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夏休みは避暑地で温泉
夏休みは家族で避暑地へ
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(イザベラ嬢を救い、彼女を虐げていたジオライドとの婚約も無事に解消された。これで日々心を占めていたトラブルも解決! 憂いはなくなった!)
彼女の置かれたあまりの苦境を目の当たりにして胸は痛むわ、つられて魔力まで不安定になるわで散々だったカズンだ。
(しかしもう終わった。夏休みだ! 学生生活最後の夏休み!)
解放感で心身も爽快だった。
後は若者らしく弾けるだけである。
だが、そんな爽快感も夏休みに入って数日たつとだいぶ落ち着いてきて、以前の状態に戻った。
と思ったら。
「カズン。愛しい我が息子よ。だから言ったではないか、チョコレートの食べ過ぎは良くないぞと」
「違います、お父様! 確かに僕は毎日ショコラを食してましたが、執事がうるさくて一日3粒までしか口に入れておりません!」
自室の寝台の上にうつ伏せになって、医師の処置を受けながら、父ヴァシレウスからお小言を頂戴してしまった。
だが解せぬ。以前ユーグレンからせしめたガスター菓子店の中箱ショコラも、先日ヨシュアと買ってきた限定セットもすべて、笑顔の執事に奪われて自室に持ち込むことはかなわなかったではないか。
一口サイズのショコラ3粒で身体に害が出るなどあり得ない。
たとえそれが毎日のことだとしても。
「でもニキビが背中にできるって珍しいわねえ。あたくしも少女時代にできたことあるけど、ほっぺたとかだったわ」
「うう……」
夏休みに入って、宿題をこなしつつのんびり過ごしていたある日。
背中に鋭い痛みが走り、何事かと服を脱いで侍従に確認してもらうと、大小いくつかの吹き出物ができていた。
痛みが出たのは、そのうちの一つが服に擦れて潰れてしまったものらしい。
「お年頃の方のニキビは、セシリア様の仰る通り顔に出ることが多いのです。ですが、背中となると……。強いストレスを感じる出来事があると、大人でも背中に出やすいとが言われています。」
あ、とカズンも両親も当然思い当たることがある。
イザベラと元婚約者ジオライドの件では関係者すべてにかなりの強い精神的負荷がかかった。
「ほらやっぱり、ショコラのせいじゃなかった!」
あやうくショコラ禁止令が出るところだった。
それはカズンにとって、死ねと言われるに等しい宣告だ。泣いてしまう。
「首元やお腰の辺りに少し汗疹も出ていますね。今年は暑いですから、可能なら避暑地でゆっくり過ごされるとよろしいでしょう」
患部を清潔に保つことの指示と、解毒排毒のハーブティーを処方して、医師は帰っていった。
「確かに今年は暑い。避暑地行きは良い案だ」
「ですが旦那様、今の時期、王都を離れても良いものでしょうか?」
秋から冬にかけては王都では社交パーティーも増えるから、その準備に追われる。
自分たちに関していえば、まだロットハーナの件が片付いていない。
「ヴァシレウス様、それでしたら郊外の温泉地なら半日で行けますし、標高も高い場所ですから涼しく過ごせます。手配致しましょうか」
「あら、いいわね! 温泉ならお肌にも良いし、ニキビや汗疹にも効くのではなくて?」
執事の提案に乗ることにした。
「なら、ヨシュアにも連絡入れないと」
簡単な事情を手紙に書いて使用人を使いに出すと、夏休み期間中、一度は叔父に任せっぱなしのリースト伯爵領に戻らねばならないとの返事だった。
だがすぐに王都への帰り道に合流するとのこと。
家族旅行は往復時間を含めて一週間ほどの予定となった。
一家の護衛などを手配し、さっそく翌日から避暑地へ向かうことにした。
夏は暑さで体力が落ちやすい時期だから、社交好きの母セシリアもほとんど予定が入っていない。
父親ヴァシレウスは念の為、王宮に向けて息子の国王テオドロスに避暑地へ行く許可を得るため確認したようだ。
年齢を考えれば、温泉のある避暑地での休養はむしろ勧められたそうな。
そういえば、と行きの馬車の中で父にこんなことを訊かれた。
「カズン。ユーグレンに避暑地へ行くことを連絡したのか?」
「え? してないですよ? 必要があればテオドロスお兄ちゃまが伝えるでしょうし」
「お前たち、派閥問題の解決のために三人でいることにしたんじゃなかったのか?」
「うーん……ユーグレン殿下は僕じゃなくてヨシュアが好きな人ですからね。現地でヨシュアと合流した後も帰るまで短い時間しか一緒にいないでしょうし。あえて連絡する必要はないかと」
なお、この淡々としたカズンの対応が大間違いだったことは、後に判明する。
彼女の置かれたあまりの苦境を目の当たりにして胸は痛むわ、つられて魔力まで不安定になるわで散々だったカズンだ。
(しかしもう終わった。夏休みだ! 学生生活最後の夏休み!)
