89 / 296
第二章 お師匠様がやってきた
カーナ王家の闇
しおりを挟む
朝食のとき、さりげなく聖女エイリーのことを尋ねてみたルシウス。
だが、それまで美味しい美味しいとリゾットを食していたのに、アイシャは気まずそうな顔になり、トオンに至っては勢いよく残りのリゾットを掻っ込んで、
「ごめん。その話はあんまりしたくないです」
とまだ早い時間にも関わらず、古紙回収で街に出てしまった。
あの調子だと、昼になっても戻って来ないかもしれない。
ルシウスは朝食後、今日は用事がないというアイシャと食後のお茶を飲みながら話をした。
故郷に戻ったとき、師匠の魔術師フリーダヤと話した内容を掻い摘んで話すと、まだ話していなかったことだがと前置きして詳しい事情を話してくれた。
「……そう。賎民呪法の構造はそうなってるのね。その辺のことはトオンにもっと詳しく解析してもらいたいところだけど」
まだ王都の地下に埋まったままの、古代生物の化石の調査をしなければならない。
ただ、どうしてもこの話題となると聖女エイリーに触れる必要がある。
先ほどのトオンの態度だと、すぐ取り掛かるのは難しいかもしれない。
ルシウスはまず、魔術師フリーダヤから聞いた賎民呪法の効果範囲の話、特に国王と王妃として即位したトオンとアイシャが国内で上位存在化した話のことをアイシャに話した。
そして、懸念事項である、同じように初代王妃となったはずの聖女エイリーが、なぜ賎民呪法の影響下で上位存在となっていないかの疑問のことも。
「……それはね。カーナ王家が如何に愚かで悪辣だったかの話の一部なのよ」
約半年前、自滅して死んだクーツに扮して新国王となったトオン。
しかし、王統譜に記された最後の王の名前はクーツではなく、トオン本人のものだ。
「私が独断で宰相に命じたの。トオンにはまだ話してない。頃合いを見て話そうとは思ってるけど」
新国王トオン・カーナ。
父親は前国王アルター。
母親は初代聖女エイリー。
王統譜を閲覧できる者は限られているため、予想通りトオンとアイシャが退位しても、誰にもその表記に気づかれないまま終わっている。
約半年前、アイシャが王都地下の邪悪な古代生物を浄化する寸前。
消える前のエイリーに己の環を触れられたとき、アイシャは彼女から彼女なりのこれまでの意図を受け取った。
聖女エイリーは、初代国王トオンが「自分を大切にする」約束を守るなら、土地の邪悪な魔力や穢れを浄化する役割を引き受けると誓った。
その一環として初代国王と婚姻を結び、王妃となったはずだった。
彼らふたりの婚姻の儀が執り行われた公式記録は残っている。
ところが、アイシャがトオンと国王と王妃として即位するにあたり王統譜を確認したとき、とんでもない事実が発覚した。
「聖女エイリー様はね、王族の王統譜に載ってなかったの」
「……まあ、予想はしていた」
初代国王トオン。トオンやアイシャの元婚約者クーツ王子たちの祖先だ。
その配偶者の王妃には、今はもうない、当時隆盛を誇っていた他国の姫の名前がある。
ふたりは初婚で、初代国王の欄には離婚歴なども記入がなかったそうだ。
だが、それまで美味しい美味しいとリゾットを食していたのに、アイシャは気まずそうな顔になり、トオンに至っては勢いよく残りのリゾットを掻っ込んで、
「ごめん。その話はあんまりしたくないです」
とまだ早い時間にも関わらず、古紙回収で街に出てしまった。
あの調子だと、昼になっても戻って来ないかもしれない。
ルシウスは朝食後、今日は用事がないというアイシャと食後のお茶を飲みながら話をした。
故郷に戻ったとき、師匠の魔術師フリーダヤと話した内容を掻い摘んで話すと、まだ話していなかったことだがと前置きして詳しい事情を話してくれた。
「……そう。賎民呪法の構造はそうなってるのね。その辺のことはトオンにもっと詳しく解析してもらいたいところだけど」
まだ王都の地下に埋まったままの、古代生物の化石の調査をしなければならない。
