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第二章 お師匠様がやってきた

お師匠様の本気「装備への付与魔法」

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 冒険者ギルド内には基本的な装備一式やポーションなど冒険者活動に必要な物資を販売する売店がある。
 今回はアイシャとトオンの装備をベーシックなもので揃えるため、鍛冶屋など専門店はまだまだ早いとして売店を利用することにした。

「アイシャは女性用の初級冒険者装備だな。上着はいるか?」
「ローブが欲しいわ。ポーションや魔石を入れるポケットがたくさんあるやつ」

 アイシャは普段着の上から、革のショートブーツ、フロント部分のみの胸当て、あとは魔導具を通すベルト、指なしグローブタイプの手甲を揃えた。

「トオンは?」
「俺も初級冒険者装備だよ。俺はローブは要らないけど、ベルトに通せる道具入れと背中に背負えるリュック追加」

 リンク使いのトオンも、自分のリンクの中にアイテムボックスを持っている。
 とはいえトオンのアイテムボックス容量は現時点で一抱えの木箱半分程度だから、入りきらない物資を持ち運ぶリュックなどは必須だった。
 リュックを背負いたいため、邪魔にならないようトオンも胸当てはフロント部分のみで両肩が空くタイプのものを選んだ。

 引率のルシウスは自前の装備を故郷から持ち込んでいたのだが、全身オリハルコン製のフルアーマーで移動するのは勘弁してくださいとトオンが懇願して何とかやめてもらった。
 結果、彼もまたオーソドックスな男性用初級装備を新しく購入することになった。
 ブーツは自前のもので、ベストタイプの胸当てと腰の後ろにウエストポーチを装着。

 ローブを纏うアイシャも含めて、軽装装備で揃えている。
 まだ9月上旬で暑いため、動きやすさと快適さを優先した結果だ。

「さて、それでは付与を行っておくか」
「ルシウスさん、何を?」

 まずはとアイシャの前に跪いて、ルシウスがショートブーツの靴紐に指先を当てた。
 アイシャとトオンの初心者用装備への助言のため、売店までついてきてくれていたギルドマスターのロディオラが訝しげにルシウスを見た。

「“絶対防御”」

 パァッとルシウスの指先がネオンブルーに瞬間的に明るく光り、アイシャのショートブーツの靴紐に透明な魔法樹脂の楕円形の小さな飾りが付いた。
 そのまま立ち上がり、次はアイシャの腰のベルトへ。
 魔法樹脂の同じような飾りは、腰の右と左にひとつずつ。

「“絶対防御”」
「“攻撃反射・反撃”」

 次に胸当ての中央部に触れ、縦長のダイヤ型の魔法樹脂の飾りを付けた。

「“絶対防御”」
「“完全回復”」



 なお、武器はアイシャは自分の背丈と同じくらいの長さの錫杖を選んだ。
 これは魔法使いが使う杖の変形にあたる。国の聖女として活躍していた頃は教会から貸与されていたものを使っていたが、今回は私用のためさすがに借りることはできない。
 売店で購入した錫杖は先端部分に大きなリングが付いていて、そのリングに複数の属性に対応した魔石の入った鈴が5つ通されていて、魔力を込めながら振ると音の効果と魔石の効果、両方が使える魔導具の武器である。

 トオンはこれまで特に戦闘の訓練を受けたことはなかったので、日常的に使い慣れている狩猟ナイフと同じタイプのナイフを新たに買い求めた。
 腰のベルトに鞘を通して持ち運ぶ形になる。

 ルシウスは自前の聖剣があるので特に新たに武器は買わないようだ。

「あ。私、指なしグローブ欲しいわ」

 売店に並ぶ手甲のコーナーにあった、革製の指なしのレザーグローブを指さした。
 色は茶や白、黒、ピンクに赤など様々だが、アイシャは自分の小さな手に唯一合った赤色を選んだ。

「良い選択だ。……私も買っておこう」

 とこちらは白色のレザーグローブを購入する。

「付与はどうする?」
「じゃあ、汚染防止と清浄保持を」
「攻撃力増加は?」
「やりすぎよう。革が付与に耐えられないんじゃない?」

 最後に白いローブも羽織らせて、すべての装備をじっと凝視し、

「“汚染防止”」
「“清浄保持”」

 これは特に魔法樹脂の飾りなどは創らず、全体に直接魔法を付与した。

 同じようにして、トオンの装備にも防御や衛生に関する付与魔法を施した。



「る、ルシウスさん? ルシウスさん!? ちょっとやりすぎじゃありませんこと!?」

 ギルドマスターのロディオラが焦っている。

「なぜだ? アイシャはともかくトオンはこれが初めての戦闘になるのだぞ? 何かあってからでは遅いのだ! 万全の備えをしてもし足りぬ!」

 まるで幼な子を持つ過保護な母親、いや父親のようなことを言っている。

「しかし、この付与は……初級装備なのに特級装備並の魔法機能が付いてるではありませんか!」
「当然だ。本気でやったからな」

 良い仕事をした、とばかりにルシウスが胸を張っている。

「ち、ちなみに、同じ魔法付与を当ギルド所属の冒険者たちにお願いってできますか?」
「それは構わないが……私は高いぞ?」
「……おいくら金貨ですかしら?」
「生憎、金貨では受け付けておらん。ミスリル銀貨1枚(約500万円)からだ」
「………………背に腹はかえられません。いざというときは、お願いします」

 何だかふたりで、とても怖い交渉をしていた。



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500万で聖者がレンタルできるならお安いかもしれない。
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