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第二章 お師匠様がやってきた

聖者ルシウスの悔恨

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「ふがっ!?」

 ルシウスが自分のいびきで起きたのは、それから1時間ほど後のことだ。
 ガバリと休憩所の畳に似た床の上から身体を勢いよく起こした。
 その瞬間、自分の身体からネオンブルーの魔力が吹き出して、自分の周りにあった魔法樹脂のドームが瞬時に溶けて消えていく。

「あ、アイシャ? トオン!?」

 ふたりがいない。
 サーっとルシウスは自分の全身から血の気が引いていくほどの恐怖を味わった。
 不味い。自分が寝こけているうちに誰かに連れて行かれてしまったのだろうか?
 これでは引率の大人失格である。

「あっ! 兄ちゃん、メモ! メモ見て!」

 何やら周囲で休んでいたおっさんたちに声をかけられたが、構っている心の余裕はなかった。

 走りながらリンクを出す。

(アイシャとトオンはどこにいる!?)

 もう油断はしないと亡き兄の面影に誓っているルシウスだ。
 心の中に浮かぶ兄は「勝手にそんなこと誓われても困るんだけど」と眉間に皺を寄せた顔をしているが、関係ない。自分が誓いたいから誓うのだ。



 過去三度、ルシウスは己の油断で大事な人たちを傷つけ、苦しめる結果を引き起こしている。

 一度目は、甥っ子がまだ4歳のとき。
 同い年の幼い王弟、そう当時のカズンと遊ばせるため、王宮の離宮に甥っ子を連れて行ったときのこと。
 王宮で騎士団員として仕事をしていた兄が呼んでいると言われて、甥っ子を離宮の顔見知りの侍従に預けて近くを離れてしまった。
 いざ兄の元を訪れれば「何で私がお前を呼ばねばならんのだ?」と冷たく言われて、慌てて離宮に戻ったときには甥っ子とカズンがふたりまとめて刺客に襲撃され、呪詛を受けていた。

 彼の実家、リースト家というのは一族皆、ステータスの能力値がとても偏っている。
 人物鑑定で見ることができるステータスのテンプレートでは、能力値は主に『体力、魔力、知力、人間性、人間関係、幸運』の6項目。
 すべて10段階評価で、1が最低で10が最高。
 リースト家は魔力と知力が高めだが、幸運値が低めになりやすい一族だった。
 平均値の5を上回るものが少なく、ルシウスもせいぜい4相当ほどしかない。

 甥っ子など更に低く幸運値3だ。
 それが、呪詛の影響で最低の1まで落ちた。
 最悪である。
 幸運値は幸運に恵まれる確率を示すというより、環境からどれだけ他力で助けてもらえるかの外運的な数値である。
 それが最低の1ともなれば、甥っ子は今後の人生では何をするにも自力で努力せねば何も得られなくなる。

 そしてもうひとりの被害者カズンは、魔力値が最高の10を持って生まれた天に祝福されたアケロニア王族だったが、2まで落ちてしまった。
 この呪詛さえなければ、彼は次世代の王の座に最も近い王族のはずだったのに。

 刺客は、カズンと同い年の王孫側の関係者が、魔力値10で生まれたカズンの存在を危惧して独断で動いたものと判明した。
 カズンは王位継承権争いに巻き込まれ、そこにルシウスの甥っ子まで被害を受けたというわけである。

 当然、そのような刺客など、当時既に聖剣の魔法剣士であり、聖者としても覚醒していたルシウスなら問題なく撃退できたはずだった。
 しかし、刺客側の奸計に嵌まって甥っ子とカズンの側を離れてしまった。

 これがルシウスに大きな後悔をもたらした、一度目の油断だ。

 カズンの両親はルシウスを責めることはなかったが、兄カイルには人生で初めてぶん殴られ、怒鳴られ罵倒された。

 兄は王弟カズンが受けた被害の責任を取って、魔法魔術騎士団の次期騎士団長の座が内定していた身であったものの、役職を降りて団長補佐への降格処分を願うことになった。



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