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第三章 カーナ王国の混迷

鮭の人のこだわり魔導具(カズンがとても心配なのですが!?)

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 ちなみに、ルシウスのレストランを荒らした犯人は呆気なく判明している。

 そもそも、彼は自分の店に最初から、防犯のため自国から持ち込んでいた魔導具を複数箇所に仕込んでいた。
 音声記録と映像記録の魔導具である。
 彼の故郷で秘密裏に開発されたもので、まだ一般化はされていない。
 透明な魔法樹脂製で、大きさは大人の男性の親指ほどの円柱だ。

「これは私の可愛い甥っ子が、いつでも大好きな人の声を聞いていたいからと長時間の音声記録を可能にし!」

 え? とアイシャたちも、現場検証に来ていた衛兵や外野たちも頭に疑問符を浮かべた。
 唐突に何を言い出すかと思ったら。

「いつでも大好きな人の素敵な姿を見ていたいからと映像記録を可能にしたのだ。その努力たるや血の滲むような歩みであったぞ……!」

 そのルシウスの甥っ子というのが、いわゆる『鮭の人』、カズンへの物資援助を通じてアイシャとトオンの食生活に鮭なる美味を与えてくれた恩人である。
 あの美味しいごはんを作るカズンの、故郷での幼馴染みだ。

「うん。何かすごいこと言ってると思うんだけど、ただの甥っ子さん自慢しか記憶に残らないね」
「そうね。鮭送ってくれた人がすごかったってことはわかるけどね」
「それに、その大好きな人って……」

 鮭の人の執着の向く先は。

「「とりあえずカズン、逃げて」」

 アイシャとトオンはこの日、鮭の人情報を更新した。
 ルシウスの甥っ子でカズンの幼馴染みの鮭の人ヨシュアはちょっとだいぶ危ない人かもしれない。

 なお、鮭の人はまだカズンには追いつけていないらしい。
 早く会えるようにと祈る気持ちと、再会した後のカズンが無事で済むのか不安になる気持ちがせめぎ合ってしまうアイシャとトオンだった。

「私たちもそのうち会える気はしてるけどね」
「会える日が楽しみなような、怖いような」

 余談だが、鮭の人がこの録画録音付きの魔法樹脂の作成に成功したのは、彼とカズンが4歳頃のことだそうだ。
 大人になってからやっていたらただの不審者ストーカーだが、その年頃なら子供の可愛い我が儘だ。ちょっとだけアイシャとトオンは安心した。

「またあそぼうね!」「ヨシュアくんがいちばんのおともだち!」みたいなメッセージをどうしても幼い頃の鮭の人は保存したかったという。
 最初は数秒しか保たなかったものを、叔父ルシウスの鬼の指導の元、ものすごーい長時間の記録を可能にして現在に至ると聞かされ、アイシャとトオンは戦慄した。

「4歳でこのクオリティの魔法樹脂を魔導具化って……嘘だろ!?」
「本物の天才ね。ルシウスさんの甥っ子だけあるわ」






※映像と音声を記録したカズン君とのメモリアルはたくさんある。
そしてルシウスも家族や甥っ子との記録をたくさんたくさん持っている。もちろんカーナ王国にも持参しています。
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