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第三章 カーナ王国の混迷
幕間 魔術師カズンの充実ソロキャン3
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それに、ロットハーナの邪法の被害者はカズンの父親だけではない。
当時一緒にいた幼馴染みや、親戚の王子も邪悪な魔力を受けて倒れてしまったと聞いている。
幼馴染みの名前はヨシュア。
今カーナ王国にいるルシウスの甥だ。
魔法の大家、リースト侯爵家の若き当主で、竜殺しの称号を持つ天才魔法剣士でもある。
あのルシウスの甥だけあって、青銀の髪と湖面の水色の、とても麗しい男だ。
もっとも、ルシウスと違って瞳の虹彩の中には銀色の花のような模様を持っている。
その模様は、扱える魔法剣の数が多いと出てくるそうだ。
叔父ルシウスは強かったが、出せる魔法剣は聖剣一本のみなので、瞳に銀の花は咲いていない。
「アイシャたちは〝鮭の人〟と呼んでるのだよな」
カズンがカーナ王国でトオンの古書店に滞在しているとき、ちょうど故郷から支援物資が送られてきて、中にヨシュアからの一匹丸ごとの鮭が入っていた。
そのあまりの美味しさに、アイシャとトオンは鮭が縄で吊るされ厨房の壁に掛けられていた間はずっと、魚のお頭を拝んでいたほどだ。
親戚の王子はユーグレンという。
カズンと同い年で、数ヶ月だけあちらのほうが早く産まれている。
現在はアケロニア王国の王太子になったと聞いていた。
カズンは先々王が高齢になってから迎えた若い後添えの夫人との間に生まれた子供で、先王の異母兄とも祖父と孫ほど歳が離れている。
ユーグレンはその異母兄の孫だ。
全方向に優れた王子で、すべてのステータスが平均値を上回る6以上を持つ。
魔力値が低く偏ったステータスのカズンにはとても羨ましい。
顔はやはりアケロニア王族特有の黒髪黒目で、容貌もよく似ていた。
あちらのほうが体格が良いのはちょっとだけ悔しい。
カズンとて旅の間に成長していたが、平均より少し高いぐらいで背も止まってしまっている。今ではもっと差が開いているはずだ。
「あいつは〝お高いチョコレートの人〟だったか。……ふふ」
やはりカズンがカーナ王国にいたとき、支援物資の中に入っていたのが、故郷の王家御用達の高級菓子店のチョコレートだった。
しかも大箱で。
しばらく、アイシャやトオンたちと優雅なティータイムを満喫させてもらったものだった。
「そうか。あいつらとも、もう五年以上会ってないのだよな」
どちらも環使いではないから、環を通じて連絡を取り合うことができない。
ただ、鮭の人ヨシュアは自分の家の財力とネットワークを使って、冒険者ギルド経由でカズンと手紙や物資のやりとりをしていた。
冒険者ギルドは円環大陸の全土にあるから、カズンが特定の支部に顔を出したらそこから次にどこの地域に行くか当たりをつけていたらしい。
「どこに行っても手紙が届く。鮭が来る。はは、そりゃ〝鮭の人〟と呼ばれるわけだ、ヨシュアめ」
王太子ユーグレンはともかく、ヨシュアは今年に入ってようやく五年前の被害から回復し、ついにはカズンを追って故郷を出奔したと聞いていた。
そんな手紙をまだアケロニア王国にいた頃のルシウスから受け取っていたカズンは、幼馴染みに再会できるのを楽しみにしていたのだ。
だが、それから何ヶ月経っても、会えない。
冒険者ギルド経由で連絡を取り合い、待ち合わせをしてもすれ違ってしまう。
「あいつ、いつになったら環使いになるんだ? 僕よりずっと優秀なはずなのに」
そうしたら、わざわざ冒険者ギルドを通さずとも、環同士で手紙も物品のやり取りも可能なのだ。
実際、同じファミリーの先輩ルシウスからは定期的に手紙と支援物資が届く。
ヨシュアは魔法の大家の現役当主で、学生時代から天才と呼ばれ、ファンクラブまであった男だ。
だから環ぐらい、ババーン! と速攻で使えるようになって、すぐ自分の旅に合流してくれるものとばかり思っていた。
しかし実際は全然駄目で、まさか五年も会えない日々が続くとは。
四歳の頃に出会って以来、ここまで長期間に渡って離れているのは初めての経験だった。
「早く来いよ、ヨシュア。ソロキャンもいいけどデュオキャンプのほうがきっと、もっと楽しい」
冷めかけたコーヒーを飲みながら、焚き火の炎を見つめて呟いた。
そんなカズンの胸元にはうっすら環が白く光っていたのだが、二袋目のクラッカーを開けてスモア作り二周目に行くかどうか迷うカズンは気づかないままだった。
※そこで「トリオキャンプしたいなー」と言ってもらえないところがチョコの人の気の毒なところです🍫
当時一緒にいた幼馴染みや、親戚の王子も邪悪な魔力を受けて倒れてしまったと聞いている。
幼馴染みの名前はヨシュア。
今カーナ王国にいるルシウスの甥だ。
魔法の大家、リースト侯爵家の若き当主で、竜殺しの称号を持つ天才魔法剣士でもある。
あのルシウスの甥だけあって、青銀の髪と湖面の水色の、とても麗しい男だ。
もっとも、ルシウスと違って瞳の虹彩の中には銀色の花のような模様を持っている。
その模様は、扱える魔法剣の数が多いと出てくるそうだ。
叔父ルシウスは強かったが、出せる魔法剣は聖剣一本のみなので、瞳に銀の花は咲いていない。
「アイシャたちは〝鮭の人〟と呼んでるのだよな」
カズンがカーナ王国でトオンの古書店に滞在しているとき、ちょうど故郷から支援物資が送られてきて、中にヨシュアからの一匹丸ごとの鮭が入っていた。
そのあまりの美味しさに、アイシャとトオンは鮭が縄で吊るされ厨房の壁に掛けられていた間はずっと、魚のお頭を拝んでいたほどだ。
親戚の王子はユーグレンという。
カズンと同い年で、数ヶ月だけあちらのほうが早く産まれている。
現在はアケロニア王国の王太子になったと聞いていた。
カズンは先々王が高齢になってから迎えた若い後添えの夫人との間に生まれた子供で、先王の異母兄とも祖父と孫ほど歳が離れている。
ユーグレンはその異母兄の孫だ。
全方向に優れた王子で、すべてのステータスが平均値を上回る6以上を持つ。
魔力値が低く偏ったステータスのカズンにはとても羨ましい。
顔はやはりアケロニア王族特有の黒髪黒目で、容貌もよく似ていた。
あちらのほうが体格が良いのはちょっとだけ悔しい。
カズンとて旅の間に成長していたが、平均より少し高いぐらいで背も止まってしまっている。今ではもっと差が開いているはずだ。
「あいつは〝お高いチョコレートの人〟だったか。……ふふ」
やはりカズンがカーナ王国にいたとき、支援物資の中に入っていたのが、故郷の王家御用達の高級菓子店のチョコレートだった。
しかも大箱で。
しばらく、アイシャやトオンたちと優雅なティータイムを満喫させてもらったものだった。
「そうか。あいつらとも、もう五年以上会ってないのだよな」
どちらも環使いではないから、環を通じて連絡を取り合うことができない。
ただ、鮭の人ヨシュアは自分の家の財力とネットワークを使って、冒険者ギルド経由でカズンと手紙や物資のやりとりをしていた。
冒険者ギルドは円環大陸の全土にあるから、カズンが特定の支部に顔を出したらそこから次にどこの地域に行くか当たりをつけていたらしい。
「どこに行っても手紙が届く。鮭が来る。はは、そりゃ〝鮭の人〟と呼ばれるわけだ、ヨシュアめ」
王太子ユーグレンはともかく、ヨシュアは今年に入ってようやく五年前の被害から回復し、ついにはカズンを追って故郷を出奔したと聞いていた。
そんな手紙をまだアケロニア王国にいた頃のルシウスから受け取っていたカズンは、幼馴染みに再会できるのを楽しみにしていたのだ。
だが、それから何ヶ月経っても、会えない。
冒険者ギルド経由で連絡を取り合い、待ち合わせをしてもすれ違ってしまう。
「あいつ、いつになったら環使いになるんだ? 僕よりずっと優秀なはずなのに」
そうしたら、わざわざ冒険者ギルドを通さずとも、環同士で手紙も物品のやり取りも可能なのだ。
実際、同じファミリーの先輩ルシウスからは定期的に手紙と支援物資が届く。
ヨシュアは魔法の大家の現役当主で、学生時代から天才と呼ばれ、ファンクラブまであった男だ。
だから環ぐらい、ババーン! と速攻で使えるようになって、すぐ自分の旅に合流してくれるものとばかり思っていた。
しかし実際は全然駄目で、まさか五年も会えない日々が続くとは。
四歳の頃に出会って以来、ここまで長期間に渡って離れているのは初めての経験だった。
「早く来いよ、ヨシュア。ソロキャンもいいけどデュオキャンプのほうがきっと、もっと楽しい」
冷めかけたコーヒーを飲みながら、焚き火の炎を見つめて呟いた。
そんなカズンの胸元にはうっすら環が白く光っていたのだが、二袋目のクラッカーを開けてスモア作り二周目に行くかどうか迷うカズンは気づかないままだった。
※そこで「トリオキャンプしたいなー」と言ってもらえないところがチョコの人の気の毒なところです🍫
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