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魔術師カズン、子供時代の終わり

ヴァシレウス大王の形見分け

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「カズン、ユーグレン。お前たちに渡しておくものがある」

 リースト伯爵領に滞在の初日、夜。

 入浴を済ませた後でヴァシレウスの泊まる部屋に呼ばれたカズンとユーグレンは、彼から金のメダルを貰った。メダルのサイズは大金貨と同じぐらいだろうか。表にはアケロニア王族の紋章、裏には何もない。

 ユーグレンには、一枚そのままのメダルを。

 カズンは一枚のメダルを半分に割ったものを。
 残り半分はヴァシレウスの大きな手の中にある。

「ヴァシレウス様、これは?」
「我々の先祖、初代国王から伝わるメダルでな。黄金に変えられた彼の息子の一部でできている」

「「!?」」

 カズンたち現在のアケロニア王族は、人間を黄金に変えて私腹を肥やした邪悪な錬金術師、前王家ロットハーナ一族を倒した男の末裔である。

 初代国王となった祖先は、妻と娘、息子の三人をロットハーナ一族の被害者として失っている。
 被害、即ちロットハーナの邪法によって黄金に変えられてしまったのだ。

 妻と娘は行方がわからないままだ。
 息子だけはまだ鋳溶かされていなかったことで、初代国王となった父親の持つ人物鑑定スキルによって黄金の中に残っていた本人の魂との対話から、捕らえられ黄金に変えられた経緯が判明していた。

 後にロットハーナ一族を討った男は、自分の人物鑑定スキルを通じて黄金となった息子と再び意思の疎通をはかった。
 息子は自分を素材にして新たな国王となった父のための王冠と王杖にするよう望んだという。

 今の国王はヴァシレウスの息子でカズンの異母兄のテオドロスだが、彼が王家の公式行事や儀式で被る王冠と持つ王杖は、初代国王の時代から代々受け継がれているものである。

「私は父から三枚受け取って、一枚は長男のテオドロスに渡しておる。そのうち、あやつの分は娘の王太女グレイシアに渡るだろう。もう一枚は我が伴侶セシリアにと考えていたのだが、彼女は辞退して、ユーグレン。お前に渡すよう希望したのだ」
「そうですか……セシリア様が」

 カズンの母セシリアは、ヴァシレウスから見ると曾孫に当たる。彼女は直系尊属のヴァシレウスの血を引き、また結ばれた。

 アケロニア王族の濃い血を持つが、一族の始祖ともいうべき初代国王から受け継がれてきたメダルは受け取らなかったという。
 自分より受け取るのに相応しい人がいるからと。



「それで残る一枚は、カズンへ。半分なのは、……私が死んだ後、私が持つ残り半分をお前が相続するよう遺書を書いてある」
「お、お父様! 縁起でもないこと言わないでください!」
「……そうは言っても、私ももう年だ。あと数年で百の大台に乗る。いつ何があってもおかしくないのだ」

 言って、そっとその大きな手のひらで、生前のうちに形見分けした半分のメダルを持つカズンの手を包み込んだ。

「まあ、安心するといい。お前も今年、学園を卒業すれば成人。卒業式の夜に一緒に酒を飲むのが私は楽しみなのだ」
「お酒ぐらい、もう飲めますよ!」
「そうか?」

 ヴァシレウスは自分の若い頃によく似た息子の、黒い瞳を優しげな表情で覗き込んだ。

 今は不安そうに揺れて自分を見つめてくるその表情に、何ともいえない愛おしさを感じた。

(身体はそこそこ大きくなったが、まだまだ子供だ。もうしばらく手元に置いて大事に守ってやりたいものだが)

 けれど息子カズンは、新世代の魔力使いのリンクを発現させてしまった。
 リンクは名前の通り、世界や世界の理と接続リンクするための術式だ。

 これに目覚めた術者は各々のリソースに応じた使命を帯びるようになる。

(そしてこの時期、我が国には前王家ロットハーナ一族が現れた。奴らに立ち向かうのはお前なのだろう。カズン)

「メダルを半分に割ってしまったから、端が欠けやすいだろう? ヨシュアかルシウスに、魔法樹脂で包んで補強してもらおうと思って、私もリースト伯爵領まで来たのだよ」
「なら、私も紐か鎖を通せるようペンダントにしてもらうことにしましょう。カズンはどうする?」
「……お父様と同じ形にする」
「じゃあ、三人一緒にペンダントにしてもらうか」



 まだ夜の早い時間なので、ヨシュアもルシウスも自室で寛いでいるはずだ。
 リースト伯爵家本邸の執事に尋ねると、二人とも執務室にいるということで向かうことにした。

 三人で頼みに行くと、ヨシュアが基本の魔法樹脂にメダルを封入し、ルシウスが破損防止など幾つか機能を付与して、紐を通す穴付きペンダントトップに仕上げてくれた。

「お父様とお揃いだあ」
「カズン、私ともお揃いだぞ?」
「……三人でお揃いだな、ははは!」

 同じメダルを持っている三人を、ヨシュアが羨ましそうに見つめている。

 そんな甥っ子をルシウスは心配そうに見ていたのだが、あえて何も口にすることはなかった。


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