破壊のオデット

真義あさひ

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リースト伯爵令嬢オデット

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 リースト伯爵令嬢オデットは数奇な運命を辿った少女だ。

 青みがかった腰より長い真っ直ぐな銀髪、白く透き通るような肌、薔薇色の頬。
 すらりと背筋の伸びた、スレンダーで長身のしなやかな肢体。長い手足。たおやかな指と桜貝のような爪。
 何より特徴的なのは、銀色の花が咲くような、いわゆるアースアイと呼ばれる模様が、湖面の水色の虹彩に浮かぶ瞳だろう。
 髪と同じ青銀の長い睫毛に彩られた瞳の美しさは、見る者の心を蕩かせることで有名だった。

 そんな彼女は貴族学園の高等部に在学中、その美しさを狙われて奴隷商に誘拐された。



 この世界は、剣と魔法と『ステータスオープン!』のある世界だ。
 ここは世界に唯一の円環大陸、北西部にあるアケロニア王国。
 風光明媚で自然豊か、空気も水も食事もたいそう美味しい、魔法と魔術の国として知られている。

 彼女、オデットのリースト伯爵家は魔法の大家で、彼らが扱う有名な魔法のひとつに『魔法樹脂』というものがある。
 澄みきった氷のように透明な樹脂を、魔力で創り出す。
 その魔法樹脂にはさまざまな機能を持たせることができる。

 オデットは、その透明な魔法樹脂の中に入った姿で、後に発見された。

 青みがかった腰まである長い銀髪を大きく背後に散らし、緑色のドレスの胸元は破られ、慎ましい胸が片方、乳首まで剥き出しになっている。
 ドレスの裾も破れていて、太腿にも鞭で叩かれたような赤いミミズ腫れがあった。
 明らかに陵辱寸前とわかる状態だ。
 それでも透明な樹脂の中の彼女に絶望した様子は見えず、湖面の水色の瞳は冷徹に目の前を真っ直ぐ見据えていた。

 長らく行方不明だった彼女が再発見されたのは、ほんの35年ほど前のこと。
 祖国から遠く離れた国での芸術品オークションにオブジェとして出品されていたものを、たまたま現地に出張していたアケロニア王国の商人がカタログの中に見つけた。
 青銀の髪と湖面の水色の瞳の組み合わせは、リースト伯爵家の一族に特有の特徴だった。
 商人はそれを知っていたから、慌てて母国のリースト伯爵家に緊急連絡を入れたのだ。
 連絡を受けたリースト伯爵家は現地に飛び、金に糸目をつけず、出品されていた一族の娘、出品名“拒絶の乙女”を落札し、自分たちの手元に取り戻すことができた。

 魔法樹脂の中に封じ込められた美しき青銀の髪の少女の存在は、多くの人々に知られることとなった。
 その扇情的な様子に、生唾を飲み込んだ男は多い。

 魔法樹脂の中の彼女“オデット”の年齢は、当時まだ16歳。
 彼女を解凍して自分のものにしたいと望む男は多かったが、誰も成し得なかった。
 術を発動させた本人が、解術コードを誰にも残せない状況だったためだ。

 とはいえ、魔法樹脂は永遠に生物を封入しておけるほど高機能な魔法でもない。
 あと数十年、あるいは数百年か、いつかは術が解けて、凌辱寸前だった娘は再びこの世に甦る。そう期待されていた。
 彼女が誘拐されて、約百年。発見されてからまだ35年。



 そして今年、ついに彼女の封印が解ける日が来た。



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