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side 王太子~王妃の処遇をどうしよう2

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 がっくり項垂れてしまったサブギルマスはともかく、問題は王妃のほうだ。

 いつまでも貴族牢に王族が滞在することは好ましくないので、強制的に母親の王妃を王太子の執務室まで騎士たちに連行させた。

 さて、とクリストファー王太子は早々にソファに腰を下ろして扇で顔を仰ぐ王妃を見た。
 本人、一応自分の立場が悪いことぐらいは理解しているらしい。
 もう12月の真冬だが額に汗をかいている。

「母上。あなたがやったことは、マリオン君どころかエドアルドも傷つける行為だった。これでどう責任を取ってくれるのか興味深いですね」
「嫌味ったらしくてイヤになっちゃうわ。これがわたくしの息子なんだから。どう思いまして? お前たち」

 無邪気に王太子の護衛騎士たちに話を振っているが、当然ながら王族同士の対話に彼らが口を挟むことはない。

 クリストファー王太子は内心、溜め息をついた。

(本人に悪気はない。良かれと思ってやっている。その結果、周囲に甚大な被害が出る。……古きタイアド王族の忌むべき性質だ)

 芸術と虚飾のタイアド王国に、いまだに享楽と虚飾の王族と言われるタイアド王家。
 他国の賢人の出る王族の血を取り入れてからはだいぶ緩和されていたし、実際今の国王も王太子のクリストファーも楽天家なだけでネガティブな性質はかなり抑制されている。

 その中にあって、このマルガレータ王妃はある意味、純正タイアド王族ともいえる血筋の末裔だ。

(人間の資質は血筋だけでは決まらない。環境が大事だと言われるが……我が王家も厳密な血筋管理が必要なのだろうな……)



 ぺらりと執務机の上の書類をめくった。

 王妃も、正直どうでもいいあの王太子にとっても遠縁のサブギルマスのことも、マリオン絡みの事件に関して上手く誤魔化そうと思えば可能だった。

 新聞にスクープ記事が大々的に載ったのは痛かったが、タイアド王国の国民は基本的に飽きっぽい。
 今はまだ時折、魔導具師マリオンの事件が新聞や人々の間で噂になっているが、意図的に複数の事件を流せばすぐ忘れ去られることだろう。

 ところが、タイアド王家、王太子のクリストファーが隠蔽に奔走しても、どうにもならない問題が一件だけあった。

「母上……あのサブギルドマスターですがね。研究学園でエドの偽物に変装してマリオン君と関わったとき、違法魔導具を使用したと判明してるんです」
「違法の? ご禁制の魔物の血を触媒に使った若返り魔導具ならわたくしも欲しいわ!」
「………………」

 やれやれ、と溜め息が漏れた。そんな平和なものなわけがない。

「マリオン君と関わるときだけ、物事の認識力や判断力を歪めて低下させる、洗脳系の魔導具だそうです」

 ぴたりと王妃が扇を仰ぐ手を止めた。

「マリオン君はずっとエドと文通してたから、エドの人となりをよく知ってる。だから外見だけエドそっくりに変装したって、自分を虐げて傷つけるエドが偽物だって、本当ならすぐ気づいたはずです」

 別れたばかりのマリオンの、エドアルド王子への態度を見れば、彼だって弟王子を憎からず思ってることは間違いないわけで。

「……それで?」
「そこで非合法な洗脳系魔導具の出番ですよ。おかしな態度を取られて、おかしいなって思った気持ちを、顔を合わせたときだけ抑制すればマリオン君から上手く発明を吸い上げながらも逃さずその場を乗り切れる」

 マリオンが9ヶ月もあの研究学園に留まってしまった、真の原因だった。

 確かにマリオン自身、学園の設備環境が良くて研究に熱中していたり、友達で守護竜のルミナスが一緒にいて心の慰めになって気を逸らせていたのは事実だ。

 しかし、彼が受けた仕打ちや、本人が自由に外部に抜け出して冒険者活動で生活費を稼いでいた様子を考えると、いくら何でもそこまで長期間に渡って残り続けたことは異常すぎる。

 マリオンの赴任期間中の研究学園を調べさせたところ、白い七面鳥のような鳥がマリオンの周りをぶつかるように何度も何度も飛んでいたとの目撃情報があった。
 恐らく、あの綿毛竜コットンドラゴンのルミナスがマリオンの異変を察知して、研究学園から離脱するよう促していたものと思われる。

(あの綿毛竜コットンドラゴンはサブギルドマスターも気づいてたみたいだな。それで攫って、学期末集会の場でマリオン君の目の前で殺害して彼にショックを与え、追放と一気に畳み掛けるつもりだった、と)

「人の自由意志を歪め、奪う魔導具はご禁制中のご禁制です。あのサブギルドマスターだって当然わかってるでしょう」
「まどろっこしいわね。何が言いたいの?」
「彼はこの後も司法の尋問をしばらく受け続けます。いよいよ言い逃れできないとなったら……自分の保身のために、あなたから使えと言われたと供述するでしょうね」
「むううう……」

 王妃は天井を仰いだ。そりゃそうだわ、と呟いている。

「さあ、自室へお戻りください、母上。今度こそ国王陛下の許可が出るまで出てはなりません。そしてご自分が何をなさったのか、関係者にどのような影響を及ぼしたかお考えになると良いでしょう」


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