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第五章 鮭の人無双~環《リンク》覚醒ハイ進行中
1.カーナ神国の新ダンジョン紹介~プロローグ
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円環大陸の西部にあった吹けば飛ぶような小国カーナ王国は、新たに神人を長とする〝カーナ神国〟として再出発した。
王都は首都となり、地下に発生した人造ダンジョン『カーナ神国首都地下ダンジョン』は何と驚きのSSSランク。
Sランク以上の冒険者または騎士が挑戦可能だ。
透明な魔法樹脂で形成され、内部がとても美しいことから、『クリスタルパレス』の通称で呼ばれることになった。
内部構造は不定期に変化し、早ければ二日、時間をかけても五日程度で踏破可能な、地下十二階層までの比較的浅めのダンジョンだ。
ただし、上にある首都とほぼ同じ広さを持つことから、中で迷う者も多そうだった。
休憩エリアは地下五階と十階の二ヶ所。専用の回復エリアもある。
油断さえしなければ、そして事前に専用の〝攻略のしおり〟の内容さえ守っていれば、命の危険は回避できるよう整備されていた。
〝攻略のしおり〟にはこのような注意事項が書かれている。
その一
ダンジョン内のダイヤモンドやアダマンタイトは勝手に採掘してはいけません。
ダンジョン踏破すればあなたに最も相応しい装備やアクセサリーとして与えられます。頑張りましょう。
その二
故意にダンジョン内の設備を破壊したり、ダイヤモンドやアダマンタイトを盗んだ場合、強制的にダンジョンの外に追い出される仕様です。
その際、ペナルティとして装備一式を没収されます。気をつけましょう。
その三
ダンジョン内には様々なお助けキャラが登場します。人間であることも、モンスターであることもあります。仲良くしましょう。
怒らせたり、悲しませたり、泣かせたりするとその時点でゲームオーバーです。
再びダンジョンに挑戦するには高額の罰金が必要になります。よく心得ておいてください。
実はこの世界、写真機は開発されたが、映像の撮影機器はいまだ開発されていない。
ただし、例外があった。
魔法樹脂の使い手に限って、魔法樹脂に撮影機能と音声録音機能を持たせることが可能だったのだ。
「懐かしいです。四歳ぐらいの頃、ジューアお姉様の鬼の指導で、秘伝を覚えさせられたんですっけ」
鮭の人ヨシュアがしみじみ、当時を思い出すように呟いている。
「何を言うか。お前が幼馴染みの姿と声を録画したいからと、この私に必死に頼み込んできたのだろうが」
「そうでしたっけ?」
「ちゃんと証拠もあるぞ。ほら」
ジューアが取り出したのは、透明な魔法樹脂製の松ぼっくりだ。
そこに彼女の、虹色を帯びた夜空色の魔力を浸透させると、空中に半透明の子供の姿が浮かび上がった。
青銀のショートカットの、ブラウスと半ズボン姿の麗しの幼児だ。
投影機の松ぼっくりのある位置に向けて祈るように両手を合わせて、銀の花咲く湖面の水色の瞳をうるうると潤ませて見つめている。
『ジューアおねえさま。おねがいします。カズンさまのお姿とお声をいつでも見返したり聞き返したりできるようにしたいのです』
『カズンさまとずっといっしょにいられたらなあ』
『いつかお泊まり会とかやってみたい』
『いっしょにユキノくんのもふもふの中でおひるねとか。いっしょ……えへへ』
「わー!?」
周囲がビックリするような大声をあげて、ヨシュアがジューアから投影機を奪った。
「何でこんなもの持ってるんですか!?」
「お前の弱みを握って、後々生意気に育ったら脅す材料になるかもと思ってな」
「別にオレは生意気じゃないですよね!?」
「小狡い性格だとは思っている」
「それは否定しませんけど!」
周りの鮭の人を見る目が、何となく生暖かくも微笑ましげだ。
ともあれ、神人ジューアと鮭の人がお家芸の魔法樹脂で、撮影機と投影機のセット『録画用魔導具』を開発した。
実用化レベルの完成度だが、人力で大量の魔力を用いてでなければ製作できないため、現状ではかなり高価なものになる。大金貨どころか白金貨が吹き飛ぶレベルだそうだ。
しかし、この魔導具は恐るべきことに、撮影した映像と音声を離れた場所への配信を可能にした。
円環大陸の歴史始まって以来の革命的魔導具の誕生である。
残念ながら、リアルタイム配信にはまだ対応していない。
「今回はダンジョン販促資料にするので編集もしたいですし。リアルタイム配信は今後の課題ですねえ」
死ぬほど魔力や魔石を消費するけど、とぽそっと鮭の人が呟いた。
この世界では今のところ、通信機は魔導具として作り、使用者の魔力か、魔石を使う。電気や電波はいまだ実用化されていなかった。
まずは首都の神殿広場に集まった。
国内の主要都市の旧教会跡地の神殿の集会場にも投影機を設置し、鑑賞できる体制を整えた。
「今回、カーナ神国に新たに生まれたダンジョンの紹介を行います。その模様をお伝えするため、カーナ神国を積極的に支援してくださっている、円環大陸北西部のアケロニア王国、並びに北部のカレイド王国の王宮にも投影機を寄贈しています」
録画用魔導具に向けて、白い聖衣姿の聖女のアイシャが簡単に説明していく。
一通り終わったら、次は地下ダンジョンのクリスタルパレスへ。
地下一階降りてすぐのエントランスで録画用魔導具の前に現れた聖女アイシャは、何と。
「本日これより、カーナ神国地下ダンジョン〝クリスタルパレス〟に挑む聖女、及び聖騎士アイシャです」
うおおおおおお! と数多の男たちの野太い歓声が響き渡る。
照れながら現れた聖女兼聖騎士のアイシャは、神殿で撮影したときの白い聖衣姿ではなく、――赤の軍服姿だった。
今年十八歳の彼女はまだまだ成長期だが、同じ年代の女性たちと比べれば小柄だ。
そんな彼女がピシッとストイックな軍服をまとって現れたことに、スタッフも外野も大いに燃えた。
そう、聖女兼聖騎士アイシャの軍服姿のお目見えは本日が初。
「いつものブラウスとスカート姿も可愛かったけど……軍服……いい!」
彼氏のトオンが感動に打ち震えている。
本人は艶のあるはっきりした色味の黒髪に、健康的な肌色だ。原色の赤はよく似合っていた。
「ジャケットの裾にフリルを入れたのが良かったな。女性らしくて愛らしい」
うむ、と監修者の一人、カズンが満足げに頷いている。
何といっても看板聖女の装束だ。トオンだけでなく師匠のルシウス陣営や、新生カーナ神国の首脳部の皆でデザイン案について語り明かす日々は熱かった。
本人が「動きやすくて見栄えがするなら他はお任せするわ」とドライでクールな感じだった分、周りがエキサイトした感がある。
かくして、カーナ神国の公式聖女アイシャがダンジョン紹介する RTAはスタートした。
王都は首都となり、地下に発生した人造ダンジョン『カーナ神国首都地下ダンジョン』は何と驚きのSSSランク。
Sランク以上の冒険者または騎士が挑戦可能だ。
透明な魔法樹脂で形成され、内部がとても美しいことから、『クリスタルパレス』の通称で呼ばれることになった。
内部構造は不定期に変化し、早ければ二日、時間をかけても五日程度で踏破可能な、地下十二階層までの比較的浅めのダンジョンだ。
ただし、上にある首都とほぼ同じ広さを持つことから、中で迷う者も多そうだった。
休憩エリアは地下五階と十階の二ヶ所。専用の回復エリアもある。
油断さえしなければ、そして事前に専用の〝攻略のしおり〟の内容さえ守っていれば、命の危険は回避できるよう整備されていた。
〝攻略のしおり〟にはこのような注意事項が書かれている。
その一
ダンジョン内のダイヤモンドやアダマンタイトは勝手に採掘してはいけません。
ダンジョン踏破すればあなたに最も相応しい装備やアクセサリーとして与えられます。頑張りましょう。
その二
故意にダンジョン内の設備を破壊したり、ダイヤモンドやアダマンタイトを盗んだ場合、強制的にダンジョンの外に追い出される仕様です。
その際、ペナルティとして装備一式を没収されます。気をつけましょう。
その三
ダンジョン内には様々なお助けキャラが登場します。人間であることも、モンスターであることもあります。仲良くしましょう。
怒らせたり、悲しませたり、泣かせたりするとその時点でゲームオーバーです。
再びダンジョンに挑戦するには高額の罰金が必要になります。よく心得ておいてください。
実はこの世界、写真機は開発されたが、映像の撮影機器はいまだ開発されていない。
ただし、例外があった。
魔法樹脂の使い手に限って、魔法樹脂に撮影機能と音声録音機能を持たせることが可能だったのだ。
「懐かしいです。四歳ぐらいの頃、ジューアお姉様の鬼の指導で、秘伝を覚えさせられたんですっけ」