ただ、どうしてもこの話題となると聖女エイリーに触れる必要がある。
先ほどのトオンの態度だと、すぐ取り掛かるのは難しいかもしれない。
ルシウスはまず、魔術師フリーダヤから聞いた賎民呪法の効果範囲の話、特に国王と王妃として即位したトオンとアイシャが国内で上位存在化した話のことをアイシャに話した。
そして、懸念事項である、同じように初代王妃となったはずの聖女エイリーが、なぜ賎民呪法の影響下で上位存在となっていないかの疑問のことも。
「……それはね。カーナ王家が如何に愚かで悪辣だったかの話の一部なのよ」
約半年前、自滅して死んだクーツに扮して新国王となったトオン。
しかし、王統譜に記された最後の王の名前はクーツではなく、トオン本人のものだ。
「私が独断で宰相に命じたの。トオンにはまだ話してない。頃合いを見て話そうとは思ってるけど」
新国王トオン・カーナ。
父親は前国王アルター。
母親は初代聖女エイリー。
王統譜を閲覧できる者は限られているため、予想通りトオンとアイシャが退位しても、誰にもその表記に気づかれないまま終わっている。
約半年前、アイシャが王都地下の邪悪な古代生物を浄化する寸前。
消える前のエイリーに己の環を触れられたとき、アイシャは彼女から彼女なりのこれまでの意図を受け取った。
聖女エイリーは、初代国王トオンが「自分を大切にする」約束を守るなら、土地の邪悪な魔力や穢れを浄化する役割を引き受けると誓った。
その一環として初代国王と婚姻を結び、王妃となったはずだった。
彼らふたりの婚姻の儀が執り行われた公式記録は残っている。
ところが、アイシャがトオンと国王と王妃として即位するにあたり王統譜を確認したとき、とんでもない事実が発覚した。
「聖女エイリー様はね、王族の王統譜に載ってなかったの」
「……まあ、予想はしていた」
初代国王トオン。トオンやアイシャの元婚約者クーツ王子たちの祖先だ。
その配偶者の王妃には、今はもうない、当時隆盛を誇っていた他国の姫の名前がある。
ふたりは初婚で、初代国王の欄には離婚歴なども記入がなかったそうだ。
12
お気に入りに追加
3,939
あなたにおすすめの小説
【完結】家族にサヨナラ。皆様ゴキゲンヨウ。
くま
恋愛
「すまない、アデライトを愛してしまった」
「ソフィア、私の事許してくれるわよね?」
いきなり婚約破棄をする婚約者と、それが当たり前だと言い張る姉。そしてその事を家族は姉達を責めない。
「病弱なアデライトに譲ってあげなさい」と……
私は昔から家族からは二番目扱いをされていた。いや、二番目どころでもなかった。私だって、兄や姉、妹達のように愛されたかった……だけど、いつも優先されるのは他のキョウダイばかり……我慢ばかりの毎日。
「マカロン家の長男であり次期当主のジェイコブをきちんと、敬い立てなさい」
「はい、お父様、お母様」
「長女のアデライトは体が弱いのですよ。ソフィア、貴女がきちんと長女の代わりに動くのですよ」
「……はい」
「妹のアメリーはまだ幼い。お前は我慢しなさい。下の子を面倒見るのは当然なのだから」
「はい、わかりました」
パーティー、私の誕生日、どれも私だけのなんてなかった。親はいつも私以外のキョウダイばかり、
兄も姉や妹ばかり構ってばかり。姉は病弱だからと言い私に八つ当たりするばかり。妹は我儘放題。
誰も私の言葉を聞いてくれない。
誰も私を見てくれない。
そして婚約者だったオスカー様もその一人だ。病弱な姉を守ってあげたいと婚約破棄してすぐに姉と婚約をした。家族は姉を祝福していた。私に一言も…慰めもせず。
ある日、熱にうなされ誰もお見舞いにきてくれなかった時、前世を思い出す。前世の私は家族と仲良くもしており、色々と明るい性格の持ち主さん。
「……なんか、馬鹿みたいだわ!」
もう、我慢もやめよう!家族の前で良い子になるのはもうやめる!
ふるゆわ設定です。
※家族という呪縛から解き放たれ自分自身を見つめ、好きな事を見つけだすソフィアを応援して下さい!
