93 / 216
ルシウス君、覚醒編
ルシウス君、倒れる
しおりを挟む
(ふーん。若く見えるけど三十代後半か。……えっ。こいつ、スキルに調理スキルが見当たらないんだけど!?)
人物鑑定スキルを発動させたルシウスだったが、見えた飯マズ料理人のステータスに、その湖面の水色の目を瞬かせた。
あるはずの調理スキルの初級プラスが、ステータスのどこにも見当たらない。
プラスというのは、仕事として調理スキルを使うための必須オプションだ。一般的には調理師学校に通ったり、先輩調理師に弟子入りするなどして修行を積むことでほぼ自動的に獲得できる。
たとえ調理スキルが上級や伝説級と言われる特級ランクであったとしても、プラスが付いていなければ調理師(料理人)として店を出したり、雇われたりの仕事はできない。そういう決まりになっている。
(なんで? なんで調理スキル持ってないの? しかもこいつ、鑑定スキルで読み取れるはずの基本ステータス部分にいくつも抜けがある。何なのこいつ!?)
ルシウスが人知れず動揺していると、後ろからポンと軽く肩に手が乗せられた。
振り向いて上を見上げると、灰色の髪と瞳の穏やかなおじさん……と言うと怒るお兄さんのサブギルマス、シルヴィスが少し申し訳なさそうに微笑んでルシウスに小さく頷いて見せた。
後は任せろということらしい。
さりげなく自分の後ろにルシウスを隠してくれた。
「ケン君。今日はもう君が来れないと聞いて、他にも助っ人を頼んでしまったんだ。わざわざ来てもらったのに悪いけど、シフトはまた来週でお願いできるかい?」
「し、シルヴィスさん。……はい。こちらこそ今日はすいませんでした」
埒があかないと見てサブギルマスのシルヴィスが出て穏やかに諭すと、臨時料理人はバツが悪そうに小さく頭を下げて帰って行った。
裏口から出ていくとき、しっかりルシウスを睨みつけていくことは忘れずに。
「……帰ったね。他に助っ人、来るの?」
「嘘も方便です。夕飯もお願いできますか?」
「了解ですー」
というわけで、ようやくお昼ごはんにありつけたルシウスだったのだが。
「……冷めちゃった」
ワカメご飯も茹で野菜もベイクドサーモンも、冷めたからといって食えないものではない。
ただ、ベイクドサーモンにかけていたバターソースだけは、時間経過で冷めたことですっかり固まってしまっていた。
しょぼーんと覇気を失ったルシウスが、まるでずぶ濡れになった仔犬のように悲しそうな雰囲気で、冷めきったランチプレートをもそもそ口に運んでいる。
「さ、冷めてても美味くね?」
「できたてならもっとおいしかったはず。……食べる前に魔法樹脂に封入しとくんだった。おのれ、あの飯マズ料理人許すまじ!」
コオオオオオ……と音を立ててルシウスの小さな身体からネオンブルーの魔力が噴き出している。
ガタガタと食堂の窓が振動して揺れ始める。
何やらギルドのレンガ造りの建物も軋んでいるような。
「許さないって、どうするの?」
まだスープマグに注いでいなかった、これだけは保温魔導具に入っていて熱々のコンソメスープをよそってくれたハスミンが訊いてきた。
「それはこれから考える!」
「行き当たりばったりかー」
残念そうな顔でサーモンを食べているルシウスに、思い出したように髭面ギルマスのカラドンが、壁際の調味料コーナーから小麦粉の皮とソース類を持ってきた。
「ルシウス、これこれ。この皮トルティーヤってんだけど、冷めた料理でもこれに包んでソースかければ結構いけるぞ」
「あ、それ」
ルシウスもちょっと気になってたやつだ。
カラドンが見本を見せてくれた。
トルティーヤなる小麦粉の生地を伸ばした皮は、サイズはルシウスの頭ほどだろうか。そんなに大きくはない。
広げたトルティーヤに、冷めてしまった茹で野菜やほぐしたベイクドサーモンを乗せて、トマトソースをたらーり垂らしたら、あとはくるくるっと端から巻いていく。
最後に丸めた端っこを折っておくと、中身がこぼれることもなく安心だ。
「あ。おいしい。食べやすい」
「だろー? トルティーヤはまだまだあるからさ。チリソースもオススメ!」
二枚目のトルティーヤにも同じように具材をのせていく。その上からカラドンが真っ赤なチリソースをぶちゅーとかけてくれた。
「か、辛ー!!! おいしいけどからい!」
「あっ、お水、お水飲みますかルシウス君!」
悲鳴を上げたルシウスに、慌てて受付嬢のクレアが水をグラスに入れて持ってきてくれる。
「からああああ! このソースは無理、むりー!」
「ルシウス君、お水、お水飲んで!」
グラスを受け取り、一気に飲み干す。
「ま、まだからい!」
「お代わりありますよ! 飲んで飲んで!」
それで口の中のチリソースを何杯もの冷水で流し終えて、ようやく一息ついたと思ったら。
「お、おなかいたい……」
胃や腹部を押さえて、ルシウスが小さく呻いた。
きゅう、と切ない悲鳴ともいえない声をあげて、そのまま目を回して倒れてしまった。
「る、ルシウス君ー!???」
--
ルシウス君んんんん!( ´•̥ω•̥`)
自分で書いてるのに作者がパニック。
人物鑑定スキルを発動させたルシウスだったが、見えた飯マズ料理人のステータスに、その湖面の水色の目を瞬かせた。
あるはずの調理スキルの初級プラスが、ステータスのどこにも見当たらない。
プラスというのは、仕事として調理スキルを使うための必須オプションだ。一般的には調理師学校に通ったり、先輩調理師に弟子入りするなどして修行を積むことでほぼ自動的に獲得できる。
たとえ調理スキルが上級や伝説級と言われる特級ランクであったとしても、プラスが付いていなければ調理師(料理人)として店を出したり、雇われたりの仕事はできない。そういう決まりになっている。
(なんで? なんで調理スキル持ってないの? しかもこいつ、鑑定スキルで読み取れるはずの基本ステータス部分にいくつも抜けがある。何なのこいつ!?)
