168 / 172
番外編
お父様の隠し子騒動1
しおりを挟む
※ムーンライトノベルズのBL版に掲載していた番外編のうち、こちらの全年齢向けに載せても大丈夫そうなものを転載していきます。
カズン君のママのお話。全5話。
--
アケロニア王国の準王族、アルトレイ女大公セシリアの夫ヴァシレウスはこの国の先王で、“大王”の称号を持っている。
そのヴァシレウスが息子カズンと、友人のブルー男爵家の領地にあるダンジョン探索に出かけた日のこと。
ヴァシレウスの子を身籠ったという子爵令嬢が両親と一緒にやってきたと報告を受けて、セシリアは黄金の長い睫毛が彩る鮮やかなエメラルドの瞳をパチパチと瞬きさせた。
この手の輩は、ヴァシレウスと婚姻を結んでから不定期にやってくる。
大抵は先触れも何もなく、いきなりやって来る無作法が特徴だ。
「あらあ。久し振りねえ、そういうの」
どうされますか、と執事に確認されたため、セシリアは面会すると答えた。
「旦那様も、あたくしの可愛いショコラちゃんも留守なんだもの。暇つぶしにはなりそうね」
一行を応接室に通させ言い分を聞いてみると、どこぞの夜会でヴァシレウスに見染められ、控室に連れ込まれて純潔を奪われたとのこと。
応接室の壁際に控えさせた家令、執事長、侍女長、副侍女長、そして衛兵数名がかすかに表情を動かした。
だが彼らはセシリアたち一家が王宮の離宮住まいだった頃からの、ヴァシレウス大王の信奉者たちであり、セシリアを含むこの家の守護者たち、その精鋭だ。
優秀に優秀を重ねた彼らが客人の前で醜態を晒すことはない。
「それで、あなたがたは何をお求めなのかしら?」
まず先に相手の思惑を語らせたほうがいい。
相手の出方を把握してからのほうが、適切な対応が取れるからだ。
「娘はヴァシレウス大王陛下に純潔を捧げましたのよ! 責任を取っていただきませんと!」
母親の子爵夫人が唾を飛ばす勢いで怒鳴っている。
「責任って、どのような?」
「正妻などと大それたことは望みません。側室として……」
「夫は既に退位しておりますから、側室というのは違いますね。第二夫人とか愛妾とかでしょうね」
「それなら娘は第二夫人として、責任を取ってこの家に迎えていただきます!」
おや、とセシリアはやや垂れ目ぎみのエメラルドの瞳を瞠った。
「この家に?」
「もちろんです」
どうやら、このご婦人はヴァシレウス大王やその伴侶セシリアの、やや複雑な事情を理解していないらしい。
「この家の正式名称、ご存知かしら?」
セシリアの問いかけに、隣の子爵本人は気づいたようだ。
見る見るその人の良さそうな顔が青ざめていく。
(うん、なるほど。今回ここに来たのは夫人とお嬢さん主導なのね。子爵はそれに巻き込まれただけかあ)
「アルトレイ大公家でしょう?」
「いいえ、違いますの。アルトレイ“女”大公家と申しますの」
「はあ?」
衛兵のひとりが剣の柄に手をかけた。
だが、隣の別の衛兵に静止されている。
自分たちの主人であるセシリアへの無礼な言動に、家人たちは怒りを覚えている。
だが、セシリア本人が平気な様子なので堪えているのだ。
「ええ、ですから、アルトレイ女大公家ですの。あたくしが女大公として、この家の当主なのですわ」
「は? ヴァシレウス大王が当主でしょ、何言ってるのよ!」
「ばか、お前よせ!」
子爵が、立ち上がってセシリアに詰め寄ろうとする夫人を咄嗟に制止する。
家人たちが殺気だってくる。
偉大なるヴァシレウス大王を称号(陛下)どころか敬称(様)まで抜きで呼んだ子爵夫人は、一昔前ならこの場で首を刎ねられても文句は言えない。
「あたくしたち夫婦は、ちょっと特殊でしてね。あたくしがこのアルトレイ女大公家の当主としてテオドロス国王陛下から女大公に列せられ、夫は婿養子の形で婚姻を結ぶことになりましたの」
「はあ? ヴァシレウス大王が婿養子? なに馬鹿なことを言って!」
「馬鹿はお前だ! お前はもう口を開くな!」
ばしん、と子爵が夫人を張り飛ばした。
平手で顔を叩かれた夫人はソファに崩れ落ちたが、すぐに立ち直って夫の子爵に食ってかかる。
「何するのよ!」
「それはこっちの台詞だ! 何なのだこの茶番は! 私はお前たちがヴァシレウス大王陛下の寵愛を受けたからお礼を申し上げに行くというので付き添いで来たのだ。だが蓋を開けてみれば何だこれは、そもそもの前提が何もかも間違っている!」
(あらあら。子爵はわりとまともなのね?)
けれどこの手の責任は連座なのだ。
夫人と娘が原因なら、夫であり父親の子爵には管理責任が問われる。
※カズン君が保護者(よりによってヴァシレウス大王)を連れてダンジョンに潜ったとき、おうちではこんなことが。
他の番外編へのリンク、↓に貼っておきましたー
多少BL要素ありますのでご注意ください。
カズン君のママのお話。全5話。
--
アケロニア王国の準王族、アルトレイ女大公セシリアの夫ヴァシレウスはこの国の先王で、“大王”の称号を持っている。
そのヴァシレウスが息子カズンと、友人のブルー男爵家の領地にあるダンジョン探索に出かけた日のこと。
