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第五章 鮭の人無双~環《リンク》覚醒ハイ進行中
本人たち置き去りの王位継承争い
しおりを挟むそれからアケロニア組三人は、彼らにまつわる故郷での政争の話を教えてくれた。
以前、ルシウスやユーグレンから少し聞いていた話の詳細だ。
「オレたちが幼かった頃、ユーグレン様とカズン様どちらが王太子になるか家臣たちが揉めたことがあるんです。まあ実際は王家は最初からユーグレン様だってちゃんと決めてて、勝手に派閥が作られただけなんですが」
「その当時のこと、僕は幼すぎて覚えてないんだ。後からヨシュアや父たちからも教えられて驚いたのなんの」
「うむ……私も驚いた」
カズンとユーグレンは同い年の王族男子だが、ユーグレンは春生まれ、カズンは年末の冬生まれで遅い生まれになる。
春に王子としてユーグレンが生まれて次世代の国王を得たと皆が喜んでいたら、若い後妻を娶った退位済みの先王が年末にカズンを儲けて大騒ぎになった。
ユーグレンは当時の国王の孫で、現女王となる王太女の息子だ。
カズンは当時の先王ヴァシレウス大王の息子で、国王の異母弟。王太女の年下の叔父となる。ついでにいえばユーグレンにとってカズンは年下でありながら大叔父だ。
「今のアケロニア王族はややこしいよね……。図説するとこう」
古書店の店主で知識と教養のあるトオンは口で話を聞いただけで理解したが、難しいと溜め息をつくアイシャのために、ノートに簡単にアケロニア王家の系図をまとめた。
図説すると、ヴァシレウス大王から伸びる単純な樹形図になる。
「この場合、王家の正統はユーグレンさんなんだ。ちゃんと王様の孫で王太女様の嫡男だからね。でもカズンがヴァシレウス大王様っていう偉大な王様の息子で生まれて……」
「そうだ。私とてヴァシレウス様の曾孫だが、ヴァシレウス様に血の近いカズンこそが王太子になるべきだと言い出したカズン派の派閥ができたんだ」
「ちなみにその派閥は、僕はもちろん、父や王家の許可は一切取ってなかったそうだ。勝手に盛り上がってただけ」
「うわあ」
トオンからすると今までアケロニア王族はカズンやユーグレン、それに手紙や贈答品のやりとりをしていたカズンの母親に先王や現女王も含め、印象の良い人たちばかりだった。
基本的にとても仲の良い王族だそうなので、勝手にトラブルを発生させた周囲に王家は頭を抱えたことだろう。
「それでオレたちが四歳の頃、ユーグレン様派閥の貴族がカズン様に暗殺者を差し向けまして。暗殺は無事防げたんですけど代わりに呪詛を受けてしまって」
「呪詛!? え、カズンが受けたの!?」
「カズン様とオレ、二人ともです。その影響でオレは幸運値が3から1に、カズン様は……」
そこで鮭の人は続きを口にするのを少し躊躇った。だがカズンをじっと見つめて、覚悟したように再び口を開く。
「カズン様は、魔力値10から2に落ちました。その上、襲撃を受けた前後のことを忘れてしまったんです」
「忘れて、って。僕にはそんな記憶まったくないのだが」
カズンが不思議そうに首を傾げている。
「覚えてないじゃなくて、忘れてしまったってこと?」
「……ええ。実際、遊び友達だったはずのオレは、次にカズン様にお会いしたとき『はじめまして!』と挨拶されましたから。襲撃の前後数ヶ月分の記憶がすっぽり抜け落ちて、オレとの出会いも忘れてしまったんです」
悲しげに鮭の人が微笑んだ。ルシウスそっくりの麗しの顔でそういう表情をされると、消えてしまいそうなほど儚げで胸が締め付けられそうになる。
「いや待って。それはともかく、魔力値10から2って。え、でもカズンのステータスって」
「うむ、2のままだ。……って僕の魔力値が10だったと!?」
ガタッと椅子を蹴り倒さんばかりの勢いでカズンが立ち上がった。
「反応が遅い! というか本人のお前がなぜ知らんのだ?」
「お、お父様にもお母様にもお兄ちゃまにも聞いたことがないぞ!? 嘘だ、本当は10だったなら僕は……僕は……」
「カズン、それは。私の推測だが、……お父上のヴァシレウス様はお前が学園を卒業して成人したら話そうと思ってらしたんじゃないだろうか。だがヴァシレウス様は、その……亡くなられてしまったわけだし」
「!」
躊躇いがちで言いにくそうなユーグレンの歯切れの悪さとその内容に、カズンの端正な顔が言いようのない感情に歪んだ。
「カズン」
「カズン様」
アイシャと鮭の人が心配の声をかけるが、カズンはややあって黒髪の頭を軽く振ると厨房に行ってしまった。気分転換に茶でも入れ直してくるのだろう。
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