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王家の派閥問題

ヨシュアの決意

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 それから長じるにつれて、ヨシュアはまだ面識のないユーグレン王子の人となりを知っていくことになる。

 幼少期から全方向に優秀な王子として知られるユーグレンは、確かに優れた人物だった。
 性格も良く、魔力や身体能力にも優れる。以前のカズンと違って物覚えも良い。
 現王テオドロスの孫で、王太女の唯一の息子。それだけあって名家の子息たち取り巻きの数も多かった。

(対して、オレ一人しか友人のいなかったカズン様。王家の答えは最初から決まっていたように思う)

 ユーグレン派閥の者たちは、勝手にユーグレン王子の立場に忖度して動くから、タチが悪い。

 家の者に調べさせたユーグレン王子の情報に目を通すたび、思うことがある。

 彼を次世代の王として立場を確立させようと、カズンに呪詛を仕掛けたあの術者のことを思い出す。
 あの者は、カズンがユーグレン王子を追い落として王太子になる可能性を危惧して、暴挙に及んだ。

 だが、ユーグレンはカズンとは性格も能力も全然違う。
 確かにカズンは最高値の魔力をもっていたが、それ以外はアンバランスだった。どちらかといえば魔力と体力だけの無邪気なおバカさんだったほどで。

 ユーグレンは突出したステータスこそなかったが、どれも平均値以上を有していた。
 アケロニア王国は安定した国家だ。ユーグレンのようなバランス型の王のほうが治めるには適している。

 そもそも、カズンは先王の実子で王弟ではあっても、王子の称号は与えられていなかったではないか。
 ユーグレンが、生まれると同時に第一王子の称号を得たことと、対照的だった。

 ユーグレンは当初の予定通り次世代の国王として。
 カズンは最高の魔力を持つ王族として、魔法魔術騎士団の実力者として、側面からユーグレンを支えるような立ち位置で良かったはずだ。



 呪詛にかけられる前のパワフルなカズンの印象が強かったヨシュアは、再会した後、彼を危機に陥らせた償いをしたいと思った。

 カズンが望むなら、それこそユーグレン王子を蹴り落として王にすることも厭わない。
 父からも、カズンに忠誠を捧げたければ好きにしろと言われている。

 ところが、その頃には前世の記憶を思い出していたカズンから異世界の話を聞かされることになる。
 そしてヨシュアの幼い目論見は呆気なく崩れた。


「ぼくのいた国はねえ、王さまもきぞくもいないんだよ」


 王に相当する者はいたようだが、あくまでも国の象徴であり支配者ではなかったという。
 そんな前世を持っているだけあって、本人に王になる気がまるでない。

 むしろ、前世で学んだ歴史の知識があるから、「王さまなんてめんどうくさい」と言って、平気な顔で、誰より尊い自分の血の価値を笑い飛ばしていた。



 魔力を封じられる前と後で、カズンには性格の大きな変化があった。
 以前は、無邪気ながら圧の強い、強引でフリーダムな言動が目立つ子供だった。
 呪詛を受けた後では毒気も旨みも抜けて、妙に淡々とした理屈っぽい優等生タイプになった。

 反面、変わらないものもあった。
 たとえば、食い意地の張ったところはむしろヒートアップしている。

 ヨシュアの叔父にルシウスという天才的な人物がいるのだが、独身の料理上手で、ヨシュアとカズンは幼い頃からよく遊んで貰っていた。

 そのルシウスと一緒に、彼の家の厨房であれこれと調理を試しているうちに、カズンだけでなくヨシュアのステータスにも調理スキルが増えた。
 リースト伯爵家の本家筋の男子に新たなスキルが発現したのは、実に六世代振りとなる。

 それに、カズンといると不思議と、ヨシュアの幸運値1の弊害が出ない。
 一緒にいるカズンに何か悪影響が出ている気配もない。
 恐らく、相性が良くて互いのステータスを補完し合っているものと思われた。



 事件が起こる前のカズンとの時間は、ヨシュアにとって宝物のようなものだった。
 毎日笑って、全力で駆け回り、美味しいごはんやおやつを食べて、好きなことだけやっていた。

 事件後、ヨシュアを引っ張り回していたカズンは小粒な子供になってしまったけれど。

 いつか、あのときみたいな本来の姿に戻してあげたい、というのがヨシュアの念願となる。

(ずっと側にいたいなって、思ったんだ)

 ずっと一緒にいて、彼のために生きて喜びも悲しみも、ともに分かち合いたい。

 友情や愛情、思慕、忠誠、そういったものがごっちゃになった感情がヨシュアにはある。

 それが、ヨシュアのカズンへの想いだった。


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