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王妃の秘密サロン

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 王宮に向かう馬車の中で、マリオンはクリストファー王太子からこれまでの調査で判明したことを聞いた。

 概ね、祖父ダリオンから既に聞いていたことばかりだった。
 例えば、偽王子に変装してマリオンを虐げた魔導具師ギルドのサブギルマスは、王妃の親戚であること。

 だが、そのサブギルマスが魔導具師の発明コンクールで一位をマリオンに奪われたことを根に持っていたことは初耳だった。

「私の母、王妃が親戚の魔導具師ギルドのサブギルドマスターに命じたのは、君を故郷に追い返すことだけだったらしいよ」

 だがマリオンが理不尽な虐げにもめげず、研究に没頭していくつも有用な発明の設計図を馬鹿正直に提出してくるものだから欲が出たらしい。

 上手く利用して甘い汁を吸えるだけ吸おうと。

 ところが、途中でマリオン自身が自分の発明が勝手に使われたことを察してしまった。

 マリオンが、魔導具の設計図に意図的な歪みを加えてクオリティを落としたことを悟った魔導具師ギルドのサブギルマス。
 それは以降ずっと続いた。

 そこで、もはやマリオンには利用価値なしと見たサブギルマスは、元々王妃から命じられていたことを実行した。

 それがあの、月期末の退学の追放宣言だったらしい。

「彼、君が学生だと最後まで勘違いしたままだったよ。君はまだ十代だしね。エドが有望な学生を連れてきたと思い込んでたんだ」
「はは……ほんと、僕は踏んだり蹴ったりでしたね」
「申し訳ない……」

 本来ならマリオンが研究学園へ向かう前に王宮に挨拶に来ていれば、いくら王妃でも余計な手は回さなかった。

 エドアルド王子は、自分が討伐任務で留守にしていても、兄の王太子に任せれば良かったはずで。

「そこがあの子の甘いところだ。一番元を辿れば元凶はやはり愚弟になるのかな」
「……別にもうエドを責めようとは思ってません。僕を罵倒してきたクズ王子が偽物で本当に良かった」



 王宮に着くと侍従が王太子に耳打ちしてきた。

「母上に来客が? そうか……」

 少し考えた後で、クリストファー王子はマリオンを伴って王宮内のレストルームへ向かった。もちろん男性用だ。

「えっ。あの、何でこんなとこに?」
「しー、静かに。ここから母上が来客と歓談してる専用サロンへの隠れ通路に行けるんだ」

 聞けば、タイアド王宮には随所にこの手の隠れ通路や隠れ部屋があるそうで。

「タイアド王宮はカラクリ仕掛けが多くてね。子供の頃は迷って出られなくてよくエドと一緒に泣いてたものだよ」
「……それ部外者の僕に話していいやつなんですか?」

 いくつもの部屋を壁一枚だけ隔てた隠し通路で通り過ぎていく。
 やがて辿り着いた王妃専用サロンを、王太子は隠し通路の覗き穴からこっそり見るよう促した。

「……えっ!?」

 思わず大声が出そうになったが、咄嗟に後ろから王太子に手で口元を塞がれた。

「静かに。声も音も立てないこと。いい?」

 無声音で叱られて、マリオンはコクコクと頷いた。

「ピュウ?」(わあ。すごーい)

 また仔犬サイズに戻ってマリオンのフードの中に戻っていたルミナスが這い出してきて、覗き穴を覗いてビックリしている。



 サロン内には所狭しとエドアルド王子の絵姿や、魔導具の写真機による写真が飾られていた。
 赤ん坊の頃から少年のもの、そして現在の成人した姿まで様々だ。

 そして何と、金髪碧眼の美しい王妃が、来客と思しき数名の貴族夫人たちとエドアルド王子語りに熱中しているではないか。

「ああ、王妃様。エド様が怪我をされたと密かに漏れ聞いて、わたくしたちもういてもたってもいられなくて!」
「わかります、わかりますよ夫人。エドアルド王子なら無事です。命に支障はありません。しかし怪我の程度が酷くまだ目を覚まさないのです……」

「「「いやああああああ!」」」



 様々な年齢の夫人たちの悲鳴を聞きながら、マリオンは王太子を振り返った。

「どういうことなんです? これ」


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