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海の街へ飯テロ旅行
海老でフライは間違いない
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さて、それから十数分後。
達成感溢れる表情でカズンとライルが持ってきたのは、フライものだった。
一つは有頭・尻尾付きの海老フライ。
もう一つは、円盤形のフライ。
白い皿の中央に中サイズの海老2本と、円盤型フライ1枚が載せられ、彩りの香草とレモンの櫛切りが載せられている。
「海老と、海老の身の叩きをまとめたものに、溶き卵とパン粉をまぶして揚げてみたのだ」
「随分地味な見た目の料理だな?」
自信満々に胸を張ったカズンに対し、こんがりきつね色だが茶色いフライ料理を見て、ユーグレンは訝しげな表情だ。
アケロニア王国で揚げ物はあまり一般的でない調理方法だ。
揚げ物といえば素材の形と色が見える素揚げがメインで、こういう衣を付けたものは珍しい。
「そう思うだろ? とりあえず、レモンかけて食って見てくれ」
カズンと共に再びエプロンと三角巾を装着していたライルが、これまた自信満々にユーグレン、ヨシュアに勧めた。
「そこまで言うなら……」
言われるままにフライへレモン汁を振りかけ、ナイフとフォークで海老の頭と尻尾を切り離し、一口大に切り分けてから口へ運ぶ。
「む」
「おお、これはこれは」
フォークを刺したときの手応えでわかっていたが、ざくっとした軽いパン粉衣の歯応えの良さ。
そして口いっぱいに広がる海老の旨味。
レモンの爽やかな酸味と合わさって、非常に食べやすく舌を楽しませる料理だった。
驚いて次から次へ口に運ぶ二人の様子に満足して、カズンは隣のライルを促した。
「そんで! 次は是非こっちのソースをかけて食ってみてくれ!」
ライルが持つ配膳用のトレーの上には、人数分の小皿が載っている。
小皿には黄色味がかった具入りのソースが入っている。
「円盤の形をした揚げ物も試してくれるか?」
カズンに言われるまま、ソースをスプーンですくって円盤形のフライに添え、カットしたフライを付けていただく。
「「……!」」
ヨシュアとユーグレンの反応はなかなかだ。
カズンはライルとともに、己たちの勝利を確信した。
「揚げ物にマヨネーズベースのソースをかけるだなんて。背徳的な組み合わせです、カズン様」
自前の物品鑑定スキルで材料を見抜いたヨシュアが、しみじみ呟いた。
タルタルソースの材料は、マネヨーズ、ゆで卵のみじん切り、タマネギのみじん切り、パセリなど香草、後は軽く塩や胡椒。今回はレモン汁も加えてある。
「このフライなる揚げ物も素晴らしい。我がリースト伯爵領の鮭でも今度試してみますね」
「うむ、サーモンフライにタルタルソース。海老に勝るとも劣らぬマリアージュよな」
「ですよね! うちのサーモンパイにバリエーションが広がりそうです」
ユーグレンや、調理を手伝ってくれていた調理師たちが、ワインが欲しい、いやこの揚げ物にはエール一択! などと悶えている。
なお、このアケロニア王国の成人は18歳で、今回の学生組の中で成人しているのは春生まれのユーグレンだけだ。
余談だが、爵位を継承するとたとえ幼児でも成人扱いとなる。
既にリースト伯爵のヨシュアも実年齢は未成年だが、社会的には成人だ。
もっとも、まだ本人に飲酒の意思がないことをカズンは知っている。
「まだ揚げたやつがあるから、腹に余裕があれば遠慮しねえでくれ」
調理場から油切りバットごと、ライルが残りのフライを持ってきた。
「ふ。海老の円盤形フライもとい海老カツといえば、これをやらねばな」
心得たとばかりに、カズンも調理場から何やら野菜の千切りや調味料を持ってきた。
