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【子爵少年ルシウスLEGEND】呪師の末裔
宰相の告白
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「オネスト!」
そこに学園長のエルフィンに連れられて駆けつけのはオネストの父親、宰相ユーゴスその人だ。
オネストと同じ冷たい銀髪を乱して、聖剣を振るったルシウスの前に飛び出し、聖剣から放たれるネオンブルーの魔力の奔流を全身に受け、息子や生徒たちを守った。
「あれ。宰相、やっと来たね?」
「る、る、る、ルシウス君……このような室内で聖剣を振るうのは如何なものか!?」
さすが魔法魔術大国の宰相職を長年に渡り務めるだけはある。
自らも強い魔力を持つグロリオーサ侯爵ユーゴスは、全身にルシウスの聖なる魔力を浴びても薄灰色の軍服の端が切れたぐらいで済んでいた。
「侯爵様。なぜここに?」
「もはや私を父とも呼んでくれぬか。はは、私の自業自得だな……」
突然の聖剣抜刀や宰相の登場に食堂内は騒然となっている。
このまま解散させても良かったが。
「宰相閣下。もう学園内にご子息オネスト君のことは知れ渡ってしまっています。何か事情があるなら生徒たちに説明してくださいませんか」
学園長のエルフィンは沈痛な面持ちで宰相を促した。こうなったらもう当事者に丸投げだ。
食堂にはちょうど昼休みなこともあって、学園内の生徒の半数以上が集まっている。
今いない生徒にも、ここから広まっていくだろう。
「そうだね。宰相、あなたはオネスト君にも親戚の子たちにも、説明する義務があるよ」
聖剣を魔力に戻したルシウスの言葉に、ユーゴス宰相は頷いた。
そこで明かされる真実は、聞いた者たちを唖然とさせるに充分だった。
まず、オネストが実家や親族たちに冷遇されることになったのは、彼が母親の不貞で産まれた子供だからという話が前提にある。
しかしユーゴス宰相は、オネストは正しく自分の息子であると断言した。
これは後の人物鑑定でも証明されている、とも言った。
「ただ、生まれるのが二ヶ月も早く、妊娠と出産の時期が合わないから不貞の子ではないかと最初に疑ってしまった。私の迂闊な言動がすべての原因だ」
「それってつまり」
「単純に早産なだけだったか。でも二ヶ月早いなら確かに疑う者が出るのは仕方ない」
だがこの世界にはステータスを確認する鑑定スキルがある。
人間のステータスや身分、称号などを確認できるのは〝人物鑑定スキル〟だ。産まれた子供の両親の名前や所属、身分などはしっかり確認できるはずだった。
「もちろん私はすぐに産まれた赤ん坊の鑑定を行わせた。だが疑いが晴れたとはいえ、出産早々に不貞を疑われた妻は腹を立てて、産褥から起き上がれるようになるとすぐ実家に戻ってしまった」
不貞の子と疑われた息子ももう見たくないと言って婚家のグロリオーサ侯爵家に捨てていった。
宰相の説明を、食堂にいた者たちは食事も忘れて聞き入っていた。
不貞を疑われた宰相夫人はあまりの怒りにその後、社交界で夫を非難し続けたが、親族たちには後ろめたいから怒るのだろうと勘違いされたまま。
ユーゴス宰相はといえば、自分の軽率な発言で赤ん坊ごと自分まで捨てられたショックで、帰って来なかった後妻と親族たちの誤解を解く気力がなかった。
年の離れた若い嫁だったから溺愛していたはずだったのに。
ちょうど宰相としての仕事が忙しくて屋敷に帰れない時期が続いていたのもある。そうこうしているうちに現在まで来てしまった。
「お前から母親の愛情を奪ってしまったこと、謝っても謝り足らぬ。……済まなかった」
