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第四章 出現! 難易度SSSの新ダンジョン
モテた人、モテなかった人
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ルシウスの怒気で強張ってしまった身体を解そうと、ユーグレン王太子がストレッチを始めた。
ならばと、皆も一緒に鍛錬で身体を動かして付き合うことにした。
ユーグレンの動きは一つ一つの動作がかなり重めだ。宙を斬るような動きのときに発生する音もビュンっと鋭い。
一つの動きが完結するたび、場の空気がスッキリ澄んでくるのがわかる。
ビクトリノがピューッと口笛を吹いた。
「へえ、それがアケロニア王族の〝型〟ってやつかい?」
「ご存知でしたか。王族は皆、子供の頃から習うんです。親兄弟や王都神殿の神官たちから」
ユーグレンが腕を伸ばすと、それを見ていた綿毛竜のユキノたちも真似して前脚を伸ばした。
伸びてしまっていた雛竜たちもようやく目を覚ましたようで、ユキノに倣っている。
「あっ、結構筋にきくなーこれ!」
「ピュイッ」
「ははっ、そうそう。上手だぞーう」
まずは簡単なストレッチで全身の筋肉を伸ばしては緩めるを繰り返す。これで体内の気の流れを整えるわけだ。
次に体幹を捻ったり、揺らしたりで更に緩めていく。この辺りで身体が温まって少し汗ばんでくる。
人間のユーグレンにはしっかりした動作になっていたが、慣れない綿毛竜たちの動きは、アンバランスでよたよたと頼りない踊りになってしまっていた。
だが、それが良い。
「もふもふちゃんたち、可愛いわ。何をしてても可愛い」
アイシャはもうすっかり綿毛竜たちの魅力にメロメロだ。
普段あまり表情の動かなかったはずの顔はゆるゆるに蕩けている。
そんなアイシャに、見守る彼氏のトオンも嬉しそうだ。今はルシウスの家で厄介になっているが、古書店に戻るときは雛竜たちを一体引き取れないか真剣に考えている。
ところで五体いる雛竜のうち、一番幼い五号は神人ジューアが引き取ることで話がついているそうだ。
「いちばん好奇心旺盛でやんちゃな子なのだ。躾け甲斐がある」
「ピュイッ(ボクの末のむすめなんだよ)」
欠伸しながらジューア本人が庭に来て、五号を手に取ってもふっていた。
いつもならこの時間はまだ寝ていることが多い彼女だが、弟のルシウスの魔力の奔流を感じて起きてきたらしい。
「な、何と。それなら私もぜひ一体……」
ユーグレンは近くでふよふよ浮いていた雛竜の四号雌を口説きだした。
小さなふわふわの身体を両手に乗せて、
「四号ちゃん。君のような愛らしい竜が一緒にいてくれたら、どんなに毎日が楽しいことだろう。どうかな、良かったら私とともに……」
だが、しかし。
「ピュイッ(あたしぃ。あなたのこと、あんまりこのみじゃないっていうかあ~)」
だが情熱的に口説かれて満更でもなさそうだ。
よし、このままなら押せる! と自信を持って更に口説き落とそうとしたところで、四号がチラッチラッと、別のところを見ていることに気づいた。
雛竜のガーネットの瞳の視線の先にいるのは聖者のビクトリノだ。
腕を背中に回して上下から組んで筋を伸ばすストレッチに集中していたビクトリノは、四号やユーグレンの視線に気づいて姿勢を戻した。
「ん? どうかしたかい?」
「ピューイッ(おじさま、あたしをもらってくださーい!)」
「お?」
胸の中に飛び込んできた小さな毛玉、もとい雛竜四号を受け止めた。
「ま、まさか……四号ちゃんの本命はビクトリノ様なのか!?」
「ん?」
胸元に懐きピュイピュイ鳴いてご機嫌な四号と、恨めしそうな顔のユーグレン王太子を交互に見やる。
ははあ、なるほど、と精悍な顔立ちの白髪のイケオジはにんまり笑った。
「いやあ、すまんね王太子殿下! いやあモテる男は辛いね!」
今後カーナ王国が落ち着いて永遠の国に戻るとき、四号はそのままビクトリノと一緒に彼の随獣としてついて行くそうだ。
「じ、じゃあ一号君はどうかな!?」
「ピュイッ(四号にフラれたからぼくのとこくるんですか? そういうのやめてほしいんですけど!)」
ちょっと捻くれた性格の一号雄にまで振られていた。
ちなみに一号にも心に決めた本命が既にいるようで。
「ピューイッ(ぼくはトオンくんがいいな)」
「えっ、俺のとこに来てくれるのか?」
「ピュアー(ぼくはかしこいひとがすきなのだ。トオンくんみたいなひと、だいすき)」
「へ、へへへ……ありがとな、こりゃあ嬉しい」
腕の中に飛び込んできた一号をもふりながら、トオンが恥ずかしげに照れている。
雛竜たちの中で一番幼いジューアが引き取り予定の五号雌。今ルシウス邸にいる中でこの仔だけはユキノとお嫁さんの卵から産まれた実の仔らしい。
「ピュイッ(あたちはおとうちゃん、ちゅきー)」
小さな真っ白ふわふわの身体で、ユキノのふわふわの脚に懐いていた。ユキノも父性が刺激されるのか、優しげな顔で五号の顔を舌で舐めてあやしている。
神人ジューアに引き取られるのは、もうしばらく父親のユキノの元で過ごした後になりそうだ。
「四号、一号、五号が売約済みとなると。残りは二号と三号だな!?」
ユーグレンがカズンそっくりな顔をキリッと引き締めて、残りの二体の雛竜を探すと。
「ピゥ?」
「ピゥー?」
二体はベンチに座るアイシャのお膝の上で、優しく優しく撫でもふられて、うっとりしていた。
「あ、アイシャ。まさか君は二体も……?」
「……ふふ」
羨望の眼差しで見つめられて、アイシャは選ばれし者特有のドヤ顔を見せた。
「モテる女はつらいですねえ。アイシャ様」
「そうなの。モテモテなの、私」
残りは今ルシウスからお説教中のセドリックが乗ってきた灰色の羽竜だが、彼の仲間らしいので売約済みである。
実際、興味もないのかユーグレンには見向きもしない。
「まさか……まさか、五体もいるのに一体にすら選ばれぬとは……不覚!」
ユーグレンは無念のあまり、庭の芝生に膝をついて項垂れてしまうのだった。
ならばと、皆も一緒に鍛錬で身体を動かして付き合うことにした。
ユーグレンの動きは一つ一つの動作がかなり重めだ。宙を斬るような動きのときに発生する音もビュンっと鋭い。
一つの動きが完結するたび、場の空気がスッキリ澄んでくるのがわかる。
ビクトリノがピューッと口笛を吹いた。
「へえ、それがアケロニア王族の〝型〟ってやつかい?」
「ご存知でしたか。王族は皆、子供の頃から習うんです。親兄弟や王都神殿の神官たちから」
ユーグレンが腕を伸ばすと、それを見ていた綿毛竜のユキノたちも真似して前脚を伸ばした。
伸びてしまっていた雛竜たちもようやく目を覚ましたようで、ユキノに倣っている。
「あっ、結構筋にきくなーこれ!」
「ピュイッ」
「ははっ、そうそう。上手だぞーう」
まずは簡単なストレッチで全身の筋肉を伸ばしては緩めるを繰り返す。これで体内の気の流れを整えるわけだ。
次に体幹を捻ったり、揺らしたりで更に緩めていく。この辺りで身体が温まって少し汗ばんでくる。
人間のユーグレンにはしっかりした動作になっていたが、慣れない綿毛竜たちの動きは、アンバランスでよたよたと頼りない踊りになってしまっていた。
だが、それが良い。
「もふもふちゃんたち、可愛いわ。何をしてても可愛い」
アイシャはもうすっかり綿毛竜たちの魅力にメロメロだ。
普段あまり表情の動かなかったはずの顔はゆるゆるに蕩けている。
そんなアイシャに、見守る彼氏のトオンも嬉しそうだ。今はルシウスの家で厄介になっているが、古書店に戻るときは雛竜たちを一体引き取れないか真剣に考えている。
ところで五体いる雛竜のうち、一番幼い五号は神人ジューアが引き取ることで話がついているそうだ。
「いちばん好奇心旺盛でやんちゃな子なのだ。躾け甲斐がある」
「ピュイッ(ボクの末のむすめなんだよ)」
欠伸しながらジューア本人が庭に来て、五号を手に取ってもふっていた。
いつもならこの時間はまだ寝ていることが多い彼女だが、弟のルシウスの魔力の奔流を感じて起きてきたらしい。
「な、何と。それなら私もぜひ一体……」
ユーグレンは近くでふよふよ浮いていた雛竜の四号雌を口説きだした。
小さなふわふわの身体を両手に乗せて、
「四号ちゃん。君のような愛らしい竜が一緒にいてくれたら、どんなに毎日が楽しいことだろう。どうかな、良かったら私とともに……」
だが、しかし。
「ピュイッ(あたしぃ。あなたのこと、あんまりこのみじゃないっていうかあ~)」
だが情熱的に口説かれて満更でもなさそうだ。
よし、このままなら押せる! と自信を持って更に口説き落とそうとしたところで、四号がチラッチラッと、別のところを見ていることに気づいた。
雛竜のガーネットの瞳の視線の先にいるのは聖者のビクトリノだ。
腕を背中に回して上下から組んで筋を伸ばすストレッチに集中していたビクトリノは、四号やユーグレンの視線に気づいて姿勢を戻した。
「ん? どうかしたかい?」
「ピューイッ(おじさま、あたしをもらってくださーい!)」
「お?」
胸の中に飛び込んできた小さな毛玉、もとい雛竜四号を受け止めた。
「ま、まさか……四号ちゃんの本命はビクトリノ様なのか!?」
「ん?」
胸元に懐きピュイピュイ鳴いてご機嫌な四号と、恨めしそうな顔のユーグレン王太子を交互に見やる。
ははあ、なるほど、と精悍な顔立ちの白髪のイケオジはにんまり笑った。
「いやあ、すまんね王太子殿下! いやあモテる男は辛いね!」
今後カーナ王国が落ち着いて永遠の国に戻るとき、四号はそのままビクトリノと一緒に彼の随獣としてついて行くそうだ。
「じ、じゃあ一号君はどうかな!?」
「ピュイッ(四号にフラれたからぼくのとこくるんですか? そういうのやめてほしいんですけど!)」
ちょっと捻くれた性格の一号雄にまで振られていた。
ちなみに一号にも心に決めた本命が既にいるようで。
「ピューイッ(ぼくはトオンくんがいいな)」
「えっ、俺のとこに来てくれるのか?」
「ピュアー(ぼくはかしこいひとがすきなのだ。トオンくんみたいなひと、だいすき)」
「へ、へへへ……ありがとな、こりゃあ嬉しい」
腕の中に飛び込んできた一号をもふりながら、トオンが恥ずかしげに照れている。
雛竜たちの中で一番幼いジューアが引き取り予定の五号雌。今ルシウス邸にいる中でこの仔だけはユキノとお嫁さんの卵から産まれた実の仔らしい。
「ピュイッ(あたちはおとうちゃん、ちゅきー)」
小さな真っ白ふわふわの身体で、ユキノのふわふわの脚に懐いていた。ユキノも父性が刺激されるのか、優しげな顔で五号の顔を舌で舐めてあやしている。
神人ジューアに引き取られるのは、もうしばらく父親のユキノの元で過ごした後になりそうだ。
「四号、一号、五号が売約済みとなると。残りは二号と三号だな!?」
ユーグレンがカズンそっくりな顔をキリッと引き締めて、残りの二体の雛竜を探すと。
「ピゥ?」
「ピゥー?」
二体はベンチに座るアイシャのお膝の上で、優しく優しく撫でもふられて、うっとりしていた。
「あ、アイシャ。まさか君は二体も……?」
「……ふふ」
羨望の眼差しで見つめられて、アイシャは選ばれし者特有のドヤ顔を見せた。
「モテる女はつらいですねえ。アイシャ様」
「そうなの。モテモテなの、私」
残りは今ルシウスからお説教中のセドリックが乗ってきた灰色の羽竜だが、彼の仲間らしいので売約済みである。
実際、興味もないのかユーグレンには見向きもしない。
「まさか……まさか、五体もいるのに一体にすら選ばれぬとは……不覚!」
ユーグレンは無念のあまり、庭の芝生に膝をついて項垂れてしまうのだった。
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