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ルシウス君、覚醒編
飯ウマが作るサーモンパイ
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その日、夕方前におうちから、魔法樹脂に封入された大量のパイが届いたと聞いて、ルシウスは飛び上がって喜んだ。
「サーモンパイだ! 父様の手作り!」
ヒャッホーウ! と大喜びしてるルシウスと、アケロニア王国のリースト伯爵家、つまりルシウスの実家からの手紙にサブギルマスのシルヴィスが目を通している。
「ルシウス君。君のパパとお兄さん、あとご夫人の三人で作ってくれたようですよ」
「兄さんとお嫁様も!?」
パパの手作りも嬉しい。
大好きなお兄ちゃんのなら更に嬉しい。
もう嬉しいが止まらない。
お外に出て海岸をぐるっと全力疾走してきたくなったが、そろそろ日も暮れる。
夜の間は大人と一緒じゃないと建物の外に出てはいけないと注意されていたから、そこは踏みとどまった。
受付嬢のクレアや女魔法使いのハスミンからいろいろアドバイスは貰っていたが、結局のところ、飯マズ料理人が来る日は食堂に近づかないルシウスだった。
また一日、携帯食だけの侘しい食事で耐えたと思ったら、翌日に届いたおうちのサーモンパイ。
「父様だいすき。兄さんもお嫁様も大好き!」
これは今晩はじっくりお礼のお手紙を書かねばならない!
分厚めに! 分厚めに!
おうちからのサーモンパイは、ルシウス用のものは真四角で一食ずつ紙で包まれたものが更に魔法樹脂の中に封入されて、バスケットにふたつ分。
その倍量が別にあり、『ギルドの皆さんもどうぞ』とルシウスの父親からの差し入れとなっていた。
ギルドへの差し入れ分は何とパイが大きなお魚さんの形をしている。一匹がパーティー用の大皿いっぱいの大きさだ。
それがざっと五匹ほど魔法樹脂の中に封入されて届いていた。
しかも、そのうちの一匹、一番手前にあったお魚さんサーモンパイにはパイ生地で作られた脚が二本付いていた。小憎らしい演出である。
「あっ。僕も今日はそっち食べたい、頭のとこ!」
「じゃあ今晩はルシウスのおうちのサーモンパイ祭りやろうぜー!」
と髭面ギルマスのカラドンが宣言してくれたので、夕飯は一同サーモンパイで盛り上がった。
「ルシウス君のパパは伯爵様ですよね? 男の貴族の方で調理するって珍しいのでは?」
サブギルマスのシルヴィスが、お魚さんの形に焼き上げられたサーモンパイを見て、首を傾げている。
受付嬢クレアと女魔法使いハスミン情報では、彼も他国の貴族出身とのこと。彼の場合は自宅で調理などしそうもないタイプだ。
「うちの国、領地持ちの貴族はそれぞれの領地を代表する名物料理があるんだよ。僕んちのリースト伯爵家は川で獲れる鮭を使ったサーモンパイ。海に面してるホーライル侯爵領は海産物の炊き込みご飯だし、シルドット侯爵家は卵の塩味タルトが有名だよ」
この三家の名物料理は味の良いことでも知られている。
海産物の炊き込みご飯はパエリヤ、卵の塩味タルトはキッシュのことだ。
貴族家が他家と何か共同事業を行うときは、それぞれの領地の名産品を掛け合わせた料理を作ることも多いらしい。
「当主と奥さんは、他の料理は作れなくても家の名物料理だけは作れる人が多いね。昔は毒による暗殺防止を兼ねて、家族の料理を作ってたからって習ったよ」
ざくうっ
料理人のオヤジさんが、テーブルにまな板を持ってきて、その場でお魚さんのサーモンパイを切り分けてくれた。
パイを包丁で切るその音だけでもう美味しい。
そして切られたパイの間からは小麦とバターの香ばしくほんのり甘い香りが広がってくる。
「すごっ、焼き立てじゃない! アイテムボックス以外で時間経過ゼロ状態を作れるって、魔法樹脂だけなのよねえ」
まだ解凍していないサーモンパイ入りの魔法樹脂の透明な表面を、女魔法使いのハスミンが突っついている。
まずは一匹分、食べる分だけルシウスが解凍したものをオヤジさんが切り分けてくれていた。
「おうちの味だあ……」
じーんと、ルシウスが一口食べて感動に震えている。
ギルマスを始めとした一同も震えた。いや悶えた。
「う、美味い……」
「前に食べたデビルズサーモンとは比べ物にならん!」
「す、すご、こんなにたくさんスモークサーモン詰まってる!?」
海岸沿いにあるココ村支部では、シーフードは慣れていた。
様々な高級なお魚さんも日常的に食べることができる。
しかし、それでもこのサーモンパイの中身のスモークサーモンは格が違った。
心底お高い味がする!!!