解放感で心身も爽快だった。
後は若者らしく弾けるだけである。
だが、そんな爽快感も夏休みに入って数日たつとだいぶ落ち着いてきて、以前の状態に戻った。
と思ったら。
「カズン。愛しい我が息子よ。だから言ったではないか、チョコレートの食べ過ぎは良くないぞと」
「違います、お父様! 確かに僕は毎日ショコラを食してましたが、執事がうるさくて一日3粒までしか口に入れておりません!」
自室の寝台の上にうつ伏せになって、医師の処置を受けながら、父ヴァシレウスからお小言を頂戴してしまった。
だが解せぬ。以前ユーグレンからせしめたガスター菓子店の中箱ショコラも、先日ヨシュアと買ってきた限定セットもすべて、笑顔の執事に奪われて自室に持ち込むことはかなわなかったではないか。
一口サイズのショコラ3粒で身体に害が出るなどあり得ない。
たとえそれが毎日のことだとしても。
「でもニキビが背中にできるって珍しいわねえ。あたくしも少女時代にできたことあるけど、ほっぺたとかだったわ」
「うう……」
夏休みに入って、宿題をこなしつつのんびり過ごしていたある日。
背中に鋭い痛みが走り、何事かと服を脱いで侍従に確認してもらうと、大小いくつかの吹き出物ができていた。
痛みが出たのは、そのうちの一つが服に擦れて潰れてしまったものらしい。
「お年頃の方のニキビは、セシリア様の仰る通り顔に出ることが多いのです。ですが、背中となると……。強いストレスを感じる出来事があると、大人でも背中に出やすいとが言われています。」
あ、とカズンも両親も当然思い当たることがある。
イザベラと元婚約者ジオライドの件では関係者すべてにかなりの強い精神的負荷がかかった。
「ほらやっぱり、ショコラのせいじゃなかった!」
あやうくショコラ禁止令が出るところだった。
それはカズンにとって、死ねと言われるに等しい宣告だ。泣いてしまう。
「首元やお腰の辺りに少し汗疹も出ていますね。今年は暑いですから、可能なら避暑地でゆっくり過ごされるとよろしいでしょう」
患部を清潔に保つことの指示と、解毒排毒のハーブティーを処方して、医師は帰っていった。
「確かに今年は暑い。避暑地行きは良い案だ」
「ですが旦那様、今の時期、王都を離れても良いものでしょうか?」
秋から冬にかけては王都では社交パーティーも増えるから、その準備に追われる。
自分たちに関していえば、まだロットハーナの件が片付いていない。
「ヴァシレウス様、それでしたら郊外の温泉地なら半日で行けますし、標高も高い場所ですから涼しく過ごせます。手配致しましょうか」
「あら、いいわね! 温泉ならお肌にも良いし、ニキビや汗疹にも効くのではなくて?」
執事の提案に乗ることにした。
「なら、ヨシュアにも連絡入れないと」
簡単な事情を手紙に書いて使用人を使いに出すと、夏休み期間中、一度は叔父に任せっぱなしのリースト伯爵領に戻らねばならないとの返事だった。
だがすぐに王都への帰り道に合流するとのこと。
家族旅行は往復時間を含めて一週間ほどの予定となった。
一家の護衛などを手配し、さっそく翌日から避暑地へ向かうことにした。
夏は暑さで体力が落ちやすい時期だから、社交好きの母セシリアもほとんど予定が入っていない。
父親ヴァシレウスは念の為、王宮に向けて息子の国王テオドロスに避暑地へ行く許可を得るため確認したようだ。
年齢を考えれば、温泉のある避暑地での休養はむしろ勧められたそうな。
そういえば、と行きの馬車の中で父にこんなことを訊かれた。
「カズン。ユーグレンに避暑地へ行くことを連絡したのか?」
「え? してないですよ? 必要があればテオドロスお兄ちゃまが伝えるでしょうし」
「お前たち、派閥問題の解決のために三人でいることにしたんじゃなかったのか?」
「うーん……ユーグレン殿下は僕じゃなくてヨシュアが好きな人ですからね。現地でヨシュアと合流した後も帰るまで短い時間しか一緒にいないでしょうし。あえて連絡する必要はないかと」
なお、この淡々としたカズンの対応が大間違いだったことは、後に判明する。
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