上 下
36 / 62

ルミナス、王子に試練を課す

しおりを挟む
 持っていたタオルで鼻を押さえながらも、湯船から出てマリオンのほうへ向かおうとしたエドアルド王子。

 だがそんな彼を、綿毛竜コットンドラゴンのルミナスが頭の上で金髪を引っこ抜く勢いで啄んだ。

「あたっ、ちょっと痛いよルミナス!」
「ギャオンッ!」(なにマリオンに近づこうとしてるの? 王子さまだからって調子にのらないでよね!)

「こらールミナスー。他のお客さんに迷惑かけちゃダメだぞー」

 洗い場で目を瞑りながら、頭をシャンプーで泡々にしながら洗っているマリオンが注意してきた。

「ピュイッピュ!」(はーい!)
「あざとい! 可愛いけどお前あざとすぎ!」
「ピュアー!」(ぼくがかわいいのは当然でしょ。竜種一のアイドル、ふわふわ綿毛の綿毛竜コットンドラゴンだからね!)

 と冗談はともかくとしてだ。
 こそこそっとルミナスはエドアルド王子と情報交換をした。

「ピュッピュイッ」(うん。ダリオンから聞いてるのとだいたいおなじ!)
「や、やっぱりミスラル銀1キロゲットするまで駄目かな? マリオンに会えない?」

 すぐそこにいるんですけど。裸もずっと見てたいけど、あの可憐で可愛い顔を十数年振りに見たいのですが!

「クワァーッ」(舐めたこと言ってるんじゃねえぞー!)
「痛いー!」

 エドアルド王子の頭の上から再びドラゴンキックである。

(ぼくは怒ってるのだ。まだ子どものマリオンが丸一日ごはんが食べられなかったり、お布団もない狭いとこで寝起きする羽目になったり! ぜんぶぜんぶエドくんのせい!)

 よし、ここは自分もダリオンにならって彼に試練を課そう、とルミナスは決めた。



「ピュイッピュイッ」(エド君さ、マリオンに許してもらいたかったらわかるでしょ。男なら貢ぎ物ぐらい持ってきなよ)
「み、貢ぎ物って何を……?」

 まさかミスラル銀追加ですか?

「ピューピュイッピュ!」(ぼくはマリオンに羽毛をあげたよ。黄金龍の鱗とか一角獣の角とか、そのぐらいクラスのもの持ってこーい!)
「それ伝説級の神獣様じゃん! ていうか今もいるのそれ!?」
「ピュー!」(しーらない)

(エドくんもちょっとは苦労したらいいよ!)



「もうー、ルミナスったら。あ、すいません、うちのドラゴンを構ってくれてありがとうございました」
「!」

 まさかの。まさかのまさか、マリオン本人が湯船のエドアルド王子の隣に入ってきた。
 そして王子の金髪頭の上に乗っていたルミナスを取り上げて、自分の頭に乗せた。

「ルミナス、熱いお湯は苦手じゃなかった?」
「ピュイッ」(湯気を浴びてただけー)

(ま、マリオン……っ)

 変装用の眼鏡をかけて凡庸に見せていたが、エドアルド王子にはわかる。
 ピンクブラウンの髪は幼い頃と同じだし、何より澄んだ水色の魔力は全然変わらない。

「わ、わわわ……」

 話さなきゃ。何か話さなきゃ、と王子が一生懸命に考えてテンパっていると、ざばっとマリオンが湯から上がった。

「ここお湯熱いね!? もういいや、先に出てお姉さんたちを待ってよう」
「ピュー」(おっけー)

 湯を滴らせた白い身体は真っ赤に上気している。確かにお湯は熱かった。
 そしてそのまま脱衣所へと向かってしまったのだった。

 後に残されたエドアルド王子はといえば。

「マリオン……は、裸……前も後ろも……丸見え……」

 くらりと眩暈がした。いや湯あたりだ。
 それに今見たものがあまりにも刺激が強かった。

「王子! 王子、よくぞお耐えになりました、あそこで抱きつきでもしたらただの変質者ですからね、それでいいんです!」
「何でそこで名乗りを上げてすぐ謝れないかなあ……」
「王子、案外チキンっスねー」

 事情を知る側近や配下の騎士たちは呆れて軽口を叩いていたが、余計な口出しはしなかった。



 脱衣所で着替えていたマリオンの耳にも、浴場内での騒ぎは届いた。

「? 何だろ、あっちの人のぼせたのかな?」
「ピューイッ」(しーらなーい)