ルシウスが人知れず動揺していると、後ろからポンと軽く肩に手が乗せられた。
振り向いて上を見上げると、灰色の髪と瞳の穏やかなおじさん……と言うと怒るお兄さんのサブギルマス、シルヴィスが少し申し訳なさそうに微笑んでルシウスに小さく頷いて見せた。
後は任せろということらしい。
さりげなく自分の後ろにルシウスを隠してくれた。
「ケン君。今日はもう君が来れないと聞いて、他にも助っ人を頼んでしまったんだ。わざわざ来てもらったのに悪いけど、シフトはまた来週でお願いできるかい?」
「し、シルヴィスさん。……はい。こちらこそ今日はすいませんでした」
埒があかないと見てサブギルマスのシルヴィスが出て穏やかに諭すと、臨時料理人はバツが悪そうに小さく頭を下げて帰って行った。
裏口から出ていくとき、しっかりルシウスを睨みつけていくことは忘れずに。
「……帰ったね。他に助っ人、来るの?」
「嘘も方便です。夕飯もお願いできますか?」
「了解ですー」
というわけで、ようやくお昼ごはんにありつけたルシウスだったのだが。
「……冷めちゃった」
ワカメご飯も茹で野菜もベイクドサーモンも、冷めたからといって食えないものではない。
ただ、ベイクドサーモンにかけていたバターソースだけは、時間経過で冷めたことですっかり固まってしまっていた。
しょぼーんと覇気を失ったルシウスが、まるでずぶ濡れになった仔犬のように悲しそうな雰囲気で、冷めきったランチプレートをもそもそ口に運んでいる。
「さ、冷めてても美味くね?」
「できたてならもっとおいしかったはず。……食べる前に魔法樹脂に封入しとくんだった。おのれ、あの飯マズ料理人許すまじ!」
コオオオオオ……と音を立ててルシウスの小さな身体からネオンブルーの魔力が噴き出している。
ガタガタと食堂の窓が振動して揺れ始める。
何やらギルドのレンガ造りの建物も軋んでいるような。
「許さないって、どうするの?」
まだスープマグに注いでいなかった、これだけは保温魔導具に入っていて熱々のコンソメスープをよそってくれたハスミンが訊いてきた。
「それはこれから考える!」
「行き当たりばったりかー」
残念そうな顔でサーモンを食べているルシウスに、思い出したように髭面ギルマスのカラドンが、壁際の調味料コーナーから小麦粉の皮とソース類を持ってきた。
「ルシウス、これこれ。この皮トルティーヤってんだけど、冷めた料理でもこれに包んでソースかければ結構いけるぞ」
「あ、それ」
ルシウスもちょっと気になってたやつだ。
カラドンが見本を見せてくれた。
トルティーヤなる小麦粉の生地を伸ばした皮は、サイズはルシウスの頭ほどだろうか。そんなに大きくはない。
広げたトルティーヤに、冷めてしまった茹で野菜やほぐしたベイクドサーモンを乗せて、トマトソースをたらーり垂らしたら、あとはくるくるっと端から巻いていく。
最後に丸めた端っこを折っておくと、中身がこぼれることもなく安心だ。
「あ。おいしい。食べやすい」
「だろー? トルティーヤはまだまだあるからさ。チリソースもオススメ!」
二枚目のトルティーヤにも同じように具材をのせていく。その上からカラドンが真っ赤なチリソースをぶちゅーとかけてくれた。
「か、辛ー!!! おいしいけどからい!」
「あっ、お水、お水飲みますかルシウス君!」
悲鳴を上げたルシウスに、慌てて受付嬢のクレアが水をグラスに入れて持ってきてくれる。
「からああああ! このソースは無理、むりー!」
「ルシウス君、お水、お水飲んで!」
グラスを受け取り、一気に飲み干す。
「ま、まだからい!」
「お代わりありますよ! 飲んで飲んで!」
それで口の中のチリソースを何杯もの冷水で流し終えて、ようやく一息ついたと思ったら。
「お、おなかいたい……」
胃や腹部を押さえて、ルシウスが小さく呻いた。
きゅう、と切ない悲鳴ともいえない声をあげて、そのまま目を回して倒れてしまった。
「る、ルシウス君ー!???」
--
ルシウス君んんんん!( ´•̥ω•̥`)
自分で書いてるのに作者がパニック。
11
お気に入りに追加
553
あなたにおすすめの小説
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる
十本スイ
ファンタジー
俗にいう神様転生とやらを経験することになった主人公――札月沖長。ただしよくあるような最強でチートな能力をもらい、異世界ではしゃぐつもりなど到底なかった沖長は、丈夫な身体と便利なアイテムボックスだけを望んだ。しかしこの二つ、神がどういう解釈をしていたのか、特にアイテムボックスについてはバグっているのではと思うほどの能力を有していた。これはこれで便利に使えばいいかと思っていたが、どうも自分だけが転生者ではなく、一緒に同世界へ転生した者たちがいるようで……。しかもそいつらは自分が主人公で、沖長をイレギュラーだの踏み台だなどと言ってくる。これは異世界ではなく現代ファンタジーの世界に転生することになった男が、その世界の真実を知りながらもマイペースに生きる物語である。
ド田舎からやってきた少年、初めての大都会で無双する~今まで遊び場にしていたダンジョンは、攻略不可能の規格外ダンジョンだったみたい〜
むらくも航
ファンタジー
ド田舎の村で育った『エアル』は、この日旅立つ。
幼少の頃、おじいちゃんから聞いた話に憧れ、大都会で立派な『探索者』になりたいと思ったからだ。
そんなエアルがこれまでにしてきたことは、たった一つ。
故郷にあるダンジョンで体を動かしてきたことだ。
自然と共に生き、魔物たちとも触れ合ってきた。
だが、エアルは知らない。
ただの“遊び場”と化していたダンジョンは、攻略不可能のSSSランクであることを。
遊び相手たちは、全て最低でもAランクオーバーの凶暴な魔物たちであることを。
これは、故郷のダンジョンで力をつけすぎた少年エアルが、大都会で無自覚に無双し、羽ばたいていく物語──。
婚約破棄騒動に巻き込まれたモブですが……
こうじ
ファンタジー
『あ、終わった……』王太子の取り巻きの1人であるシューラは人生が詰んだのを感じた。王太子と公爵令嬢の婚約破棄騒動に巻き込まれた結果、全てを失う事になってしまったシューラ、これは元貴族令息のやり直しの物語である。
【悲報】人気ゲーム配信者、身に覚えのない大炎上で引退。~新たに探索者となり、ダンジョン配信して最速で成り上がります~
椿紅颯
ファンタジー
目標である登録者3万人の夢を叶えた葭谷和昌こと活動名【カズマ】。
しかし次の日、身に覚えのない大炎上を経験してしまい、SNSと活動アカウントが大量の通報の後に削除されてしまう。
タイミング良くアルバイトもやめてしまい、完全に収入が途絶えてしまったことから探索者になることを決める。
数日間が経過し、とある都市伝説を友人から聞いて実践することに。
すると、聞いていた内容とは異なるものの、レアドロップ&レアスキルを手に入れてしまう!
手に入れたものを活かすため、一度は去った配信業界へと戻ることを決める。
そんな矢先、ダンジョンで狩りをしていると少女達の危機的状況を助け、しかも一部始終が配信されていてバズってしまう。
無名にまで落ちてしまったが、一躍時の人となり、その少女らとパーティを組むことになった。
和昌は次々と偉業を成し遂げ、底辺から最速で成り上がっていく。
異世界帰りの底辺配信者のオッサンが、超人気配信者の美女達を助けたら、セレブ美女たちから大国の諜報機関まであらゆる人々から追われることになる話
kaizi
ファンタジー
※しばらくは毎日(17時)更新します。
※この小説はカクヨム様、小説家になろう様にも掲載しております。
※カクヨム週間総合ランキング2位、ジャンル別週間ランキング1位獲得
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
異世界帰りのオッサン冒険者。
二見敬三。
彼は異世界で英雄とまで言われた男であるが、数ヶ月前に現実世界に帰還した。
彼が異世界に行っている間に現実世界にも世界中にダンジョンが出現していた。
彼は、現実世界で生きていくために、ダンジョン配信をはじめるも、その配信は見た目が冴えないオッサンということもあり、全くバズらない。
そんなある日、超人気配信者のS級冒険者パーティを助けたことから、彼の生活は一変する。
S級冒険者の美女たちから迫られて、さらには大国の諜報機関まで彼の存在を危険視する始末……。
オッサンが無自覚に世界中を大騒ぎさせる!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる