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【子爵少年ルシウスLEGEND】呪師の末裔
人を呪わば
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グロリオーサ侯爵令息オネストの虐待事件は様々な方面と人々に波紋を広げた。
そしてここにも。
放課後、自宅に帰ってきたルシウスは、ふと思い出して自分のステータス画面を出してみた。
「あー。やっぱりステータスにスキルが増えてる。無欠スキルでオネスト君の〝呪術(返し)〟を習得しちゃったか」
この世界ではステータスオープン、と唱えると基本的なステータス画面が目の前に出現する。
ルシウスには〝無欠〟なる非常に珍しいスキルがある。
自分に使える・使えないを問わず、ありとあらゆるスキルを習得してしまう学習記憶型のレアスキルだ。
他者から教えてもらったものはもちろん、周囲の人々の持つスキルも自動的に習得する。
自分に適合するものならそのまま使えるし、体質や魔力の性質が合わないスキルなら非活性のまま保持できる。
自分が使えないスキルでも、他人に教えたり、直接的に伝授することが可能だった。
スキル欄の〝呪術(返し)〟をクリックすると、
『オネスト・グロリオーサから習得した特殊スキル。術者が受けた物理攻撃と同クオリティの体験を相手に〝返す〟形で現象化させる術。』
とある。
「嫌なことをされたら嫌なことを返す。良いことをされたら良いことを返す。ちゃんと裏表になってるね」
さらに詳しい解説もあった。
スキルの本来の持ち主オネストは、実母からベースとなる呪術スキルを受け継いでいる、との補足情報がある。
「………………オネスト君……」
多分、オネストの過酷な境遇は母親による〝呪術〟の結果だったのではないだろうか。
オネストの母親は、夫だった宰相から不貞を疑われる侮辱を受けている。
本人が恨んで呪いたかったのは、当然夫のほうだろう。
だが相手は一国の宰相だ。
国王を始めとした王族の側近筆頭ともなると、王族と同じで呪詛対策を行なっている。
具体的には対応する魔導具や護符を常に身に付けているし、公人として神殿主導で行われる祓いや浄化の儀式にも必ず参列している。
その宰相を呪えないなら、次に恨みの向かう先は実子のオネストしかいない。
「今日のおやつは何にしようかな~♪」
確か実家から兄のお嫁様が作って届けさせてくれたイチゴのパイがあったはず。
小型のホールのパイを四等分して、一切れを皿へ。残りは魔法樹脂に保存してまた後日。
ベリーの甘酸っぱさが紅茶に合う。イチゴは甘いものが苦手な兄も好きな果物なのだ。
オネストの実母は、夫だったユーゴス宰相を捨てた後、宰相からの謝罪も話し合いも拒絶して一方的に離婚届を突きつけている。
その後は腹いせで宰相の政敵派閥の貴族と再婚しているから、恨みは相当なものだ。
「僕の〝聖剣の審判〟でオネスト君と宰相への呪詛は断ち切ったけど」
オネストの境遇を見る限り、実母の呪詛はオネストが使った〝返し〟のような、等しい価値の攻撃を返すものではない。
ガチの呪術だ。本気で相手を破滅させる気で行っていると見た。
虐待とて、普通なら周囲の良識ある人々が気づいて救い出せる環境のはずなのにほとんど誰も動いてない。
悪意ある呪術はこうして社会的な常識を歪める作用を持つものが多い。
今回、解決に向かったのは、聖なる魔力を持つルシウスが関わったことがまずひとつ。
あとはクラスが最優秀のA組だったのが良かった。
ボナンザを始めとした、能力的にも、人格的にも優れた者が集まるクラスだった。人間としてバランスが取れた者たちはそれだけで邪悪な術に強い。
(最初の担任だけが惜しかったよね)
新たな担任は学園長のエルフィンだ。
あの美人な先生はハーフエルフで見た目よりずっと長生きで、アケロニア王国の教育者のトップ。
ルシウスは年上の兄も同じ学園生だったから、彼のことはよく知っている。
美しい外見に似合わず熱血教師で面倒見が良い。
彼が担任でいてくれる今年は、きっと良い一年になると思う。
それにしても「呪術か」とルシウスは呟いた。
「どうせやるなら、宰相にやればいいのに。本気でやれば少しぐらいダメージも通ったと思うんだよね」
ルシウスから見て、いくら何でもオネストの状況は酷すぎた。やりすきだ。
聖剣の聖なる魔力によって断ち切られた悪意ある呪術は、術者本人へと〝返った〟ことだろう。
「一応、宰相のやつに報告しておくか。オネスト君の母親のその後を調べさせたほうがいいよね」
おやつの後で、その日のうちにユーゴス宰相宛に手紙を書いて最寄りの郵便局から発送した。
速達で出したから今日中に届いて、宰相もすぐに動くだろう。
郵便局からの帰りに夕飯用のパンや食材を買って戻ってくると、実家から手紙が届いていた。
「お。『友達を連れて週末、食事に来なさい』だって」
今年、爵位を継承したばかりの兄からではない。
前伯爵にあたる父のメガエリスからだ。
「てことは、オネスト君を連れて来いってことだよね。せっかくだしボナンザ君も誘ってみよう」
ルシウスの父は、オネストの父のユーゴス宰相とは仲が悪い。
それでも学生時代は同級生。腐れ縁の悪友のようなものだと聞いている。
宰相は当時も今も、ルシウスの父メガエリスのファンで、ファンクラブ会長をずっと務めているそうで。
まんま、ルシウスとオネストのような関係なわけだ。
(オネスト君は宰相みたいなツンデレになりませんよーに!)
