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番外編 異世界板前ゲンジ、ルシウス君と再会す

カレーは奥深いのです

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 次は海のある他領から新鮮な海老を手配し、ストックしてあった分を使って海老のココナッツカレーだ。
 ヨシュア坊ちゃんがカボチャ好きなので、一緒にカボチャも加えることにする。

 こちらはマサラグレイビーと、今回はニンニクと生姜を同量すりおろして炒め合わせる。
 本来ならタマリンドという酸っぱい実を酸味付けに使うが見当たらなかったので、トマトで代用する。
 野菜カレーと同じようにトマトの水分を飛ばす感覚で炒めた後、カボチャを炒め、ターメリック、クミン、コリアンダー、黒胡椒、シナモン少々を加えて馴染ませるように炒める。

 あとは別のフライパンでバターで炒めておいた尻尾だけ残して剥いた海老と合わせて鍋へ。
 塩を足し、ココナッツミルクを入れて加熱。海老はあらかじめ炒めてあるし、カボチャも火の通りが早いので煮込み時間は短い。
 カボチャを入れたせいかもったりした感触になったので厨房にあった野菜のスープストックで少々伸ばした。

 仕上げのテンパリングは、オイル少々にマスタードシードと、アジョワンシードという爽やかな風味のホールスパイスで香味を引き出して鍋へ投入、軽くかき混ぜて出来上がり。

「あ、味見……味見を……オヤジさあん……」

 ルシウスや他の料理人たちに縋る仔犬のような潤んだ瞳で見つめられたが、ここはあえて心を鬼にして次の料理に取り掛かった。
 何せ作る量が多いのだ。時間も足りなくなってしまう。



 主食はイースト抜きの全粒粉入りの小麦粉でチャパティという丸い平焼きパンをひたすら焼く。
 ゲンジがインド人主婦に習ったところ、ナンなどの発酵パンは腹が張りやすいので現地では消化に良いチャパティが一般的らしい。
 こちらは口頭で説明するとすぐ料理人たちが理解してくれたので任せることにする。

「じゃあ次はほうれん草のカレーね」

 茹でたほうれん草をペースト状にして加えたカレーだ。
 ルシウスに聞いてみると、ほうれん草ペーストを使ったポタージュはアケロニア王国でも飲むらしいのであえてメニューに加えてみた。

 作り方の手順は他のカレーとほぼ同じ。
 今回はニンニクは少し、生姜はたっぷり加えて味の中核に据える。どちらもすり下ろして、マサラグレイビーと炒めてトマトを加えるところまでは共通だ。
 スパイスはクミン、コリアンダー、唐辛子のパウダーを。更に塩。
 茹で汁と一緒にペーストにしたほうれん草を加えて数分煮れば完成だ。今回は特にスパイスのテンパリングは行わない。
 王都近郊の他領から取り寄せてもらったフレッシュチーズはよく水切りして一口大にカットした後、油で軽く表面を焼いて皿へ。
 出来上がったほうれん草カレーをその上から。チーズはカレーと一緒に煮ると溶けてしまうので別々調理にした。

「オヤジさん……オヤジさあん……」

 じーっと訴えるようなうるうるのお目々で見つめられて、ゲンジは陥落した。

(ああ、これでココ村支部にいたときもよく負けてたんだよね)

「ちょっとだけだよ。ひと口ずつね」

 器にルシウスや料理人たちでティースプーンひとすくいずつ分になるよう、ほうれん草カレーを盛ってやった。

「は、初めて食べるあじ!」
「これに本番は焼きチーズが加わるのか……」
「は、早く賄いの時間にならないかな!」

 評判は上々の様子。

「さて、主食はチャパティがあるけどライスも用意しようか」

 調べてみると、タイ米のジャスミンライスやインド米のバスティカライスと同じ、粘りの少ない長米種はアケロニア王国にもあった。
 ビリヤニのように別に作ったカレーと層にして炊き上げるピラフを作っても良かったが、ここはあえて単純な炊きご飯にしてみよう。

 作り方は簡単で、スパイスの女王と呼ばれるホールのカルダモンを軽く潰して、レモンスライスと一緒に鍋で炊くだけだ。
 炊き上がり蓋を開けると、長米種の香りとカルダモン、レモンの爽やかな香気が立ちのぼる。
 レモンライスはお好みで。

「さて、あとは……」

 やはりメインは、リースト伯爵領一の特産品、鮭を使いたい。


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