90 / 299
第二章 お師匠様がやってきた
どこまでもクズだったカーナ王家
しおりを挟む
「エイリー様に環に触れられたとき、私は彼女の無念を知ったわ」
初代聖女で初代王妃と伝えられているエイリー。
しかし彼女は王妃ではなかった。
一度たりともカーナ王国の歴史において、王族となったことがない。
「でも当時、婚姻の儀だけはちゃんと行っていたから、国民に周知だけはされてたわけね」
「そこまでやって王統譜に載せなかったのか。結婚詐欺もいいところだな」
結婚詐欺。
そう、その一言で片付いてしまう。
そしてその事実は、当時の聖女エイリーを相当に傷つけたはずだ。
愛した男から受けた残酷な仕打ちは、彼女が国王から臣下に下げ渡された後で知ったことだろう。
「エイリー様はとても愚かな方よ。でも本人が持ってた願いはとても単純だったの。建国の祖トオン国王を愛していただけでなく、彼の子供を産み、育てたかった女性なのよ」
何ひとつ叶えられていない。
それが、まさか500年後になって国王アルターに犯されることで果たされるとは、彼女自身も思いもしなかったことだろう。
結果としてエイリーは王の血を引く子供トオンを産み落とした。
「エイリー様は国王の子供が欲しかったし、自分の子供を王にしたかった。でもできなかった。……私はトオンを王にしたわ。国民は彼をクーツと思ったままだけど、ちゃんと王統譜にはトオンの名前で書かせた」
トオン自身は、嫌悪する聖女エイリーの息子である自分の出自を隠したかったようだ。
だからまだ本人には伝えていない。
「今はまだ、国が混乱しているから公表はしないの。宰相と話し合って、何もなければ五十年後にすべてが明らかになるよう手配させたわ」
これ、とアイシャは食卓の脇に置いてあった新聞を手に取った。
「新聞社に資料を封印して預けてあるの」
「なるほど、五十年後に聖女投稿の続編が連載されるわけか」
その頃にはまた国内外の話題をさらうことだろう。
「ふふ。その頃には、もうこの国は完全に共和国制になってるだろうし、真実の重みは人々には娯楽として受け止められるでしょうね」
アイシャは笑っているが、その飴のような茶色の目は物騒に光っている。
「何とも、まあ」
話を聞いて、さすがのルシウスも呆れ返った。
以前、カズンから数度に渡って彼が関わったカーナ王国の滞在中の出来事に関する手紙を受け取っている。
手紙の中でカズンは幾度も、元王太子クーツはクズ王子、国王はクズ国王、王家や王族はクズ王家、クズ王族と、“クズ”尽くしで罵っていた。
カズンは王族の生まれで育ちが良いので、あまり人を罵るということがない。
そもそも、罵倒のボキャブラリも少ないはずだ。
それが“クズ”を連呼するようになったとは、旅の期間が長過ぎて世間の荒波に揉まれまくったのだなあと、しみじみ物悲しさをルシウスに感じさせたものだったのだが。
「なるほど、これは確かに“クズ”としか言いようがない」
人の良いカズンにクズと言われるほどのことはある。
初代聖女で初代王妃と伝えられているエイリー。
しかし彼女は王妃ではなかった。
一度たりともカーナ王国の歴史において、王族となったことがない。
「でも当時、婚姻の儀だけはちゃんと行っていたから、国民に周知だけはされてたわけね」
「そこまでやって王統譜に載せなかったのか。結婚詐欺もいいところだな」
結婚詐欺。
そう、その一言で片付いてしまう。
そしてその事実は、当時の聖女エイリーを相当に傷つけたはずだ。
愛した男から受けた残酷な仕打ちは、彼女が国王から臣下に下げ渡された後で知ったことだろう。
「エイリー様はとても愚かな方よ。でも本人が持ってた願いはとても単純だったの。建国の祖トオン国王を愛していただけでなく、彼の子供を産み、育てたかった女性なのよ」
何ひとつ叶えられていない。
それが、まさか500年後になって国王アルターに犯されることで果たされるとは、彼女自身も思いもしなかったことだろう。
結果としてエイリーは王の血を引く子供トオンを産み落とした。
「エイリー様は国王の子供が欲しかったし、自分の子供を王にしたかった。でもできなかった。……私はトオンを王にしたわ。国民は彼をクーツと思ったままだけど、ちゃんと王統譜にはトオンの名前で書かせた」
トオン自身は、嫌悪する聖女エイリーの息子である自分の出自を隠したかったようだ。
だからまだ本人には伝えていない。
「今はまだ、国が混乱しているから公表はしないの。宰相と話し合って、何もなければ五十年後にすべてが明らかになるよう手配させたわ」
これ、とアイシャは食卓の脇に置いてあった新聞を手に取った。
「新聞社に資料を封印して預けてあるの」
「なるほど、五十年後に聖女投稿の続編が連載されるわけか」
その頃にはまた国内外の話題をさらうことだろう。
「ふふ。その頃には、もうこの国は完全に共和国制になってるだろうし、真実の重みは人々には娯楽として受け止められるでしょうね」
アイシャは笑っているが、その飴のような茶色の目は物騒に光っている。
「何とも、まあ」
話を聞いて、さすがのルシウスも呆れ返った。
以前、カズンから数度に渡って彼が関わったカーナ王国の滞在中の出来事に関する手紙を受け取っている。
手紙の中でカズンは幾度も、元王太子クーツはクズ王子、国王はクズ国王、王家や王族はクズ王家、クズ王族と、“クズ”尽くしで罵っていた。
カズンは王族の生まれで育ちが良いので、あまり人を罵るということがない。
そもそも、罵倒のボキャブラリも少ないはずだ。
