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じいじの壁が高すぎる
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ダリオンが謁見室を出て王宮の出口に向かう回廊の途中で、金髪碧眼に真紅の騎士服のエドアルド王子が出待ちしていた。
「じいちゃん……どうしよう、マリオンが、マリオンが……っ」
鮮やかなエメラルド色の目にみるみるうちに涙が盛り上がり、こぼれる、というところでエドアルド王子はずざーっとダリオンの前で土下座した。
「こら待て、こんなとこ他人に見られたらわしがヤバいだろが!」
社会的にいろいろと。
慌ててエドアルド王子を立たせて、辺りを見回して目に入ったレストルームに入った。
他人が入ってこないよう内側から鍵をかけて一息つくと、そこでまた土下座しようとした王子を止めた。
「さすがに便所で土下座はやめんかい。話ぐらいは聞いてやるよ、エド君」
「じいちゃん……」
王宮のレストルームだけあって中は広く清潔で、雑談する休憩スペースもある。そちらへ移動しながらダリオンはとりあえずエドアルド王子の頭を一発だけ軽く叩いた。
そう、幼い頃、自宅に遊びに来て以来、マリオンとは再会できていないが、冒険者ギルドのお偉いさんの祖父ダリオンと一国の王子のエドアルドは何度も会っている。
そのたびに孫の話を強請られて、「エド君」「じいちゃん」と呼び合う程度には仲が良いのだ。
しかし何事にも限度があった。
「エド君さあ。マジでわしの可愛いマリオンちゃんをよりによってタイアド王族の王位争いに巻き込むとか何やってんの?」
「ま、巻き込むなんてそんなつもりはっ」
とりあえず姿見前の椅子にエドアルド王子を座らせて、ダリオンは高身長と体格差を利用してずいっと上から詰め寄った。
「あの子はブルー男爵家の本家唯一の男子で、魔法の大家リースト侯爵家の弟子で、騎士団長の息子のマブダチでアケロニア王国の王女様のお気に入りなわけ。これ全部、わしが可愛い可愛い孫ちゃんを守るため敷いた布陣なの。本国にいたら絶対防御なのに、わざわざ敵陣に連れ出したテメェの罪は重いぜ!?」
「だ、だって! そっちの王女が自慢ばっかり手紙に書いてくるから! しょっちゅうマリオンのおうちに遊びに行きましたわオホホホホ! とかなんなのあの女! 俺のマリオンなのに!」
「幼馴染みなんだからおうちに遊びに行くぐらいすんだろが!」
「それを言うなら俺だって幼馴染みだもんっ……アタッ!?」
大男のダリオン相手に睨みつけてくる勇敢さを見せたエドアルド王子の額に、ダリオンは渾身のデコピンをお見舞いした。
「エド君。マジな話な? お前は王子なんだから外交の手伝いとか何とかいってうちの国に来ることぐらい簡単だったじゃん?」
「はい」
「月一なんて言わねえよ。でも年に一度ぐらいうちの国に来て、マリオンに会いに来たって罰は当たらなかったんじゃないかな? 手紙だけは送ってきてたけどさ」
もっとも、その手紙もここ数年は途絶えがちになっていたのだが。
先ほどの謁見室での感じだと、マリオンとエドアルド王子の文通を阻害していたのも、あの王妃だったっぽい。
「だって。運命の相手だって言うならそれに相応しい男になるまで許さないぞってじいちゃんが言うから!」
せめて騎士ランクと冒険者ランクがSランクに上がるまではと、必死で我慢してたのに!
そう叫ぶとエドアルド王子は泣き出した。ダリオンはしまった……とばかりに短いピンクブラウンの髪を掻いた。
「あー……そっか、そういえばそんなこと昔言った覚えあるな……」
「7歳のときだよ! アケロニア王国に帰るとき俺も一緒に連れてってって頼んだらそう言った!」
そもそも許さないって何を?