鮭の人ヨシュアがしみじみ、当時を思い出すように呟いている。
「何を言うか。お前が幼馴染みの姿と声を録画したいからと、この私に必死に頼み込んできたのだろうが」
「そうでしたっけ?」
「ちゃんと証拠もあるぞ。ほら」
ジューアが取り出したのは、透明な魔法樹脂製の松ぼっくりだ。
そこに彼女の、虹色を帯びた夜空色の魔力を浸透させると、空中に半透明の子供の姿が浮かび上がった。
青銀のショートカットの、ブラウスと半ズボン姿の麗しの幼児だ。
投影機の松ぼっくりのある位置に向けて祈るように両手を合わせて、銀の花咲く湖面の水色の瞳をうるうると潤ませて見つめている。
『ジューアおねえさま。おねがいします。カズンさまのお姿とお声をいつでも見返したり聞き返したりできるようにしたいのです』
『カズンさまとずっといっしょにいられたらなあ』
『いつかお泊まり会とかやってみたい』
『いっしょにユキノくんのもふもふの中でおひるねとか。いっしょ……えへへ』
「わー!?」
周囲がビックリするような大声をあげて、ヨシュアがジューアから投影機を奪った。
「何でこんなもの持ってるんですか!?」
「お前の弱みを握って、後々生意気に育ったら脅す材料になるかもと思ってな」
「別にオレは生意気じゃないですよね!?」
「小狡い性格だとは思っている」
「それは否定しませんけど!」
周りの鮭の人を見る目が、何となく生暖かくも微笑ましげだ。
ともあれ、神人ジューアと鮭の人がお家芸の魔法樹脂で、撮影機と投影機のセット『録画用魔導具』を開発した。
実用化レベルの完成度だが、人力で大量の魔力を用いてでなければ製作できないため、現状ではかなり高価なものになる。大金貨どころか白金貨が吹き飛ぶレベルだそうだ。
しかし、この魔導具は恐るべきことに、撮影した映像と音声を離れた場所への配信を可能にした。
円環大陸の歴史始まって以来の革命的魔導具の誕生である。
残念ながら、リアルタイム配信にはまだ対応していない。
「今回はダンジョン販促資料にするので編集もしたいですし。リアルタイム配信は今後の課題ですねえ」
死ぬほど魔力や魔石を消費するけど、とぽそっと鮭の人が呟いた。
この世界では今のところ、通信機は魔導具として作り、使用者の魔力か、魔石を使う。電気や電波はいまだ実用化されていなかった。
まずは首都の神殿広場に集まった。
国内の主要都市の旧教会跡地の神殿の集会場にも投影機を設置し、鑑賞できる体制を整えた。
「今回、カーナ神国に新たに生まれたダンジョンの紹介を行います。その模様をお伝えするため、カーナ神国を積極的に支援してくださっている、円環大陸北西部のアケロニア王国、並びに北部のカレイド王国の王宮にも投影機を寄贈しています」
録画用魔導具に向けて、白い聖衣姿の聖女のアイシャが簡単に説明していく。
一通り終わったら、次は地下ダンジョンのクリスタルパレスへ。
地下一階降りてすぐのエントランスで録画用魔導具の前に現れた聖女アイシャは、何と。
「本日これより、カーナ神国地下ダンジョン〝クリスタルパレス〟に挑む聖女、及び聖騎士アイシャです」
うおおおおおお! と数多の男たちの野太い歓声が響き渡る。
照れながら現れた聖女兼聖騎士のアイシャは、神殿で撮影したときの白い聖衣姿ではなく、――赤の軍服姿だった。
今年十八歳の彼女はまだまだ成長期だが、同じ年代の女性たちと比べれば小柄だ。
そんな彼女がピシッとストイックな軍服をまとって現れたことに、スタッフも外野も大いに燃えた。
そう、聖女兼聖騎士アイシャの軍服姿のお目見えは本日が初。
「いつものブラウスとスカート姿も可愛かったけど……軍服……いい!」
彼氏のトオンが感動に打ち震えている。
本人は艶のあるはっきりした色味の黒髪に、健康的な肌色だ。原色の赤はよく似合っていた。
「ジャケットの裾にフリルを入れたのが良かったな。女性らしくて愛らしい」
うむ、と監修者の一人、カズンが満足げに頷いている。
何といっても看板聖女の装束だ。トオンだけでなく師匠のルシウス陣営や、新生カーナ神国の首脳部の皆でデザイン案について語り明かす日々は熱かった。
本人が「動きやすくて見栄えがするなら他はお任せするわ」とドライでクールな感じだった分、周りがエキサイトした感がある。
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