244 / 299
第五章 鮭の人無双~環《リンク》覚醒ハイ進行中
カズンの眼鏡と聖剣装備実験
しおりを挟む
「よし。ルシウス様も来たことだし、本格的にトオンの飯マズ対策を話し合うとしよう」
す、と中指で黒縁眼鏡のブリッジを押し上げて仕切り直したのはカズンだ。
「カズン、その眼鏡ってヨシュアさんが着けてたやつだろ?」
以前彼が古書店二階の宿の部屋にいた頃はなかったはずだ。
アイシャの元婚約者クーツに扮したトオンの国王即位時に、謁見しに来た鮭の人の顔にあったと記憶している。
眼鏡のある今は、最初に出会った頃と比べると以前より切れ者っぽい印象がある。小道具の妙だ。
「元々僕の持ち物でな。アケロニアを出奔するときヨシュアに預けてたんだ。僕が戻るまで持ってろって言って」
「眼鏡なくて困らなかったの?」
「レンズに度は入っていないのだ。差別化のために装着してただけだし」
差別化? とトオンが首を傾げたので、カズンはユーグレンを見て示した。
「子供の頃は並んでると周りによく間違えられたんだ」
「確かに二人はよく似てるけど」
何も知らない者なら、二人が並んでいるところを見たら兄弟と思っただろう、というぐらい似ている。
カズンはアケロニア王国の先々王の末息子で、ユーグレンは現国王の息子で王太子だ。
二人は親戚で、歳はユーグレンのほうが数ヶ月上だそうだが、関係としてはカズンが大叔父にあたるという。
アケロニア王族は、色の濃い黒髪と黒目を持った、端正な顔立ちが特徴らしい。この二人も同じ男のトオンから見ても、なかなかの男前。
違いがあるとすれば、カズンは中肉中背の標準的な体型だが、ユーグレンはそれより一回り以上体格が大きく、長身なことだろう。
どうもカズンはそんなユーグレンにややコンプレックスがあるようだ。再びこの旧カーナ王国に合流して以降、何かと羨ましげな言動をしているのをトオンもアイシャも見ている。
まず、カズンはトオンに自分のステータスを宙に表示させるよう指示した。
すべての数値を出す必要はない。飯マズ部分が表記されている部分だけだ。
「飯マズ解除のやり方は判明している。カーナ姫から僕が賜った聖剣をだな、トオンに持たせると……」
カズンは肩から提げていた革のホルダーから魚切り包丁を取り出した。どこからどう見ても柳葉包丁だが、ハイドワーフの名工が打った間違いない聖剣である。
「いいか、トオンのステータスを見てくれ。今は飯マズとあるが、僕の聖剣を持たせると」
「!?」
「嘘、あんなに何をしても変わらなかったのに……」
『飯マズ:母親の聖女エイリーから継承したバッドステータス。調理した料理が激マズになる(味付け時に付与)』
ステータス備考欄の飯マズ表記はそのままだったが、新たに付記が追加されていた。
『※現在、聖剣の装備効果により解除』
おお、と皆がどよめいた。
「カズン、トオン! どういうこと? いつこれがわかったの!?」
アイシャは隣のトオンに詰め寄った。自分が知らないうちに、いつこんな対策が判明したというのか。
あの飯マズ実験の日々の不毛な試練は何だったのか!
「落ち着け、アイシャ。まだ実験の最中だ。本当に飯マズが解除されてるかどうか、確かめてみようじゃないか」
言って、カズンはトオンから魚切り包丁を受け取ると、再び革のホルダーに収めた後でトオンにホルダーごと渡して肩から提げさせた。
――これで聖剣を装備したことになる。
次に、厨房からコーヒーセットを持って来た。
豆の入った保存瓶とコーヒーミル、ドリップ用の布とコーヒーポット。それに人数分のマグカップをお盆ごと。
それを見た皆がまたどよめいた。
「ま、まさかカズン……」
ユーグレンが声を震わせている。
「うむ。この状態でトオンに再びコーヒーを淹れさせる。聖剣効果で飯マズ解除されていたら、ふつうに飲めるコーヒーになるはずだ!」
ステータスは裏切らない、とドヤ顔するカズンに、皆は不安げな顔になった。
何せ飯マズコーヒーを先に飲んだ後なのだ。確かに宙に表示されたトオンのステータスでは飯マズ解除状態だったが……
す、と中指で黒縁眼鏡のブリッジを押し上げて仕切り直したのはカズンだ。
「カズン、その眼鏡ってヨシュアさんが着けてたやつだろ?」
以前彼が古書店二階の宿の部屋にいた頃はなかったはずだ。
アイシャの元婚約者クーツに扮したトオンの国王即位時に、謁見しに来た鮭の人の顔にあったと記憶している。
眼鏡のある今は、最初に出会った頃と比べると以前より切れ者っぽい印象がある。小道具の妙だ。
「元々僕の持ち物でな。アケロニアを出奔するときヨシュアに預けてたんだ。僕が戻るまで持ってろって言って」
「眼鏡なくて困らなかったの?」
「レンズに度は入っていないのだ。差別化のために装着してただけだし」
差別化? とトオンが首を傾げたので、カズンはユーグレンを見て示した。
「子供の頃は並んでると周りによく間違えられたんだ」
「確かに二人はよく似てるけど」
何も知らない者なら、二人が並んでいるところを見たら兄弟と思っただろう、というぐらい似ている。
カズンはアケロニア王国の先々王の末息子で、ユーグレンは現国王の息子で王太子だ。
二人は親戚で、歳はユーグレンのほうが数ヶ月上だそうだが、関係としてはカズンが大叔父にあたるという。
アケロニア王族は、色の濃い黒髪と黒目を持った、端正な顔立ちが特徴らしい。この二人も同じ男のトオンから見ても、なかなかの男前。
違いがあるとすれば、カズンは中肉中背の標準的な体型だが、ユーグレンはそれより一回り以上体格が大きく、長身なことだろう。
どうもカズンはそんなユーグレンにややコンプレックスがあるようだ。再びこの旧カーナ王国に合流して以降、何かと羨ましげな言動をしているのをトオンもアイシャも見ている。
まず、カズンはトオンに自分のステータスを宙に表示させるよう指示した。
すべての数値を出す必要はない。飯マズ部分が表記されている部分だけだ。
「飯マズ解除のやり方は判明している。カーナ姫から僕が賜った聖剣をだな、トオンに持たせると……」
カズンは肩から提げていた革のホルダーから魚切り包丁を取り出した。どこからどう見ても柳葉包丁だが、ハイドワーフの名工が打った間違いない聖剣である。
「いいか、トオンのステータスを見てくれ。今は飯マズとあるが、僕の聖剣を持たせると」
「!?」
「嘘、あんなに何をしても変わらなかったのに……」
『飯マズ:母親の聖女エイリーから継承したバッドステータス。調理した料理が激マズになる(味付け時に付与)』
ステータス備考欄の飯マズ表記はそのままだったが、新たに付記が追加されていた。
『※現在、聖剣の装備効果により解除』
おお、と皆がどよめいた。
「カズン、トオン! どういうこと? いつこれがわかったの!?」
アイシャは隣のトオンに詰め寄った。自分が知らないうちに、いつこんな対策が判明したというのか。
あの飯マズ実験の日々の不毛な試練は何だったのか!
「落ち着け、アイシャ。まだ実験の最中だ。本当に飯マズが解除されてるかどうか、確かめてみようじゃないか」
言って、カズンはトオンから魚切り包丁を受け取ると、再び革のホルダーに収めた後でトオンにホルダーごと渡して肩から提げさせた。
――これで聖剣を装備したことになる。
次に、厨房からコーヒーセットを持って来た。
豆の入った保存瓶とコーヒーミル、ドリップ用の布とコーヒーポット。それに人数分のマグカップをお盆ごと。
それを見た皆がまたどよめいた。
「ま、まさかカズン……」
ユーグレンが声を震わせている。
「うむ。この状態でトオンに再びコーヒーを淹れさせる。聖剣効果で飯マズ解除されていたら、ふつうに飲めるコーヒーになるはずだ!」
ステータスは裏切らない、とドヤ顔するカズンに、皆は不安げな顔になった。
何せ飯マズコーヒーを先に飲んだ後なのだ。確かに宙に表示されたトオンのステータスでは飯マズ解除状態だったが……
12
お気に入りに追加
3,937
あなたにおすすめの小説
前世軍医だった傷物令嬢は、幸せな花嫁を夢見る
花雨宮琵
恋愛
侯爵令嬢のローズは、10歳のある日、背中に刀傷を負い生死の境をさまよう。
その時に見た夢で、軍医として生き、結婚式の直前に婚約者を亡くした前世が蘇る。
何とか一命を取り留めたものの、ローズの背中には大きな傷が残った。
“傷物令嬢”として揶揄される中、ローズは早々に貴族女性として生きることを諦め、隣国の帝国医学校へ入学する。
背中の傷を理由に六回も婚約を破棄されるも、18歳で隣国の医師資格を取得。自立しようとした矢先に王命による7回目の婚約が結ばれ、帰国を余儀なくされる。
7人目となる婚約者は、弱冠25歳で東の将軍となった、ヴァンドゥール公爵家次男のフェルディナンだった。
長年行方不明の想い人がいるフェルディナンと、義務ではなく愛ある結婚を夢見るローズ。そんな二人は、期間限定の条件付き婚約関係を結ぶことに同意する。
守られるだけの存在でいたくない! と思うローズは、一人の医師として自立し、同時に、今世こそは愛する人と結ばれて幸せな家庭を築きたいと願うのであったが――。
この小説は、人生の理不尽さ・不条理さに傷つき悩みながらも、幸せを求めて奮闘する女性の物語です。
※この作品は2年前に掲載していたものを大幅に改稿したものです。
(C)Elegance 2025 All Rights Reserved.無断転載・無断翻訳を固く禁じます。
婚約破棄 能力が低いとののしられたので本気でざまぁします
春秋花壇
恋愛
婚約破棄 能力が低いとののしられたので本気でざまぁします
ざまぁの詩
かつての言葉が耳に残る
「能力が低い、何もできぬ者」
冷たい言葉、軽蔑の眼差し
私の心を、深く刺した。
だが、時が流れ、今は違う
無力だった日々は過去の幻
力をつけ、知恵を得て
私は今、強く立っている。
あの言葉は、私を傷つけた
けれど、それが私を作った
今、私は誇りを胸に抱き
その全てを超えてきた。
あなたが見ていた私とは違う
私は私を知っている
そして、今、見せてあげる
あなたの目の前で、私の真の力を。
私は笑う、心の底から
あなたが消えた影の中で
ざまぁ、という言葉を
自分の勝利で響かせて。
最愛の側妃だけを愛する旦那様、あなたの愛は要りません
abang
恋愛
私の旦那様は七人の側妃を持つ、巷でも噂の好色王。
後宮はいつでも女の戦いが絶えない。
安心して眠ることもできない後宮に、他の妃の所にばかり通う皇帝である夫。
「どうして、この人を愛していたのかしら?」
ずっと静観していた皇后の心は冷めてしまいう。
それなのに皇帝は急に皇后に興味を向けて……!?
「あの人に興味はありません。勝手になさい!」
婚約破棄するんだったら、その代わりに復讐してもいいですか?
tartan321
恋愛
ちょっとした腹いせに、復讐しちゃおうかな?
「パミーナ!君との婚約を破棄する!」
あなたに捧げた愛と時間とお金……ああっ、もう許せない!私、あなたに復讐したいです!あなたの秘密、結構知っているんですよ?ばらしたら、国が崩壊しちゃうかな?
隣国に行ったら、そこには新たな婚約者の姫様がいた。さあ、次はどうしようか?
完結 婚約破棄は都合が良すぎる戯言
音爽(ネソウ)
恋愛
王太子の心が離れたと気づいたのはいつだったか。
婚姻直前にも拘わらず、すっかり冷えた関係。いまでは王太子は堂々と愛人を侍らせていた。
愛人を側妃として置きたいと切望する、だがそれは継承権に抵触する事だと王に叱責され叶わない。
絶望した彼は「いっそのこと市井に下ってしまおうか」と思い悩む……
愛しの貴方にサヨナラのキスを
百川凛
恋愛
王立学園に通う伯爵令嬢シャロンは、王太子の側近候補で騎士を目指すラルストン侯爵家の次男、テオドールと婚約している。
良い関係を築いてきた2人だが、ある1人の男爵令嬢によりその関係は崩れてしまう。王太子やその側近候補たちが、その男爵令嬢に心惹かれてしまったのだ。
愛する婚約者から婚約破棄を告げられる日。想いを断ち切るため最後に一度だけテオドールの唇にキスをする──と、彼はバタリと倒れてしまった。
後に、王太子をはじめ数人の男子生徒に魅了魔法がかけられている事が判明する。
テオドールは魅了にかかってしまった自分を悔い、必死にシャロンの愛と信用を取り戻そうとするが……。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。