82 / 216
ルシウス君、覚醒編
side 兄と先輩1
しおりを挟む
「元々のヒレや鱗の一部が人間の脚の形に変化させられてるのか……。分類は魔法か。だが脚を切断した後の魚類モンスターに魔法の痕跡はない……うーん……」
アケロニア王国、魔導騎士団の研究室で唸っているのは、ルシウスと同じ青銀の髪に湖面の水色の瞳のお兄ちゃん、リースト伯爵令息カイルだ。
もっとも、彼の場合はルシウスや父親と違って、その湖面の水色の虹彩には花弁のような銀色の花が咲いている。創り出せる魔法剣の数が多いと、リースト伯爵家の一族の者の瞳にはこのような模様が出る。
現在、一族で最多の魔法剣を創り出せるのがカイルである。
上司のグレイシア王女様から、弟ルシウスが送りつけてきたお魚さんモンスターに脚が生えている原因を究明しろと命令されたはいいものの、手詰まりだった。
「よ、解析進んでる?」
「カイム先輩」
マグカップに入ったコーヒーが机の上にとん、と置かれる。
振り向くと、学生時代の先輩で、今は別の騎士団員のホーライル侯爵カイムがいる。
彼はカイルの弟ルシウスを、ゼクセリア共和国ココ村の冒険者ギルドへ護送した騎士でもある。
学生時代から変わらない赤茶の無造作ヘアに精悍な顔立ちながら、親しみやすい雰囲気の青年だ。
ちなみに既婚者だ。既に娘がひとりいて、嫁には尻に敷かれている。性格的には三枚目を地でいくところがあった。
「こんなとこで油売ってていいんですか、先輩」
「結局、タイアド王国との戦争回避で気が抜けちまってて。気晴らししてるとこ。なあ、そろそろ新しいお魚さん来ねえの?」
カイムはまだ二十代前半の若手ながら高位貴族の侯爵で、騎士団の幹部候補だ。
暇そうに見えて、いつも各騎士団の状況を把握するため回っている。今日はその途中で、後輩のカイルの顔を見に来たといったところだろう。
先王ヴァシレウスのひ孫の公爵令嬢がタイアド王国の王太子に婚約破棄され、公妾に落とされかけていた事件で悪化していた両国の関係は、戦争寸前だった。
だが、グレイシア王女が激怒して今後の支援を停止すると発表したことで、タイアド王国は問題の王太子を廃嫡することで事件を強制的に収束させている。
あとは政治の領域だ。
ヴァシレウス大王のひ孫セシリアは近いうち、ここアケロニア王国に避難してくることが決まったばかり。
「今回は魚じゃなくて現地の焼き菓子が届きましたよ。父が陛下たちに献上してる頃じゃないですかねえ」
「お魚さんじゃねえのかあ」
「先輩なら領地に帰ればいくらでもシーフードを食べられるじゃないですか」
カイムの家、ホーライル侯爵家はいわゆる“辺境伯”だ。国境のある地域に領地があり、一部が海に面していて漁港がある。
以前、カイルの家リースト伯爵家が困窮していた頃は、よく領地の海産物の加工品を差し入れに持ってきてくれたものだった。
「うちの海にゃ魔物は出ねえもんよ。ココ村海岸すごいよな、あんなデカいお魚さんモンスター出るとか半端ねえわ。脚まで生えてるし」
「自然界に人間の脚の生えた魔物なんていませんよ。あるとしたら、禁術で人間の脚を移植されたケースが考えられるけど、そういう邪法はもう何百年も前に失伝してますからね」
「じゃあ、人工的に脚生やされたってことか? だとしたら、そいつセンスいいよな! なかなか艶かしい脚してるもんな」
先日、ルシウスが送ってきたキンキという、うるうる潤んだ大きな瞳と、体色が鮮やかな赤色の魚など、見事な脚線美を誇っていた。
食べたけど。煮付けとフライと刺身とスープで。めちゃ旨であった。
--
お兄ちゃんの先輩、ホーライル侯爵カイム氏はファーストシーズンではライル君の父親として登場してました。女運悪し。
