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魔術師カズン、子供時代の終わり

どうも最初から自分は狙われていたらしい

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「へえ、ユーグレン、来れるのか」

 ヨシュアが帰っていって夕食の後にリビングで家人が持ち帰った手紙の返事を確認していると、今回はパスだろうなと思っていたユーグレンも参加するとのことで、カズンは驚いた。
 昨日、イクラの話題を出したときは、リースト伯爵領までは行けないと残念そうにしていたのだが。

「まあ夏だしな、テオドロスやグレイシアたちも活発には動かぬだろうし、文官たちの仕事も鈍い。……それに、お前とヨシュアがふたりきりとわかっていて、執務に身が入るわけがない」

 何やら父のヴァシレウスが訳知り顔で含み笑いしている。

「頻繁に三人で会えるのも学生時代のうちだけだろうしな。仲良くやるといい」
「うーん……そうでしょうか?」

 正直なところ、カズンはいまだに自分たちの、三人の関係がいまひとつピンときていない。
 本当なら、ユーグレンがヨシュアを上手く捕まえていればいいのだ。
 実際、ヨシュアの祖父はカズンの父の歳の離れた幼馴染みで、国王と魔道騎士団の団長という主従関係にあった。そんな感じで。

(なんでぼくが巻き込まれてるのだろう?)

 いまいち、よくわからない。

 そもそも、ユーグレンがヨシュアを推しているように、ヨシュアが自分を推しているというのも驚きなのだ。
 カズンにとってヨシュアは家族以外で一番親しい人間で、側にいて当たり前の存在だから、好きとか嫌いとか変な打算を絡めたくないのだ。

「ねえ、お父様は今の僕みたいな三角関係になったことはありますか?」
「カズンみたいな、すべて一方通行の三角関係はないな。相手からの矢印はすべて私に向いていたことばかりだ。ハハハハハ!」
「もう。お父様ったら」

 そもそも、矢印の終点のカズンには、矢印の向け先がない。

(あれ、じゃあ三角関係じゃないのでは???)

 明日から人物鑑定の仕事に出るとのことで、早々に部屋に戻っていった母セシリアにはとても聞かせられないような、父の武勇伝だ。



 カズンが首を傾げたりして考え込んでいると。

「お前の場合は、幼い頃からヨシュアが周りを牽制していたのだ。お前はこのヴァシレウスの息子で、現国王の王弟ぞ? 学友や側近候補の打診など山ほど来ていたに決まっている」
「ええっ? それは初めて聞きました!」

 しかし言われてみれば確かに、幼い頃から一番自分の側にいたのはヨシュアだ。

(あれ? というより、ヨシュアしかいなかった……ような……?)

 ユーグレンとも仲は良かったが、あちらは王子、こちらは王族とはいえ一貴族の子息。
 月に数回会えれば良いほうで、ヨシュアのように毎週、下手をすれば毎日互いのどちらかの家に行って遊びまくっていたわけではない。

「ヨシュアって……そう……なのか……」

 カズンにとってヨシュアといえば、最も親しい友人でその座は揺らいだことがない。
 だが、ヨシュアと自分の関係を考えていて、ふと、以前学園にいたとき彼がライルとグレンの関係を見て口にしたことが思い出されてきた。


『オレだったら、相手が逃げる前に、周りから逃げられないよう囲い込みますけどね』

『それで周囲から自分の良い評判をそれとなく、本人の耳に入るよう動いてもらって』

『あとは、自分以外の人間が相手に手を出さないよう、監視を付けると思います。横取りなんてされないよう、慎重に排除するでしょうね』

『だって、絶対に失敗したくないじゃないですか。これだ、と決めた相手は必ず手に入れたいですから』


 思えば、ヨシュアが自分の人間関係への所感を語ったのは、後にも先にもあのときだけだった。
 あのときは確か、ユーグレンがヨシュアに、既に慕う対象となる人物がいるのかを訊いていたのだった。
 それでヨシュアはどう答えたのだったか。あくまでも答えは濁していたように思う。

(あれって……僕のことを言ってた……のか、な?)

 そこでようやく、カズンはヨシュアの気持ちに意識を向け始めた。

(そうか……僕が推しというほどだから、あいつは謀略を巡らせて、自分以外を僕に近づけなかったってことなのか)

 そういえば、今は親しい友人となっているライルやグレンは、ヨシュアが亡父の後妻たちによるリースト伯爵家のお家乗っ取り事件の被害を受けて、学園に登校できなかった時期がきっかけで親しくなっている。

 もしかしたら、カズンのいる3年A組でライルが婚約破棄事件を起こしたとき、ヨシュアがその場にいたなら。

(ふうん……物事のタイミングとは不思議なものだな……)

 何にせよ、ヨシュアもユーグレンも押せ押せで怖い。
 むしろ、カズンだけが一方的に押されている気がする。

 何となく三人で一緒にいて当たり前になっているが、本気で自分も考えないと、押し切られて引き返せないところまで関係を進められてしまいそうだった。

(しかもどこに向かうかわからない。こわい!)


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