「……坊主の父ちゃん、飯ウマ属性持ってるな」
配膳を終えて自分もサーモンパイを口に運んだ料理人のオヤジさんが、ぽつりと呟いた。
なにそれ!? と食堂内の皆の視線がオヤジさんに集中する。
「調理スキル持ちにたまにいるんだ。スキルのランクとは別に、作る料理の味に“飯ウマ”や“旨マズ”、“飯マズ”の属性オプション持ってる奴がよ」
「飯ウマ……」
「旨マズ……」
「飯マズ……」
「冗談みたいな話だが、本当の話なんだよ。属性オプションがなければ、普通に実力相当の味で仕上げられるんだけどさ」
言って、またナイフで一口分を切り分けて味を確かめている。
「うん、この感じなら間違いねえ。パイ生地とスモークサーモンの味付け、パイの成形すべてに父ちゃんが関わってるだろ。パイ生地のほうはちょっと違う魔力を感じるから、そっちが兄貴だな」
多分、嫁さんはほんのお手伝い程度。
そこまで料理から読めるのか、と一同は尊敬の眼差しで料理人のオヤジさんを見つめた。
間違いなく“飯ウマ”属性を持っている、いつも美味しいごはんを作ってくれる彼を。
「サーモンパイだ! 父様の手作り!」
ヒャッホーウ! と大喜びしてるルシウスと、アケロニア王国のリースト伯爵家、つまりルシウスの実家からの手紙にサブギルマスのシルヴィスが目を通している。
「ルシウス君。君のパパとお兄さん、あとご夫人の三人で作ってくれたようですよ」
「兄さんとお嫁様も!?」
パパの手作りも嬉しい。
大好きなお兄ちゃんのなら更に嬉しい。
もう嬉しいが止まらない。
お外に出て海岸をぐるっと全力疾走してきたくなったが、そろそろ日も暮れる。
夜の間は大人と一緒じゃないと建物の外に出てはいけないと注意されていたから、そこは踏みとどまった。
受付嬢のクレアや女魔法使いのハスミンからいろいろアドバイスは貰っていたが、結局のところ、飯マズ料理人が来る日は食堂に近づかないルシウスだった。
また一日、携帯食だけの侘しい食事で耐えたと思ったら、翌日に届いたおうちのサーモンパイ。
「父様だいすき。兄さんもお嫁様も大好き!」
これは今晩はじっくりお礼のお手紙を書かねばならない!
分厚めに! 分厚めに!
