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失敗あれば救う者あり、人生万事塞翁
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カレンは新しいクラウドファンディングの目的設定がなかなかできなかった。
量子論を生かしたレジンアクセサリー?
何なんだろう、よくわからない。
要は自分が興味のある海外の勉強会に参加したい程度の話なので、人が支援したいと思えるような『夢や希望』の期待感が作れないのだ。
「如何に話を盛るかなのよね……」
英会話の訓練も必要だった。
だから語学学習の費用も盛り込んでみたわけだが、目標設定が曖昧だから、何とも自分勝手感が否めない。
結局、方向性が迷子のカレンの留学に関するクラウドファンディングは派手に爆死した。
主催会社がSNS広告を出してくれたにも関わらず、結果は20万と少し。無いよりマシだったがこれではアメリカ行きの航空券代や雑費でほとんど消えてしまう。
しかも獲得金額は主催会社にマージンを取られるし、確定申告では売上で帳簿に計上しなければで。
しかも目的金額に達しなかったから迂闊に別の目的に使うこともできない。
「あー……こうなっちゃったかあ……」
海外ツアーまでは快進撃が続いていた気がしたが、やる気に世界からストップがかかってしまったかのよう。
てっきり、最初のレジンアクセサリーのクラウドファンディングのように百万円単位で集まるのかなと楽観視していたから、この足止め感にはがっくり落ち込んでしまった。
そんなとき、田舎の石垣島の母親から電話が来た。
「カレン、いつまでも無職してるならあんたも島に帰ってきなさいよ」
母が言うには、ちょうど地元の地銀や信用金庫の職員の定年ラッシュだそうで、受付嬢ぐらいなら今からでも両親の伝手で捩じ込めるという。
「それはさすがに無理だわ、お母さん……。彼氏と結婚の話も出てるし、セイジ君がこっちで事務所ひとつ任されて所長になるから、私が戻ったら別居婚になっちゃう」
そろそろ4月も終わる。
カレンの失業保険の給付は今月までだ。
「クラファンで応援してくれた人たちに謝って、再就職を優先するか……?」
転職サイト経由でのオファーは続いている。だが留学を検討中なのですべての会社に対して返答を保留していた。
それも回答期限が過ぎてしまい、再就職も中途半端になってしまっている。
カレンはまず、クラウドファンディングの自分の専用ページ、Facebookなど SNS用に今回のプロジェクトが爆死した結果や、集まった金額では目標に足りなかったことの報告と謝罪文章を作って投稿した。
アメリカ、西海岸のミスター禅からFacebookのメッセージが来たのはその日のうちだった。
『ハイ、カレン。ワタシの友達がエンジェルとして君を支援してもいいそうだよ』
「……はい?」
そもそもエンジェルって何ですか? と返信したところ、個人投資家のことだそうだ。
『パトロンって言ったほうがわかりますかネー?』
ミスター禅は自分が関わったビジネス展示会に参加したカレンのことを自分の友人たちに話した際、レジンアクセサリーの作品写真を投稿したInstagramを紹介したのだそうだ。
そのうちの一人、ビットコインなど暗号通貨の資産家がちょうど寄付金の使い道を探していた。
カリフォルニア大学に留学して量子論に興味を持ったり、日本でキャリアに悩んでいることなどを聞いて応援したいなと思ってくれたらしい。
支援金額は一万ドル。
カレンはアメリカに滞在する期間は3ヶ月から半年を想定していた。
大学に支払う学費や現地での語学学校の費用、それに滞在費用を考えても、多少足は出てしまうだろうが十分な金額だった。
そして数日後にはレジンアクセサリーサークルの講師義明から連絡が入った。
何と彼の叔父の経営する会社が、ロサンゼルス現地の繁華街に節税目的の社宅を持っているそうで。
「もし管理人代わりに住んでくれるなら、家賃フリーで多少のお小遣いも出してくれるそうだよ。どう?」
叔父が現地支社に出張する際、ホテル代わりにしている小さなレンガ作りの二階建ての建物。繁華街にあるのでセキュリティはしっかりしているとお墨付きまである。
「お断りする理由がないです。ぜひお願いします!」
カレンはありがたく講師義明の申し出を受けることにした。
思わぬところから支援の手が出てきた。
「なるほど。これが人生万事塞翁が馬ってやつね」
量子論を生かしたレジンアクセサリー?