ヴァシレウスの子を身籠ったという子爵令嬢が両親と一緒にやってきたと報告を受けて、セシリアは黄金の長い睫毛が彩る鮮やかなエメラルドの瞳をパチパチと瞬きさせた。
この手の輩は、ヴァシレウスと婚姻を結んでから不定期にやってくる。
大抵は先触れも何もなく、いきなりやって来る無作法が特徴だ。
「あらあ。久し振りねえ、そういうの」
どうされますか、と執事に確認されたため、セシリアは面会すると答えた。
「旦那様も、あたくしの可愛いショコラちゃんも留守なんだもの。暇つぶしにはなりそうね」
一行を応接室に通させ言い分を聞いてみると、どこぞの夜会でヴァシレウスに見染められ、控室に連れ込まれて純潔を奪われたとのこと。
応接室の壁際に控えさせた家令、執事長、侍女長、副侍女長、そして衛兵数名がかすかに表情を動かした。
だが彼らはセシリアたち一家が王宮の離宮住まいだった頃からの、ヴァシレウス大王の信奉者たちであり、セシリアを含むこの家の守護者たち、その精鋭だ。
優秀に優秀を重ねた彼らが客人の前で醜態を晒すことはない。
「それで、あなたがたは何をお求めなのかしら?」
まず先に相手の思惑を語らせたほうがいい。
相手の出方を把握してからのほうが、適切な対応が取れるからだ。
「娘はヴァシレウス大王陛下に純潔を捧げましたのよ! 責任を取っていただきませんと!」
母親の子爵夫人が唾を飛ばす勢いで怒鳴っている。
「責任って、どのような?」
「正妻などと大それたことは望みません。側室として……」
「夫は既に退位しておりますから、側室というのは違いますね。第二夫人とか愛妾とかでしょうね」
「それなら娘は第二夫人として、責任を取ってこの家に迎えていただきます!」
おや、とセシリアはやや垂れ目ぎみのエメラルドの瞳を瞠った。
「この家に?」
「もちろんです」
どうやら、このご婦人はヴァシレウス大王やその伴侶セシリアの、やや複雑な事情を理解していないらしい。
「この家の正式名称、ご存知かしら?」
セシリアの問いかけに、隣の子爵本人は気づいたようだ。
見る見るその人の良さそうな顔が青ざめていく。
(うん、なるほど。今回ここに来たのは夫人とお嬢さん主導なのね。子爵はそれに巻き込まれただけかあ)
「アルトレイ大公家でしょう?」
「いいえ、違いますの。アルトレイ“女”大公家と申しますの」
「はあ?」
衛兵のひとりが剣の柄に手をかけた。
だが、隣の別の衛兵に静止されている。
自分たちの主人であるセシリアへの無礼な言動に、家人たちは怒りを覚えている。
だが、セシリア本人が平気な様子なので堪えているのだ。
「ええ、ですから、アルトレイ女大公家ですの。あたくしが女大公として、この家の当主なのですわ」
「は? ヴァシレウス大王が当主でしょ、何言ってるのよ!」
「ばか、お前よせ!」
子爵が、立ち上がってセシリアに詰め寄ろうとする夫人を咄嗟に制止する。
家人たちが殺気だってくる。
偉大なるヴァシレウス大王を称号(陛下)どころか敬称(様)まで抜きで呼んだ子爵夫人は、一昔前ならこの場で首を刎ねられても文句は言えない。
「あたくしたち夫婦は、ちょっと特殊でしてね。あたくしがこのアルトレイ女大公家の当主としてテオドロス国王陛下から女大公に列せられ、夫は婿養子の形で婚姻を結ぶことになりましたの」
「はあ? ヴァシレウス大王が婿養子? なに馬鹿なことを言って!」
「馬鹿はお前だ! お前はもう口を開くな!」
ばしん、と子爵が夫人を張り飛ばした。
平手で顔を叩かれた夫人はソファに崩れ落ちたが、すぐに立ち直って夫の子爵に食ってかかる。
「何するのよ!」
「それはこっちの台詞だ! 何なのだこの茶番は! 私はお前たちがヴァシレウス大王陛下の寵愛を受けたからお礼を申し上げに行くというので付き添いで来たのだ。だが蓋を開けてみれば何だこれは、そもそもの前提が何もかも間違っている!」
(あらあら。子爵はわりとまともなのね?)
けれどこの手の責任は連座なのだ。
夫人と娘が原因なら、夫であり父親の子爵には管理責任が問われる。
※カズン君が保護者(よりによってヴァシレウス大王)を連れてダンジョンに潜ったとき、おうちではこんなことが。
他の番外編へのリンク、↓に貼っておきましたー
多少BL要素ありますのでご注意ください。
8
お気に入りに追加
459
あなたにおすすめの小説
完結【真】ご都合主義で生きてます。-創生魔法で思った物を創り、現代知識を使い世界を変える-
ジェルミ
ファンタジー
魔法は5属性、無限収納のストレージ。
自分の望んだものを創れる『創生魔法』が使える者が現れたら。
28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。
そして女神が授けたのは、想像した事を実現できる創生魔法だった。
安定した収入を得るために創生魔法を使い生産チートを目指す。
いずれは働かず、寝て暮らせる生活を目指して!
この世界は無い物ばかり。
現代知識を使い生産チートを目指します。
※カクヨム様にて1日PV数10,000超え、同時掲載しております。

