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第二章 お師匠様がやってきた
なぜ未婚のままなのか?(お師匠様の素朴な疑問)
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「そういえば、お前たち。国王と王妃としては婚姻を結んでいたそうだが、今はまだ未婚だろう? 結婚はしないのか?」
などと聞かれて、アイシャはトオンと顔を見合わせた。
現在、アイシャは17歳、トオンは21歳。この国でなら結婚適齢期だ。
そしてアイシャは、まだトオンにも話していなかった自分の身体のことを話し始めた。
半年前の魔物の大侵攻スタンピードのとき、七日七晩に渡ってほとんど不眠不休で戦って消耗していたアイシャは、その頃から現在まで生理が止まっている。
元々、王城にいたときから虐げられていて食事を減らされたり、汚されて食べることができなかったりが続いていたこともある。
生理周期は前から不順だった。
最初、アイシャがトオンのいるこの赤レンガの建物までやってきたとき、彼女はまさに“鶏ガラ”みたいに痩せ細った有様だったのだ。
「ポーションは飲んだか?」
「飲んだわ。でも戻らなかった」
「となると、かなり深刻だな……」
しかしアイシャ本人は、現在では肉体的な不快感もなく、特に問題は感じていないとのこと。
むしろ、毎月の生理がなくて楽でいいとすら思っている。
そう言うアイシャを、ルシウスは痛ましいものを見るような目で見つめた。
(人生まさにこれからという女子が、生理が止まっているなんて状況で“問題ない”わけがなかろう!)
「……念のため聞いておくが、“おめでた”で止まっているわけではないのだな?」
「ち、違うわ!」
「違うって! だってそんなことしてない!」
「あーはいはい。わかった。わかってる。アイシャの環に妊娠の兆候が出てないからな。一応本人にも確認したかっただけだ」
人物鑑定してもいいかと聞かれて、アイシャは断る理由もなく頷いた。
するとルシウスが小さく深呼吸して、自分の環を出した。彼の環の位置はアイシャとほとんど同じ腰の位置だ。
光る環には彼特有のネオンブルーの魔力が漂っている。
「ステータスのバッドステータス欄に“無月経”があるな。……なになに、『精神的、肉体的ダメージによる肉体の機能保護のため月経停止状態』。解除方法の表記なし、か」
そんな話を、パン屋のミーシャおばさんに料理を習いに行ってるとき、ご近所さんたちとしたルシウスだ。
ご近所にミーシャおばさんという料理上手がいるにも関わらず、アイシャが彼女を頼らなかった理由があった。
ルシウスの脳裏に、困ったように笑うアイシャの顔が浮かぶ。
『あのね、おばさんも悪気はないと思うの。でも会うたび言われることがあって……』
「トオンとアイシャちゃん、早く結婚すればいいのに」
ほとんど口癖になっているようで、アイシャとトオンの話題が出るとミーシャおばさんは同じ言葉を繰り返した。
他の奥さんたちもそのたびに頷いている。
「それなのですが、実は……」
ルシウスは、アイシャが無月経になっていることを婦人たちに伝えた。
ミーシャおばさんに料理を習う日、ご近所の奥さんたちも数名、興味があるからと一緒に教えてもらっているのだ。
「え!? じゃあアイシャちゃん、生理止まったままなの!?」
「嘘でしょ、そんなことって……」
さすがに全員驚いたようで、呆気に取られている。
「聖女様……」
誰かが涙声で呟いた。
ご近所さんの奥さんたちも半年前、新聞に掲載された『聖女投稿』で、アイシャがどれほど酷い目に遭っていたか知っているのだ。
それを口にしないのは、アイシャが普通にこの南地区で暮らしていることを、彼女たちなりに尊重しているためだった。
ミーシャおばさんは、自分が顔を合わせるたび結婚を急かしたことでアイシャに負担をかけていたことを知り、気まずそうな顔になっていた。
「そっか。アイシャちゃんには悪いことしちまったよ。今度詫びに何か持っていくからって伝えといておくれ」
何か美味しいものを持ってきてくれるとのこと。
「私もトオンも男ですし、そちら方面は奥さんたちに任せてもいいでしょうか?」
「「「もちろんよ!」」」
アイシャは力強い仲間たちを、知らないうちに手に入れることになった。
--
デリケートな話題ですが、第二章ではぽつぽつ出てくる話題。
第一章のときアイシャやトオンに、はよ結婚しろ、子供の顔が見たいとコメント頂戴するたびに「くっ、その辺も書きたいけど尺が足りないのだわ!」とお口チャックしていた作者でした。
などと聞かれて、アイシャはトオンと顔を見合わせた。
現在、アイシャは17歳、トオンは21歳。この国でなら結婚適齢期だ。
そしてアイシャは、まだトオンにも話していなかった自分の身体のことを話し始めた。
半年前の魔物の大侵攻スタンピードのとき、七日七晩に渡ってほとんど不眠不休で戦って消耗していたアイシャは、その頃から現在まで生理が止まっている。
元々、王城にいたときから虐げられていて食事を減らされたり、汚されて食べることができなかったりが続いていたこともある。
生理周期は前から不順だった。
最初、アイシャがトオンのいるこの赤レンガの建物までやってきたとき、彼女はまさに“鶏ガラ”みたいに痩せ細った有様だったのだ。
「ポーションは飲んだか?」
「飲んだわ。でも戻らなかった」
「となると、かなり深刻だな……」
しかしアイシャ本人は、現在では肉体的な不快感もなく、特に問題は感じていないとのこと。
むしろ、毎月の生理がなくて楽でいいとすら思っている。
そう言うアイシャを、ルシウスは痛ましいものを見るような目で見つめた。
(人生まさにこれからという女子が、生理が止まっているなんて状況で“問題ない”わけがなかろう!)
「……念のため聞いておくが、“おめでた”で止まっているわけではないのだな?」
「ち、違うわ!」
「違うって! だってそんなことしてない!」
「あーはいはい。わかった。わかってる。アイシャの環に妊娠の兆候が出てないからな。一応本人にも確認したかっただけだ」
人物鑑定してもいいかと聞かれて、アイシャは断る理由もなく頷いた。
するとルシウスが小さく深呼吸して、自分の環を出した。彼の環の位置はアイシャとほとんど同じ腰の位置だ。
光る環には彼特有のネオンブルーの魔力が漂っている。
「ステータスのバッドステータス欄に“無月経”があるな。……なになに、『精神的、肉体的ダメージによる肉体の機能保護のため月経停止状態』。解除方法の表記なし、か」
そんな話を、パン屋のミーシャおばさんに料理を習いに行ってるとき、ご近所さんたちとしたルシウスだ。
ご近所にミーシャおばさんという料理上手がいるにも関わらず、アイシャが彼女を頼らなかった理由があった。
ルシウスの脳裏に、困ったように笑うアイシャの顔が浮かぶ。
『あのね、おばさんも悪気はないと思うの。でも会うたび言われることがあって……』
「トオンとアイシャちゃん、早く結婚すればいいのに」
ほとんど口癖になっているようで、アイシャとトオンの話題が出るとミーシャおばさんは同じ言葉を繰り返した。
他の奥さんたちもそのたびに頷いている。
「それなのですが、実は……」
ルシウスは、アイシャが無月経になっていることを婦人たちに伝えた。
ミーシャおばさんに料理を習う日、ご近所の奥さんたちも数名、興味があるからと一緒に教えてもらっているのだ。
「え!? じゃあアイシャちゃん、生理止まったままなの!?」
「嘘でしょ、そんなことって……」
さすがに全員驚いたようで、呆気に取られている。
「聖女様……」
誰かが涙声で呟いた。
ご近所さんの奥さんたちも半年前、新聞に掲載された『聖女投稿』で、アイシャがどれほど酷い目に遭っていたか知っているのだ。
それを口にしないのは、アイシャが普通にこの南地区で暮らしていることを、彼女たちなりに尊重しているためだった。
ミーシャおばさんは、自分が顔を合わせるたび結婚を急かしたことでアイシャに負担をかけていたことを知り、気まずそうな顔になっていた。
「そっか。アイシャちゃんには悪いことしちまったよ。今度詫びに何か持っていくからって伝えといておくれ」
何か美味しいものを持ってきてくれるとのこと。
「私もトオンも男ですし、そちら方面は奥さんたちに任せてもいいでしょうか?」
「「「もちろんよ!」」」
アイシャは力強い仲間たちを、知らないうちに手に入れることになった。
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デリケートな話題ですが、第二章ではぽつぽつ出てくる話題。
第一章のときアイシャやトオンに、はよ結婚しろ、子供の顔が見たいとコメント頂戴するたびに「くっ、その辺も書きたいけど尺が足りないのだわ!」とお口チャックしていた作者でした。
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