そんなルシウスとオネストとの関係は、紆余曲折ありながらも生涯続くことになる。
そしてここにも。
放課後、自宅に帰ってきたルシウスは、ふと思い出して自分のステータス画面を出してみた。
「あー。やっぱりステータスにスキルが増えてる。無欠スキルでオネスト君の〝呪術(返し)〟を習得しちゃったか」
この世界ではステータスオープン、と唱えると基本的なステータス画面が目の前に出現する。
ルシウスには〝無欠〟なる非常に珍しいスキルがある。
自分に使える・使えないを問わず、ありとあらゆるスキルを習得してしまう学習記憶型のレアスキルだ。
他者から教えてもらったものはもちろん、周囲の人々の持つスキルも自動的に習得する。
自分に適合するものならそのまま使えるし、体質や魔力の性質が合わないスキルなら非活性のまま保持できる。
自分が使えないスキルでも、他人に教えたり、直接的に伝授することが可能だった。
スキル欄の〝呪術(返し)〟をクリックすると、
『オネスト・グロリオーサから習得した特殊スキル。術者が受けた物理攻撃と同クオリティの体験を相手に〝返す〟形で現象化させる術。』
とある。
「嫌なことをされたら嫌なことを返す。良いことをされたら良いことを返す。ちゃんと裏表になってるね」
さらに詳しい解説もあった。
スキルの本来の持ち主オネストは、実母からベースとなる呪術スキルを受け継いでいる、との補足情報がある。
「………………オネスト君……」
多分、オネストの過酷な境遇は母親による〝呪術〟の結果だったのではないだろうか。
オネストの母親は、夫だった宰相から不貞を疑われる侮辱を受けている。
本人が恨んで呪いたかったのは、当然夫のほうだろう。
だが相手は一国の宰相だ。
国王を始めとした王族の側近筆頭ともなると、王族と同じで呪詛対策を行なっている。
具体的には対応する魔導具や護符を常に身に付けているし、公人として神殿主導で行われる祓いや浄化の儀式にも必ず参列している。
その宰相を呪えないなら、次に恨みの向かう先は実子のオネストしかいない。
「今日のおやつは何にしようかな~♪」
確か実家から兄のお嫁様が作って届けさせてくれたイチゴのパイがあったはず。
小型のホールのパイを四等分して、一切れを皿へ。残りは魔法樹脂に保存してまた後日。
ベリーの甘酸っぱさが紅茶に合う。イチゴは甘いものが苦手な兄も好きな果物なのだ。
オネストの実母は、夫だったユーゴス宰相を捨てた後、宰相からの謝罪も話し合いも拒絶して一方的に離婚届を突きつけている。
その後は腹いせで宰相の政敵派閥の貴族と再婚しているから、恨みは相当なものだ。
「僕の〝聖剣の審判〟でオネスト君と宰相への呪詛は断ち切ったけど」
オネストの境遇を見る限り、実母の呪詛はオネストが使った〝返し〟のような、等しい価値の攻撃を返すものではない。
ガチの呪術だ。本気で相手を破滅させる気で行っていると見た。
虐待とて、普通なら周囲の良識ある人々が気づいて救い出せる環境のはずなのにほとんど誰も動いてない。
悪意ある呪術はこうして社会的な常識を歪める作用を持つものが多い。
今回、解決に向かったのは、聖なる魔力を持つルシウスが関わったことがまずひとつ。
あとはクラスが最優秀のA組だったのが良かった。
ボナンザを始めとした、能力的にも、人格的にも優れた者が集まるクラスだった。人間としてバランスが取れた者たちはそれだけで邪悪な術に強い。
(最初の担任だけが惜しかったよね)
新たな担任は学園長のエルフィンだ。
あの美人な先生はハーフエルフで見た目よりずっと長生きで、アケロニア王国の教育者のトップ。
ルシウスは年上の兄も同じ学園生だったから、彼のことはよく知っている。
美しい外見に似合わず熱血教師で面倒見が良い。
彼が担任でいてくれる今年は、きっと良い一年になると思う。
それにしても「呪術か」とルシウスは呟いた。
「どうせやるなら、宰相にやればいいのに。本気でやれば少しぐらいダメージも通ったと思うんだよね」
ルシウスから見て、いくら何でもオネストの状況は酷すぎた。やりすきだ。
聖剣の聖なる魔力によって断ち切られた悪意ある呪術は、術者本人へと〝返った〟ことだろう。
「一応、宰相のやつに報告しておくか。オネスト君の母親のその後を調べさせたほうがいいよね」
おやつの後で、その日のうちにユーゴス宰相宛に手紙を書いて最寄りの郵便局から発送した。
速達で出したから今日中に届いて、宰相もすぐに動くだろう。
郵便局からの帰りに夕飯用のパンや食材を買って戻ってくると、実家から手紙が届いていた。
「お。『友達を連れて週末、食事に来なさい』だって」
今年、爵位を継承したばかりの兄からではない。
前伯爵にあたる父のメガエリスからだ。
「てことは、オネスト君を連れて来いってことだよね。せっかくだしボナンザ君も誘ってみよう」
ルシウスの父は、オネストの父のユーゴス宰相とは仲が悪い。
それでも学生時代は同級生。腐れ縁の悪友のようなものだと聞いている。
宰相は当時も今も、ルシウスの父メガエリスのファンで、ファンクラブ会長をずっと務めているそうで。
まんま、ルシウスとオネストのような関係なわけだ。
(オネスト君は宰相みたいなツンデレになりませんよーに!)
そんなルシウスとオネストとの関係は、紆余曲折ありながらも生涯続くことになる。
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