アケロニア王国、魔導騎士団の研究室で唸っているのは、ルシウスと同じ青銀の髪に湖面の水色の瞳のお兄ちゃん、リースト伯爵令息カイルだ。
もっとも、彼の場合はルシウスや父親と違って、その湖面の水色の虹彩には花弁のような銀色の花が咲いている。創り出せる魔法剣の数が多いと、リースト伯爵家の一族の者の瞳にはこのような模様が出る。
現在、一族で最多の魔法剣を創り出せるのがカイルである。
上司のグレイシア王女様から、弟ルシウスが送りつけてきたお魚さんモンスターに脚が生えている原因を究明しろと命令されたはいいものの、手詰まりだった。
「よ、解析進んでる?」
「カイム先輩」
マグカップに入ったコーヒーが机の上にとん、と置かれる。
振り向くと、学生時代の先輩で、今は別の騎士団員のホーライル侯爵カイムがいる。
彼はカイルの弟ルシウスを、ゼクセリア共和国ココ村の冒険者ギルドへ護送した騎士でもある。
学生時代から変わらない赤茶の無造作ヘアに精悍な顔立ちながら、親しみやすい雰囲気の青年だ。
ちなみに既婚者だ。既に娘がひとりいて、嫁には尻に敷かれている。性格的には三枚目を地でいくところがあった。
「こんなとこで油売ってていいんですか、先輩」
「結局、タイアド王国との戦争回避で気が抜けちまってて。気晴らししてるとこ。なあ、そろそろ新しいお魚さん来ねえの?」
カイムはまだ二十代前半の若手ながら高位貴族の侯爵で、騎士団の幹部候補だ。
暇そうに見えて、いつも各騎士団の状況を把握するため回っている。今日はその途中で、後輩のカイルの顔を見に来たといったところだろう。
先王ヴァシレウスのひ孫の公爵令嬢がタイアド王国の王太子に婚約破棄され、公妾に落とされかけていた事件で悪化していた両国の関係は、戦争寸前だった。
だが、グレイシア王女が激怒して今後の支援を停止すると発表したことで、タイアド王国は問題の王太子を廃嫡することで事件を強制的に収束させている。
あとは政治の領域だ。
ヴァシレウス大王のひ孫セシリアは近いうち、ここアケロニア王国に避難してくることが決まったばかり。
「今回は魚じゃなくて現地の焼き菓子が届きましたよ。父が陛下たちに献上してる頃じゃないですかねえ」
「お魚さんじゃねえのかあ」
「先輩なら領地に帰ればいくらでもシーフードを食べられるじゃないですか」
カイムの家、ホーライル侯爵家はいわゆる“辺境伯”だ。国境のある地域に領地があり、一部が海に面していて漁港がある。
以前、カイルの家リースト伯爵家が困窮していた頃は、よく領地の海産物の加工品を差し入れに持ってきてくれたものだった。
「うちの海にゃ魔物は出ねえもんよ。ココ村海岸すごいよな、あんなデカいお魚さんモンスター出るとか半端ねえわ。脚まで生えてるし」
「自然界に人間の脚の生えた魔物なんていませんよ。あるとしたら、禁術で人間の脚を移植されたケースが考えられるけど、そういう邪法はもう何百年も前に失伝してますからね」
「じゃあ、人工的に脚生やされたってことか? だとしたら、そいつセンスいいよな! なかなか艶かしい脚してるもんな」
先日、ルシウスが送ってきたキンキという、うるうる潤んだ大きな瞳と、体色が鮮やかな赤色の魚など、見事な脚線美を誇っていた。
食べたけど。煮付けとフライと刺身とスープで。めちゃ旨であった。
--
お兄ちゃんの先輩、ホーライル侯爵カイム氏はファーストシーズンではライル君の父親として登場してました。女運悪し。
11
お気に入りに追加
553
あなたにおすすめの小説
プラネット・アース 〜地球を守るために小学生に巻き戻った僕と、その仲間たちの記録〜
ガトー
ファンタジー
まさに社畜!
