家出少年ルシウスNEXT

番外編 異世界板前ゲンジ、ルシウス君と再会す

異世界転移者ゲンジ

（ああ、坊主だ。ルシウス坊主の手紙！　全然変わってない！）

　数枚ある便箋のその後には、何と驚くことが書かれていた。


『ココ村支部にいたときオヤジさんに作って貰った料理と同じものを、うちの王様たちも知ってたんですって。

　ワショクで合ってますか？

　すごくスープの美味しいあの料理を作る人たちの集落がアケロニア王国の国内にあるそうなんです。
　異世界からの来訪者たちが作った村で、そこではオヤジさんがよく使っていたショウユやミソもあるそうで』


「異世界からの来訪者の村……」

　ゲンジは地球という惑星の、日本という国にいた料理人だった。
　大学を出た後、調理師学校に入り直して卒業後は有名料亭で修行して板長にまでなった。
　妻を早くに亡くした男やもめ。
　板長を引退してからは東京の端っこ、国道沿いに小さな店を持っていた。

　この円環大陸のある世界に来たきっかけは、よくわかっていない。
　そろそろ孫が生まれるから息子夫婦の家に行って家事や食事を手伝おうと店を閉め、最寄りのバス停からバスに乗ったらもうそこは円環大陸だったのだ。

　目の前に広がるのは美しい青い海。
　そう、ゲンジが転移した先はココ村海岸だった。
　困っていたところを当時の冒険者ギルドのココ村支部のギルドマスターに保護されて、調理スキルがあったからそのまま食堂の料理人として雇ってもらえたのだ。

　不思議なことに、どう見ても『外国人』のギルマスや冒険者たちとは言葉が通じた。
　ギルマスが言うには、ゲンジのような異世界からやって来る者はごくたまにいるらしい。

『見つけたら保護するって暗黙の了解があるんだ』

　と言って、当時のギルマスはゲンジを調理師ギルドに登録して身分証を獲得することや、住居の手配、一時的な生活費の支援など随分と助けてくれたものだ。

　最初は食堂の仮雇いだったが、ステータス鑑定して“飯ウマ”属性を持っていたゲンジはすぐ本採用が決定した。
　前任の料理人はもう足腰の弱った老人だったから、まだ壮年のゲンジが来たことは大変喜ばれたものである。