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第二章 お師匠様がやってきた

可愛い男と結婚を

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 カーナ王国の暑い夏もまだまだ続く9月上旬。
 ここらで最後の暑気払いをしないか、と誘われて、トオンたちは午前中、近くの川まで遊びに来ていた。
 南地区の他の親しい家族にも前日のうちに声がかけられていたようで、数家族でランチバスケットを用意してのお出かけとなった。
 ちなみに今、トオンたち赤レンガの古書店組が一番親しいのはミーシャおばさんのいるパン屋一家なのだが、あいにく今回、彼女は夕方からのパンの仕込みがあるからと不参加である。

「男ってさ……バカよね……」

 と全力で水を掛け合って悲鳴、いや歓声をあげている男たちを見ながらの女性陣たちだった。
 こちらは足だけ裸足になって、流れる川の水に浸しながら、木陰の下でまだ小さい子供たちを遊ばせて涼んでいる。
 アイシャも裸足の爪先で川の水を小さく跳ねさせながら、Tシャツと短パン姿で全身ずぶ濡れになっているトオンとルシウスを、笑いながら見守っていた。

「バカなところが可愛いのよう」
「バカでもいい。稼いできてさえくれるなら」
「バカだけど、いざってとき頼りになるところ、好き」
「……うちも」
「……あたしだけかと思ってた。あたしも」
「バカな父ちゃんだけど、可愛いんだよね。バカだけど。酔っ払って翌朝、全裸で廊下に転がってたりするけど。ほんとバカ」

 気づいたら老いも若きも、惚気合戦になっていた。



「アイシャのとこはどうなの? トオンと仲良くやってるようだけど」

 早く結婚したほうがいい、との女性陣たちからの強めの圧を感じつつ、アイシャは頬を染めた。
 半年前、クーツ元王太子に婚約破棄と追放をされた時点では16歳だったアイシャも、春生まれで誕生日が過ぎた今はひとつ年を重ねて17歳だった。
 ちなみにトオンは21歳になっている。
 このカーナ王国で成人年齢は男女ともに18歳。
 結婚はどちらも16歳からできる。
 庶民でも王侯貴族でも、相手がいれば16歳から20歳前後までに結婚することが多かった。

「あのね。私たちはまだ、そういうことしたことがなくて」
「……マジ?」
「わかる。トオン、何かそういうとこ奥手そうだもの」
「トオン君はねえ……お母さんっ子でねえ。昔っからあんまり女子たちとも遊ばなかったし」
「ていうか、遊べなかった、ね。ちょっとチキンぽいとこあったかな」
「それでよくこんないい子見つけて来れたよねって」

 しかも聖女だし。
 とは、誰も口にはしなかった。その辺の気遣いはよくできているのである。

 南地区のご近所さんたちは、アイシャが聖女であることはもちろん知っていた。
 古書店店主のトオンが半年前、急にいなくなったと思ったら、また最近になってひょっこり帰ってきて隣にいたのが、この黒髪オカッパヘアーに茶色の瞳の少女だ。
 彼女はクーツ新国王の王妃となったが、国王が退位するのと同時に自分も引退して市井に降りたことを新聞が伝えていた。

 新国王が即位したとき、国王と王妃は特に王都内へのパレードのようなことは行わなかったのだが、戴冠式の後、王城のバルコニーに出て国民たちの前に姿を幾度か見せている。
 その姿を見ていた者が南地区の住人の中にもいて、「あの金髪の新国王、どこかで見た覚えがあるような?」と首を傾げていた。
 半年後、また南地区の赤レンガの建物に戻ってきた若者を見て「あ」と気づいた者が若干。
 仲の良い者たちで集まったとき、「なるほど、そういうこと?」と納得し合ったものの、当の本人たちが何も言ってこないため触れずにおこうというのが暗黙の了解になっていた。



「でも、一緒に暮らしてるってことは、そのうち結婚するんでしょ?」
「……そうね。できるなら、ずっと一緒にいたいと思ってるわ」

 女性たちがいる川べりの木陰から離れた川の中では、男たちが飽きることなくはしゃいで遊びまわっている。
 アイシャが見ると、魚がいたようでルシウスが魔力で銛を作って捕獲しようと水の中に狙いを定めているところだった。

「今夜のごはんはお魚ね」

 焼き魚かな、トマト煮込みかな、などとアイシャが楽しげに川の水を蹴る。
 すると話はアイシャたちの結婚話から、今夜の夕飯へと変わっていった。

(結婚、かあ……)

 何だか遠い国の話のようだ。実感が薄い。




--
その夜のごはんは、トマトソースの焼き魚ほぐし身入りパスタだったそうな(・∀・)

国王と王妃だった頃のエピソードも突っ込んでいきたいところ。
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