更には紙ナプキンまで。
「こう、丸パンを半分に切るだろう?」
テーブル上のパン籠から、ミルク入りの柔らかな丸パンを手に取り、使っていなかった予備のナイフで横から切れ目を入れる。
そこにバターではなく、マスタードを薄く塗る。
その上に細かく千切りにしたキャベツ、海老カツと重ねていき、最後にタルタルソースをたっぷりと。
出来上がったものは紙ナプキンで包んで、持つ手が汚れないようにした。
「というわけで、海老カツサンドの完成だ」
やりきったという達成感に満ちた表情のカズンに、「それ俺食いたい!」と速攻手を上げるライル。
対して、ヨシュアとユーグレンは少しだけ引き気味だった。
「揚げ物をパンに挟むなど……大丈夫なのか?」
「ええ……凄いこと考えますよね?」
もちろん、アケロニア王国にもサンドイッチはある。
ただ、従来だと挟む具は野菜やゆで卵、肉は燻製などが主流で、脂っ気の多いものは入れないことが多かった。
「ふっふっふ。さあ、二人ともどうする?」
眼鏡のレンズを光らせながら不遜に笑うカズンに、ヨシュアとユーグレンは顔を見合わせた。
既にフライで味をしめている調理師たちは、率先して海老カツサンド作りを買って出てくれている。
「あれ、二人とも食わねえの? ならオレ残り貰ってもいいか?」
「ああ、存分に食せライル。僕もいただくが、余った分は食堂の皆さんが美味しくいただいてくれるだろう」
おう! と食堂のあちこちで声が上がる。
今回は商業ギルド内の調理室を借りて実験しており、ここは食堂の一角だ。
さすがに王族がお忍びで来ているため遠巻きにされているが、領主の息子が調理スキル持ちと何やら調理実験しているとは聞いているらしく、興味津々らしい。
「……っ、カズン様が言うなら絶対美味しいはず! 一つお願いします!」
「……私も一つ頼む」
「毎度ありがとうございます」
紙ナプキンで包んだ海老カツサンドを皿に載せて、一つずつサーブした。
達成感溢れる表情でカズンとライルが持ってきたのは、フライものだった。
一つは有頭・尻尾付きの海老フライ。
もう一つは、円盤形のフライ。
白い皿の中央に中サイズの海老2本と、円盤型フライ1枚が載せられ、彩りの香草とレモンの櫛切りが載せられている。
「海老と、海老の身の叩きをまとめたものに、溶き卵とパン粉をまぶして揚げてみたのだ」
「随分地味な見た目の料理だな?」
自信満々に胸を張ったカズンに対し、こんがりきつね色だが茶色いフライ料理を見て、ユーグレンは訝しげな表情だ。
アケロニア王国で揚げ物はあまり一般的でない調理方法だ。
揚げ物といえば素材の形と色が見える素揚げがメインで、こういう衣を付けたものは珍しい。
「そう思うだろ? とりあえず、レモンかけて食って見てくれ」
カズンと共に再びエプロンと三角巾を装着していたライルが、これまた自信満々にユーグレン、ヨシュアに勧めた。
「そこまで言うなら……」
言われるままにフライへレモン汁を振りかけ、ナイフとフォークで海老の頭と尻尾を切り離し、一口大に切り分けてから口へ運ぶ。
「む」
「おお、これはこれは」
フォークを刺したときの手応えでわかっていたが、ざくっとした軽いパン粉衣の歯応えの良さ。
そして口いっぱいに広がる海老の旨味。
レモンの爽やかな酸味と合わさって、非常に食べやすく舌を楽しませる料理だった。
驚いて次から次へ口に運ぶ二人の様子に満足して、カズンは隣のライルを促した。
「そんで! 次は是非こっちのソースをかけて食ってみてくれ!」
ライルが持つ配膳用のトレーの上には、人数分の小皿が載っている。
小皿には黄色味がかった具入りのソースが入っている。
「円盤の形をした揚げ物も試してくれるか?」
カズンに言われるまま、ソースをスプーンですくって円盤形のフライに添え、カットしたフライを付けていただく。
「「……!」」
ヨシュアとユーグレンの反応はなかなかだ。
カズンはライルとともに、己たちの勝利を確信した。
「揚げ物にマヨネーズベースのソースをかけるだなんて。背徳的な組み合わせです、カズン様」
自前の物品鑑定スキルで材料を見抜いたヨシュアが、しみじみ呟いた。
タルタルソースの材料は、マネヨーズ、ゆで卵のみじん切り、タマネギのみじん切り、パセリなど香草、後は軽く塩や胡椒。今回はレモン汁も加えてある。
「このフライなる揚げ物も素晴らしい。我がリースト伯爵領の鮭でも今度試してみますね」
「うむ、サーモンフライにタルタルソース。海老に勝るとも劣らぬマリアージュよな」
「ですよね! うちのサーモンパイにバリエーションが広がりそうです」
ユーグレンや、調理を手伝ってくれていた調理師たちが、ワインが欲しい、いやこの揚げ物にはエール一択! などと悶えている。
なお、このアケロニア王国の成人は18歳で、今回の学生組の中で成人しているのは春生まれのユーグレンだけだ。
余談だが、爵位を継承するとたとえ幼児でも成人扱いとなる。
既にリースト伯爵のヨシュアも実年齢は未成年だが、社会的には成人だ。
もっとも、まだ本人に飲酒の意思がないことをカズンは知っている。
「まだ揚げたやつがあるから、腹に余裕があれば遠慮しねえでくれ」
調理場から油切りバットごと、ライルが残りのフライを持ってきた。
「ふ。海老の円盤形フライもとい海老カツといえば、これをやらねばな」
心得たとばかりに、カズンも調理場から何やら野菜の千切りや調味料を持ってきた。
更には紙ナプキンまで。
「こう、丸パンを半分に切るだろう?」
テーブル上のパン籠から、ミルク入りの柔らかな丸パンを手に取り、使っていなかった予備のナイフで横から切れ目を入れる。
そこにバターではなく、マスタードを薄く塗る。
その上に細かく千切りにしたキャベツ、海老カツと重ねていき、最後にタルタルソースをたっぷりと。
出来上がったものは紙ナプキンで包んで、持つ手が汚れないようにした。
「というわけで、海老カツサンドの完成だ」
やりきったという達成感に満ちた表情のカズンに、「それ俺食いたい!」と速攻手を上げるライル。
対して、ヨシュアとユーグレンは少しだけ引き気味だった。
「揚げ物をパンに挟むなど……大丈夫なのか?」
「ええ……凄いこと考えますよね?」
もちろん、アケロニア王国にもサンドイッチはある。
ただ、従来だと挟む具は野菜やゆで卵、肉は燻製などが主流で、脂っ気の多いものは入れないことが多かった。
「ふっふっふ。さあ、二人ともどうする?」
眼鏡のレンズを光らせながら不遜に笑うカズンに、ヨシュアとユーグレンは顔を見合わせた。
既にフライで味をしめている調理師たちは、率先して海老カツサンド作りを買って出てくれている。
「あれ、二人とも食わねえの? ならオレ残り貰ってもいいか?」
「ああ、存分に食せライル。僕もいただくが、余った分は食堂の皆さんが美味しくいただいてくれるだろう」
おう! と食堂のあちこちで声が上がる。
今回は商業ギルド内の調理室を借りて実験しており、ここは食堂の一角だ。
さすがに王族がお忍びで来ているため遠巻きにされているが、領主の息子が調理スキル持ちと何やら調理実験しているとは聞いているらしく、興味津々らしい。
「……っ、カズン様が言うなら絶対美味しいはず! 一つお願いします!」
「……私も一つ頼む」
「毎度ありがとうございます」
紙ナプキンで包んだ海老カツサンドを皿に載せて、一つずつサーブした。
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