それが“クズ”を連呼するようになったとは、旅の期間が長過ぎて世間の荒波に揉まれまくったのだなあと、しみじみ物悲しさをルシウスに感じさせたものだったのだが。
「なるほど、これは確かに“クズ”としか言いようがない」
人の良いカズンにクズと言われるほどのことはある。
13
お気に入りに追加
3,937
あなたにおすすめの小説
前世軍医だった傷物令嬢は、幸せな花嫁を夢見る
花雨宮琵
恋愛
侯爵令嬢のローズは、10歳のある日、背中に刀傷を負い生死の境をさまよう。
その時に見た夢で、軍医として生き、結婚式の直前に婚約者を亡くした前世が蘇る。
何とか一命を取り留めたものの、ローズの背中には大きな傷が残った。
“傷物令嬢”として揶揄される中、ローズは早々に貴族女性として生きることを諦め、隣国の帝国医学校へ入学する。
背中の傷を理由に六回も婚約を破棄されるも、18歳で隣国の医師資格を取得。自立しようとした矢先に王命による7回目の婚約が結ばれ、帰国を余儀なくされる。
7人目となる婚約者は、弱冠25歳で東の将軍となった、ヴァンドゥール公爵家次男のフェルディナンだった。
長年行方不明の想い人がいるフェルディナンと、義務ではなく愛ある結婚を夢見るローズ。そんな二人は、期間限定の条件付き婚約関係を結ぶことに同意する。
守られるだけの存在でいたくない! と思うローズは、一人の医師として自立し、同時に、今世こそは愛する人と結ばれて幸せな家庭を築きたいと願うのであったが――。
この小説は、人生の理不尽さ・不条理さに傷つき悩みながらも、幸せを求めて奮闘する女性の物語です。
※この作品は2年前に掲載していたものを大幅に改稿したものです。
(C)Elegance 2025 All Rights Reserved.無断転載・無断翻訳を固く禁じます。
いつか彼女を手に入れる日まで
月山 歩
恋愛
伯爵令嬢の私は、婚約者の邸に馬車で向かっている途中で、馬車が転倒する事故に遭い、治療院に運ばれる。医師に良くなったとしても、足を引きずるようになると言われてしまい、傷物になったからと、格下の私は一方的に婚約破棄される。私はこの先誰かと結婚できるのだろうか?
最愛の側妃だけを愛する旦那様、あなたの愛は要りません
abang
恋愛
私の旦那様は七人の側妃を持つ、巷でも噂の好色王。
後宮はいつでも女の戦いが絶えない。
安心して眠ることもできない後宮に、他の妃の所にばかり通う皇帝である夫。
「どうして、この人を愛していたのかしら?」
ずっと静観していた皇后の心は冷めてしまいう。
それなのに皇帝は急に皇后に興味を向けて……!?
「あの人に興味はありません。勝手になさい!」
完結 婚約破棄は都合が良すぎる戯言
音爽(ネソウ)
恋愛
王太子の心が離れたと気づいたのはいつだったか。
婚姻直前にも拘わらず、すっかり冷えた関係。いまでは王太子は堂々と愛人を侍らせていた。
愛人を側妃として置きたいと切望する、だがそれは継承権に抵触する事だと王に叱責され叶わない。
絶望した彼は「いっそのこと市井に下ってしまおうか」と思い悩む……
わたくし、残念ながらその書類にはサインしておりませんの。
朝霧心惺
恋愛
「リリーシア・ソフィア・リーラー。冷酷卑劣な守銭奴女め、今この瞬間を持って俺は、貴様との婚約を破棄する!!」
テオドール・ライリッヒ・クロイツ侯爵令息に高らかと告げられた言葉に、リリーシアは純白の髪を靡かせ高圧的に微笑みながら首を傾げる。
「誰と誰の婚約ですって?」
「俺と!お前のだよ!!」
怒り心頭のテオドールに向け、リリーシアは真実を告げる。
「わたくし、残念ながらその書類にはサインしておりませんの」
この度、双子の妹が私になりすまして旦那様と初夜を済ませてしまったので、 私は妹として生きる事になりました
秘密 (秘翠ミツキ)
恋愛
*レンタル配信されました。
レンタルだけの番外編ssもあるので、お読み頂けたら嬉しいです。
【伯爵令嬢のアンネリーゼは侯爵令息のオスカーと結婚をした。籍を入れたその夜、初夜を迎える筈だったが急激な睡魔に襲われて意識を手放してしまった。そして、朝目を覚ますと双子の妹であるアンナマリーが自分になり代わり旦那のオスカーと初夜を済ませてしまっていた。しかも両親は「見た目は同じなんだし、済ませてしまったなら仕方ないわ。アンネリーゼ、貴女は今日からアンナマリーとして過ごしなさい」と告げた。
そして妹として過ごす事になったアンネリーゼは妹の代わりに学院に通う事となり……更にそこで最悪な事態に見舞われて……?】
【完結】あなたのいない世界、うふふ。
やまぐちこはる
恋愛
17歳のヨヌク子爵家令嬢アニエラは栗毛に栗色の瞳の穏やかな令嬢だった。近衛騎士で伯爵家三男、かつ騎士爵を賜るトーソルド・ロイリーと幼少から婚約しており、成人とともに政略的な結婚をした。
しかしトーソルドには恋人がおり、結婚式のあと、初夜を迎える前に出たまま戻ることもなく、一人ロイリー騎士爵家を切り盛りするはめになる。
とはいえ、アニエラにはさほどの不満はない。結婚前だって殆ど会うこともなかったのだから。
===========
感想は一件づつ個別のお返事ができなくなっておりますが、有り難く拝読しております。
4万文字ほどの作品で、最終話まで予約投稿済です。お楽しみいただけましたら幸いでございます。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。