯爵令嬢との婚約を解消して、学生時代からの恋人と結婚した王太子殿下。 政略よりも愛を選んだ生活は思っていたのとは違っていた。「お幸せに」と微笑んだ元婚約者。結婚によって去っていた側近達。愛する妻の妃教育がままならない中での出産。世継ぎの王子の誕生を望んだものの産まれたのは王女だった。妻に瓜二つの娘は可愛い。無邪気な娘は欲望のままに動く。断罪の時、全てが明らかになった。王太子の思い描いていた未来は元から無かったものだった。後悔は続く。どこから間違っていたのか。 他サイトにも公開中。

あなたを忘れる魔法があれば

七瀬美緒
恋愛
乙女ゲームの攻略対象の婚約者として転生した私、ディアナ・クリストハルト。 ただ、ゲームの舞台は他国の為、ゲームには婚約者がいるという事でしか登場しない名前のないモブ。 私は、ゲームの強制力により、好きになった方を奪われるしかないのでしょうか――? これは、「あなたを忘れる魔法があれば」をテーマに書いてみたものです――が、何か違うような?? R15、残酷描写ありは保険。乙女ゲーム要素も空気に近いです。 ※小説家になろう、カクヨムにも掲載してます

【取り下げ予定】愛されない妃ですので。

ごろごろみかん。
恋愛
王妃になんて、望んでなったわけではない。 国王夫妻のリュシアンとミレーゼの関係は冷えきっていた。 「僕はきみを愛していない」 はっきりそう告げた彼は、ミレーゼ以外の女性を抱き、愛を囁いた。 『お飾り王妃』の名を戴くミレーゼだが、ある日彼女は側妃たちの諍いに巻き込まれ、命を落としてしまう。 (ああ、私の人生ってなんだったんだろう──?) そう思って人生に終止符を打ったミレーゼだったが、気がつくと結婚前に戻っていた。 しかも、別の人間になっている? なぜか見知らぬ伯爵令嬢になってしまったミレーゼだが、彼女は決意する。新たな人生、今度はリュシアンに関わることなく、平凡で優しい幸せを掴もう、と。 *年齢制限を18→15に変更しました。

元侯爵令嬢は冷遇を満喫する

cyaru
恋愛
第三王子の不貞による婚約解消で王様に拝み倒され、渋々嫁いだ侯爵令嬢のエレイン。 しかし教会で結婚式を挙げた後、夫の口から開口一番に出た言葉は 「王命だから君を娶っただけだ。愛してもらえるとは思わないでくれ」 夫となったパトリックの側には長年の恋人であるリリシア。 自分もだけど、向こうだってわたくしの事は見たくも無いはず!っと早々の別居宣言。 お互いで交わす契約書にほっとするパトリックとエレイン。ほくそ笑む愛人リリシア。 本宅からは屋根すら見えない別邸に引きこもりお1人様生活を満喫する予定が・・。 ※専門用語は出来るだけ注釈をつけますが、作者が専門用語だと思ってない専門用語がある場合があります ※作者都合のご都合主義です。 ※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。 ※架空のお話です。現実世界の話ではありません。 ※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。

処理中です...