【完結】ポーションが不味すぎるので、美味しいポーションを作ったら
七鳳
ファンタジー
※毎日8時と18時に更新中!
※いいねやお気に入り登録して頂けると励みになります!
気付いたら異世界に転生していた主人公。
赤ん坊から15歳まで成長する中で、異世界の常識を学んでいくが、その中で気付いたことがひとつ。
「ポーションが不味すぎる」
必需品だが、みんなが嫌な顔をして買っていく姿を見て、「美味しいポーションを作ったらバカ売れするのでは?」
と考え、試行錯誤をしていく…

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

転生令嬢の食いしん坊万罪!
ねこたま本店
ファンタジー
訳も分からないまま命を落とし、訳の分からない神様の手によって、別の世界の公爵令嬢・プリムローズとして転生した、美味しい物好きな元ヤンアラサー女は、自分に無関心なバカ父が後妻に迎えた、典型的なシンデレラ系継母と、我が儘で性格の悪い妹にイビられたり、事故物件王太子の中継ぎ婚約者にされたりつつも、しぶとく図太く生きていた。
そんなある日、プリムローズは王侯貴族の子女が6~10歳の間に受ける『スキル鑑定の儀』の際、邪悪とされる大罪系スキルの所有者であると判定されてしまう。
プリムローズはその日のうちに、同じ判定を受けた唯一の友人、美少女と見まごうばかりの気弱な第二王子・リトス共々捕えられた挙句、国境近くの山中に捨てられてしまうのだった。
しかし、中身が元ヤンアラサー女の図太い少女は諦めない。
プリムローズは時に気弱な友の手を引き、時に引いたその手を勢い余ってブン回しながらも、邪悪と断じられたスキルを駆使して生き残りを図っていく。
これは、図太くて口の悪い、ちょっと(?)食いしん坊な転生令嬢が、自分なりの幸せを自分の力で掴み取るまでの物語。
こちらの作品は、2023年12月28日から、カクヨム様でも掲載を開始しました。
今後、カクヨム様掲載用にほんのちょっとだけ内容を手直しし、1話ごとの文章量を増やす事でトータルの話数を減らした改訂版を、1日に2回のペースで投稿していく予定です。多量の加筆修正はしておりませんが、もしよろしければ、カクヨム版の方もご笑覧下さい。
※作者が適当にでっち上げた、完全ご都合主義的世界です。細かいツッコミはご遠慮頂ければ幸いです。もし、目に余るような誤字脱字を発見された際には、コメント欄などで優しく教えてやって下さい。
※検討の結果、「ざまぁ要素あり」タグを追加しました。

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。
sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。
目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。
「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」
これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。
なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

家庭菜園物語
コンビニ
ファンタジー
お人好しで動物好きな最上 悠(さいじょう ゆう)は肉親であった祖父が亡くなり、最後の家族であり姉のような存在でもある黒猫の杏(あんず)も静かに息を引き取ろうとする中で、助けたいなら異世界に来てくれないかと、少し残念な神様に提案される。
その転移先で秋田犬の大福を助けたことで、能力を失いそのままスローライフをおくることとなってしまう。
異世界で新しい家族や友人を作り、本人としてはほのぼのと家庭菜園を営んでいるが、小さな畑が世界には大きな影響を与えることになっていく。

巻き込まれ召喚・途中下車~幼女神の加護でチート?
サクラ近衛将監
ファンタジー
商社勤務の社会人一年生リューマが、偶然、勇者候補のヤンキーな連中の近くに居たことから、一緒に巻き込まれて異世界へ強制的に召喚された。万が一そのまま召喚されれば勇者候補ではないために何の力も与えられず悲惨な結末を迎える恐れが多分にあったのだが、その召喚に気づいた被召喚側世界(地球)の神様と召喚側世界(異世界)の神様である幼女神のお陰で助けられて、一旦狭間の世界に留め置かれ、改めて幼女神の加護等を貰ってから、異世界ではあるものの召喚場所とは異なる場所に無事に転移を果たすことができた。リューマは、幼女神の加護と付与された能力のおかげでチートな成長が促され、紆余曲折はありながらも異世界生活を満喫するために生きて行くことになる。
*この作品は「カクヨム」様にも投稿しています。
**週1(土曜日午後9時)の投稿を予定しています。**
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる