家出少年ルシウスNEXT

真義あさひ

文字の大きさ
上 下
36 / 216
【家出少年ルシウスNEXT】ルシウス君、冒険者になる

食堂はオイスターバーになりました

しおりを挟む
「お嬢ちゃんたちはどうすんだい? 牡蠣」

「あたしもレモンで食べたいわ」
「あっ。私はおろしポン酢で!」

 一度魔物が出た後は、同じ日に二度三度と出没することは少ない。
 魔法使いのハスミンも受付嬢のクレアも、飲む気満々である。

「坊主は?」
「僕、この牡蠣って貝、食べたことないんだ。オヤジさんに任せてもいい?」
「おう。任せとけ!」



 そして出てきたのは、牡蠣のバター焼きだった。
 牡蠣は倒したて、いや獲れたてなので鮮度は抜群。プリッと丸々としている。
 それを小麦粉を叩いて多めのバターでカリッと両面を焼いたものだ。
 付け合わせに山盛りのキャベツスライス、オヤジさんご自慢のポテトサラダ。

「牡蠣バター醤油だよ。お代わりもあるからたんと食ってくれ!」
「ショウユってなあにー?」

「大豆を塩に漬けて発酵させた調味料でな。ま、食ってみればわかる」
「?」

「ちなみに、ライスもあるぞー」
「大盛りでお願いします!」

 なお、安定のワカメスープもある。
 ココ村は海岸沿いにあるから、わりと海藻もたくさん食べる地域だった。



 牡蠣は、ルシウスの子供の拳より二回り小さいぐらいだろうか。それでも充分大きい。

 まずは横半分にナイフでカットして、お尻のぷりっとしたほうからいただくことにした。

「中身、なんか緑色っぽいの見えてる……」

 海の中で藻や海藻を食べているからこその色だ。

「まあいいから食ってみろ」
「はあい」

 目を瞑って、思い切ってフォークで刺した牡蠣を口に入れた。

 もぐもぐもぐ

「むちゃくちゃおいしい!」

 上半分の、黒いヒダヒダのあるほうも食べた。やはりすごく美味しい。
 小麦粉のカリッとしたところにバターと、香ばしい醤油が絡んで、そこに貝の旨味が噛むごとにじわあ。
 ふわーと鼻腔のほうに磯の香りが抜けていくのもいい。

「すごい。幸せの味がする!」
「大袈裟だぜ、坊主」
「そんなことないよ!」

 大絶賛するルシウスの近くの席で、料理人のオヤジさんはゴム手袋を嵌めて、オイスターナイフで器用に牡蠣の殻をこじ開けては身を剥がしている。
 そのまま剥きたての牡蠣を軽くボウルの水で洗ってから、受付嬢と女魔法使いに提供、提供、また提供。

「くうう! 沁みる! スパークリングワインの白が沁みるわね!」
「ライスワインの辛口もいけますよう、ハスミンさんー」

 飲める女たちは生牡蠣にご満悦だ。

「いいなあ、お酒」

 おうちでは、ちょっとだけ~とパパやお兄ちゃんに飲ませてと迫ったこともあるルシウスだ。
 しかし、おうちの家人たちが厳しくて、いつも一口の前にグラスを取り上げられてしまう。
 ルシウスからグラスを奪える、おうちの家人たちも只者ではなかった。

 故郷アケロニア王国も、ここゼクセリア共和国も成人年齢は18歳。
 まだ14歳のルシウスがお酒を飲めるようになるまで、あと4年。



「坊主も生牡蠣食ってみるかい?」
「ううん。このバター醤油焼きのほうがいいな。あと三倍くらい食べたい」

 育ち盛りの胃袋は底なしのようだ。

 せっかくなので、オイスターナイフの使い方を教えてもらって、自分が食べる分の牡蠣を剥いてみることにした。

 うっかり、殻にへばり付く貝柱以外のところを傷つけてしまった牡蠣は、そっと受付嬢クレアと女魔法使いハスミンの皿へ。

 綺麗にぷりんぷりんに剥けた牡蠣は、彼女たちの分も一緒にまたバター醤油味で焼き上げてもらったのだった。おいしい。



 お腹いっぱいに牡蠣を食べたルシウスは、明日もポイズンオイスターが来ますようにと、二階の部屋に戻ってから窓の外のお星様に祈った。

 物心つく頃から、ルシウスがこうして真剣に祈ったことは現実になることが多かった。

「あのね、お星様。牡蠣、僕の父様やヴァシレウス様たちも大好きなやつだと思うんだ。新鮮なやつ送ってあげたいから、明日もポイズンオイスターが来ますように!」

 翌日。
 まさかの倍の数のポイズンオイスターたちがやってくることになろうとは、まだこのときは誰も夢にも思わないのだった。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界でぼっち生活をしてたら幼女×2を拾ったので養うことにした

せんせい
ファンタジー
自身のクラスが勇者召喚として呼ばれたのに乗り遅れてお亡くなりになってしまった主人公。 その瞬間を偶然にも神が見ていたことでほぼ不老不死に近い能力を貰い異世界へ! 約2万年の時を、ぼっちで過ごしていたある日、いつも通り森を闊歩していると2人の子供(幼女)に遭遇し、そこから主人公の物語が始まって行く……。 ―――

いらないと言ったのはあなたの方なのに

水谷繭
恋愛
精霊師の名門に生まれたにも関わらず、精霊を操ることが出来ずに冷遇されていたセラフィーナ。 セラフィーナは、生家から救い出して王宮に連れてきてくれた婚約者のエリオット王子に深く感謝していた。 エリオットに尽くすセラフィーナだが、関係は歪つなままで、セラよりも能力の高いアメリアが現れると完全に捨て置かれるようになる。 ある日、エリオットにお前がいるせいでアメリアと婚約できないと言われたセラは、二人のために自分は死んだことにして隣国へ逃げようと思いつく。 しかし、セラがいなくなればいいと言っていたはずのエリオットは、実際にセラが消えると血相を変えて探しに来て……。 ◆表紙画像はGirly drop様からお借りしました🍬 ◇いいね、エールありがとうございます!

結婚しても別居して私は楽しくくらしたいので、どうぞ好きな女性を作ってください

シンさん
ファンタジー
サナス伯爵の娘、ニーナは隣国のアルデーテ王国の王太子との婚約が決まる。 国に行ったはいいけど、王都から程遠い別邸に放置され、1度も会いに来る事はない。 溺愛する女性がいるとの噂も! それって最高!好きでもない男の子供をつくらなくていいかもしれないし。 それに私は、最初から別居して楽しく暮らしたかったんだから! そんな別居願望たっぷりの伯爵令嬢と王子の恋愛ストーリー 最後まで書きあがっていますので、随時更新します。 表紙はエブリスタでBeeさんに描いて頂きました!綺麗なイラストが沢山ございます。リンク貼らせていただきました。

所詮は他人事と言われたので他人になります!婚約者も親友も見捨てることにした私は好きに生きます!

ユウ
恋愛
辺境伯爵令嬢のリーゼロッテは幼馴染と婚約者に悩まされてきた。 幼馴染で親友であるアグネスは侯爵令嬢であり王太子殿下の婚約者ということもあり幼少期から王命によりサポートを頼まれていた。 婚約者である伯爵家の令息は従妹であるアグネスを大事にするあまり、婚約者であるサリオンも優先するのはアグネスだった。 王太子妃になるアグネスを優先することを了承ていたし、大事な友人と婚約者を愛していたし、尊敬もしていた。 しかしその関係に亀裂が生じたのは一人の女子生徒によるものだった。 貴族でもない平民の少女が特待生としてに入り王太子殿下と懇意だったことでアグネスはきつく当たり、婚約者も同調したのだが、相手は平民の少女。 遠回しに二人を注意するも‥ 「所詮あなたは他人だもの!」 「部外者がしゃしゃりでるな!」 十年以上も尽くしてきた二人の心のない言葉に愛想を尽かしたのだ。 「所詮私は他人でしかないので本当の赤の他人になりましょう」 関係を断ったリーゼロッテは国を出て隣国で生きていくことを決めたのだが… 一方リーゼロッテが学園から姿を消したことで二人は王家からも責められ、孤立してしまうのだった。 なんとか学園に連れ戻そうと試みるのだが…

前世で処刑された聖女、今は黒薬師と呼ばれています

矢野りと
恋愛
旧題:前世で処刑された聖女はひっそりと生きていくと決めました〜今世では黒き薬師と呼ばれています〜 ――『偽聖女を処刑しろっ!』 民衆がそう叫ぶなか、私の目の前で大切な人達の命が奪われていく。必死で神に祈ったけれど奇跡は起きなかった。……聖女ではない私は無力だった。 何がいけなかったのだろうか。ただ困っている人達を救いたい一心だっただけなのに……。 人々の歓声に包まれながら私は処刑された。 そして、私は前世の記憶を持ったまま、親の顔も知らない孤児として生まれ変わった。周囲から見れば恵まれているとは言い難いその境遇に私はほっとした。大切なものを持つことがなによりも怖かったから。 ――持たなければ、失うこともない。 だから森の奥深くでひっそりと暮らしていたのに、ある日二人の騎士が訪ねてきて……。 『黒き薬師と呼ばれている薬師はあなたでしょうか?』 基本はほのぼのですが、シリアスと切なさありのお話です。 ※この作品の設定は架空のものです。 ※一話目だけ残酷な描写がありますので苦手な方はご自衛くださいませ。 ※感想欄のネタバレ配慮はありません(._.)

今さら、私に構わないでください

ましゅぺちーの
恋愛
愛する夫が恋をした。 彼を愛していたから、彼女を側妃に迎えるように進言した。 愛し合う二人の前では私は悪役。 幸せそうに微笑み合う二人を見て、私は彼への愛を捨てた。 しかし、夫からの愛を完全に諦めるようになると、彼の態度が少しずつ変化していって……? タイトル変更しました。

兄がいるので悪役令嬢にはなりません〜苦労人外交官は鉄壁シスコンガードを突破したい〜

藤也いらいち
恋愛
無能王子の婚約者のラクシフォリア伯爵家令嬢、シャーロット。王子は典型的な無能ムーブの果てにシャーロットにあるはずのない罪を並べ立て婚約破棄を迫る。 __婚約破棄、大歓迎だ。 そこへ、視線で人手も殺せそうな眼をしながらも満面の笑顔のシャーロットの兄が王子を迎え撃った! 勝負は一瞬!王子は場外へ! シスコン兄と無自覚ブラコン妹。 そして、シャーロットに思いを寄せつつ兄に邪魔をされ続ける外交官。妹が好きすぎる侯爵令嬢や商家の才女。 周りを巻き込み、巻き込まれ、果たして、彼らは恋愛と家族愛の違いを理解することができるのか!? 短編 兄がいるので悪役令嬢にはなりません を大幅加筆と修正して連載しています カクヨム、小説家になろうにも掲載しています。

婚約解消して次期辺境伯に嫁いでみた

cyaru
恋愛
一目惚れで婚約を申し込まれたキュレット伯爵家のソシャリー。 お相手はボラツク侯爵家の次期当主ケイン。眉目秀麗でこれまで数多くの縁談が女性側から持ち込まれてきたがケインは女性には興味がないようで18歳になっても婚約者は今までいなかった。 婚約をした時は良かったのだが、問題は1か月に起きた。 過去にボラツク侯爵家から放逐された侯爵の妹が亡くなった。放っておけばいいのに侯爵は簡素な葬儀も行ったのだが、亡くなった妹の娘が牧師と共にやってきた。若い頃の妹にそっくりな娘はロザリア。 ボラツク侯爵家はロザリアを引き取り面倒を見ることを決定した。 婚約の時にはなかったがロザリアが独り立ちできる状態までが期間。 明らかにソシャリーが嫁げば、ロザリアがもれなくついてくる。 「マジか…」ソシャリーは心から遠慮したいと願う。 そして婚約者同士の距離を縮め、お互いの考えを語り合う場が月に数回設けられるようになったが、全てにもれなくロザリアがついてくる。 茶会に観劇、誕生日の贈り物もロザリアに買ったものを譲ってあげると謎の善意を押し売り。夜会もケインがエスコートしダンスを踊るのはロザリア。 幾度となく抗議を受け、ケインは考えを改めると誓ってくれたが本当に考えを改めたのか。改めていれば婚約は継続、そうでなければ解消だがソシャリーも年齢的に次を決めておかないと家のお荷物になってしまう。 「こちらは嫁いでくれるならそれに越したことはない」と父が用意をしてくれたのは「自分の責任なので面倒を見ている子の数は35」という次期辺境伯だった?! ★↑例の如く恐ろしく省略してます。 ★9月14日投稿開始、完結は9月16日です。 ★コメントの返信は遅いです。 ★タグが勝手すぎる!と思う方。ごめんなさい。検索してもヒットしないよう工夫してます。 ♡注意事項~この話を読む前に~♡ ※異世界を舞台にした創作話です。時代設定なし、史実に基づいた話ではありません。【妄想史であり世界史ではない】事をご理解ください。登場人物、場所全て架空です。 ※外道な作者の妄想で作られたガチなフィクションの上、ご都合主義なのでリアルな世界の常識と混同されないようお願いします。 ※心拍数や血圧の上昇、高血糖、アドレナリンの過剰分泌に責任はおえません。 ※価値観や言葉使いなど現実世界とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。 ※話の基幹、伏線に関わる文言についてのご指摘は申し訳ないですが受けられません

処理中です...