おうちからのサーモンパイは、ルシウス用のものは真四角で一食ずつ紙で包まれたものが更に魔法樹脂の中に封入されて、バスケットにふたつ分。
その倍量が別にあり、『ギルドの皆さんもどうぞ』とルシウスの父親からの差し入れとなっていた。
ギルドへの差し入れ分は何とパイが大きなお魚さんの形をしている。一匹がパーティー用の大皿いっぱいの大きさだ。
それがざっと五匹ほど魔法樹脂の中に封入されて届いていた。
しかも、そのうちの一匹、一番手前にあったお魚さんサーモンパイにはパイ生地で作られた脚が二本付いていた。小憎らしい演出である。
「あっ。僕も今日はそっち食べたい、頭のとこ!」
「じゃあ今晩はルシウスのおうちのサーモンパイ祭りやろうぜー!」
と髭面ギルマスのカラドンが宣言してくれたので、夕飯は一同サーモンパイで盛り上がった。
「ルシウス君のパパは伯爵様ですよね? 男の貴族の方で調理するって珍しいのでは?」
サブギルマスのシルヴィスが、お魚さんの形に焼き上げられたサーモンパイを見て、首を傾げている。
受付嬢クレアと女魔法使いハスミン情報では、彼も他国の貴族出身とのこと。彼の場合は自宅で調理などしそうもないタイプだ。
「うちの国、領地持ちの貴族はそれぞれの領地を代表する名物料理があるんだよ。僕んちのリースト伯爵家は川で獲れる鮭を使ったサーモンパイ。海に面してるホーライル侯爵領は海産物の炊き込みご飯だし、シルドット侯爵家は卵の塩味タルトが有名だよ」
この三家の名物料理は味の良いことでも知られている。
海産物の炊き込みご飯はパエリヤ、卵の塩味タルトはキッシュのことだ。
貴族家が他家と何か共同事業を行うときは、それぞれの領地の名産品を掛け合わせた料理を作ることも多いらしい。
「当主と奥さんは、他の料理は作れなくても家の名物料理だけは作れる人が多いね。昔は毒による暗殺防止を兼ねて、家族の料理を作ってたからって習ったよ」
ざくうっ
料理人のオヤジさんが、テーブルにまな板を持ってきて、その場でお魚さんのサーモンパイを切り分けてくれた。
パイを包丁で切るその音だけでもう美味しい。
そして切られたパイの間からは小麦とバターの香ばしくほんのり甘い香りが広がってくる。
「すごっ、焼き立てじゃない! アイテムボックス以外で時間経過ゼロ状態を作れるって、魔法樹脂だけなのよねえ」
まだ解凍していないサーモンパイ入りの魔法樹脂の透明な表面を、女魔法使いのハスミンが突っついている。
まずは一匹分、食べる分だけルシウスが解凍したものをオヤジさんが切り分けてくれていた。
「おうちの味だあ……」
じーんと、ルシウスが一口食べて感動に震えている。
ギルマスを始めとした一同も震えた。いや悶えた。
「う、美味い……」
「前に食べたデビルズサーモンとは比べ物にならん!」
「す、すご、こんなにたくさんスモークサーモン詰まってる!?」
海岸沿いにあるココ村支部では、シーフードは慣れていた。
様々な高級なお魚さんも日常的に食べることができる。
しかし、それでもこのサーモンパイの中身のスモークサーモンは格が違った。
心底お高い味がする!!!
「……坊主の父ちゃん、飯ウマ属性持ってるな」
配膳を終えて自分もサーモンパイを口に運んだ料理人のオヤジさんが、ぽつりと呟いた。
なにそれ!? と食堂内の皆の視線がオヤジさんに集中する。
「調理スキル持ちにたまにいるんだ。スキルのランクとは別に、作る料理の味に“飯ウマ”や“旨マズ”、“飯マズ”の属性オプション持ってる奴がよ」
「飯ウマ……」
「旨マズ……」
「飯マズ……」
「冗談みたいな話だが、本当の話なんだよ。属性オプションがなければ、普通に実力相当の味で仕上げられるんだけどさ」
言って、またナイフで一口分を切り分けて味を確かめている。
「うん、この感じなら間違いねえ。パイ生地とスモークサーモンの味付け、パイの成形すべてに父ちゃんが関わってるだろ。パイ生地のほうはちょっと違う魔力を感じるから、そっちが兄貴だな」
多分、嫁さんはほんのお手伝い程度。
そこまで料理から読めるのか、と一同は尊敬の眼差しで料理人のオヤジさんを見つめた。
間違いなく“飯ウマ”属性を持っている、いつも美味しいごはんを作ってくれる彼を。
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