その上、オネストの実母は離婚後すぐに再婚して今は別の貴族の後妻に収まって、そちらで子供二人を儲けているそうだ。
捨てたオネストのことなどもうどうでも良いらしい。
「……酷い話だな」
誰かがぽつりと呟いた。
その通りだ。とても後味が悪い。
だが、これでオネストに対する親戚子息たちや彼らの言葉を鵜呑みにしていた生徒たちの誤解は解けたはずだ。
「宰相閣下。あなたのご親族の生徒たちへの処遇はお任せしても良いのね?」
静まり返ってしまった食堂内で、エルフィン学園長が冷静に確認した。
「ええ、それは私のほうで。エルフィン殿、……それに学園の生徒の皆さんにも迷惑をかけたこと、大変申し訳なく思います」
偉大な先王の御代から王家に仕え、冷徹な宰相として知られていたグロリオーサ侯爵ユーゴスは食堂内を見回し、頭を下げた。
一国の宰相が頭を下げた意味は重い。
「宰相。もうオネスト君は大丈夫なんだね?」
ここだけはしっかり訊いておかないと、とルシウスが念押しした。
「ああ。偉大なる先王陛下と現陛下に誓おう」
一国の宰相としても貴族としても最上級の誓いに、もうルシウスも何も言わなかった。ここまで言って実行しなかったら彼の宰相位も危うい。
そうしてユーゴス宰相は青ざめて震える親族の子息たちを連れて帰って行った。
昼食の続きだ。食堂も少しずつ活気を取り戻している。
「ランチ、作り直してもらお?」
「……うん」
ぐちゃぐちゃにされたオネストとルシウスの食事のトレーは既に食堂スタッフによって片付けられている。
「ルシウス君。あの、その」
「ん?」
配膳されたランチ定食のトレーを持ってボナンザの残っていたテーブルに戻ると。
「お礼。になるか、わからないけど。ぼくのプリン、受け取ってほしい」
「ありがたく受け取った!」
今日のおすすめ定食の一番のお目当てだ。
受け取って満面の笑みのルシウスを見て、オネストも小さく、本当に小さくだが笑った。
そこに学園長のエルフィンに連れられて駆けつけのはオネストの父親、宰相ユーゴスその人だ。
オネストと同じ冷たい銀髪を乱して、聖剣を振るったルシウスの前に飛び出し、聖剣から放たれるネオンブルーの魔力の奔流を全身に受け、息子や生徒たちを守った。
「あれ。宰相、やっと来たね?」
「る、る、る、ルシウス君……このような室内で聖剣を振るうのは如何なものか!?」
さすが魔法魔術大国の宰相職を長年に渡り務めるだけはある。
自らも強い魔力を持つグロリオーサ侯爵ユーゴスは、全身にルシウスの聖なる魔力を浴びても薄灰色の軍服の端が切れたぐらいで済んでいた。
「侯爵様。なぜここに?」
「もはや私を父とも呼んでくれぬか。はは、私の自業自得だな……」
突然の聖剣抜刀や宰相の登場に食堂内は騒然となっている。
このまま解散させても良かったが。
「宰相閣下。もう学園内にご子息オネスト君のことは知れ渡ってしまっています。何か事情があるなら生徒たちに説明してくださいませんか」
学園長のエルフィンは沈痛な面持ちで宰相を促した。こうなったらもう当事者に丸投げだ。
食堂にはちょうど昼休みなこともあって、学園内の生徒の半数以上が集まっている。
今いない生徒にも、ここから広まっていくだろう。
「そうだね。宰相、あなたはオネスト君にも親戚の子たちにも、説明する義務があるよ」
聖剣を魔力に戻したルシウスの言葉に、ユーゴス宰相は頷いた。
そこで明かされる真実は、聞いた者たちを唖然とさせるに充分だった。
まず、オネストが実家や親族たちに冷遇されることになったのは、彼が母親の不貞で産まれた子供だからという話が前提にある。
しかしユーゴス宰相は、オネストは正しく自分の息子であると断言した。
