261 / 296
第五章 鮭の人無双~環《リンク》覚醒ハイ進行中
6.鮭イクラでお昼ごはん
しおりを挟む
その日、トオンの古書店の厨房では、朝食後からずっとカズンとアイシャがこもりきりだった。
何をやってるんだ? とトオンとユーグレンが食堂から厨房を覗くと、何だか中が血生臭い。
「ルシウスさんのところから、生の紅鮭の差し入れを貰ったんですって」
「なるほど」
朝食を終えた頃、カズンの環宛に鮭の人から魔法樹脂に封入された生の紅鮭が送られてきた。
彼の故郷アケロニア王国、リースト侯爵領産の鮭だ。ここカーナ神国の首都に開いたレストラン・サルモーネで扱う食材のうち、比較的小型で調理しやすいものを分けてくれたのだ。
カズンはカーナ姫から賜った魚切り包丁(聖剣)片手に浮き浮きしながら鮭を捌いている。
川で漁獲した後、活き締めして即封入された鮭だ。今にも動き出しそうなほど新鮮である。
腹から捌いていくと、紅鮭の名前の由来にもなっている鮮やかな紅色の身と、そして。
「出た! 鮭の魚卵! 筋子だ!」
「わあー。きれいなガーネット色。ユキノ君のお目々みたい!」
細い血管の走る膜に包まれた魚卵を掲げるカズンは、宝物を得た英雄の如くだ。
すかさずアイシャは事前の打ち合わせ通り、ボウルに張っていた水に魔力を作用させて湯を作る。温度は五十度前後、手を入れると「熱ッ」となるぐらい。
ボウルは二個。横にびろーんと長細い筋子を中央で慎重にちぎり、半分ずつボウルの中の湯に突っ込んだ。
「さあ行くぞ、アイシャ。優しく丁寧に膜から魚卵を外していくのだ!」
「了解です!」
「魚卵か……。私はちょっとな。あの感触が苦手で。それに食べて本当に大丈夫なのか不安でなあ」
料理のアクセントに少量使われるなら良いのだが、メインで食べたいかと言われると少し悩む。
一般的にこの世界では、魚卵は廃棄がほとんどだ。ごく一部だけキャビアのように塩漬けにして料理の飾りにする程度で。
あるいは丸ごと煮魚や焼き魚にできる、ごく小さな粒の魚卵ぐらいだ。
なぜかといえば、魚卵には寄生虫や毒を持つことが多いためという衛生上の観点からである。
だが辟易とするユーグレンに、カズンはボウルの中の筋子をほぐしながら振り向いた。
「ここに座すはどなたと心得る? 清浄魔法上級スキル持ちの聖女アイシャ様ぞ?」
「ふふ。任せて。任せて! この聖女アイシャにお任せあれ! お任せあれー!」
「捌く前に清浄魔法していただいているのだ!」
「もうバッチリです!」
魚卵推しのカズンと、そんなカズンに持ち上げられたアイシャ。二人はユーグレンがドン引きするほどテンション上げ上げだった。
「この二人、生鮭が届いた午前中からずっとこの調子。楽しそうだよね」
飯マズのトオンには入れない絆が、あの二人の間にはある。
さあ、鮭の魚卵筋子をイクラにする作業の始まりだ。
熱めの湯の中で丁寧に解して、膜や血管などを除去する。
その後、水で軽く洗って細かいゴミを流してからザルで水切り。
お湯洗いと水洗いで魚卵の表面が白く濁ってしまったが、そのまま煮沸消毒した瓶の中に詰めた。
「出汁を加えてもよいのだが、ここはシンプルに醤油で味付けしよう」
景気良く、どばどばと醤油を注ぎ込んだ。
すると白く濁っていた魚卵は、醤油色を帯びた本来の明るい赤色に戻っていった。これがイクラの醤油漬けである。
お次は魚卵を取り出した後の紅鮭本体だ。以前は鮭の扱いに慣れたルシウスがいたので、アイシャは詳しい捌き方をまだ知らなかった。良い機会なのでカズンから習っておくことにしたのだ。
「すごい。身もきれいな紅色。美味しそう」
「こいつは塩を濃いめにきかせて焼き鮭にすると美味いんだ。今日食べる分以外は軽く干しておこう」
今日の昼に食べる分は、骨周りの身を丁寧にスプーンでこそげ取ったものをたたきにして。
生のままでも良いし、少しだけ表面を炙ったものも風味や感触が変わって美味い。
「米もそろそろ炊ける。準備は万端。さて汁物は何にするか」
何をやってるんだ? とトオンとユーグレンが食堂から厨房を覗くと、何だか中が血生臭い。
「ルシウスさんのところから、生の紅鮭の差し入れを貰ったんですって」
「なるほど」
朝食を終えた頃、カズンの環宛に鮭の人から魔法樹脂に封入された生の紅鮭が送られてきた。
彼の故郷アケロニア王国、リースト侯爵領産の鮭だ。ここカーナ神国の首都に開いたレストラン・サルモーネで扱う食材のうち、比較的小型で調理しやすいものを分けてくれたのだ。
カズンはカーナ姫から賜った魚切り包丁(聖剣)片手に浮き浮きしながら鮭を捌いている。
川で漁獲した後、活き締めして即封入された鮭だ。今にも動き出しそうなほど新鮮である。
腹から捌いていくと、紅鮭の名前の由来にもなっている鮮やかな紅色の身と、そして。
「出た! 鮭の魚卵! 筋子だ!」
「わあー。きれいなガーネット色。ユキノ君のお目々みたい!」
細い血管の走る膜に包まれた魚卵を掲げるカズンは、宝物を得た英雄の如くだ。
すかさずアイシャは事前の打ち合わせ通り、ボウルに張っていた水に魔力を作用させて湯を作る。温度は五十度前後、手を入れると「熱ッ」となるぐらい。
ボウルは二個。横にびろーんと長細い筋子を中央で慎重にちぎり、半分ずつボウルの中の湯に突っ込んだ。
「さあ行くぞ、アイシャ。優しく丁寧に膜から魚卵を外していくのだ!」
「了解です!」
「魚卵か……。私はちょっとな。あの感触が苦手で。それに食べて本当に大丈夫なのか不安でなあ」
料理のアクセントに少量使われるなら良いのだが、メインで食べたいかと言われると少し悩む。
一般的にこの世界では、魚卵は廃棄がほとんどだ。ごく一部だけキャビアのように塩漬けにして料理の飾りにする程度で。
あるいは丸ごと煮魚や焼き魚にできる、ごく小さな粒の魚卵ぐらいだ。
なぜかといえば、魚卵には寄生虫や毒を持つことが多いためという衛生上の観点からである。
だが辟易とするユーグレンに、カズンはボウルの中の筋子をほぐしながら振り向いた。
「ここに座すはどなたと心得る? 清浄魔法上級スキル持ちの聖女アイシャ様ぞ?」
「ふふ。任せて。任せて! この聖女アイシャにお任せあれ! お任せあれー!」
「捌く前に清浄魔法していただいているのだ!」
「もうバッチリです!」
魚卵推しのカズンと、そんなカズンに持ち上げられたアイシャ。二人はユーグレンがドン引きするほどテンション上げ上げだった。
「この二人、生鮭が届いた午前中からずっとこの調子。楽しそうだよね」
飯マズのトオンには入れない絆が、あの二人の間にはある。
さあ、鮭の魚卵筋子をイクラにする作業の始まりだ。
熱めの湯の中で丁寧に解して、膜や血管などを除去する。
その後、水で軽く洗って細かいゴミを流してからザルで水切り。
お湯洗いと水洗いで魚卵の表面が白く濁ってしまったが、そのまま煮沸消毒した瓶の中に詰めた。
「出汁を加えてもよいのだが、ここはシンプルに醤油で味付けしよう」
景気良く、どばどばと醤油を注ぎ込んだ。
すると白く濁っていた魚卵は、醤油色を帯びた本来の明るい赤色に戻っていった。これがイクラの醤油漬けである。
お次は魚卵を取り出した後の紅鮭本体だ。以前は鮭の扱いに慣れたルシウスがいたので、アイシャは詳しい捌き方をまだ知らなかった。良い機会なのでカズンから習っておくことにしたのだ。
「すごい。身もきれいな紅色。美味しそう」
「こいつは塩を濃いめにきかせて焼き鮭にすると美味いんだ。今日食べる分以外は軽く干しておこう」
今日の昼に食べる分は、骨周りの身を丁寧にスプーンでこそげ取ったものをたたきにして。
生のままでも良いし、少しだけ表面を炙ったものも風味や感触が変わって美味い。
「米もそろそろ炊ける。準備は万端。さて汁物は何にするか」
1
お気に入りに追加
3,939
あなたにおすすめの小説
【完結】家族にサヨナラ。皆様ゴキゲンヨウ。
くま
恋愛
「すまない、アデライトを愛してしまった」
「ソフィア、私の事許してくれるわよね?」
いきなり婚約破棄をする婚約者と、それが当たり前だと言い張る姉。そしてその事を家族は姉達を責めない。
「病弱なアデライトに譲ってあげなさい」と……
私は昔から家族からは二番目扱いをされていた。いや、二番目どころでもなかった。私だって、兄や姉、妹達のように愛されたかった……だけど、いつも優先されるのは他のキョウダイばかり……我慢ばかりの毎日。
「マカロン家の長男であり次期当主のジェイコブをきちんと、敬い立てなさい」
「はい、お父様、お母様」
「長女のアデライトは体が弱いのですよ。ソフィア、貴女がきちんと長女の代わりに動くのですよ」
「……はい」
「妹のアメリーはまだ幼い。お前は我慢しなさい。下の子を面倒見るのは当然なのだから」
「はい、わかりました」
パーティー、私の誕生日、どれも私だけのなんてなかった。親はいつも私以外のキョウダイばかり、
兄も姉や妹ばかり構ってばかり。姉は病弱だからと言い私に八つ当たりするばかり。妹は我儘放題。
誰も私の言葉を聞いてくれない。
誰も私を見てくれない。
そして婚約者だったオスカー様もその一人だ。病弱な姉を守ってあげたいと婚約破棄してすぐに姉と婚約をした。家族は姉を祝福していた。私に一言も…慰めもせず。
ある日、熱にうなされ誰もお見舞いにきてくれなかった時、前世を思い出す。前世の私は家族と仲良くもしており、色々と明るい性格の持ち主さん。
「……なんか、馬鹿みたいだわ!」
もう、我慢もやめよう!家族の前で良い子になるのはもうやめる!
ふるゆわ設定です。
※家族という呪縛から解き放たれ自分自身を見つめ、好きな事を見つけだすソフィアを応援して下さい!
※ざまあ話とか読むのは好きだけど書くとなると難しいので…読者様が望むような結末に納得いかないかもしれません。🙇♀️でも頑張るます。それでもよければ、どうぞ!
追加文
番外編も現在進行中です。こちらはまた別な主人公です。
政略より愛を選んだ結婚。~後悔は十年後にやってきた。~
つくも茄子
恋愛
幼い頃からの婚約者であった侯爵令嬢との婚約を解消して、学生時代からの恋人と結婚した王太子殿下。
政略よりも愛を選んだ生活は思っていたのとは違っていた。「お幸せに」と微笑んだ元婚約者。結婚によって去っていた側近達。愛する妻の妃教育がままならない中での出産。世継ぎの王子の誕生を望んだものの産まれたのは王女だった。妻に瓜二つの娘は可愛い。無邪気な娘は欲望のままに動く。断罪の時、全てが明らかになった。王太子の思い描いていた未来は元から無かったものだった。後悔は続く。どこから間違っていたのか。
他サイトにも公開中。
側妃は捨てられましたので
なか
恋愛
「この国に側妃など要らないのではないか?」
現王、ランドルフが呟いた言葉。
周囲の人間は内心に怒りを抱きつつ、聞き耳を立てる。
ランドルフは、彼のために人生を捧げて王妃となったクリスティーナ妃を側妃に変え。
別の女性を正妃として迎え入れた。
裏切りに近い行為は彼女の心を確かに傷付け、癒えてもいない内に廃妃にすると宣言したのだ。
あまりの横暴、人道を無視した非道な行い。
だが、彼を止める事は誰にも出来ず。
廃妃となった事実を知らされたクリスティーナは、涙で瞳を潤ませながら「分かりました」とだけ答えた。
王妃として教育を受けて、側妃にされ
廃妃となった彼女。
その半生をランドルフのために捧げ、彼のために献身した事実さえも軽んじられる。
実の両親さえ……彼女を慰めてくれずに『捨てられた女性に価値はない』と非難した。
それらの行為に……彼女の心が吹っ切れた。
屋敷を飛び出し、一人で生きていく事を選択した。
ただコソコソと身を隠すつまりはない。
私を軽んじて。
捨てた彼らに自身の価値を示すため。
捨てられたのは、どちらか……。
後悔するのはどちらかを示すために。
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
婚約破棄された私は、処刑台へ送られるそうです
秋月乃衣
恋愛
ある日システィーナは婚約者であるイデオンの王子クロードから、王宮敷地内に存在する聖堂へと呼び出される。
そこで聖女への非道な行いを咎められ、婚約破棄を言い渡された挙句投獄されることとなる。
いわれの無い罪を否定する機会すら与えられず、寒く冷たい牢の中で断頭台に登るその時を待つシスティーナだったが──
他サイト様でも掲載しております。
うたた寝している間に運命が変わりました。
gacchi
恋愛
優柔不断な第三王子フレディ様の婚約者として、幼いころから色々と苦労してきたけど、最近はもう呆れてしまって放置気味。そんな中、お義姉様がフレディ様の子を身ごもった?私との婚約は解消?私は学園を卒業したら修道院へ入れられることに。…だったはずなのに、カフェテリアでうたた寝していたら、私の運命は変わってしまったようです。
契約破棄された聖女は帰りますけど
基本二度寝
恋愛
「聖女エルディーナ!あなたとの婚約を破棄する」
「…かしこまりました」
王太子から婚約破棄を宣言され、聖女は自身の従者と目を合わせ、頷く。
では、と身を翻す聖女を訝しげに王太子は見つめた。
「…何故理由を聞かない」
※短編(勢い)
【7話完結】婚約破棄?妹の方が優秀?あぁそうですか・・・。じゃあ、もう教えなくていいですよね?
西東友一
恋愛
昔、昔。氷河期の頃、人々が魔法を使えた時のお話。魔法教師をしていた私はファンゼル王子と婚約していたのだけれど、妹の方が優秀だからそちらと結婚したいということ。妹もそう思っているみたいだし、もう教えなくてもいいよね?
7話完結のショートストーリー。
1日1話。1週間で完結する予定です。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。