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【子爵少年ルシウスLEGEND】呪師の末裔

心ある級友たちとオネストの報復

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 オネストは自分を虐げた者たちへの、本格的な報復を計画し始めた。

 もう自分と彼らの食事を入れ替えることはしなかった。
 既にオネストは食堂で普通の、他の生徒と同じ食事が提供されるようになったから意味がない。

 ひとまず報復の対象者を定めた。

 いじめ側である親戚子息たち四人と、彼らに従ってオネストの食事を汚して先日追放されたばかりの元食堂スタッフ一名の、合計五名だ。

 ところが、当初はこの五人だけにする予定だったがもう一人増えた。
 オネストが汚水を浴びせられて助けを求めたにも関わらず非難して追い払おうとした、担任の女教師だ。
 彼女は学園長から受け持ち生徒であるはずのオネストへの対応に対し、厳重注意を受けている。
 最優秀クラスの担任でありながら注意を受けたことは、彼女の自尊心をいたく刺激したようだ。

 結果、彼女は反省してオネストに謝罪することより、逆恨みして逆にオネストを非難する側に回った。

「問題ある家庭の子供は、この栄えある王立学園に相応しくないのでは?」

 担任だから当然彼女はオネストの複雑な事情を知っている。個人情報を利用してネチネチと絡んでくるようになったのだ。
 担任が率先して生徒たちの前で言い出したことで、元から危うい立場だったオネストを見る周囲の目は少しずつ厳しいものになってきた。

 と思いきや。



「大丈夫よ、オネスト君。末端のEクラスならともかく、ここは最優秀クラスのA組よ? 皆、先生のほうがおかしいってわかってる」

 そこにフォローを入れてきたのが、同じクラスの若き女伯爵、デルフィナ・ゴーディンだ。
 今日もドリルのような長い金髪の巻き毛はツヤツヤで絶好調、サファイアの如く鮮やかな青い瞳は力強く輝いている。
 彼女が周りに同意を求めると、男女問わず頷いている。

「あ。そ、その」

 生まれてから今日まで、こんなにたくさんの人の視線を集めたことはなかった。
 しどろもどろになるオネストの肩が、左右からそれぞれ抱かれた。ルシウスとボナンザだ。ボナンザは体格が良いので小柄なオネストの肩を抱くのに床に膝立ちになっている。

「そこは〝ありがとう〟でいいんだよ。オネスト君」
「そうそう。俺たち仲良しクラスメイトじゃん」

 これはいったい、とオネストは混乱した。
 まさかこんなにフレンドリーにクラスメイトたちが自分を扱ってくれるだなんて思いもしなかったから。

「え、えと。その。……皆、ありがとう」

 俯いて小さな声しか出せなかったが、感謝の言葉にクラスメイトたちが沸いた。

「けどよ、このクラスは良くても他クラスはちょっとヤバいぞ。担任の戯れ言を間に受けてる奴が出始めてる」

 見た目がピンク肌の巨漢オークで目立つはずのボナンザだが、これでなかなか調査向きの男だった。
 休み時間になると他クラスに遊びに行って、あれこれフレッシュな噂を仕入れている。

「オネスト君、他クラスの人たちに変なこと言われたりされたりしたら遠慮なく言うのよ? あなたへの侮辱はAクラス全体への侮辱だわ」
「……うん」

 心配げに言い聞かせてくるデルフィナに、オネストは曖昧に頷いた。



 実はもう被害なら受けている。
 そしてオネストの〝報復〟対象に次々と入っていた。

 オネストが使った魔法は、単純な仕組みである。
 これまでオネストは食事に腐ったものやゴミを混ぜられ汚されて、その食事を嫌がらせを行った親戚子息たちの食事と入れ替えることでやり返していた。
 そこで彼らが嫌がらせを止めれば終わりにするつもりだったが、エスカレートしてきている。
 結局、あの汚水を浴びせてきた事件の謝罪もないままだ。

 オネストは新たな報復として、今度は彼らが食事するたびに厨房のゴミ箱の中の残飯と、口に入れた直後に料理が入れ替わるよう設定した魔法を行った。

 この魔法はオネストが解かない限り永続する。
 厨房のゴミ箱の中身がゴミ回収などで無くなった場合は、残飯と料理が入れ替わることはないが、代わりに口に入れた料理が別のゴミ箱に転送されるようにした。

 つまり彼らは、オネストが魔法を解除しない限り残飯しか口に入れられないということである。
 厨房のゴミ箱本体が廃棄されれば魔法は自動的に解除されるようになっているが、現段階で特定は難しいだろう。

 あるいはオネストを虐げる嫌がらせ行為をやめれば術の発動もないのだが、ここに誤算があった。
 苛立つ彼らの鬱憤は、ますますオネストへと向かってくることになってしまったのだ。


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