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この国には魔王がいる〜リースト子爵ルシウス

リースト子爵ルシウスへの報告

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 ロットハーナについて詳しいことがわかったと連絡を受けて、王宮にやってきたカズンは、同じように叔父と呼ばれていたヨシュアから簡単に事情を聞いて驚いた。
 その後、兄の国王テオドロスの執務室で聞いた話も概ね同じ内容で、以降の注意事項を確認して解散した後は、ユーグレンも一緒にサロンで情報交換することにした。

 そう。ついにカズンとユーグレンは、ヨシュアの保護者に報告すべき機会を迎えてしまったのだ。

 リースト子爵ルシウス。

 亡き父の跡を継いでリースト伯爵となったヨシュアの、父方の叔父である。ちなみに独身だ。
 外見はリースト伯爵家の一族に特有の、青みがかった銀髪を耳にかかる程度の短髪に切り揃え、軽く整髪料で前髪が顔にかからない程度に整え額を出している。

 瞳はヨシュアのようなアースアイではないが、色は同じ湖面の水色だ。

 全体的に甥のヨシュアと非常によく似た外見をしている。むしろヨシュアがこのまま大人になった姿といっても差し支えない。

 違うところがあるとすれば、年齢とすらりと高い背と正装の上からでもわかる、美しくバランスよく鍛えられた肉体だろうか。

 全体的に、大変な美男子といっていい。
 しかし彼の真価は、その外見にはない。
 極めて有能、そして万能、しかし深い情熱を持った傑物なのだ。
 現在のアケロニア王国を代表する、多方面における実力者のひとりだ。

 王宮内のサロンへ移動し、侍女たちがティーセットを配膳し下がるや否や。
 そのルシウスに、顔を合わせるなりじっと凝視されて、三人はそれぞれ固まった。
 対面しているだけで圧がすごい。この迫力こそが彼の一番の特徴だ。

「叔父様、何か……?」
「……ふむ、派閥問題だなんだとふざけたことを仕出かして、説教する気満々だったのだが。お前たち全員、単独でいるより三人でいたほうがステータスのバランスが取れている。これでは叱るに叱れぬ」
「「「はい!?」」」

 腰に響くような美声で嘆息されて、三人は緊張したまま飛び上がった。

「まず、ユーグレン王子」
「は、はい」
「あなたは元々、非常に調和した基本ステータスの持ち主だが、三人でいるとより安定する。他の二人との交流を通じてより人間的に成長していかれるものと思う」
「はい、助言ありがとうございます!」

「次に、カズン様」
「はい、ルシウス様」
「あなたは三人でいるとき、元の値より幸運値が上がっている。元々、魔力値以外は問題ないのだから、幸運を生かして様々なことを経験されるとよい。
「心得ます」

「そしてヨシュア。お前は……幸運値1は変わらずか。相変わらず不憫な子よな」
「叔父様あ……それのどこが『バランスが取れている』なのですか!」

 隣に座る甥の頭をぽんぽんと慈愛に満ちた手つきで軽く叩くも、憤慨したヨシュアに振り払われてしまっている。

 だが、てっきり長時間の説教をされるものと思っていたから、三人はそれぞれホッと息をつくことができたのだった。




 とはいえ、まだ話はあると、ルシウスは話を続けた。
 彼が自分でも独自に手を回して調べていた、旧王族ロットハーナ一族についての話だ。

「ラーフ公爵令息ジオライドの母親ゾエの実家、フォーセット侯爵家がかつて奴隷売買を大々的に行なっていた黒幕だったというのは、トークス子爵家が独自に掴んでいた情報だ。それが今回、人物鑑定で確証を得たわけだな」

 鑑定スキルで鑑定したからといって、何でもかんでも読み取れるわけではない。
 今回は、特級ランクの人物鑑定によって判明した偶然による結果だった。
 まず、ジオライドの母親ゾエの数代前の人物の出自に、“国際的奴隷売買組織オーナー”と表示されていた。それがロットハーナの件より先の問題だ。

「既に五十年以上前に、女傑イザベラによって違法な奴隷売買は法によって禁じられ、表向きは解決したとされる。だが、被害に遭った家やその家族たちはまだ忘れていない」

 過去、アケロニア王国内で横行した奴隷売買と誘拐は、平民だけでなく貴族たちも少なくない数が被害に遭っている。
 特に魔力を多く持つ家の者ほど狙われた。

 ヨシュアやルシウスの出身であるリースト伯爵家も例外ではなかった。



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