何なんだろう、よくわからない。
要は自分が興味のある海外の勉強会に参加したい程度の話なので、人が支援したいと思えるような『夢や希望』の期待感が作れないのだ。
「如何に話を盛るかなのよね……」
英会話の訓練も必要だった。
だから語学学習の費用も盛り込んでみたわけだが、目標設定が曖昧だから、何とも自分勝手感が否めない。
結局、方向性が迷子のカレンの留学に関するクラウドファンディングは派手に爆死した。
主催会社がSNS広告を出してくれたにも関わらず、結果は20万と少し。無いよりマシだったがこれではアメリカ行きの航空券代や雑費でほとんど消えてしまう。
しかも獲得金額は主催会社にマージンを取られるし、確定申告では売上で帳簿に計上しなければで。
しかも目的金額に達しなかったから迂闊に別の目的に使うこともできない。
「あー……こうなっちゃったかあ……」
海外ツアーまでは快進撃が続いていた気がしたが、やる気に世界からストップがかかってしまったかのよう。
てっきり、最初のレジンアクセサリーのクラウドファンディングのように百万円単位で集まるのかなと楽観視していたから、この足止め感にはがっくり落ち込んでしまった。
そんなとき、田舎の石垣島の母親から電話が来た。
「カレン、いつまでも無職してるならあんたも島に帰ってきなさいよ」
母が言うには、ちょうど地元の地銀や信用金庫の職員の定年ラッシュだそうで、受付嬢ぐらいなら今からでも両親の伝手で捩じ込めるという。
「それはさすがに無理だわ、お母さん……。彼氏と結婚の話も出てるし、セイジ君がこっちで事務所ひとつ任されて所長になるから、私が戻ったら別居婚になっちゃう」
そろそろ4月も終わる。
カレンの失業保険の給付は今月までだ。
「クラファンで応援してくれた人たちに謝って、再就職を優先するか……?」
転職サイト経由でのオファーは続いている。だが留学を検討中なのですべての会社に対して返答を保留していた。
それも回答期限が過ぎてしまい、再就職も中途半端になってしまっている。
カレンはまず、クラウドファンディングの自分の専用ページ、Facebookなど SNS用に今回のプロジェクトが爆死した結果や、集まった金額では目標に足りなかったことの報告と謝罪文章を作って投稿した。
アメリカ、西海岸のミスター禅からFacebookのメッセージが来たのはその日のうちだった。
『ハイ、カレン。ワタシの友達がエンジェルとして君を支援してもいいそうだよ』
「……はい?」
そもそもエンジェルって何ですか? と返信したところ、個人投資家のことだそうだ。
『パトロンって言ったほうがわかりますかネー?』
ミスター禅は自分が関わったビジネス展示会に参加したカレンのことを自分の友人たちに話した際、レジンアクセサリーの作品写真を投稿したInstagramを紹介したのだそうだ。
そのうちの一人、ビットコインなど暗号通貨の資産家がちょうど寄付金の使い道を探していた。
カリフォルニア大学に留学して量子論に興味を持ったり、日本でキャリアに悩んでいることなどを聞いて応援したいなと思ってくれたらしい。
支援金額は一万ドル。
カレンはアメリカに滞在する期間は3ヶ月から半年を想定していた。
大学に支払う学費や現地での語学学校の費用、それに滞在費用を考えても、多少足は出てしまうだろうが十分な金額だった。
そして数日後にはレジンアクセサリーサークルの講師義明から連絡が入った。
何と彼の叔父の経営する会社が、ロサンゼルス現地の繁華街に節税目的の社宅を持っているそうで。
「もし管理人代わりに住んでくれるなら、家賃フリーで多少のお小遣いも出してくれるそうだよ。どう?」
叔父が現地支社に出張する際、ホテル代わりにしている小さなレンガ作りの二階建ての建物。繁華街にあるのでセキュリティはしっかりしているとお墨付きまである。
「お断りする理由がないです。ぜひお願いします!」
カレンはありがたく講師義明の申し出を受けることにした。
思わぬところから支援の手が出てきた。
「なるほど。これが人生万事塞翁が馬ってやつね」
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