単純に『会うこと』だと受け取った7歳時点のエドアルド王子はそれから手慰み程度だった剣の訓練に本腰を入れて、めきめきと腕を上げて18歳の現在、騎士ランクと冒険者ランクはB。
この年の王族にはありえないほど実力を持った剣士となっているが、残念、マリオンの前にそびえ立つこのご老人は天下のSSランク冒険者資格の保持者様だった。壁が高すぎる。
「じいちゃん……どうしよう、マリオンが、マリオンが……っ」
鮮やかなエメラルド色の目にみるみるうちに涙が盛り上がり、こぼれる、というところでエドアルド王子はずざーっとダリオンの前で土下座した。
「こら待て、こんなとこ他人に見られたらわしがヤバいだろが!」
社会的にいろいろと。
慌ててエドアルド王子を立たせて、辺りを見回して目に入ったレストルームに入った。
他人が入ってこないよう内側から鍵をかけて一息つくと、そこでまた土下座しようとした王子を止めた。
「さすがに便所で土下座はやめんかい。話ぐらいは聞いてやるよ、エド君」
「じいちゃん……」
王宮のレストルームだけあって中は広く清潔で、雑談する休憩スペースもある。そちらへ移動しながらダリオンはとりあえずエドアルド王子の頭を一発だけ軽く叩いた。
そう、幼い頃、自宅に遊びに来て以来、マリオンとは再会できていないが、冒険者ギルドのお偉いさんの祖父ダリオンと一国の王子のエドアルドは何度も会っている。
そのたびに孫の話を強請られて、「エド君」「じいちゃん」と呼び合う程度には仲が良いのだ。
しかし何事にも限度があった。
「エド君さあ。マジでわしの可愛いマリオンちゃんをよりによってタイアド王族の王位争いに巻き込むとか何やってんの?」
「ま、巻き込むなんてそんなつもりはっ」
とりあえず姿見前の椅子にエドアルド王子を座らせて、ダリオンは高身長と体格差を利用してずいっと上から詰め寄った。
「あの子はブルー男爵家の本家唯一の男子で、魔法の大家リースト侯爵家の弟子で、騎士団長の息子のマブダチでアケロニア王国の王女様のお気に入りなわけ。これ全部、わしが可愛い可愛い孫ちゃんを守るため敷いた布陣なの。本国にいたら絶対防御なのに、わざわざ敵陣に連れ出したテメェの罪は重いぜ!?」
「だ、だって! そっちの王女が自慢ばっかり手紙に書いてくるから! しょっちゅうマリオンのおうちに遊びに行きましたわオホホホホ! とかなんなのあの女! 俺のマリオンなのに!」
「幼馴染みなんだからおうちに遊びに行くぐらいすんだろが!」
「それを言うなら俺だって幼馴染みだもんっ……アタッ!?」
大男のダリオン相手に睨みつけてくる勇敢さを見せたエドアルド王子の額に、ダリオンは渾身のデコピンをお見舞いした。
「エド君。マジな話な? お前は王子なんだから外交の手伝いとか何とかいってうちの国に来ることぐらい簡単だったじゃん?」
「はい」
「月一なんて言わねえよ。でも年に一度ぐらいうちの国に来て、マリオンに会いに来たって罰は当たらなかったんじゃないかな? 手紙だけは送ってきてたけどさ」
もっとも、その手紙もここ数年は途絶えがちになっていたのだが。
先ほどの謁見室での感じだと、マリオンとエドアルド王子の文通を阻害していたのも、あの王妃だったっぽい。
「だって。運命の相手だって言うならそれに相応しい男になるまで許さないぞってじいちゃんが言うから!」
せめて騎士ランクと冒険者ランクがSランクに上がるまではと、必死で我慢してたのに!
そう叫ぶとエドアルド王子は泣き出した。ダリオンはしまった……とばかりに短いピンクブラウンの髪を掻いた。
「あー……そっか、そういえばそんなこと昔言った覚えあるな……」
「7歳のときだよ! アケロニア王国に帰るとき俺も一緒に連れてってって頼んだらそう言った!」
そもそも許さないって何を?
単純に『会うこと』だと受け取った7歳時点のエドアルド王子はそれから手慰み程度だった剣の訓練に本腰を入れて、めきめきと腕を上げて18歳の現在、騎士ランクと冒険者ランクはB。
この年の王族にはありえないほど実力を持った剣士となっているが、残念、マリオンの前にそびえ立つこのご老人は天下のSSランク冒険者資格の保持者様だった。壁が高すぎる。
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