これは後の人物鑑定でも証明されている、とも言った。
「ただ、生まれるのが二ヶ月も早く、妊娠と出産の時期が合わないから不貞の子ではないかと最初に疑ってしまった。私の迂闊な言動がすべての原因だ」
「それってつまり」
「単純に早産なだけだったか。でも二ヶ月早いなら確かに疑う者が出るのは仕方ない」
だがこの世界にはステータスを確認する鑑定スキルがある。
人間のステータスや身分、称号などを確認できるのは〝人物鑑定スキル〟だ。産まれた子供の両親の名前や所属、身分などはしっかり確認できるはずだった。
「もちろん私はすぐに産まれた赤ん坊の鑑定を行わせた。だが疑いが晴れたとはいえ、出産早々に不貞を疑われた妻は腹を立てて、産褥から起き上がれるようになるとすぐ実家に戻ってしまった」
不貞の子と疑われた息子ももう見たくないと言って婚家のグロリオーサ侯爵家に捨てていった。
宰相の説明を、食堂にいた者たちは食事も忘れて聞き入っていた。
不貞を疑われた宰相夫人はあまりの怒りにその後、社交界で夫を非難し続けたが、親族たちには後ろめたいから怒るのだろうと勘違いされたまま。
ユーゴス宰相はといえば、自分の軽率な発言で赤ん坊ごと自分まで捨てられたショックで、帰って来なかった後妻と親族たちの誤解を解く気力がなかった。
年の離れた若い嫁だったから溺愛していたはずだったのに。
ちょうど宰相としての仕事が忙しくて屋敷に帰れない時期が続いていたのもある。そうこうしているうちに現在まで来てしまった。
「お前から母親の愛情を奪ってしまったこと、謝っても謝り足らぬ。……済まなかった」
その上、オネストの実母は離婚後すぐに再婚して今は別の貴族の後妻に収まって、そちらで子供二人を儲けているそうだ。
捨てたオネストのことなどもうどうでも良いらしい。
「……酷い話だな」
誰かがぽつりと呟いた。
その通りだ。とても後味が悪い。
だが、これでオネストに対する親戚子息たちや彼らの言葉を鵜呑みにしていた生徒たちの誤解は解けたはずだ。
「宰相閣下。あなたのご親族の生徒たちへの処遇はお任せしても良いのね?」
静まり返ってしまった食堂内で、エルフィン学園長が冷静に確認した。
「ええ、それは私のほうで。エルフィン殿、……それに学園の生徒の皆さんにも迷惑をかけたこと、大変申し訳なく思います」
偉大な先王の御代から王家に仕え、冷徹な宰相として知られていたグロリオーサ侯爵ユーゴスは食堂内を見回し、頭を下げた。
一国の宰相が頭を下げた意味は重い。
「宰相。もうオネスト君は大丈夫なんだね?」
ここだけはしっかり訊いておかないと、とルシウスが念押しした。
「ああ。偉大なる先王陛下と現陛下に誓おう」
一国の宰相としても貴族としても最上級の誓いに、もうルシウスも何も言わなかった。ここまで言って実行しなかったら彼の宰相位も危うい。
そうしてユーゴス宰相は青ざめて震える親族の子息たちを連れて帰って行った。
昼食の続きだ。食堂も少しずつ活気を取り戻している。
「ランチ、作り直してもらお?」
「……うん」
ぐちゃぐちゃにされたオネストとルシウスの食事のトレーは既に食堂スタッフによって片付けられている。
「ルシウス君。あの、その」
「ん?」
配膳されたランチ定食のトレーを持ってボナンザの残っていたテーブルに戻ると。
「お礼。になるか、わからないけど。ぼくのプリン、受け取ってほしい」
「ありがたく受け取った!」
今日のおすすめ定食の一番のお目当てだ。
受け取って満面の笑みのルシウスを見て、オネストも小さく、本当に小さくだが笑った。
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