32 / 216
【家出少年ルシウスNEXT】ルシウス君、冒険者になる
デビルズサーモンパイとホームシック
しおりを挟む
ルシウスが自分や他の冒険者たちと装備の手入れをして、一通り終わる頃。
食堂にはパイの焼けるバターと小麦の良い匂いが漂い始めた。
「これは……期待大な感じ!」
さささっとテーブルの上に広げていた装備や道具類を片付けて、率先して料理の配膳を手伝った。
冒険者ギルド・ココ村支部は海沿いの国境にある重要支部だ。
ただし、僻地すぎて冒険者たちの集まりがすごく悪い。
それでも冒険者ギルドとして、必要な機能や職員たちは揃っている。
まず、ギルドマスターのカラドン。
お馴染みの髭面大男である。
元SSランク冒険者なので戦えるギルマスだ。
つぎにサブギルドマスター、シルヴィス。
穏やかながらしっかり者でギルマスを補佐している。
受付嬢クレアは事務員を兼ねている。
利用する冒険者の数が少ないので、余裕で回せていた。
討伐品の売却、換金所には専門の職員がひとり。
一番最寄りの町の冒険者ギルドから昼間だけ出向してくれている。
建物外には小屋があり、討伐した魔物や魔獣の解体場となっている。
ただし、ここココ村支部で対応する魔物は海の魔物、主にお魚さんタイプのモンスターのみで、すべて討伐時に魔石に変えてしまう。
そのため、解体場の出番はあまりない。
あとは、下働きの男が週に数回来て建物の清掃を行なっている。
今日はお休みの日のようだ。
そして一番重要な食堂には、料理人のオヤジさんと、オヤジさんがお休みの日に代理で来てくれる最寄り町の定食屋の若い料理人のお兄さん。
厨房には、常にどちらかが一日詰めてくれている。
オヤジさんは飯ウマの調理スキル上級プラスのランク保持者だが、若いお兄さんのほうは初級プラスで、あまり料理は美味くない。
今日は飯ウマのオヤジさんの担当日だ。
美味しいごはんの日!
「お、パイか! 美味そうだな!」
ギルドマスターや冒険者たちが、メイン料理を見て目を輝かせている。
「何のパイなんです? これ」
「僕が獲ってきたデビルズサーモンです!」
ルシウスが胸を張ると、おおー! と拍手が。皆さんノリが良い。
丸皿の上には、一人前ずつ四角に焼き上げられたパイがひとつと、付け合わせにたっぷりの温野菜とフライドポテト。
ソースは皿に直接、赤ワインソースが敷かれている。
「「「いただきます」」」
さくっとナイフで切り分け、断面を見ると胡椒とマヨネーズで味付けした薄いサーモンピンク色の身が見える。
まずは一口。
さくさくの香ばしいパイ生地と、ジューシーなデビルズサーモンは、単純な味付けだがなかなか美味かった。
特にデビルズサーモン、感触がふわっとしているのに弾力があって、食べ応えがある。
「デビルズサーモン、案外いけるわねえ」
ワイン飲みたい、赤いやつ、と金髪の女魔法使いがしきりに唸っている。
「サーモンパイは僕の故郷の名物料理なんだよ。美味しいでしょ?」
「「「美味しい美味しい」」」
ちょっと大味の魚だったが、料理人の腕が良いから美味に仕上がっている。
「故郷かあ。俺もしばらく帰ってねえなあ……」
悲しげに髭面ギルドマスターが呟いた。
「うちの娘ちゃんにもう顔忘れられてたりして」
レイティアちゃん13歳だ。
ギルドマスターの机に写真があるが、奥さん側に似たようでとても可愛らしいお嬢さんである。
「ん? どうしたルシウス?」
サーモンパイを食べる手が止まっている。
「故郷……おうち……」
周りが見ていると、だばーとその場でルシウスが大量の涙を流して泣き出した。
「僕も兄さんに会いたい……うええ……」
「あっ、泣くなルシウス、飯が不味くなる! 泣くな、堪えろ! 一回り大きくなった姿を見せてやるんだろ!?」
「……がんばる」
ぐしっと袖口で湖面の水色の目を拭って持ち直した。
そう、アケロニア王国の王女様から託されたルシウス少年の説明書には、特記事項があった。
『この子は超が付くほどのブラコンなので、遅かれ早かれ兄を思い出してホームシックにかかるはず』
『その際は、適当に兄のことをダシにすればわりと操縦しやすい。上手く宥めすかして気を逸らさせてやってほしい』
「こういうことかー」
「なるほど、やっぱりまだ子供ですものね」
ギルマスとサブマスが頷き合う。
「まあ、泣いてても飯食えるならまだ平気だろ」
モリモリとサーモンパイを食べて、付け合わせのフライドポテトのほっくりした味の良さにも顔を輝かせて、どちらもお代わりまでしている。
これで食欲がなくなると深刻だが、ルシウス少年にその気配は微塵もなかった。
--
ここでもやっぱりサーモンパイ。
食堂にはパイの焼けるバターと小麦の良い匂いが漂い始めた。
「これは……期待大な感じ!」
さささっとテーブルの上に広げていた装備や道具類を片付けて、率先して料理の配膳を手伝った。