内海達也(うつみたつや)26歳は
年明け2月以降〝全ての〟土日と引きかえに
正月休みをもぎ取る事に成功(←?)した。
夢の〝声〟に誘われるまま帰郷した達也。
ほんの思いつきで
〝懐しいあの山の頂きで初日の出を拝もうぜ登山〟
を計画するも〝旧友全員〟に断られる。
意地になり、1人寂しく山を登る達也。
しかし、彼は知らなかった。
〝来年の太陽〟が、もう昇らないという事を。
>>>
小説家になろう様・ノベルアップ+様でも公開中です。
〝大幅に修正中〟ですが、お話の流れは変わりません。
修正を終えた場合〝話数〟表示が消えます。
外道魔法で異世界旅を〜女神の生まれ変わりを探しています〜
農民ヤズ―
ファンタジー
投稿は今回が初めてなので、内容はぐだぐだするかもしれないです。
今作は初めて小説を書くので実験的に三人称視点で書こうとしたものなので、おかしい所が多々あると思いますがお読みいただければ幸いです。
推奨:流し読みでのストーリー確認(
晶はある日車の運転中に事故にあって死んでしまった。
不慮の事故で死んでしまった晶は死後生まれ変わる機会を得るが、その為には女神の課す試練を乗り越えなければならない。だが試練は一筋縄ではいかなかった。
何度も試練をやり直し、遂には全てに試練をクリアする事ができ、生まれ変わることになった晶だが、紆余曲折を経て女神と共にそれぞれ異なる場所で異なる立場として生まれ変わりることになった。
だが生まれ変わってみれば『外道魔法』と忌避される他者の精神を操る事に特化したものしか魔法を使う事ができなかった。
生まれ変わった男は、その事を隠しながらも共に生まれ変わったはずの女神を探して無双していく
斬られ役、異世界を征く!!
通 行人(とおり ゆきひと)
ファンタジー
剣の腕を見込まれ、復活した古の魔王を討伐する為に勇者として異世界に召喚された男、唐観武光(からみたけみつ)……
しかし、武光は勇者でも何でもない、斬られてばかりの時代劇俳優だった!!
とんだ勘違いで異世界に召喚された男は、果たして元の世界に帰る事が出来るのか!?
愛と!! 友情と!! 笑いで綴る!! 7000万パワーすっとこファンタジー、今ここに開幕ッッッ!!
主人公は高みの見物していたい
ポリ 外丸
ファンタジー
高等魔術学園に入学した主人公の新田伸。彼は大人しく高校生活を送りたいのに、友人たちが問題を持ち込んでくる。嫌々ながら巻き込まれつつ、彼は徹底的に目立たないようにやり過ごそうとする。例え相手が高校最強と呼ばれる人間だろうと、やり過ごす自信が彼にはあった。何故なら、彼こそが世界最強の魔術使いなのだから……。最強の魔術使いの高校生が、平穏な学園生活のために実力を隠しながら、迫り来る問題を解決していく物語。
※主人公はできる限り本気を出さず、ずっと実力を誤魔化し続けます
※小説家になろう、ノベルアップ+、ノベルバ、カクヨムにも投稿しています。
英雄召喚〜帝国貴族の異世界統一戦記〜
駄作ハル
ファンタジー
異世界の大貴族レオ=ウィルフリードとして転生した平凡サラリーマン。
しかし、待っていたのは平和な日常などではなかった。急速な領土拡大を目論む帝国の貴族としての日々は、戦いの連続であった───
そんなレオに与えられたスキル『英雄召喚』。それは現世で英雄と呼ばれる人々を呼び出す能力。『鬼の副長』土方歳三、『臥龍』所轄孔明、『空の魔王』ハンス=ウルリッヒ・ルーデル、『革命の申し子』ナポレオン・ボナパルト、『万能人』レオナルド・ダ・ヴィンチ。
前世からの知識と英雄たちの逸話にまつわる能力を使い、大切な人を守るべく争いにまみれた異世界に平和をもたらす為の戦いが幕を開ける!
完結まで毎日投稿!
異世界修学旅行で人狼になりました。
ていぞう
ファンタジー
修学旅行中の飛行機が不時着。
かろうじて生きながらえた学生達。
遭難場所の海岸で夜空を見上げれば、そこには二つの月が。
ここはどこだろう?
異世界に漂着した主人公は、とあることをきっかけに、人狼へと変化を遂げる。
魔法の力に目覚め、仲間を増やし自らの国を作り上げる。
はたして主人公は帰ることができるのだろうか?
はるか遠くの地球へ。
異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜
KeyBow
ファンタジー
間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。
何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。
召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!
しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・
いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。
その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。
上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。
またぺったんこですか?・・・
かの世界この世界
武者走走九郎or大橋むつお
ファンタジー
人生のミス、ちょっとしたミスや、とんでもないミス、でも、人類全体、あるいは、地球的規模で見ると、どうでもいい些細な事。それを修正しようとすると異世界にぶっ飛んで、宇宙的規模で世界をひっくり返すことになるかもしれない。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる