40 / 172
ピンク頭の生徒再び
熊男の捕り物劇場1
しおりを挟む
騎士団本部で解散した後、カズンはライル、ヨシュア、グレンを連れて四人で学園へ向かった。
遅れて授業に参加するため登校したわけではない。明日以降、ドマ伯爵令息ナイサー包囲網を実行する許可を学園側に取り付けるためだった。
「困ったわねぇ。学園は不可侵領域なのよ。騎士団員を内部に入れたくないのよね」
事前に先触れを出しておいたお陰で、学園長は学長室でカズンたちを待っていてくれた。
ライノール伯爵エルフィン。
女言葉だが、れっきとした男性だ。
人間とは別種族“エルフ”の血を引く、すらっと背の高い麗人である。
白く長い髪を首の後ろでひとつにまとめ、透き通るような白い肌と薄紅に染まる頬、形の良い鼻と唇。
何より印象的なのは、ネオンカラーに光るブルーグリーンの瞳だ。鮮やかな蛍光色の瞳を持つのはエルフ族の特徴なのだ。
とはいえ、純血でないためエルフ族の特徴である、長くて尖った耳はない。
現役の伯爵で、常に家門の礼装を身にまとっている。墨色の生地に白の差し色、瞳と同じ鮮やかなブルーグリーンのラインの入った礼装は、装飾のミスリル銀と併せて大層彼に似合っている。
そんな彼は学園でファンクラブを持つ、数少ない人物の一人だった。
「でも、ナイサーの問題は学園側も把握されてますよね? 学園長」
「そうなのよねぇ……あの小熊ちゃんへの苦情はなかなか頭が痛いわ」
ナイサーはアケロニア王国の男子としては背が低く、ずんぐりむっくりな体型の男子生徒だ。脂肪で弛んでいるのではなく、鍛えて首が太く全体的に筋肉の塊なのだが、外見的な特徴はまさにグリズリー、“熊”みたいな印象がある。
学年はカズンたちと同じ3年生だが、成績劣等者のためのE組所属だった。
そのE組でも、頻繁に他の生徒たちと諍いを起こしては学園側から注意されている問題児として有名だ。
「今日はロザマリア嬢が休んでいますから、明日は必ずA組までナイサーが来るでしょう。そこを騎士たちに押さえてもらいます」
「うーん、短期決戦で済むならそのほうがいいのかしらぁ。仕方ない、許可するわ! ……でも実際、どうやってドマ伯爵令息を検挙するの?」
と訊かれたので、カズンは先ほど騎士団本部でホーライル侯爵たちとの話し合いの内容を詳しく説明した。
「それ、ドマ伯爵と話し合いの示談じゃ何とかならないのかしら?」
学園内で問題を起こしたくない学園長のライノールだったが、ライルははっきり否定した。
「そりゃ無理ってもんだぜ、学園長。ナイサーの野郎が仕出かしたことの規模がデカ過ぎるんだ。うちのホーライル侯爵家は全力で奴を追い詰める気満々だっての」
ナイサーが犯した犯罪は、時系列順に並べれば、まずグレンの実家の商会や異母妹絡みでの恫喝や恐喝。
次に、グレンを脅して女生徒に変装させ、ライルとロザマリアの婚約が破棄されるよう仕向けた。彼らの婚約破棄では、ライル側の有責でホーライル侯爵家は多額の慰謝料を支払っている。
そして、ロザマリアへの交際の強要。彼女は暴力を受けるのではないかと身の危険を感じている。
「……明日の放課後だけで片を付けてくれるなら、その後の事後処理は請け負うわ。長引くようなら、ドマ伯爵令息を含めた関係者すべて、事態が解決するまで登校禁止。いいわね?」
「了解しました。寛大な対応に感謝します、学園長」
話は付いた。あとは関係各所に学園側から騎士団立ち入りの許可を得たと連絡を入れれば、カズンたちのやることは一区切りとなる。
そのまま学長室の机を借りて、ライルのホーライル侯爵家、グレンのブルー男爵家、ロザマリアのシルドット家の三家に同じ文面の手紙を書いた。
手紙の最後に、カズン・アルトレイのサインを入れる。今回はアルトレイ女大公家の家紋ではなく、王弟としてアケロニア王国の王族の印を捺した。
少し離した下部に、学園長がライノール伯爵エルフィンとサインし、伯爵家と学園長の印を捺した。
手紙はこのまま、ライルは父のホーライル侯爵に、グレンは実家ブルー男爵家に持ち帰り、ロザマリアのシルドット家にはカズンが直接届けに行く。
明日は朝のホームルームでカズンとロザマリアの3年A組のクラスメイトたちに事情説明せねばならない。
午後の授業は中止にして、放課後までの準備を整えるのが良いだろう。
剣や体術が使える、腕に覚えのある男子生徒たちには残って貰って、ナイサーを拘束する手伝いを頼んでもいい。
遅れて授業に参加するため登校したわけではない。明日以降、ドマ伯爵令息ナイサー包囲網を実行する許可を学園側に取り付けるためだった。
「困ったわねぇ。学園は不可侵領域なのよ。騎士団員を内部に入れたくないのよね」
事前に先触れを出しておいたお陰で、学園長は学長室でカズンたちを待っていてくれた。
ライノール伯爵エルフィン。
女言葉だが、れっきとした男性だ。
人間とは別種族“エルフ”の血を引く、すらっと背の高い麗人である。
白く長い髪を首の後ろでひとつにまとめ、透き通るような白い肌と薄紅に染まる頬、形の良い鼻と唇。
何より印象的なのは、ネオンカラーに光るブルーグリーンの瞳だ。鮮やかな蛍光色の瞳を持つのはエルフ族の特徴なのだ。
とはいえ、純血でないためエルフ族の特徴である、長くて尖った耳はない。
現役の伯爵で、常に家門の礼装を身にまとっている。墨色の生地に白の差し色、瞳と同じ鮮やかなブルーグリーンのラインの入った礼装は、装飾のミスリル銀と併せて大層彼に似合っている。
そんな彼は学園でファンクラブを持つ、数少ない人物の一人だった。
「でも、ナイサーの問題は学園側も把握されてますよね? 学園長」
「そうなのよねぇ……あの小熊ちゃんへの苦情はなかなか頭が痛いわ」
ナイサーはアケロニア王国の男子としては背が低く、ずんぐりむっくりな体型の男子生徒だ。脂肪で弛んでいるのではなく、鍛えて首が太く全体的に筋肉の塊なのだが、外見的な特徴はまさにグリズリー、“熊”みたいな印象がある。
学年はカズンたちと同じ3年生だが、成績劣等者のためのE組所属だった。
そのE組でも、頻繁に他の生徒たちと諍いを起こしては学園側から注意されている問題児として有名だ。
「今日はロザマリア嬢が休んでいますから、明日は必ずA組までナイサーが来るでしょう。そこを騎士たちに押さえてもらいます」
「うーん、短期決戦で済むならそのほうがいいのかしらぁ。仕方ない、許可するわ! ……でも実際、どうやってドマ伯爵令息を検挙するの?」
と訊かれたので、カズンは先ほど騎士団本部でホーライル侯爵たちとの話し合いの内容を詳しく説明した。
「それ、ドマ伯爵と話し合いの示談じゃ何とかならないのかしら?」
学園内で問題を起こしたくない学園長のライノールだったが、ライルははっきり否定した。
「そりゃ無理ってもんだぜ、学園長。ナイサーの野郎が仕出かしたことの規模がデカ過ぎるんだ。うちのホーライル侯爵家は全力で奴を追い詰める気満々だっての」
ナイサーが犯した犯罪は、時系列順に並べれば、まずグレンの実家の商会や異母妹絡みでの恫喝や恐喝。
次に、グレンを脅して女生徒に変装させ、ライルとロザマリアの婚約が破棄されるよう仕向けた。彼らの婚約破棄では、ライル側の有責でホーライル侯爵家は多額の慰謝料を支払っている。
そして、ロザマリアへの交際の強要。彼女は暴力を受けるのではないかと身の危険を感じている。
「……明日の放課後だけで片を付けてくれるなら、その後の事後処理は請け負うわ。長引くようなら、ドマ伯爵令息を含めた関係者すべて、事態が解決するまで登校禁止。いいわね?」
「了解しました。寛大な対応に感謝します、学園長」
話は付いた。あとは関係各所に学園側から騎士団立ち入りの許可を得たと連絡を入れれば、カズンたちのやることは一区切りとなる。
そのまま学長室の机を借りて、ライルのホーライル侯爵家、グレンのブルー男爵家、ロザマリアのシルドット家の三家に同じ文面の手紙を書いた。
手紙の最後に、カズン・アルトレイのサインを入れる。今回はアルトレイ女大公家の家紋ではなく、王弟としてアケロニア王国の王族の印を捺した。
少し離した下部に、学園長がライノール伯爵エルフィンとサインし、伯爵家と学園長の印を捺した。
手紙はこのまま、ライルは父のホーライル侯爵に、グレンは実家ブルー男爵家に持ち帰り、ロザマリアのシルドット家にはカズンが直接届けに行く。
明日は朝のホームルームでカズンとロザマリアの3年A組のクラスメイトたちに事情説明せねばならない。
午後の授業は中止にして、放課後までの準備を整えるのが良いだろう。
剣や体術が使える、腕に覚えのある男子生徒たちには残って貰って、ナイサーを拘束する手伝いを頼んでもいい。
17
お気に入りに追加
457
あなたにおすすめの小説
かの世界この世界
武者走走九郎or大橋むつお
ファンタジー
人生のミス、ちょっとしたミスや、とんでもないミス、でも、人類全体、あるいは、地球的規模で見ると、どうでもいい些細な事。それを修正しようとすると異世界にぶっ飛んで、宇宙的規模で世界をひっくり返すことになるかもしれない。
外道魔法で異世界旅を〜女神の生まれ変わりを探しています〜
農民ヤズ―
ファンタジー
投稿は今回が初めてなので、内容はぐだぐだするかもしれないです。
今作は初めて小説を書くので実験的に三人称視点で書こうとしたものなので、おかしい所が多々あると思いますがお読みいただければ幸いです。
推奨:流し読みでのストーリー確認(
晶はある日車の運転中に事故にあって死んでしまった。
不慮の事故で死んでしまった晶は死後生まれ変わる機会を得るが、その為には女神の課す試練を乗り越えなければならない。だが試練は一筋縄ではいかなかった。
何度も試練をやり直し、遂には全てに試練をクリアする事ができ、生まれ変わることになった晶だが、紆余曲折を経て女神と共にそれぞれ異なる場所で異なる立場として生まれ変わりることになった。
だが生まれ変わってみれば『外道魔法』と忌避される他者の精神を操る事に特化したものしか魔法を使う事ができなかった。
生まれ変わった男は、その事を隠しながらも共に生まれ変わったはずの女神を探して無双していく
異世界転移したロボ娘が、バッテリーが尽きるまでの一ヶ月で世界を救っちゃう物語
京衛武百十
ファンタジー
<メイトギア>と呼ばれる人型ホームヘルパーロボット<タリアP55SI>は、旧式化したことでオーナーが最新の後継機に買い換えたため、データのすべてを新しい機体に引継ぎ、役目を終え、再資源化を迎えるだけになっていた。
なのに、彼女が次に起動した時にいたのは、まったく記憶にない中世ヨーロッパを思わせる世界だった。
要人警護にも使われるタリアP55SIは、その世界において、ありとあらゆるものを凌駕するスーパーパワーの持ち主。<魔法>と呼ばれる超常の力さえ、それが発動する前に動けて、生物には非常に強力な影響を与えるスタンすらロボットであるがゆえに効果がなく、彼女の前にはただ面倒臭いだけの大道芸に過ぎなかった。
<ロボット>というものを知らないその世界の人々は彼女を<救世主>を崇め、自分達を脅かす<魔物の王>の討伐を願うのであった。
アイムキャット❕~異世界キャット驚く漫遊記~
ma-no
ファンタジー
神様のミスで森に住む猫に転生させられた元人間。猫として第二の人生を歩むがこの世界は何かがおかしい。引っ掛かりはあるものの、猫家族と楽しく過ごしていた主人公は、ミスに気付いた神様に詫びの品を受け取る。
その品とは、全世界で使われた魔法が載っている魔法書。元人間の性からか、魔法書で変身魔法を探した主人公は、立って歩く猫へと変身する。
世界でただ一匹の歩く猫は、人間の住む街に行けば騒動勃発。
そして何故かハンターになって、王様に即位!?
この物語りは、歩く猫となった主人公がやらかしながら異世界を自由気ままに生きるドタバタコメディである。
注:イラストはイメージであって、登場猫物と異なります。
R指定は念の為です。
登場人物紹介は「11、15、19章」の手前にあります。
「小説家になろう」「カクヨム」にて、同時掲載しております。
一番最後にも登場人物紹介がありますので、途中でキャラを忘れている方はそちらをお読みください。
異世界転生~チート魔法でスローライフ
リョンコ
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。
43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。
その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」
大型連休を利用して、
穴場スポットへやってきた!
テントを建て、BBQコンロに
テーブル等用意して……。
近くの川まで散歩しに来たら、
何やら動物か?の気配が……
木の影からこっそり覗くとそこには……
キラキラと光注ぐように発光した
「え!オオカミ!」
3メートルはありそうな巨大なオオカミが!!
急いでテントまで戻ってくると
「え!ここどこだ??」
都会の生活に疲れた主人公が、
異世界へ転生して 冒険者になって
魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。
恋愛は多分ありません。
基本スローライフを目指してます(笑)
※挿絵有りますが、自作です。
無断転載はしてません。
イラストは、あくまで私のイメージです
※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが
少し趣向を変えて、
若干ですが恋愛有りになります。
※カクヨム、なろうでも公開しています
英雄召喚〜帝国貴族の異世界統一戦記〜
駄作ハル
ファンタジー
異世界の大貴族レオ=ウィルフリードとして転生した平凡サラリーマン。
しかし、待っていたのは平和な日常などではなかった。急速な領土拡大を目論む帝国の貴族としての日々は、戦いの連続であった───
そんなレオに与えられたスキル『英雄召喚』。それは現世で英雄と呼ばれる人々を呼び出す能力。『鬼の副長』土方歳三、『臥龍』所轄孔明、『空の魔王』ハンス=ウルリッヒ・ルーデル、『革命の申し子』ナポレオン・ボナパルト、『万能人』レオナルド・ダ・ヴィンチ。
前世からの知識と英雄たちの逸話にまつわる能力を使い、大切な人を守るべく争いにまみれた異世界に平和をもたらす為の戦いが幕を開ける!
完結まで毎日投稿!
30代社畜の私が1ヶ月後に異世界転生するらしい。
ひさまま
ファンタジー
前世で搾取されまくりだった私。
魂の休養のため、地球に転生したが、地球でも今世も搾取されまくりのため魂の消滅の危機らしい。
とある理由から元の世界に戻るように言われ、マジックバックを自称神様から頂いたよ。
これで地球で買ったものを持ち込めるとのこと。やっぱり夢ではないらしい。
取り敢えず、明日は退職届けを出そう。
目指せ、快適異世界生活。
ぽちぽち更新します。
作者、うっかりなのでこれも買わないと!というのがあれば教えて下さい。
脳内の空想を、つらつら書いているのでお目汚しな際はごめんなさい。
転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。
克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります!
辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる