婚約破棄で捨てられ聖女の私の虐げられ実態が知らないところで新聞投稿されてたんだけど~聖女投稿~

真義あさひ

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第三章 カーナ王国の混迷

聖女をマジ切れさせた男

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 まず、ミズスィーマ氏の商会に行って、教会司祭からの紹介状を受付で渡すと、商会長室にいた本人とすぐ面談することができた。

 トオンは彼と以前から商店街組合関係で面識がある。
 ここに来るまでの間に、ルシウスを聖剣の聖者で現在の聖女アイシャの師匠であること、他国の貴族出身であることは最初から伝えると決めていた。
 とはいえ、トオンが紹介するまでもなく、教会の世話役だったミズスィーマ氏は世話役を退いた現在でもルシウスのことを知っていた。

 いくら何でも初対面でいきなり、アイシャに関する話をするわけにもいかない。
 そもそも今回彼を訪れた目的はルシウスの店の被害の相談だ。
 一通りルシウスから話を聴き終わったミズスィーマ氏は、溜め息をついた後で便箋に王都の衛兵の屯所への紹介状を書いてくれた。

「既に連絡されてるでしょうが、まず犯行の実行犯を捕まえることが先決ですね。聖女アイシャの関係者の店なら問題ないでしょうが、対応が鈍いようならこちらの紹介状をお使いください」
「ありがたく頂戴します」

 そして嘆息して言った。

「店を出す前に、オーナーとして同じ地区の飲食店組合に上から紹介してもらうべきでした。カーナ王国の貴族にお知り合いはおられませんでしたか」
「試験的な試みでしたので。……そうですか、どこもやはり縁故社会ですね」

 伝手なら既に宰相がいたが、彼は元王家に近すぎて大物過ぎる。
 何にせよルシウスの考えが甘かった。



 その後、王都の有力者たちへの紹介を受ける中で、ルシウスはミズスィーマ氏の苦悩を聞くまでの仲になった。
 というより彼自身、自分のことを誰かに聞いてもらいたかったのだろう。
 ミズスィーマ氏の商会を訪ね、茶を飲みながらルシウスは聖女投稿以降の彼の現状を聞いた。

 彼は己の所業が聖女投稿で暴露されて、直後にあまりにも外聞が悪いからと教会での世話役を自分から辞している。
 王都での商会経営や商店街、西地区の顔役はそのままだが、人々の彼を見る目は厳しい。
 本人の持っている商会の業績も聖女投稿で暴露されて以降、ずっと低迷しているという。

 ミズスィーマ氏がアイシャにしたのは、聖女投稿によるとこのようなことだ。

 円環大陸共通暦○○○○年2月13日に書かれた分である。



『あれは、一年以上前のことだった。

 王城で国王陛下たちとの謁見を済ませた後で教会まで戻ってきてくれた大司祭様と、応接間で三時間くらいかな。
 歓談をして、永遠の国に戻る彼をお見送りした後のこと。

 私が王城に戻る支度をしていたとき、この国の教会で司祭様たち上級聖職者の世話役の男性が訪ねて来て、私にこのような注意をした。

「いくら聖女様とはいえ、大司祭様と馴れ合うのはおやめいただきたい」
「なぜ?」

 私は意味がわからず、その場で聞き返した。
 馴れ合う? どういうこと?
 私はこの国の聖女であり、彼は聖者だから互いに相通じるものがある。
 私たちは同格なのよ。
 それがなぜ『馴れ合うな』???

「永遠の国からの大司祭様ですぞ! しかも比類なき聖者様でもあらせられる! あなたのような、胡散臭いただの一聖女とは比べ物にならないほど尊い方なのです! 身の程を弁えられよ!」

 ものすごい剣幕で怒られた。
 やはり意味がわからない。

 だけど、これまで経験してきた中で、傷ついた出来事のトップクラスだったのが、これ。
 ……私、聖女のバックアップが使命のはずの教会関係者からもこんな態度取られていたのよ。

 私は正直、この男のことは今でも恨みに思っている。
 お前だけは何があっても、どれだけ時間がかかってもこの力をもって潰してやると思ったわ。

 そうね、クーツ元王太子殿下よりずっとずっと恨んでいる。
 それだけのことをお前は私にしたのだ』



 ミズスィーマ氏のこの所業だが、数多掲載された『聖女投稿』の中の一つに過ぎない。
 アイシャが受けた虐待の中では軽いほうだろう。

 しかし、アイシャが書いた聖女投稿の中で、彼女本人に恨まれ、潰してやるとまで書かれた相手はこの教会世話役のミズスィーマ氏だけ。
 それだけに、すべての聖女投稿に目を通していたルシウスはずっと気になっていたのだ。
 アイシャ本人に確認しようとしたが彼女は嫌がってミズスィーマ氏の名前すら聞きたがらなかった。

 ミズスィーマ氏は世話役になるだけあって王都教会の中でも特に発言権の強い人物だった。
 結果、アイシャに教会組織への見切りをつけさせた人物でもある。









※第一章で「あいつどうなったの?」「ざまぁはよ」とコメントで聞かれるも、第15回恋愛大賞期間中に消化できなかったため先送りした男の話。
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