冒険者ギルド・ココ村支部は海沿いの国境にある重要支部だ。
ただし、僻地すぎて冒険者たちの集まりがすごく悪い。
それでも冒険者ギルドとして、必要な機能や職員たちは揃っている。
まず、ギルドマスターのカラドン。
お馴染みの髭面大男である。
元SSランク冒険者なので戦えるギルマスだ。
つぎにサブギルドマスター、シルヴィス。
穏やかながらしっかり者でギルマスを補佐している。
受付嬢クレアは事務員を兼ねている。
利用する冒険者の数が少ないので、余裕で回せていた。
討伐品の売却、換金所には専門の職員がひとり。
一番最寄りの町の冒険者ギルドから昼間だけ出向してくれている。
建物外には小屋があり、討伐した魔物や魔獣の解体場となっている。
ただし、ここココ村支部で対応する魔物は海の魔物、主にお魚さんタイプのモンスターのみで、すべて討伐時に魔石に変えてしまう。
そのため、解体場の出番はあまりない。
あとは、下働きの男が週に数回来て建物の清掃を行なっている。
今日はお休みの日のようだ。
そして一番重要な食堂には、料理人のオヤジさんと、オヤジさんがお休みの日に代理で来てくれる最寄り町の定食屋の若い料理人のお兄さん。
厨房には、常にどちらかが一日詰めてくれている。
オヤジさんは飯ウマの調理スキル上級プラスのランク保持者だが、若いお兄さんのほうは初級プラスで、あまり料理は美味くない。
今日は飯ウマのオヤジさんの担当日だ。
美味しいごはんの日!
「お、パイか! 美味そうだな!」
ギルドマスターや冒険者たちが、メイン料理を見て目を輝かせている。
「何のパイなんです? これ」
「僕が獲ってきたデビルズサーモンです!」
ルシウスが胸を張ると、おおー! と拍手が。皆さんノリが良い。
丸皿の上には、一人前ずつ四角に焼き上げられたパイがひとつと、付け合わせにたっぷりの温野菜とフライドポテト。
ソースは皿に直接、赤ワインソースが敷かれている。
「「「いただきます」」」
さくっとナイフで切り分け、断面を見ると胡椒とマヨネーズで味付けした薄いサーモンピンク色の身が見える。
まずは一口。
さくさくの香ばしいパイ生地と、ジューシーなデビルズサーモンは、単純な味付けだがなかなか美味かった。
特にデビルズサーモン、感触がふわっとしているのに弾力があって、食べ応えがある。
「デビルズサーモン、案外いけるわねえ」
ワイン飲みたい、赤いやつ、と金髪の女魔法使いがしきりに唸っている。
「サーモンパイは僕の故郷の名物料理なんだよ。美味しいでしょ?」
「「「美味しい美味しい」」」
ちょっと大味の魚だったが、料理人の腕が良いから美味に仕上がっている。
「故郷かあ。俺もしばらく帰ってねえなあ……」
悲しげに髭面ギルドマスターが呟いた。
「うちの娘ちゃんにもう顔忘れられてたりして」
レイティアちゃん13歳だ。
ギルドマスターの机に写真があるが、奥さん側に似たようでとても可愛らしいお嬢さんである。
「ん? どうしたルシウス?」
サーモンパイを食べる手が止まっている。
「故郷……おうち……」
周りが見ていると、だばーとその場でルシウスが大量の涙を流して泣き出した。
「僕も兄さんに会いたい……うええ……」
「あっ、泣くなルシウス、飯が不味くなる! 泣くな、堪えろ! 一回り大きくなった姿を見せてやるんだろ!?」
「……がんばる」
ぐしっと袖口で湖面の水色の目を拭って持ち直した。
そう、アケロニア王国の王女様から託されたルシウス少年の説明書には、特記事項があった。
『この子は超が付くほどのブラコンなので、遅かれ早かれ兄を思い出してホームシックにかかるはず』
『その際は、適当に兄のことをダシにすればわりと操縦しやすい。上手く宥めすかして気を逸らさせてやってほしい』
「こういうことかー」
「なるほど、やっぱりまだ子供ですものね」
ギルマスとサブマスが頷き合う。
「まあ、泣いてても飯食えるならまだ平気だろ」
モリモリとサーモンパイを食べて、付け合わせのフライドポテトのほっくりした味の良さにも顔を輝かせて、どちらもお代わりまでしている。
これで食欲がなくなると深刻だが、ルシウス少年にその気配は微塵もなかった。
--
ここでもやっぱりサーモンパイ。
11
お気に入りに追加
553
あなたにおすすめの小説
貴方がLv1から2に上がるまでに必要な経験値は【6億4873万5213】だと宣言されたけどレベル1の状態でも実は最強な村娘!!
ルシェ(Twitter名はカイトGT)
ファンタジー
この世界の勇者達に道案内をして欲しいと言われ素直に従う村娘のケロナ。
その道中で【戦闘レベル】なる物の存在を知った彼女は教会でレベルアップに必要な経験値量を言われて唖然とする。
ケロナがたった1レベル上昇する為に必要な経験値は...なんと億越えだったのだ!!。
