上 下
136 / 172
環《リンク》と魔術師フリーダヤ

「君に剣士の素質はない」

しおりを挟む
 その日の夜、ヨシュアが就寝しようという時間になって、バルコニーから窓を叩く音が聞こえてくる。
 警戒しながらカーテンを開けると、そこには昼間会ったばかりの、薄緑色の長い髪と瞳を持つ長く白いローブ姿の優男、フリーダヤがいる。

「やあ。ヨシュア君」
「フリーダヤ様、こんな時刻に何のご用でしょう? まさか夜這いとか?」
「まさか。カズンに怒られるようなことはしないさ。それに、そんなことしたらいくら私でもルシウスに殺される」

 昼間、午後に一度カズンやユーグレンとリースト伯爵家を訪れていたフリーダヤは、ヨシュアがカズンやユーグレンと親しい間柄なことを聞かされている。
 それに結局、リンクに関する話をした後は、ルシウスから如何に自分の甥が可愛く優秀か、本人の気が済むまでとことん甥っ子自慢に付き合わされてしまったのだ。
 ここであの男に捕まったら、また長話に付き合わされること間違いなしだ。

「そろそろ王都を出ようと思うんだけど、君のことが気になってたからさ」

 ヨシュアは寝間着姿のまま部屋へとフリーダヤを迎え入れる。
 茶でも用意させようかと言うと、それほど長居するつもりはないとのこと。

「久し振りに、存在として莫大な魔力量を持つ者に会ったからさ。もうちょっとだけアドバイスしておこうかと思って」
「! 是非に! それは願ってもないことです」

 銀の花咲く湖面の水色の瞳で、食い入るようにフリーダヤを見つめる。



「多分ね、君の一族は魔力量が多すぎて存在崩壊の危機に陥ったことがあるはずなんだ。その危機を切り抜けるために用いた術が、ダイヤモンドの魔法剣なんだと思うよ」

 ヨシュアが創り出し扱うダイヤモンドの魔法剣が、過剰に魔力を消費するものだとは指摘されたばかりだった。

「ですが、昼間伺った話だと、魔法剣こそが魔力を阻害していると仰ってたではありませんか」
「うーん……つまりさ、君のご先祖様の時代には、余分な魔力を一本一本、魔法剣に加工することで上手く消費していったわけさ。だけど子孫の君は、ご先祖様たちほど魔力があるわけではない。他の魔力使いより多いとはいっても、さ」

 そもそも、旧世代の魔力使いは、元々の血筋自体に大量の魔力を保持し、また更に増大させるような組み合わせの婚姻と子作りを続けて来ていることが多い。
 そうして得た強大な力を制御しきれず滅んでいった一族もまた、枚挙に暇がない。

「……魔法剣を捨てれば、その分の魔力が回復するということなのですね」
「捨てろとまでは言わない。でも、百本以上ある現在の魔法剣をとりあえず一つでいいから、魔力に還元してみることを勧めるよ。それを私から君への課題としよう」



 更に、とフリーダヤは自分のリンクを頭部の周りに発現させた。
 この位置にリンクが出る者は、知性に優れると言われている。
 光の円環が柔らかく室内を照らし出す。

リンクが発現できるようになると、自分のステータスにそれまで隠れていたスキルや称号が隠しステータスとして出てくるようになる。リンクを発現した上で総合鑑定スキルを持つと、魔力使いのステータスにカッコの中身が浮き出て見えるのさ」

 自分のステータスを表示してごらん、と優しく言われて、ヨシュアは素直にステータスを目の前に出した。


--

ヨシュア・リースト
  :リースト伯爵、学生
称号:魔法剣士、竜殺し

体力   6
魔力   8
知力   7
人間性  6
人間関係 3
幸運   1

--


 フリーダヤはヨシュアのステータス欄の“称号”の箇所を指差した。
 “魔法剣士”の文字が明滅している。
 そのまま見ていると、魔法剣士の称号は消えて、下から浮き出てくるように別の文字が現れた。

「大、魔道士……」
「そう。君は剣士の素質は、本来なら持ってない。先祖代々、魔法剣を受け継いでいるから魔法剣士になってるだけ」
「………………」

 さすがに、すぐには受け入れられなかった。
 金剛石ダイヤモンドの輝きを持つ魔法剣は、リースト伯爵家に生まれた男子の誇りである。

 亡くなった父カイルも、祖父メガエリスも、後見人として自分の仕事を手伝ってくれている叔父ルシウスも。

 数は違えど同じ剣を持っているからこそ、深く通じ合えるものがあるというのに。


しおりを挟む
感想 86

あなたにおすすめの小説

転生したら死んだことにされました〜女神の使徒なんて聞いてないよ!〜

家具屋ふふみに
ファンタジー
大学生として普通の生活を送っていた望水 静香はある日、信号無視したトラックに轢かれてそうになっていた女性を助けたことで死んでしまった。が、なんか助けた人は神だったらしく、異世界転生することに。 そして、転生したら...「女には荷が重い」という父親の一言で死んだことにされました。なので、自由に生きさせてください...なのに職業が女神の使徒?!そんなの聞いてないよ?! しっかりしているように見えてたまにミスをする女神から面倒なことを度々押し付けられ、それを与えられた力でなんとか解決していくけど、次から次に問題が起きたり、なにか不穏な動きがあったり...? ローブ男たちの目的とは?そして、その黒幕とは一体...? 不定期なので、楽しみにお待ち頂ければ嬉しいです。 拙い文章なので、誤字脱字がありましたらすいません。報告して頂ければその都度訂正させていただきます。 小説家になろう様でも公開しております。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

異世界でも男装標準装備~性別迷子とか普通だけど~

結城 朱煉
ファンタジー
日常から男装している木原祐樹(25歳)は 気が付くと真っ白い空間にいた 自称神という男性によると 部下によるミスが原因だった 元の世界に戻れないので 異世界に行って生きる事を決めました! 異世界に行って、自由気ままに、生きていきます ~☆~☆~☆~☆~☆ 誤字脱字など、気を付けていますが、ありましたら教えて頂けると助かります! また、感想を頂けると大喜びします 気が向いたら書き込んでやって下さい ~☆~☆~☆~☆~☆ カクヨム・小説家になろうでも公開しています もしもシリーズ作りました<異世界でも男装標準装備~もしもシリーズ~> もし、よろしければ読んであげて下さい

転生令嬢は現状を語る。

みなせ
ファンタジー
目が覚めたら悪役令嬢でした。 よくある話だけど、 私の話を聞いてほしい。

男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。

カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。 今年のメインイベントは受験、 あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。 だがそんな彼は飛行機が苦手だった。 電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?! あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな? 急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。 さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?! 変なレアスキルや神具、 八百万(やおよろず)の神の加護。 レアチート盛りだくさん?! 半ばあたりシリアス 後半ざまぁ。 訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前 お腹がすいた時に食べたい食べ物など 思いついた名前とかをもじり、 なんとか、名前決めてます。     *** お名前使用してもいいよ💕っていう 心優しい方、教えて下さい🥺 悪役には使わないようにします、たぶん。 ちょっとオネェだったり、 アレ…だったりする程度です😁 すでに、使用オッケーしてくださった心優しい 皆様ありがとうございます😘 読んでくださる方や応援してくださる全てに めっちゃ感謝を込めて💕 ありがとうございます💞

大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです

飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。 だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。 勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し! そんなお話です。

プラス的 異世界の過ごし方

seo
ファンタジー
 日本で普通に働いていたわたしは、気がつくと異世界のもうすぐ5歳の幼女だった。田舎の山小屋みたいなところに引っ越してきた。そこがおさめる領地らしい。伯爵令嬢らしいのだが、わたしの多少の知識で知る貴族とはかなり違う。あれ、ひょっとして、うちって貧乏なの? まあ、家族が仲良しみたいだし、楽しければいっか。  呑気で細かいことは気にしない、めんどくさがりズボラ女子が、神様から授けられるギフト「+」に助けられながら、楽しんで生活していきます。  乙女ゲーの脇役家族ということには気づかずに……。 #不定期更新 #物語の進み具合のんびり #カクヨムさんでも掲載しています

転生令嬢の食いしん坊万罪!

ねこたま本店
ファンタジー
   訳も分からないまま命を落とし、訳の分からない神様の手によって、別の世界の公爵令嬢・プリムローズとして転生した、美味しい物好きな元ヤンアラサー女は、自分に無関心なバカ父が後妻に迎えた、典型的なシンデレラ系継母と、我が儘で性格の悪い妹にイビられたり、事故物件王太子の中継ぎ婚約者にされたりつつも、しぶとく図太く生きていた。  そんなある日、プリムローズは王侯貴族の子女が6~10歳の間に受ける『スキル鑑定の儀』の際、邪悪とされる大罪系スキルの所有者であると判定されてしまう。  プリムローズはその日のうちに、同じ判定を受けた唯一の友人、美少女と見まごうばかりの気弱な第二王子・リトス共々捕えられた挙句、国境近くの山中に捨てられてしまうのだった。  しかし、中身が元ヤンアラサー女の図太い少女は諦めない。  プリムローズは時に気弱な友の手を引き、時に引いたその手を勢い余ってブン回しながらも、邪悪と断じられたスキルを駆使して生き残りを図っていく。  これは、図太くて口の悪い、ちょっと(?)食いしん坊な転生令嬢が、自分なりの幸せを自分の力で掴み取るまでの物語。  こちらの作品は、2023年12月28日から、カクヨム様でも掲載を開始しました。  今後、カクヨム様掲載用にほんのちょっとだけ内容を手直しし、1話ごとの文章量を増やす事でトータルの話数を減らした改訂版を、1日に2回のペースで投稿していく予定です。多量の加筆修正はしておりませんが、もしよろしければ、カクヨム版の方もご笑覧下さい。 ※作者が適当にでっち上げた、完全ご都合主義的世界です。細かいツッコミはご遠慮頂ければ幸いです。もし、目に余るような誤字脱字を発見された際には、コメント欄などで優しく教えてやって下さい。 ※検討の結果、「ざまぁ要素あり」タグを追加しました。

処理中です...