※ざまあ話とか読むのは好きだけど書くとなると難しいので…読者様が望むような結末に納得いかないかもしれません。🙇♀️でも頑張るます。それでもよければ、どうぞ!
追加文
番外編も現在進行中です。こちらはまた別な主人公です。
政略より愛を選んだ結婚。~後悔は十年後にやってきた。~
つくも茄子
恋愛
幼い頃からの婚約者であった侯爵令嬢との婚約を解消して、学生時代からの恋人と結婚した王太子殿下。
政略よりも愛を選んだ生活は思っていたのとは違っていた。「お幸せに」と微笑んだ元婚約者。結婚によって去っていた側近達。愛する妻の妃教育がままならない中での出産。世継ぎの王子の誕生を望んだものの産まれたのは王女だった。妻に瓜二つの娘は可愛い。無邪気な娘は欲望のままに動く。断罪の時、全てが明らかになった。王太子の思い描いていた未来は元から無かったものだった。後悔は続く。どこから間違っていたのか。
他サイトにも公開中。
側妃は捨てられましたので
なか
恋愛
「この国に側妃など要らないのではないか?」
現王、ランドルフが呟いた言葉。
周囲の人間は内心に怒りを抱きつつ、聞き耳を立てる。
ランドルフは、彼のために人生を捧げて王妃となったクリスティーナ妃を側妃に変え。
別の女性を正妃として迎え入れた。
裏切りに近い行為は彼女の心を確かに傷付け、癒えてもいない内に廃妃にすると宣言したのだ。
あまりの横暴、人道を無視した非道な行い。
だが、彼を止める事は誰にも出来ず。
廃妃となった事実を知らされたクリスティーナは、涙で瞳を潤ませながら「分かりました」とだけ答えた。
王妃として教育を受けて、側妃にされ
廃妃となった彼女。
その半生をランドルフのために捧げ、彼のために献身した事実さえも軽んじられる。
実の両親さえ……彼女を慰めてくれずに『捨てられた女性に価値はない』と非難した。
それらの行為に……彼女の心が吹っ切れた。
屋敷を飛び出し、一人で生きていく事を選択した。
ただコソコソと身を隠すつまりはない。
私を軽んじて。
捨てた彼らに自身の価値を示すため。
捨てられたのは、どちらか……。
後悔するのはどちらかを示すために。
【7話完結】婚約破棄?妹の方が優秀?あぁそうですか・・・。じゃあ、もう教えなくていいですよね?
西東友一
恋愛
昔、昔。氷河期の頃、人々が魔法を使えた時のお話。魔法教師をしていた私はファンゼル王子と婚約していたのだけれど、妹の方が優秀だからそちらと結婚したいということ。妹もそう思っているみたいだし、もう教えなくてもいいよね?
7話完結のショートストーリー。
1日1話。1週間で完結する予定です。
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
婚約破棄された私は、処刑台へ送られるそうです
秋月乃衣
恋愛
ある日システィーナは婚約者であるイデオンの王子クロードから、王宮敷地内に存在する聖堂へと呼び出される。
そこで聖女への非道な行いを咎められ、婚約破棄を言い渡された挙句投獄されることとなる。
いわれの無い罪を否定する機会すら与えられず、寒く冷たい牢の中で断頭台に登るその時を待つシスティーナだったが──
他サイト様でも掲載しております。
うたた寝している間に運命が変わりました。
gacchi
恋愛
優柔不断な第三王子フレディ様の婚約者として、幼いころから色々と苦労してきたけど、最近はもう呆れてしまって放置気味。そんな中、お義姉様がフレディ様の子を身ごもった?私との婚約は解消?私は学園を卒業したら修道院へ入れられることに。…だったはずなのに、カフェテリアでうたた寝していたら、私の運命は変わってしまったようです。
契約破棄された聖女は帰りますけど
基本二度寝
恋愛
「聖女エルディーナ!あなたとの婚約を破棄する」
「…かしこまりました」
王太子から婚約破棄を宣言され、聖女は自身の従者と目を合わせ、頷く。
では、と身を翻す聖女を訝しげに王太子は見つめた。
「…何故理由を聞かない」
※短編(勢い)
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。