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

『ユキレラ』義妹に結婚寸前の彼氏を寝取られたど田舎者のオレが、泣きながら王都に出てきて運命を見つけたかもな話

真義あさひ
BL
尽くし男の永遠の片想い話。でも幸福。 ど田舎村出身の青年ユキレラは、結婚を翌月に控えた彼氏を義妹アデラに寝取られた。 確かにユキレラの物を何でも欲しがる妹だったが、まさかの婚約者まで奪われてはさすがに許せない。 絶縁状を叩きつけたその足でど田舎村を飛び出したユキレラは、王都を目指す。 そして夢いっぱいでやってきた王都に到着当日、酒場で安い酒を飲み過ぎて気づいたら翌朝、同じ寝台の中には裸の美少年が。 「えっ、嘘……これもしかして未成年じゃ……?」 冷や汗ダラダラでパニクっていたユキレラの前で、今まさに美少年が眠りから目覚めようとしていた。 ※「王弟カズンの冒険前夜」の番外編、「家出少年ルシウスNEXT」の続編 「異世界転移!?~俺だけかと思ったら廃村寸前の俺の田舎の村ごとだったやつ」のメインキャラたちの子孫が主人公です

悪役令息は、王太子の股間に顔面ダイブしてしまった!

ミクリ21
BL
悪役令息になる前に、王太子の股間に顔面でダイブしてしまい王太子から「責任取ってね♪」と言われてしまう。

【完結】僕の異世界転生先は卵で生まれて捨てられた竜でした

エウラ
BL
どうしてこうなったのか。 僕は今、卵の中。ここに生まれる前の記憶がある。 なんとなく異世界転生したんだと思うけど、捨てられたっぽい? 孵る前に死んじゃうよ!と思ったら誰かに助けられたみたい。 僕、頑張って大きくなって恩返しするからね! 天然記念物的な竜に転生した僕が、助けて育ててくれたエルフなお兄さんと旅をしながらのんびり過ごす話になる予定。 突発的に書き出したので先は分かりませんが短い予定です。 不定期投稿です。 本編完結で、番外編を更新予定です。不定期です。

転生貧乏貴族は王子様のお気に入り!実はフリだったってわかったのでもう放してください!

音無野ウサギ
BL
ある日僕は前世を思い出した。下級貴族とはいえ王子様のお気に入りとして毎日楽しく過ごしてたのに。前世の記憶が僕のことを駄目だしする。わがまま駄目貴族だなんて気づきたくなかった。王子様が優しくしてくれてたのも実は裏があったなんて気づきたくなかった。品行方正になるぞって思ったのに! え?王子様なんでそんなに優しくしてくるんですか?ちょっとパーソナルスペース!! 調子に乗ってた貧乏貴族の主人公が慎ましくても確実な幸せを手に入れようとジタバタするお話です。

双子は不吉と消された僕が、真の血統魔法の使い手でした‼

HIROTOYUKI
BL
 辺境の地で自然に囲まれて母と二人、裕福ではないが幸せに暮らしていたルフェル。森の中で倒れていた冒険者を助けたことで、魔法を使えることが判明して、王都にある魔法学園に無理矢理入学させられることに!貴族ばかりの生徒の中、平民ながら高い魔力を持つルフェルはいじめを受けながらも、卒業できれば母に楽をさせてあげられると信じて、辛い環境に耐え自分を磨いていた。そのような中、あまりにも理不尽な行いに魔力を暴走させたルフェルは、上級貴族の当主のみが使うことのできると言われる血統魔法を発現させ……。  カテゴリをBLに戻しました。まだ、その気配もありませんが……これから少しづつ匂わすべく頑張ります!

龍は精霊の愛し子を愛でる

林 業
BL
竜人族の騎士団団長サンムーンは人の子を嫁にしている。 その子は精霊に愛されているが、人族からは嫌われた子供だった。 王族の養子として、騎士団長の嫁として今日も楽しく自由に生きていく。

魔法学園の悪役令息ー替え玉を務めさせていただきます

オカメ颯記
BL
田舎の王国出身のランドルフ・コンラートは、小さいころに自分を養子に出した実家に呼び戻される。行方不明になった兄弟の身代わりとなって、魔道学園に通ってほしいというのだ。 魔法なんて全く使えない抗議したものの、丸め込まれたランドルフはデリン大公家の公子ローレンスとして学園に復学することになる。無口でおとなしいという触れ込みの兄弟は、学園では悪役令息としてわがままにふるまっていた。顔も名前も知らない知人たちに囲まれて、因縁をつけられたり、王族を殴り倒したり。同室の相棒には偽物であることをすぐに看破されてしまうし、どうやって学園生活をおくればいいのか。混乱の中で、何の情報もないまま、王子たちの勢力争いに巻き込まれていく。

嘘の日の言葉を信じてはいけない

斯波良久@出来損ないΩの猫獣人発売中
BL
嘘の日--それは一年に一度だけユイさんに会える日。ユイさんは毎年僕を選んでくれるけど、毎回首筋を噛んでもらえずに施設に返される。それでも去り際に彼が「来年も選ぶから」と言ってくれるからその言葉を信じてまた一年待ち続ける。待ったところで選ばれる保証はどこにもない。オメガは相手を選べない。アルファに選んでもらうしかない。今年もモニター越しにユイさんの姿を見つけ、選んで欲しい気持ちでアピールをするけれど……。

処理中です...