それを勇者パーティの面々に鼻で笑われてしまうケロナだったが彼女はめげない!!。
そもそも今の彼女は村娘で戦う必要がないから安心だよね?。
※1話1話が物凄く短く500文字から1000文字程度で書かせていただくつもりです。
七色の魔弾使い
naturalsoft
ファンタジー
なぁ?ファンタジー小説って読んでるか?多く小説では主人公が無能やハズレスキルで家を追い出されたりして、後から成り上がっていくギャップが面白いじゃないか?
では、主人公が大貴族の息子で、膨大な魔力も持っていて、両親も子供の為なら命を掛けて守ってくれる様な優しい親であり、可愛い婚約者もいる。
さらには、戦友と呼べるライバルもいる、とても恵まれた環境の主人公はどうだろうか?
他の主人公達は生きる為に必死だったが、俺は違う!こんな恵まれた環境の中で、逆に大切な人達の期待を裏切って失望されたくないから命を掛けて頑張るんだ。
これは、恵まれた環境の主人公が、周囲の期待に応える為に必死に頑張って成長していく物語である。
異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜
KeyBow
ファンタジー
間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。
何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。
召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!
しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・
いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。
その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。
上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。
またぺったんこですか?・・・
4層世界の最下層、魔物の森で生き残る~生存率0.1%未満の試練~
TOYA
ファンタジー
~完結済み~
「この世界のルールはとても残酷だ。10歳の洗礼の試練は避ける事が出来ないんだ」
この世界で大人になるには、10歳で必ず発生する洗礼の試練で生き残らなければならない。
その試練はこの世界の最下層、魔物の巣窟にたった一人で放り出される残酷な内容だった。
生存率は1%未満。大勢の子供たちは成す術も無く魔物に食い殺されて行く中、
生き延び、帰還する為の魔法を覚えなければならない。
だが……魔法には帰還する為の魔法の更に先が存在した。
それに気がついた主人公、ロフルはその先の魔法を習得すべく
帰還せず魔物の巣窟に残り、奮闘する。
いずれ同じこの地獄へと落ちてくる、妹弟を救うために。
※あらすじは第一章の内容です。
―――
本作品は小説家になろう様 カクヨム様でも連載しております。
勇者パーティーに追放された支援術士、実はとんでもない回復能力を持っていた~極めて幅広い回復術を生かしてなんでも屋で成り上がる~
名無し
ファンタジー
突如、幼馴染の【勇者】から追放処分を言い渡される【支援術士】のグレイス。確かになんでもできるが、中途半端で物足りないという理不尽な理由だった。
自分はパーティーの要として頑張ってきたから納得できないと食い下がるグレイスに対し、【勇者】はその代わりに【治癒術士】と【補助術士】を入れたのでもうお前は一切必要ないと宣言する。
もう一人の幼馴染である【魔術士】の少女を頼むと言い残し、グレイスはパーティーから立ち去ることに。
だが、グレイスの【支援術士】としての腕は【勇者】の想像を遥かに超えるものであり、ありとあらゆるものを回復する能力を秘めていた。
グレイスがその卓越した技術を生かし、【なんでも屋】で生計を立てて評判を高めていく一方、勇者パーティーはグレイスが去った影響で歯車が狂い始め、何をやっても上手くいかなくなる。
人脈を広げていったグレイスの周りにはいつしか賞賛する人々で溢れ、落ちぶれていく【勇者】とは対照的に地位や名声をどんどん高めていくのだった。
『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる
農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」
そんな言葉から始まった異世界召喚。
呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!?
そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう!
このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。
勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定
私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。
ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。
他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。
なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。
ダンジョン配信 【人と関わるより1人でダンジョン探索してる方が好きなんです】ダンジョン生活10年目にして配信者になることになった男の話
天野 星屑
ファンタジー
突如地上に出現したダンジョン。中では現代兵器が使用できず、ダンジョンに踏み込んだ人々は、ダンジョンに初めて入ることで発現する魔法などのスキルと、剣や弓といった原始的な武器で、ダンジョンの環境とモンスターに立ち向かい、その奥底を目指すことになった。
その出現からはや10年。ダンジョン探索者という職業が出現し、ダンジョンは身近な異世界となり。ダンジョン内の様子を外に配信する配信者達によってダンジョンへの過度なおそれも減った現在。
ダンジョン内で生活し、10年間一度も地上に帰っていなかった男が、とある事件から配信者達と関わり、己もダンジョン内の様子を配信することを決意する。
10年間のダンジョン生活。世界の誰よりも豊富な知識と。世界の誰よりも長けた戦闘技術によってダンジョンの様子を明らかにする男は、配信を通して、やがて、世界に大きな動きを生み出していくのだった。
*本作は、ダンジョン籠もりによって強くなった男が、配信を通して地上の人たちや他の配信者達と関わっていくことと、ダンジョン内での世界の描写を主としています
*配信とは言いますが、序盤はいわゆるキャンプ配信とかブッシュクラフト、旅動画みたいな感じが多いです。のちのち他の配信者と本格的に関わっていくときに、一般的なコラボ配信などをします
*主人公と他の探索者(配信者含む)の差は、後者が1~4まで到達しているのに対して、前者は100を越えていることから推察ください。
*主人公はダンジョン引きこもりガチ勢なので、あまり地上に出たがっていません
【完結】国外追放の王女様と辺境開拓。王女様は落ちぶれた国王様から国を買うそうです。異世界転移したらキモデブ!?激ヤセからハーレム生活!
花咲一樹
ファンタジー
【錬聖スキルで美少女達と辺境開拓国造り。地面を掘ったら凄い物が出てきたよ!国外追放された王女様は、落ちぶれた国王様゛から国を買うそうです】
《異世界転移.キモデブ.激ヤセ.モテモテハーレムからの辺境建国物語》
天野川冬馬は、階段から落ちて異世界の若者と魂の交換転移をしてしまった。冬馬が目覚めると、そこは異世界の学院。そしてキモデブの体になっていた。
キモデブことリオン(冬馬)は婚活の神様の天啓で三人の美少女が婚約者になった。
一方、キモデブの婚約者となった王女ルミアーナ。国王である兄から婚約破棄を言い渡されるが、それを断り国外追放となってしまう。
キモデブのリオン、国外追放王女のルミアーナ、義妹のシルフィ、無双少女のクスノハの四人に、神様から降ったクエストは辺境の森の開拓だった。
辺境の森でのんびりとスローライフと思いきや、ルミアーナには大きな野望があった。
辺境の森の小さな家から始まる秘密国家。
国王の悪政により借金まみれで、沈みかけている母国。
リオンとルミアーナは母国を救う事が出来るのか。
※激しいバトルは有りませんので、ご注意下さい
カクヨムにてフォローワー2500人越えの人気作
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる