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第四章 出現! 難易度SSSの新ダンジョン

ようやく会えた〝鮭の人〟

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 新世代の魔力使いが使うリンクは、胸回りか腰回りに、あるいは頭部に出るものが大半だ。
 足元に出る者はほとんどいない。

 それでも足元に出現する者は、突出した術者が出にくいと言われるリンク使いの中のトップクラスであり、時には旧世代の最もパワフルな術者をも上回るポテンシャルを持つと言われている。

 どれほど足元タイプが少ないかといえば、現在、円環大陸で確認されているのは魔術師フリーダヤのパートナー、最強聖女ロータスだけだ。

 今回、新たに加わったのは魔法魔術大国アケロニア王国のリースト侯爵ヨシュア。
 聖剣の聖者、無欠のルシウスの甥である。

「現役の貴族で、大国の出身者。しかも旧世代の魔法の大家の当主。こりゃあ久々にリンク使い界隈が騒ぎそうだ」

 とは自らもリンク使いの聖者ビクトリノのコメントである。

 実際、ヨシュアのアイテムボックス容量は倉庫一棟分。極めて強力な聖女のアイシャと同等だった。
 ここからわかるのは、アイシャとヨシュアの魔力量は同水準ということだ。

「いいねえ、我らリンクファミリーの新世代は粒揃い。アイシャは本能タイプでヨシュアは知性タイプ。バランスも最高だ」

 ビクトリノが言うには、恐らくリンク使いの次世代リーダーはこの二人だろうということだった。

 そのビクトリノは、永遠の国教会本部の長アヴァロニスがカーナ王国に現れたことを神人ジューアにものすごい剣幕で怒られた後だった。

「ジューアの姐さん、勘弁して下さいよ。俺だってあのお方が来るなんて一言も聞いてなかったんですから」

 必死に言い訳したが、最愛の弟相手にアヴァロニスが聖剣を突き刺したことを防げなかったジューアの怒りは収まらない。

「ビクトリノ。お前、私の代わりにあの野郎を殴ってこい。この神人ジューアが許す!」
「無茶言わんでくださいよ」

 この調子で連日責められ圧をかけられ続けたビクトリノは、一度、永遠の国に戻ることにした。
 カーナ王国の現状と、自分の師匠にあたる聖女ロータスやその相方の魔術師フリーダヤに新たなリンク使いヨシュア誕生の報告に行くそうだ。



 アイシャとトオンはこれまで、ルシウスからずーっと『私の可愛い甥っ子自慢』を聞かされ続けてきた。
 特に彼に酒が入って口が滑らかになったときは毎回必ず思い出話をされるので、もうすっかり『鮭の人通』である。

 その甥っ子ヨシュアとは『聖女投稿』の事件後、国王と王妃の即位式の後、ごく短時間だけ顔合わせをしている。
 だが彼はお目当てのカズンとすれ違ってしまい、追いかけるためほとんど会話もせず帰っていた。よって初対面も同然だった。

 それにヨシュアは、あの美味しい美味しい鮭を送ってきて食卓を豊かにしてくれた恩人でもある。
 カズンやルシウスの作ってくれたサーモンパイをはじめとした、鮭料理の数々の美味なことと言ったら!

 そんな〝鮭の人〟ヨシュア本人に会うのが楽しみな反面。ちょっとドキドキ緊張していたのだが、心配は不要だった。

 ヨシュアはアケロニア王国で、当時の王弟だったカズンの幼馴染みであり、最も側にいた親友だったようだ。
 ルシウスの秘書ユキレラが言うには、ヨシュアは幼い頃からカズン絡み限定で非常に神経質で嫉妬深く、厄介な人物との話だった。

 ところがリンクに覚醒した彼は、そういった気質に深い落ち着きが加わって、神秘的な魅力を増した青年になっていた。



 地下ダンジョンにカズンと一緒に鮭の人が駆けつけてくれてから、一週間。
 その後も一緒にルシウス邸にいたが、関わった全員が消耗を癒すため自室で休んでいて食事も別々だったので、今日のサルモーネでの打ち上げがようやく本格的な顔合わせとなる。

 サルモーネに向かう前、アイシャとトオンはルシウス邸の廊下でヨシュアに呼び止められて午後のお茶に誘われた。

「ここに来るまでの間、カズン様からたくさん君たちの話を聞いたよ。オレとも仲良くしてくれると嬉しいな」

 ルシウスそっくりな顔だったが、表情のよく動く快活なルシウスと違って、ヨシュアはストレートに美しい微笑みを浮かべる青年だった。
 隣に恋人がいるのに、アイシャもトオンも顔が真っ赤になって照れてしまうほど麗しかった。

 だが、麗しく儚げな雰囲気のヨシュアにどぎまぎしつつも、二人は一度顔を見合わせてから再びヨシュアに向き合う。
 躊躇いがちに、まず口を開いたのはアイシャだ。

「あの、ヨシュアさん。私たちは、大丈夫よ。カズンやルシウスさん、ユキレラさん、……ユーグレンさんからもあなたのこと、たくさんたくさん、聞かされてきたの」
「うん。俺たち相手には外面を気にしなくても平気だから。だって」


「「カズンが一番の人だって、ちゃんと知ってるから」」


「………………」

 と面と向かって言われた当の本人はといえば。
 呆気に取られた表情になった後で、顔を真っ赤にして手で口元を覆い、俯いてしまった。その頬はもちろん、耳元まで赤く染めて。

「つ、つまり。君たちにはオレの本性が」
「「とっくにバレてます」」
「そ、そうか……」
「だから遠慮とか要らないわ。素のあなたのままでいてね」

 このアイシャの言葉に、戸惑いつつもヨシュアは顔を上げ、嬉しそうな表情になった。

「……ありがとう。その好意に、きっと応えて見せるからね」

 恥ずかしげに照れた顔は、ルシウスたちに聞いていた〝鮭の人〟のイメージとは少し違った。
 素直じゃなくて、幼馴染みのカズンが大好きな、身内や自分が認めた者以外は基本どうでもいいと思っている面倒くさい青年と聞いていたのだが……

 とんでもない。なかなか人間味のある人物じゃないかと、アイシャとトオンはなかなかの好印象を持った。
 元から持っていた鮭の人信仰のフィルターが更に強化された瞬間だった。

 ちなみに、彼のファンクラブ会長だというユーグレンから見たヨシュア像は少しだいぶ違う。
 多分に美化されたコメントばかりで、彼の書いたファンクラブ会報もそんな感じだった。

(きっと、大ファンだから少しだけ色眼鏡がかかってるのね)

 カズンが聞いたら「お前が言うな」と呆れられただろうが、ひとまず今ここに突っ込み役は不在である。

「カズン様も叔父様も大層世話になったようだし。カーナ王国の苦境はオレも把握してる。恩はきっちり返すよ」
「「心強いです!」」



「でもヨシュアさん、あなた故郷ではリースト家のご当主なんでしょう? カーナ王国にいて平気なの?」
「当主の座も爵位も、一族の者に代理で預けてあるんだ。カズン様から離れたくないからこのまま代理人に継承してもらうつもり」

 それに、と言いかけてヨシュアは言葉を飲み込んだ。

(あの硝子が砕けるような音。オレの身体からも聞こえた)

 力のある魔力使いにごく稀に起こる、寿命を消失する現象、〝時を壊す〟がヨシュアにも起こっている。

(報告……はまあ、後でもいいか)

 ここに来るまでの間に、ユーグレンからリンク経由で送られてきた手紙の内容や、カズンから聞いた話でカーナ王国の現状は理解していた。

(あの虚無魔力への対策を、この聖女アイシャも取り組んでくれるという。ならばオレもこの国を拠点にしてカズン様を援助しながら彼女の近くにいるのが良い)

 叔父のルシウスも、カーナ王国を離れるのはしばらく難しいだろう。
 幸いルシウス邸という拠点があり、レストラン・サルモーネを始めとした安定した収入源もある。
 若年ながら、侯爵家の当主としてヨシュアには領地経営の知識とスキルがある。更に新しい事業を立ち上げたり、投資を行うのも良いだろう。

(短期移住なら問題ないよな)

 などと思っていたが、結局ヨシュアはその後、アケロニア王国の爵位や当主の座を一族の後継者に譲渡し、この地に帰化してしまうのである。

 だがそれは、もうちょっとだけ先の話になる。









※鮭の人フィーバーエピソード、一区切りです🐟

ヨシュアのアイシャたちへの態度をどうするか、悩みました。カズン君と仲が良いからツンツン対応か? いやでもこんな善人相手に大人げない……と悩んでこうなりましたとさ😃

四章はまだまだ続きます。いよいよカーナ王国の核心へ。
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